誰がそこにいようと驚くことはなかったろうが、実際そこにあったものを目にして
俺はかなり意表をつかれた。まるで予想だにしなかったことが黒板の前で起きていたからだ。
「涼宮!」
涼宮ハルヒが血まみれで倒れていた。
いつもと違い目はカッと見開かれ、何かを叫ぼうとしたように口を空けている。
引き戸に手をかけた状態で止まっていた俺は、近くに落ちていた拳銃を見つけて拾い上げた。
「これが凶器・・・・・・なのか?」
ドラマ風につぶやく俺。その左半身が稲妻でパッと光る。
そこでいきなり何者かが俺めがけて飛びかかってきた。
考えているヒマはなかった。何者かの腕が一閃、さっきまで俺の首があった空間を鈍い金属音が薙いだ。
その人物はどこかの軍隊で使われていそうなナイフで俺に再び斬り掛かった。
俺は精一杯避けたつもりだったがほほを斬られたらしい。
俺の真正面にそいつの顔があった。
「あ、朝倉!?」
謎のナイフ野郎=朝倉は物凄いスピードで窓に走っていく。いや、机の上を跳んでいる。
俺は持っていた拳銃を威嚇のつもりで撃った。が、3回撃ったところで反動で手が痺れてしまい
もう撃てなくなっていた。もちろん全て外れだ。こちらはドラマのように足に命中とはいかないらしい。
朝倉はそのまま一番後ろの窓に足をかけてそのまま飛び下りた。
しかしここは一階ではない。もちろん女子高生が飛び下りれば当然のように骨折するはずだ。
だが、俺は信じられないものを見た。
「ユ、UFOだと・・・?」
光る円盤が雨の中を飛んでいったのだ、おそらくは飛び下りた朝倉を乗せて。
UFOにいて欲しいとちょっとは思っていたが、こういう形で出会いたくはなかったな。
しかし、朝倉がUFOに乗ったとすれば奴は宇宙人ということだ。
つまり涼宮は宇宙人の朝倉に接触してなんらかの理由、おそらくは正体を知ったために殺された、というわけか。
だがそうすると目撃者である俺を殺さずに逃げた理由が分からんな・・・
と、考えながら窓からUFOの飛んでいった方向を見ていた俺は人の気配に気が付いた。
「・・・・・・・・・!・・・」
長門だ。
長門が顔をおおった両手の指の隙間からハルヒの死体と俺を見ていた。
「長門!」
俺が駆け寄ると長門はふるえながら後ずさっていった。
俺の右手の拳銃を指差しながら。
「な、長門!違う、違うんだ!これは違う!」
「・・・・・・・・・・・・!!!」
しかし長門は怯えた表情をして俺から逃げるように走っていった。
「待て、待ってくれ!な、長門ぉ!」
長門が通報したらしく俺はスーツを着た刑事達に取り押さえられた。
一応は暴れて抵抗したものの無駄だった。
「俺じゃない!俺じゃないぃ!!!俺じゃないぃぃぃ!!!!!!」
いくら叫んだところでハルヒを撃った銃はやはり俺が拾ったものだったし、
それを発砲したのも俺だ。いくら何を言ったって俺は犯人確定だ。
ましてや真犯人はUFOで逃げたなどといったら精神鑑定にかけられてしまう。
こうして俺は凶悪殺人犯としてA級刑務所に収監され地獄を見た。
今考えてみるとこの時涼宮が言っていた「北高最後の日」へのカウントダウンはすでに始まっていたのかも知れない。