今日も今日とて文芸部室に向かう。  
毎度毎度のコトながらこの習慣は完全に身についてしまったようだ。いつものようにノックをしたのだが反応が無い。  
朝比奈さんがまだきていないのだろうと思ってドアを開けてみるとそこにはいつもとは違う光景が広がっていた。  
机の上には漫画が山積みだった。  
どっかの血筋を持った家系が奇妙な冒険に出るといった内容のものだ。いや、冒険と呼べるのかはわからないが。  
俺も中学時代に友達から借りて全巻読んだものだ。どうやらハルヒが持ってきたものらしい。  
今日は皆でその漫画を読もうとでもいったのだろう。  
朝比奈さんまで俺が来たことにも気づかず漫画に没頭している。  
いや、お茶を淹れてくれないからって悲しくなんか無いぞ。  
懐かしみながら一冊手に取り、いつものハードカバーとは違う本を眺める長門に目を向けた。  
「どうだ?面白いか?」  
「……ユニーク」  
確かに。面白いのは確かだが人によっちゃあ限りなくユニークだ。  
静かに本を読むのに反対する理由も無く俺もそれに習った。  
今日の活動はそのまま終了したのだった。  
 
 
異変が起きたのはその翌日だった。  
授業の大半を睡眠学習で過ごし、掃除当番のハルヒを残し文芸部室に向かう。  
部室には既に三人が来ていた。  
朝比奈さんのお茶を頂いて一口含んだとき、それは始まったのだ。  
 
〜〜〜〜〜んまぁ〜〜〜〜い!!  
なんていうかこの砂漠を三日間歩き続けた後にのむアルプスのハープを弾くお姫様が飲む水のような清らかさ!!  
朝比奈さんを文字通り体現したような清らかさでどんどん泣けてくるよぉ〜〜  
とまんね〜よぉ。  
「ふぇっっ!!キョン君大丈夫ですか!?熱かったですかぁ!?」  
朝比奈さんの声でふと我に返る。なぜか目は今までに無いほど疲れが取れてすっきりしていた。  
止まらない涙。すっきりした目。俺はこれに心当たりがある。またハルヒの仕業か。  
朝比奈さんは心配してくれたようだったが無事な俺を見て落ち着いてくれたようだ。  
貴方のような人にこれ以上心配されたらそれこそ感動して体中の水分がなってしまいますよ。  
 
とりあえず古泉を廊下に連れ出した。  
「で、なんですか話って?」  
目に映るのはスマイルを崩さない古泉。  
「またハルヒが問題を引き起こしたってコトくらいわかるだろ。きのうのあれが原因か?」  
「ええ。朝目覚めたときから僕も異変を感じていましたよ。  
おそらく貴方の言うとおり昨日涼宮さんが持ってきた漫画が原因でしょう。  
貴方の涙は朝比奈さんの能力によるものでしょう。  
もっとも朝比奈さんはそこまで読んでいないようですからなにが起こったのかわからなかったようですね。僕の能力とは違う新しい能力が目覚めていました。」  
はぁ。漫画みたいなことが起こればいいとハルヒが願っちまったわけか。  
「んで何をすれば元の世界に戻れるんだ?」  
「今回は僕にも良くわかりません。もっと言えば何も行動する気がないというか、  
まぁそんなところです。」  
古泉からはまったく想像し得なかった言葉がでてきた。どうしたんだ?一体。  
「漫画のキャラクターの性格の影響が出ているようです。  
本来の僕とは考え方が少し変わってしまっています。」  
そうかと認めて引き下がれるわけが無い。恐ろしい奴もごろごろいそうな世界俺はいやだ。  
まぁ、さっきの朝比奈さんみたいな天使を具現化したような存在なら大歓迎なのだが。  
「こっちはお前が協力してくれないと困る。  
このままもとの世界に戻れないなんてお前としても問題なんじゃないのか。」  
古泉は首をすくめた。  
「……ただこのまま穏やかに植物のように生きていたいと思いまして。」  
絶句した。  
あの漫画を知ってるものとしては絶対に聞きたくない部類の台詞だ。  
「ところで前からずっと思ってたのですが貴方の手は美しいですね。いや、女性とは違った美しさで僕図らずもぼっ」  
そこまでで十分だった。そこから先は聞こえてない。いやだ。怖い。泣きそうだ。ってか泣いた。  
 
気がつくと俺は古泉が壁と同化するくらい殴っていた。絶対古泉は再起不能だ。そうあってほしい。  
どうやら俺は覚醒したようだ。  
幸い誰もいなかったが傍から見たら某ネコ型ロボットの愛称を叫びながら壁に古泉をめり込ませてく奇妙な俺が見えただろう。  
古泉本人が言っていたことだがいつもなんだかんだで主人公の立場を与えられていることにこれほど感謝したことは無い。  
古泉が「いいや限界だ!押すね!」とか言ってたみたいだか主人公の前には関係ない。  
帰ったらハルヒのわがままの一つでも素直に聞いてやるか。いつも従わされているが。  
 
こうなったら頼みの綱は長門しかいない。出来るだけ頼りたくは無かったがもう長門の力を借りるしかない。  
「長門!!」  
急いで文芸部室に戻った俺は驚く朝比奈さんを横目に長門の前に立った。  
「わかっている。貴方は元の世界に戻りたいと願っている。違う?」  
あぁ……そのとおりだ長門。  
「ふぇぇ!?何か起こってるんですかぁ?」  
おろおろする朝比奈さん。すいません、ちょっと座っててください。終わった後でいくらでも説明しますから。  
「今回の現象は漫画のような能力があったらいいと思った涼宮ハルヒの願望に起因する。 
元の世界に戻ろうとするなら涼宮ハルヒにその願望を拒絶してもらうだけ。私もそのように仕向けたいと思う。許可を」  
「そんなの俺に聞くまでも無いだろ。やってくれ。」  
「そう」  
長門はつぶやくと朝比奈さんの後ろに回りこみ手刀を食らわせた。  
「はぅぅ……」  
崩れ落ちる朝比奈さん。  
「おい!なにやってるんだ長門!!」  
「問題ない。朝比奈みくるには気絶してもらっただけ。」  
次の瞬間長門は腕を動かした。まるで絵を描くように。  
気がつくと俺は倒れていた。顔が本になって捲れていく。  
「……ヘブンズ・ドアー」  
そうですか。一体何をする気なのですか長門さん。いや、俺の上に跨るとかそんなことはしなくても良いから。  
なんだその、体験したことの無い感触に俺がよろこ…いやそのなんだ。困る。  
「そう」  
そうって。ほら、なんだ。こんなのハルヒに見られた日には俺の財政と人生とが危ない。  
「みんなー!遅れてごめーん!!」  
って来てるし!!  
「有希!?キョン!?ちょっと何してるのよ!!!」  
これでもかってほど顔を真っ赤にしたハルヒが迫ってくる。  
「うるさい。」  
長門が腕を動かすとハルヒも本になって崩れ落ちた。  
「これってまさか……。ちょっと有希!一体どうするつもりなのよ!!」  
本にされながらもハルヒが叫ぶ。目には戸惑いの色が浮かんでいた。  
俺も長門が何をしようとしているのかいまだわからない。  
「私は彼の本を読みたいと思っただけ。さらに言うなら彼の好きな人の項目を私の名で埋めたいと思う。  
そして涼宮ハルヒ、朝比奈みくるには彼の存在を意識できなくさせる。これで彼は私のもの。」  
淡々と、だが微妙に楽しそうに長門が言った。  
「そんな……。目を覚まして有希!こんな能力に頼って本当貴方それでしあわせなの?」  
ハルヒが必死に長門を説得しようと叫ぶ。長門がこんな行動に出るなんていまだに信じられないんだろう。  
「今の私には力が与えられた。これが私の運命だと思う。 
私は彼を手に入れたいと常々思っていた。だから実行に移しただけ。この能力が原因。」  
「……こんな能力なければ…こうすることもなかった。」  
長門、それが狙いか。  
そう思ったとき俺の意識は無くなった。  
 
 
「キョンくん朝だよー!」  
腹部への衝撃で目が覚めた。俺に変な力も無い。どうやらあの世界は夢ってことになったらしい。  
学校へ行ってみると珍しくハルヒの表情が暗かった。  
「昨日、悪夢を見たのよ。」  
そりゃあ長門が俺らにあんな行動にでりゃあ悪夢にもなるだろう。俺にとってはその前の古泉のほうが悪夢だったが。  
授業後部室へと向かった。ノックしてはいるとそこには長門しかいなかった。  
「長門、毎度毎度助かるよ。ところでちょっと楽しんでなかったか?正直ちょっと困ったんだが。あれは古泉の言ってたキャラクターの性格が反映されたとか言う奴なのか?」  
こう聞いたところ長門は不思議そうな顔をして  
「今回の現象において個人の性格においてなんら変化は無かった。楽しそうに見えたというなら貴方が原因。」  
「なんだ?俺が長門に何かしたか?気に障ることをしたんだったら謝る。すまない。」  
すると長門は少し不満そうな顔をした。  
「長門?不満があるならはっきりいってくれ。お前に迷惑かけっぱなしなんて俺がいやだ。」  
「何も。貴方に感じるところがあるのならいつかまた図書館に連れて行ってほしい。」  
あぁ。あのときは悪かったし、そんなことならいくらでもよろこんでやるさ。  
「そう」  
 
ちなみにほんのジョークだとか言う言い訳に耳も傾けず、マジで古泉をぼこぼこにしたのは言うまでも無い。  
 
 
 

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