大人版朝比奈さんは躊躇うように何度か俺を見た後、おもむろに述懐した。  
 
 キョンくん、わたしと一緒に時間遡行したのは覚えてるでしょ? そうそう。もう一人  
のわたしがTPDDを失くして大慌てしたときと、長門さんを助けに行ったとき。  
 それで、そのこと自体はあまり問題ではないんだけど実は長門さんが……。  
 ううん、大丈夫だよ。  
 長門さんは元気にしてたから。ただ……ええと、ほら。わたしたちの話と合わせるために  
異時間同位体と同期したじゃない? そのときなんだけど……。  
 ねえ、キョンくんは長門さんの表情が解るって前に行ったじゃない?  
 そう、それ。  
 わたしたちと過ごした時間の中でゆっくり見出したものをキョンくんは感じることが出  
来た。 同期によってその記憶を未来の自分から手に入れることで変わった彼女をキョン  
くんは見逃さなかった。 多分キョンくんが思ってる通りなんだと思う。  
 わたしだって、少しだけど長門さんの気持ちが解るようになった気がするし、やっぱり  
変われるもんなんだなあって思った。 すっごく励まされたよ。  
 ああ、えと……それでね? そう……伝わるかどうかは解らないけど出来るだけのこと  
はわたしもしたいから………よく聞いて。  
 時間平面の理論の延長上にCTLという架空の概念が存在するんだけど、いってみれば  
時間の始めから終わりを周期として同じ時空を繰り返すこと。 もちろん観測なんて出来っ  
こないからわたしだってよく知らない。 唯一つ解っているのは、規定事項の分岐点上に  
立つキョンくんがその場に立ち会うことで初めて原因と結果が秩序をなすというパターン  
が無数に存在すること。   
 何がまずいのかって言うとね、キョンくん。 これにもし何らかの不確定要素が働きかけ  
て時間平面上の因果が崩落したとしたら、同期によって感情と共感を得た長門さんがどう  
なるのか。  
 あとは一瞬よ。  
 三年前の長門さんは同期して感情が僅かに芽生え、そのまま待機したのちにキョンくんや  
涼宮さんと出会う。 長門さんが同期先に指定したのが少なくともその年の七夕だから、  
その間に蓄積された共感が水増しになって三年前の自分がそれを受け取ることになる。  
 もう解るわね? こうやって閉じた時間の輪の中で同期を繰り返した長門さんは……長門さんは……。  
 
「キョンくーん! キョンくーん! あっ、いた! キョンくーん! きゃぁー!!」  
 
 
 ハイテンションユッキーは俺の背中に飛びつき、肩越しに「にぃっ」と笑った。  
 

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