高校2年の秋、そろそろ文化祭の時期である。俺達SOS団は今年の文化祭で行われるライブに出るため、日々猛特訓をしていた。  
だが、俺達の中で楽器演奏をした経験があるのはハルヒと長門のみ、それでも結局は素人。そして俺と古泉にもそんな経験はない。  
え、朝比奈さん?彼女は適当にタンバリン叩いてりゃいいとハルヒが直々に言ったので特訓に参加しなくてもいいらしい。それでも  
彼女はあのメイド服を着こなし、猛特訓を続ける俺達に丹精込めて淹れたお茶を毎日恵んでくれる。ああ、ありがたや。  
 で、誰が講師をしてくれているかと言うと・・・・・世の中物好きもいたもんだ。一人、自分から講師を名乗り出てくれた男がい  
た。彼の名は千里達男。元1年7組、現2年4組所属で、俺達SOS団のメンバーとは全員初対面だが、初めて会ったときからハルヒに  
勝るとも劣らぬ濃いキャラを見せ付けてくれた。  
「あんたらがSOS団か、会えて光栄だぜ。俺は千里達男。よろしくなっ!」  
 そう言って彼は右手を額の横に持ってきて、クルッと回すと「シュッ!」と言って下に振り下ろした。どうやら彼の決めポーズ的  
なものなんだろう。しかし、楽器演奏に関しては素人から見ても相当なものだ。教え方も上手い。彼のお陰で、俺達の腕はみるみる  
うちに上達していった。  
 そんなある日、特訓を終えて帰宅しようとした時、ハルヒが千里に声をかけ、二人で屋上へ行ってしまった。ハルヒは  
「着いて来たヤツは死刑よ!」  
 と言ったが、何故か俺は気になった。そして、二人の後をつけてみた。  
 
 屋上へ行って見ると、ハルヒは千里と何か話していた。俺は見つからないよう、入り口のドアの影に隠れた。  
「ああ、OK。お安い御用だぜ、ハルヒさんよぉ」  
 千里は利き手の左手で力強くサムズアップをしながら、独特の喋り方でハルヒから頼まれた何かを承諾した。  
「ホント?ありがとう、千里さん!」  
 ハルヒは100万ワットの笑顔で千里に握手を求めた。千里は高校生らしからぬ顎鬚を蓄えたダンディーな笑顔  
でハルヒとガッチリ握手をした。そしてあのポーズでハルヒに挨拶をすると、こっちへ駆けてきた。  
 ヤバイ、逃げなくては!  
 そう思ったときは既に遅く、俺の肩は千里の大きな手に掴まれていた。終わった。何もかも・・・・・俺は  
そう思った。しかし、彼はいつもの調子で言った。  
「逃げなくても大丈夫だよ、俺はアンタのカミさんみたいに死刑なんて言わねぇからよぉ」  
 そして彼は俺の肩を離すと  
「じゃな、カミさんが来る前にさっさと逃げろよ」  
 とあのポーズをしながら言って、階段の手摺からヒラリと飛び降りた。  
「ちょ、オイ、千里!」  
 俺は彼が落ちたと思われる下の階を見た。しかし、そこに彼の姿はなかった。オイオイ、まさかアイツもか?  
そう思った俺は、すぐさま部室に戻って楽器の片付けをしていた長門たちにその話をした。すると古泉が言った。  
「考えすぎじゃないでしょうか?鍛え上げられた肉体を持った人なら、そんなことをするくらい朝飯前だと思い  
ますが。それよりも気になるのは、あの涼宮さんに何を頼まれたか。ですね」  
 確かに、それは俺も気になる。あの嬉しそうなハルヒの顔・・・・・あんな顔を見たのは閉鎖空間で神人を見  
たとき以来だと思う。一体、千里はハルヒに何を頼まれたんだろうか。  
 俺の心を、何か得体の知れない、不安に似た感情が車に被せられたブルーシートのように覆いかぶさった。  
 それから数日、俺は練習に身が入らなかった。理由は言うまでも無く、俺に被さった得体の知れない感情だ。  
何度忘れようとしても、頭にこびりついて離れない。くそっ、一体何だって言うんだ、この気持ちは。そんな俺  
に、長門は言った。  
「あなたは千里達男に敵対感情に似た感情を持っている。あなたたちが言う『嫉妬』に近い感情を」  
 俺が千里に嫉妬?何故だ。何が理由で嫉妬なんてせにゃならんのだ。最初はそう思った。だが、その理由はすぐ  
分かった。  
 
 
 俺はハルヒが好きだ。  
 

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