「失敗…しちゃったな。」
花梨は褥の上で仰向けになりながら呟いた。
帝に憑いていた怨霊を祓ったことが院側の八葉の耳にも届き、
協力を要請されたのはつい先日。ようやっと行動を共にしてくれる事になったのだ。
今日は呪詛の手がかりを求める為に院側の八葉の一人と白河へと行ったのだ…が。
その地で再び穢れに遭い半ば抱えられるようにして戻ってきたのが昼過ぎ。
清めの造花と深苑の嫌味を頂戴した後、紫姫の懇願により
ずっと褥に押し込まれ、うつらうつらと今に至る。
今日あった出来事に思いを巡らせていた花梨だが、
辺りはもう既に闇に包まれていている。
わずかに光源はあるものの、その風情が余計に心細さを増す。
夕刻前にうたた寝してしまったのが災いして一向に眠りは訪れてくれそうにない。
こんな夜は決まって考えが暗い方へ暗い方へと誘われてしまうので
目を瞑り……大好きな「あの人」のことを考えることにした。
地の白虎 翡翠。
わけもわからずこの地に召喚された自分を最初に見つけてくれたのは彼だった。
風のように掴みどころがなく何者にも束縛されない自由な人。
突き放すような物言いとは裏腹に、誰一人自分を知るもののいない世界で
どうしようもない孤独感に挫けそうになると決って助けてくれたのは彼で。
強くて美しいその男に惹かれてしまう心を抑えられる訳もなく。
共に行動するうちに……気づけばそういう関係になっていた。
…今頃…何してるのかな?翡翠さん。
そんなことを考えていた時だった。
カタ……カタン。
何かが軋む音を耳にし、ビクリと半身を起こす、と
帳の中に、今まさに心で思い描いていた男が侍従の香と共に滑り込んできた。
「起きていたのかい?…ふふ…君の可愛らしい寝顔を拝せなかったのは残念だが、それはそれで好都合。」
「ひ、翡翠さん、どうしたんですか?…こ、こんな時間に。」
あまりのタイミングの良さに声を上ずらせていると
些細な抵抗をも封じるかのように表着の上からのしかかられてしまった。
「おや?本当におわかりにならない?…私がこうして忍んできた意味が。」
耳元で、わかるだろう?と吐息交じりで囁かれる。
「…ぁ…。」
艶の滲んだ声を耳に吹き込まれたとたん、それにピクと反応してしまい
思わず顔を上げて視線を合わせると愛する男が嬉しそうに微笑んでいた。
「ふふふ、随分と感じやすくなったね。尽くし甲斐があるよ?…神子殿。」
前髪を梳きながら、こめかみから鼻先へと優しい接吻が繰り返され、最後に唇をぺろりと舐められた。
その愛撫にウットリとしていると、ぐいと腰紐を引かれ単と上掛けの表着を一気に剥ぎ取られる。
翡翠自身も身に纏っているものをポイポイと脱ぎ散らかし、二人褥に倒れこんだ。
どこから流れ込んできたものか僅かな秋風が帳を揺らし、その風で大殿油の頼りない灯りがゆらりと揺れた。
ぼんやりと揺れる灯りの中、見上げる翡翠は妖しい程の色香に包まれている。
思わずその姿に見とれてしまう。
「……穢れに遭われたと聞いて胸が潰れる思いがしたよ?姫。」
首筋から鎖骨、胸の谷間へ向かってねっとりと舌を這わせられる。
右胸の乳首を丹念に舐めまわされ軽く歯で食まれると、その感覚に堪らなくなり身悶えてしまう。
その間にも彼の指は反対側の胸へも伸ばされ、既に勃ちあがっていた乳首を人差し指の腹でクリクリと弄る。
声を上げてはいけない…わかっているのに鼓動も呼吸も速くなってしまい懸命に唇を噛んだ。
それを見て何を思ったのか翡翠の瞳の奥に挑戦的な光りが宿る。
わき腹から太腿へと撫ぜるように行き来ししていた手が内股に割り込まれ
すでに愛液で湿り始めていると自分でもわかる場所へ強引に指が伸ばされた。
「ん…んぁっ……ひ、ひす…」
本当にこれは自分のものなのだろうか?と思ってしまうような、あられもない声を張り上げてしまう。
…誰かに、誰かに聞こえてしまったら!そんなこちらの不安は他所に
満足げな翡翠の指は割れ目に沿ってぬるぬると蠢いて、腕を掴んで静止の仕種を伝えているのに止まらない。
そのままぬぷりと何本かの指を胎内に挿入され、中を探る様に掻き回されると強烈な快感に襲われる。
それと共に帳の中全体にくちゅくちゅと粘着質な音が響き渡るのが聞こえ、それが余計に身体を熱くさせた。
「清めの造花だけでは心許ないね。…私が清めて差し上げよう。こうして、ね?」
ふいに身体が離されたと思ったら膝裏に手が掛けられ、ぐいと左右に足を広げられる。
仄かな灯りの中、その部分が翡翠の眼前に晒されるばかりか、腰があがる為にこちらからも丸見えで。
あまりな格好に膝に力を入れて閉じようともがいてみたが
既に彼の両腕で押さえつけられていてそれは叶わない。
さっきまで指で弄られ、ぐしょぐしょになっているそこに顔を埋められ、
視線を合わせたまま、ゆっくりと見せ付けるように舌を這い回させてくる。
何ていやらしい動きだろう…、本当は恥ずかしくて見たくないのに…目が離せない。
両側の襞にも交互にしゃぶりつかれ、指で割り広げたそこを下から上へ、ベロリと舐め上げられる。
顔を覗かせた小さな突起にもじゅるじゅると音を立て吸い付かれると、
身体の奥深くから更にじわりと溢れ出す液体の感覚がわかった。
滴り落ちるそれを嚥下する、ゴクリと喉を鳴らす音まで聞こえてくる。
「!!あ、ああ!、ひす、翡翠さ……は…ぁ…んっ……んっ、い、嫌ぁ…」
敏感な場所への愛撫と、これ以上の羞恥心に耐え切れなくなり身を捩った。
「嫌?ここをこうされるのはお好きな筈だろう?……では、何をして欲しいのか言ってごらん?」
そこから顔をあげ、意地悪く口角を上げた翡翠の口元と、
真っ赤に充血して腫れ上がったそこを繋ぐ銀色に濡れ光る糸が見えた。
それをぺろりと舐めとる彼の舌の動きにすら感じてしまう。
両足の戒めを解放されるとそのまま再び覆いかぶさられ、「花梨」と名を囁かれた。
彼が自分の口から何を言わせたいのか、何を求めているのかを悟る。
覚悟を決めて震える手で翡翠の下肢に手を伸ばし、赤黒く勃ちあがっているソレにそっと手を添えた。
「……これが欲しいの…」
強請ったその声も羞恥で震えてしまう。
勝ち誇ったかのような表情の翡翠が身体を離し、おもむろに胡坐をかき手招いている。
これから何をすればいいのかは全てこの男に教えられていた……。
請われるままににじり寄り、そそり勃つソレの先端、
ほんの少し濡れているそこにちゅっと唇を寄せ吸った。
一瞬翡翠の腹筋がピクリと波打ったのがわかる。
丸みをおびた先端の皮膚に舌を這わせ、肉棒の下方に手を添え皮を伸ばす。
括れた部分をぐるりと舐め、目の前の皺になっている所に吸い付いてみると
「!……んっ………上手になったね?」
思った通り、艶のある声が紡がれた。
これは以前知った彼が悦ぶ行為なのだ。
それが嬉しくて、更に熱を込めて舌全体で味わうように上へ下へと丹念に舌を這わす。
途中ちゅるちゅると音を立て、肉棒のいたるところに吸いついた後、ずるりと一気に根元まで口に含んだ。
「!……く……ぁ…。かり、ん…っ」
自らの施す行為によって彼が追い詰められて行く。それが何故か私自身にも悦を招き身体を熱くさせる。
もっと、もっと。彼に悦んで貰いたい。
その一心で夢中になって根元から先端、先端から根元へと頭を上下させる。
吸い上げるように口をすぼめながら更に口内で脈打つ塊に沿ってチロチロと舌を蠢かせる。
じゅぷじゅぷっと唇と肉棒が擦れ、それによって彼の体温が上昇しているのがわかり…
「っ…!…もう、いいよ…っ。」
す、と顎に手を掛けられ上向かせられると
その反動で膨れ上がり唾液でべたべたになった肉棒が口から跳ねあがって出て行った
「ん…んっ……ふ…っ…。」
唇を塞がれたまま、翡翠の背に縋り付く。
舌を探られ、引き出され、吸われ…
互いの唾液と舌を絡ませながら、滴り落ちそうな雫を嚥下する。
両足を肩に担がれ、激しく挿送されながらする接吻は
気を失いそうなほど苦しく、また理性を失うほど気持ちのいいものだ。
朦朧とした意識の中で聞こえてくるのは、肉と肉がぶつかり合う音、
翡翠の荒い息づかいと己が放つ嬌声。
彼が踊るように腰をくねらせる度に床板がギシギシと悲鳴をあげている。
「ふっ、…ふふ……凄い、ね?花梨……っ………どんどん、溢れてくるよ…。」
迸る体液は自分のみならず彼の下草までもびしょびしょに濡れ汚している為に
身体がぶつかり合う度にわずかに冷たい感触と、ヌチュヌチュとした粘着質な音を立てていた。
「あ……、…んぁ…、…は、っぁ、…!」
大きくゆっくりとした動きで、抜き出しては再び奥までねじ込まれ、
そうかと思えばこれ以上は入らないと思うほどに貫かれ、小刻みにガクガクと揺さぶられる。
そのままグリグリと擦り付けられると、今翡翠を咥え込んでいる場所の少し上。
そこにある突起が、彼の濡れそぼった下草に滑るように擦られて、その強烈な快感に身体の震えが止まらない。
「ここ?……ここがいいのだね。……君の中が、私に教えてくれているよ?」
するとその一点めがけて突き上げ、抉るように同じ場所に当たるよう何度も腰を打ち付けてくる。
「ああっ!?…ひ、ひす……さ……ぁん…!んっ、も、もう…!」
息も絶え絶えになりながら焦点の合わない目を必死に合わせてみると
目の前に現れたのは常に余裕のある翡翠…ではなく。
全身から汗を滴らせ、苦しそうに眉を寄せながら熱く荒い息を乱している男。
何とも言えない艶っぽい両眼が乱れきっている自分を見下ろし凝視していた。
「!んっ、…き、気持ち、いいよ…ひ、ひす、い、さ…ぁあ…、も、っと、もっと!」
腕の下から手をまわし、さっきよりも強く彼の背に縋り付きながら、
頂点を目指し、その動きにあわせて腰を振る。
「…ああ…、私もとても悦い……君は、なんて淫らな、お人だろう……素晴らしいよ?」
今までとは比べ物にならない位に激しい挿送が始まった。
縋り付いた背の向こうには自分の足先が天を指しながら千切れそうな程舞っているのが見える。
「ああああっ!…だめ、だめ、もう、っ、イ…イっちゃ…うぅっ!」
「んっ……いい、よ?…イって、…私も、もう…っ」
瞬間、じゅわっと発熱したかのような感覚。
何処までも登りつめるような、何処までも堕ちていくような…
「…!あ、あぁ、…ああああ…っ……〜〜〜〜〜〜〜っ!」
視界も思考も真っ白に溶けてしまう…。
そして追うように翡翠の身体も硬直し…
「…!っ…は……く……、かり……花梨!…、…、…、。」
そのまま押し潰されそうなほど強く掻きつかれ何度もビクビクと背を震わせている。
その動きに合わせ膣の奥に今彼が放っている熱い体液が当たるのが僅かに感じられた。
満たされた身体をつっぷす様に褥に預け、まどろむ。
翡翠は夜明け前に邸を抜け出す為に少し離れた所で身支度を整えていた。
その優雅な動作を見るでもなくぼんやりと目で追っていると…。
「ねぇ?可愛い人。」
何時の間に寄ってきたのだろうか?気づけば褥のすぐ脇に彼がいた。
「あ……もう帰っちゃうんですか?」
帳の隙間から見える向こうに視線を送るが
まだ夜明けには程遠いように感じられ、そんな言葉が口をつく。
「名残惜しいのだがね?…もうそろそろ発たないと…今日は不味い事になるかもしれない。」
言っている内容とは裏腹に、彼は実に楽しそうに口元を緩めている。
「さぁ、このまま眠って…。目が覚めたら…君も何となくわかると思うから。」
ますます何を言っているのか解せず、頭に?マークを散らしていると
頬に優しい接吻を一つ、
「大丈夫。いざとなったらこの戦いが終わる前に君を伊予に攫ってしまうから、ね?愛しい人。」
聞きようによっては物騒な言葉をもう一つ残して
恋人は上機嫌で帰っていった。
翌朝。
昨夜のこともあり疲労感が拭えず、でも今日こそは呪詛の手がかりを!と
自分を叱咤して起き上がり、幾分早めに身支度を整えようとした時だった。
妻戸の反対側にある戸口の下に……昨夜床に就く前にはなかった
どこか見覚えのある髪飾りの一片が落ちている。
それを拾い上げ、寝起きで未だぼんやりしている頭をフル回転させてみた。
…………これは!!!!!
いつも自分の為にあれやこれや心を砕いてくれる可愛らしいお姫様。
小さな耳の両側で綺麗に結い上げられた髪に揺れていた……金色の髪飾り。
…硬 直
『今日は不味いことになるかもれない』
『君も何となくわかると思うから』
昨夜翡翠が言っていた言葉が走馬灯のようにグルグルと脳内を駆け巡っていた。
この後、自分の心配とは裏腹に
齢10歳の紫姫が並みの大人よりも余程聡明であることを思い知る。
誰に告げるのでもなく、非難するでもなく。
とりあえずこの戦いを中途半端に投げ出し
恋人と逃げなければならないような事態にはならなかったようだ。
唯一人、二人の事実を第三者に見咎められたことを何故か喜んでいた彼の人は
「無粋な戦いなぞ放っておいて君をさっさと攫っていけるかと思ったのに」
とか言っていたとかいないとか。
…八葉最年長とは思えないほど大人気なく、最終決戦の日まで拗ねていた。