轟々と波打つような団長のリズムギターに乗せて、元文芸部員によるそれこそソニックブームを  
起こしそうなくらい鋭利なサウンドが体育館一杯に響き渡たり、朝日奈さんと共に必死で  
スコアを目で追う俺が見る限り、本気で成り上がったような気にさせやがるほどの満席だ。  
 そう――だよな。  
 
 妙に見覚えのあるОBの四人組に見守られながら俺は古泉のリズム隊と息を合わせて  
ベースを踏み、熱くなり過ぎてモニターに近づく一方の団長の立ち位置を見るやミキサー  
に繋いでおいたフットペダルでハウリング嵐を防ぎつつ、完全独走中の宇宙人が掻き鳴らす鉄弦が  
いつ飛んじまうのかと半ば意味のない心配事を抱えつつ、パンクさえも壊しかねない今現在ステージ上で  
溢れ返っているパワーに入り浸っている今日この頃、ていうかこの瞬間。  
 
 思えば去年の今頃は客席のあの辺りで呆気に取られていた自分が未だ記憶に新しいわけで……まあ  
あれだ。 あのときに比べればよっぽど充実してるというのか、そろそろ平衡感覚が失われたきた  
かどうかを今さら持ち出すわけでもなく、二十一世紀初頭に現れた異常気象を前にしてコンビニの  
ビニール傘程度の気前ではとてもじゃないが平常心を保っていられないってことはもう十分すぎるほど  
身に染みて痛感している。 色々あった、で表現できるほどちゃちな騒動ならまだしも妙な哲学に精通  
しているわけではない俺に難しいことは聞かんで欲しい。  
 俺か? とりあえず今は退屈してないさ。  
 
 
「先日のことで、そう――。 いっそのこと混沌を維持している方が楽なのかもしれませんが  
 仮に僕の仮説を覆すのもやぶさかではないと考えているんですよ」  
 知り合いの超能力者が舞台袖でスティックを握り締めながらそんなへ理屈をもらしたのは本番前。  
「確かに涼宮さんが保有するとされている力が彼女の望む存在、この場合は」  
 宇宙人や未来人や超能力者、か。 オールスターと呼ぶにはある意味半端ではあるが暇人が集う部活に  
してはゴージャスも甚だしい。  
「いえ、この場合逆の説を取るのもまた観測者の自由とでも言いましょうか。 つまり我々は集うべくして  
 ここに在ると考えても別に不自然ではない。 むしろ観測者としてあなたを置いたとしても僕が駅前の  
共学校でぶらついているのは今となっては寒気がするでしょうから」  
 それなら俺は反論しようか。 家系図のどこか一箇所が飛んでいたらお前はいなかったという、あの  
詐欺に近い統計学さ。 何となく集まったものに運命感じてるっていうのは………あれはハルヒか。  
 古泉は目を合わせず、ただひたすら遠くを見ていた。  
 
 
 デッキがハイビームを入れた。  
 客席が目をくらましている間に持ち場へと急ぐ、というのは間違いなくハルヒの案。  
 団長は正面へは出ず、代わりにダウナー系の宇宙人が約一名シールドを引き摺ってステージぎりぎりに立った。  
 刹那、変に攻撃的で妙に静けさを伴うソロが体育館内に響き渡った。  
 確か元ネタはヴァイオリンとかいっていた、テクニックを見せびらかすための技巧曲。 聴衆はそのオーラに  
怯んでいるのか水を打ったように静まり返り、タンバリンを抱えた朝日奈さんは完全に引いていた。  
 ハルヒは、摘んでいるピックがへし折れそうなくらい気合を入れているのが遠目で解る。 常人ならば  
ロボットダンスにでもなりそうな踏み込みを徐々に下げてゆっくりと歩を進める。 俺と古泉はスタンバった状態で  
息を潜め、リードがディミニッシュを駆け上がった頂点で全員が一気に叩き落す。  
 
 
「因縁と言うと少しニュアンスが違うかもしれませんが、要は集めなければならない面子がこれだけ超越した  
 プロフィールを持ち合わせていたのではそれこそアレくらいの規模でなければ到底不可能です。 長門さんは  
たまたま情報生命体の一部として、朝日奈さんはたまたま遠い未来の住人として。 あなたの場合は言うまでも  
ないとして僕なんかはそれこそ異能者として生まれ変わる羽目になったわけですが、本来なら接触自体  
まずあり得ないメンバーがこうしている。 僕はこの出会いにそれなりに愛着を持っているで、その  
方が見栄えする、と。 勝手な美学ですよ」    
 
 メタルとオリエンタルが入り混じった三曲目を終え、ここで編成の一部変更。  
 相変わらず重たいベースを担いでいる傍で古泉はマイク一本を携えて正面へ出ていき、軽音部から  
 ハルヒが拉致ってきた何名かが配置され、ステージは一度暗転する。  
 しばし静かになった。  
 ………。  
 出だしのドラムで校務員がピクリと反応した日には少し笑えた。  
 微妙にツボが効いた、はねたリズムに乗っかって誰でもない俺に出番が回ってくる。 ハイでスラップ打ちを  
入れた時点で古泉がちらりとこちらに視線を向けたので眼を飛ばしてやった。  
 やれやれ、場を読んでいないのかわざとやっているのかはさて置き。  
 んじゃまあ、せいぜい目立つようにやれよ。  
「…………………」  
 出だしは、オリジナルに比べるとやけにソウルだった。  
「……… baby's into running around , hanging with a crowd ――――」  
 
 
 
「ああ、そうそう。 大事なことを忘れていましたよ」  
 俺を気遣っているつもりなのか、どこか安堵と諦めが入り混じった表情で。  
「なかなか、いいコーヒーを淹れていますね。 僕も勉強しておいた方がよさそうだ」  
 
 よく響くアナウンスが、他人事ではなさそうな予定を告げた。  
 
 雨はまだ、しばらく止みそうにない。  
 
 
 
 
 

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