眠たい授業が終わり、その日も俺はSOS団の活動に参加するべく文芸部部室に足を向けた。
良い感じに古びた部室の扉をノックすると、中から、
「はぁい」
子供っぽい声がして、美の女神のような小柄な女性が、
「あっ、キョン君」
子猫のような愛くるしい瞳で出迎えてくれた。良いね。実に良い。しかも本日の衣装は白のナース服ですか。朝比奈さん、そのスカートの短さは反則ですよ。
「あれ、朝比奈さん。まだ皆は来ていないんですか?」
見ると、まだ部室には朝比奈さんしかいなかった。おかしいな。いつもであれば窓際の椅子には置き物化している宇宙人が決まって読書中のはずなんだがな。今日は何か用事でもあるんだろうか。
「長門さんは涼宮さんと一緒にどこかに出かけました。古泉くんはアルバイトがあるから今日はお休みするそうです」
古泉はアルバイトか。いかがわしい場所で謎の巨人と戦うような変態的なバイトじゃなけりゃいいんだけどな。それにしても珍しいな。ハルヒが長門と出かけたって?
「ええ。涼宮さん、すごく良い物を手に入れたんだって喜んでいました。大きな紙袋を抱えてきて。それで、長門さんを連れてどこかに行ってしまいました」
そういや、教室でも正体不明な包みを抱えてたな。あいつ、また何か企んでいるのか。
「うふふ……あ、お茶、淹れますね」
朝比奈さんは柔らかな髪をふわふわさせて微笑むと、ポットに駆け寄って俺の分のお茶を淹れ始めた。
ま、いいか。あいつが良からぬ事を企んでいるのはいつもの事だからな。
そう思って油断していた。
「ヘーイ! 見なさい、皆の衆」
高らかに宣言する声に連れ立って勢い良く部室の扉が開くと、そこに現れやがったのは妖しげな衣装に身を包んだ妖しげな二人組だった。その唐突さと、余りの衣装の際どさに、俺と和やかにオセロに取り組んでいた朝比奈さんは飲んでいたお茶を噴き出してしまった程だった。
「お、お前ら、それ……」
思わず呟いたね。
「じゃあああーん。どう、これ?」
うる星☆やつらだった。ハルヒと長門がそこに立ち、おそらくネットで購入したと思われる主人公(確かラムとか言ったな)の衣装を着込み、俺と朝比奈さんに向かってVサインを決めていた。ハルヒはすたすたと部室内に入り、
「サイズ的に、有希とあたしの分しか無かったのよねえ。みくるちゃんだと胸のサイズが合わないわけ。コスプレって一度してみたかったのよね。どうキョン、みくるちゃん、似合う?」
そう言って、その場で回転してみせた。あほか。
しかし、そうは言っても完璧なまでに虎柄ビキニである。はっきり言って目の毒だ。こいつはスタイルと外見だけは抜群に良いからな。俺は長門の方に目を向ける。と、長門の新春の清流程度に温まった瞳と視線がぶつかった。長門は、
「……」
相変わらずの無言。だが、微かにこちらの反応を探るような表情をしている、ように見えるのは俺の気のせいか。にしても嫌に似合うな。白皙の肌と虎柄が合っているのか。ショートカットから角が生えてるのも全く違和感がないな。
俺は思わず、
「長門、お前似合うな」
言ってしまった。長門は、
「そう」
と起伏の無い声で返答し、
「ありがとう」
2ナノミリメートルぐらい俯いた。
「キ、キ、キ、キョン。今、何つったの?」
やおらハルヒが俺の肩を掴み、アヒルのような口をして俺の目を覗き込んだ。何だ? ひょっとしてお前も褒めて貰いたいのか? しかし、ハルヒを褒めるのはどうも俺の性格に合わないな。
そのまま俺が何も言わないでいると、
「もう良い。みくるちゃん、行きましょう。屋上で空でも眺めたい気分だわ」
あわあわなっている朝比奈さんの襟首を掴むと、不機嫌そうに部室から出て行ってしまった。
「……」
そうして俺は何故か、虎柄ビキニのコスプレをした無口な宇宙人と二人きりで部室に残されることになった。
「行っちまったな」
「……」
「ま、そのうち戻ってくるだろ」
「……」
おーい。誰か、この宇宙人に会話ってもんを教えてやってくれ。
それから俺は、ふと、長門がやけに俺の方をじっと見ている事に気が付いた。
「……」
しかし長門は何も言わない。いくら何でも気まずいんだけどな。
「お茶でも飲むか?」
苦し紛れに、そう俺が進めると、
「いい」
ゆるりと首を振り、それから真剣な瞳で俺を見つめた。
そしてそのまま俺の肩に手を置くと、手前に抱き寄せ、俺の目の前にその顔を近づけた。
唇と唇が触れ合った。長門からのキスだった。一瞬の事だったので、俺に訳が解るはずもなく、しばらく呆然と立ち尽くした。
「な、長門……?」
「何も言わないで」
長門はそのまま混乱している俺を椅子に座らせると、やはり無言で制服のベルトを外し始めた。
それから俺のズボンと下着を細い指先で器用に脱がせ、そこにある物をそっと口に咥え、頭を動かし始めた。
そうしてしばらく、長門は卑猥な音を立てながら口内や唇で俺の物に刺激を与えつつ、指先で輪を作って優しく根元を擦り続け、
「……んぐ、……」
時折、喉奥から小さな声を漏らしていた。
しかし、表情はほとんど平常時と変わっていないクールビューティーだった。短い髪がたまに俺の物に触れている。長門が上下に激しく頭部を動かしているためである。
俺は長門に声を掛けられずに、ただその白皙の顔を見下ろしていた。
やがて快感が込み上げてきて、白い液体が長門の顔を汚した。長門はやはり無反応。
「……すまん」
俺が謝ると、長門はいつもの無表情で、
「いい」
そう呟いて、僅かに俯いた。