この人に抱かれてから、どれくらいの時が立ったのだろう。
幼い頃は考えもしなかった。彼はいつも自分を「護り」、常に見ていてくれた。
「八葉」、その任が終わったとき。
彼はいつになく緊張した面持ちで、そっと告げた。
その声は、その表情は、普段の勤勉な彼からはとても想像もつかない。
そして、恐らく、自分にだけ見せてくれた、一面。
不器用すぎる、言葉の伝え方。
「・・・・・・・・・ぁっ、いたっ・・・・・・・」
あれから数年の歳月が流れた。
まだ、私と彼との、俗的な関係は変わらない。
しかし、想いはどうだろう。初めての感情には、常識や他人の意見など通りもしない。
ただ、萌芽した想いに身を委ねる。彼に、全てを託す。
「まだ、お痛みになりますか」
彼の手が、そっと私の胸に触れた。ゆっくりと弧をかく様に、手のひら全体で撫でる。
「っん、ふぁ・・・・・だいじょうぶ・・・・・」
はしたない喘ぎだと、自分でも思った。しかし、止まらない。
遠慮がちに続けようとする彼の手を取り、節くれだった指を、口の中へと差し込める。
わざとらしい大きな音を立てて、舌で味わう。
男の方の匂いがした。指を抜き取って見ると、表面はざらざらして、血豆が幾つもあった。
「こんなに、また怪我をして・・・・・・・・」
「貴方を護るためですから」
そんなことには即答できるのに。
「・・・・・・・では、態度で示してくださいな」
少し考えるように頭を垂れ、黙り込んで胸に吸いついてくる。
最初は、赤子が乳母の乳を吸うように強く、領有の証を示して。
次第にそれは、柔らかく、優しいものへと変わる。
私の弱みを突くように、或いは幸せを堪能するように。
けれど。
「っ、ぁっっ! はぁっ・・・・・・り、ぁ・・・・・・・・・・」
水の音に似た唾液の絡め合い。
どうしようもない切なさが頭の中を占領する。
「こちらも、いかがですか」
聞かれなくとも分かっている。私はその意を込めて、彼の瞳を見つめた。
身体の芯が疼くのが分かる。思わず、彼の腰にしがみ付いてしまった。
私の中から溢れてくるそれを、彼は指で掬い取り、舐め取った。
そして、私の中に、優しく宛がう。その時、耳元で何か呟いた。
低く、聞きとりにくい彼の声が、その時ははっきりと聞こえた。
「あ・・・・・・・ああああっ!」
白くなっていく視界。満たされる快楽。
私は霞む意識の中で、彼の顔を見つめていた。
「・・・・ですから、あまり無理をしてはいけませんよ? 分かっていますか?」
「は、はぁ・・・・・」
今は先程とは逆に、私が彼を、頼久を組み敷いている。
「ふふ・・・神子様が仰っていた通りですわ、男の方はこうすると良いのですわね」
「っ、ふ、藤姫・・・・・・もう、そろそろ,よろしいのでは・・・・・っ」
頼久のものが、私の口の中で大きくなっていく。
彼の真っ赤な顔に、思わず笑みが零れた。
「駄目・・・・・私嬉しいのですわ。あなたがやっと、ちゃんと言ってくださって。
だから今度は、私があなたにしてさしあげます!」
「ひ、姫っ・・・・・・・」
夜はまだ更けたばかり。
たまには、こんな宴の夜もよろしいでしょう?
だって、あのとき彼は。
"愛しています"と。今度は、はっきりと言ってくれたのだから。