『一日限定奥様・ハルヒ』  
*  
「夕飯出来たわよー」  
一旦パソコンから目を離してその声に振り返る。  
テーブルの上に、一人暮らしになってからは久しぶりの『手料理』の数々が綺麗に並べられていた。  
「おおっ」  
思わずベタに驚きの声をあげる。女の子に作ってもらったのは初めてだ。  
この傍若無人団長は何でもできるのか?……いや、これは素直に嬉しい。  
「あたしが作ったんだから味は保障するわ。じゃんじゃん食べなさい!」  
エプロン姿でふんぞり返っているのは、北高で知らない奴はいないほどの有名人。  
僕にとってはにっくき隣人、SOS団団長の涼宮ハルヒだ。  
……今は、僕のかみさんということになっている。一日限定だけどね。  
「それじゃ、いっただっきまーす!」  
僕も彼女に倣って「いただきます」と両手を合わせた。  
そうだ、何でこんなことになったのか説明する必要があるね。それは今から数時間前にさかのぼる……。  
*  
我々コンピ研の宣戦布告から始まったゲーム対決は、予想どおり我々の勝利で幕を閉じた。  
と言ってもただ突っ込んでくるだけの旗艦艦隊に集中放火を浴びせるだけだったんだけどね。  
わざわざ索敵モードをオフにすることも無かったかな。  
「ふぅ……これでやっとパソコンが帰ってくるよ」  
軽く伸びをする。部員の皆は……まだ難しい顔をしてパソコンにかじりついていた。  
まぁズルして勝ったんだから無理もないか。でも、脅されてパソコン盗られたんだからおあいこだよな。  
僕はパソコンを終了させ、SOS団への憐愍もとい嫌味の言葉を数種類考えていると、  
「……今回は私の負けね」  
SOS団の団長がしょんぼりした様子で力なくドアを開けてきた。  
はっはっはと高笑いしてやるつもりだったのに、こうもしゅんとしていると毒気を抜かれちゃうな。  
部員の皆は涼宮ハルヒに気付いていないけど、どうしたんだろう。  
「パソコンは明日返すから、ちょっと付き合いなさい」  
団長は小声で話し、手招きをする。僕は今だに「あれっ?索敵モードが……」とか言っている部員達を  
不思議に思いながら部室を出た。  
*  
「負けたら女子団員の誰かをあげるって約束だったでしょ?」  
「あ、ああ……。そうだな」  
何故か今僕は涼宮ハルヒと一緒に下校している。  
「でも、キョンが『お前が賞品になれ』って言うから、あたしが来たってわけ」  
という理由で、涼宮ハルヒを貰ったからだった。う〜ん、確かに女子は女子なんだけどなぁ……  
 
 
「というわけで、今日一日あんたの世話をしてあげるわ。通い妻よ。感謝しなさい!」  
にっこりと微笑む。涼宮は性格以外は全てがいいんだよな  
……顔を近付けられて、少しドキッとしてしまった。  
「……って、今日一日限定かよ!」  
「何?ずっとコンピ研にいて欲しいの?それなら話は早いわ!  
コンピ研をSOS団の支部にすれば部費も大幅に増えて活動範囲が……」  
「……いや、やっぱり一日だけでいいよ」  
これ以上ウチを引っ掻き回されたらたまったもんじゃない。  
「何よ、遠慮しなくていいのに」  
涼宮はむっとなって僕の腕を捕まえた。ちょっ、どこに引っ張るつもりなんだ、僕の家はそっちの方向じゃないぞ。  
「帰る前に夕飯の買い物!それとあたしお金あんまり持ってきてないからあんた出しなさいよ」  
無茶な要求とともに僕の腕を引っ張った涼宮ハルヒは、  
そのまま僕もろともスーパーへと突っ込んでいった。  
*  
……そしてそこで買ってきたものが今ここにある料理の数々に化けたというわけだ。  
うまい。ご飯が炊きたてで、味噌汁がインスタントじゃないのは何だか新鮮だ。  
ステーキとサラダも、和風にアレンジされていて……その他にも色々と手が込んでいる。  
「キミ、料理得意なんだな」  
「へ?こ、こんなもん出来て当たり前よ」  
誉められることに慣れてないんだろうか、涼宮は照れ臭そうに眉を釣り上げてみせた。意外な一面。  
結構可愛いところもあるんだな。  
*  
それからも色々世間話をしていくうちに分かったことだが、涼宮は頭がおかしいと見せ掛けて中々  
常識的な部分も持っているようだ。  
幽霊なんているわけない、でもいて欲しいみたいな所でせめぎあってるような印象だ。  
何とパソコンには少し疎いみたいで、コンピ研には結構期待していたらしい。  
僕らは知らない間に配下(予定)にされていたのか。いや頼られるのは嫌じゃないけど。  
SOS団の話をしている時はずっと目をキラキラさせていた。  
こんな顔されると……パソコンを盗られたことも、許してしまえるような気持ちに……  
ダメだダメだダメだ。何を言ってるんだ、僕は。  
それからも、二人の賑やかな食事は続く。  
いつもはテレビを見ながら一人で食べてるんだよな、とか急に思い出して、すこし寂しくなった。  
「……どうしたの?急に暗い顔して」  
「いや、何でもないよ」  
そうさ。一日限定なんだ。我儘を言うわけにも行かない。  
「まぁいいわ。お風呂の準備出来てるわよ。入る?」  
 
「そ、そうしようかな。ありがとう」  
逃げるように浴室へ入っていった。  
*  
「…………」  
シャワーを浴びながらぼーっと考える。さっきの数十分で、僕の涼宮ハルヒに対するイメージは  
すっかり変わってしまった。唯我独尊のハチャメチャ女だと思っていたのに……  
「完全に狂ってるわけじゃないし、家庭的だし……」  
可愛いし、とは気恥ずかしくて言えなかった。性格さえ何とかなれば、  
北高でトップクラスじゃないだろうか。つくづく勿体な「入るわよー」  
突然の声にビクッとして振り返る。と、そこにはSOS団の団長が  
……一糸纏わぬ姿で立っていた。  
「……うわぁっ!ご、ごめん!」  
一瞬の間を置いて、慌てて視線を前に戻す。だが既に彼女の柔らかそうな裸身は、  
僕の網膜に、記憶に強烈に刷り込まれてしまっていた。  
白磁のような肌、胸にある、意外と大きな二つの膨らみ、仄かに赤みを帯びた乳首。  
くびれたウエスト、薄めのヘア、すらっとしていて、かつもっちりした太もも  
……生で見たのは初めてだ。三次元って素晴らしい。  
……って、何を考えているんだ僕は!  
「な、何してるんだよ!」  
それしか言い返せなかった。女性経験値ゼロの僕は、いま完全に狼狽えている。  
「何って、背中流しに来たのよ。妻なんだから当然でしょ」  
平然と答え、歩み寄る。  
「洗ってあげるから、ほら、タオル貸して」  
涼宮は浴用のタオルを僕の手からかっさらうと、ボディーソープをつけて  
僕の背中をしゃこしゃこ洗いはじめた。  
「……なんで裸なんだよ」  
ううう狼狽えちゃだめだここは冷静に  
「一緒に湯槽に入ったほうがいいでしょ?」  
 
「ええええ!は、入るの!?」  
何考えてるんだこの女は?  
僕を……誘ってる?  
「嫌なの?」  
「いや、そうじゃなくて、そんな格好で、一緒に入ったら……ぼ、僕だって男なんだぞ」  
 
「……ふーん」  
まるで興味なさそうに言うと、  
「わわわっ、何をする!」背中に置いてあった手を股間に滑らせてきた。  
咄嗟のことでガードに失敗し、涼宮に僕のモノをダイレクトに握られてしまった。  
「ねぇ……そういうことしたいの?」  
耳元でクスクス笑いながら囁く。手元は動かないままだ。  
「そ、そんなわけないだろ!」  
精一杯の抵抗。ペニスを包んでいる手を取ろうとするが、  
石けんで滑るのと涼宮の力が強いのとでうまく外せない。  
「嘘。本当はしたいんでしょ?」  
耳にふーっ、と息を吹きかけられ、背中に膨らみを押し当てられる。  
 
それに反応して、僕のペニスが……  
「ほら、やっぱり気持ちいいんじゃない」  
「ち、ちが……「もう何言ったって無駄よ。こんなに大きくして」  
ゆっくりと焦らすように扱かれる。もう僕のモノはすっかり固くなってしまった。  
「くっ……」  
「いいのよ。今日一日あなたの世話するって言ったじゃない?ねぇ、したい?したいでしょ?」  
その悪魔の囁きに、  
「……したい」  
僕はあっさり負けてしまった。  
「うふ、それじゃあ念入りに洗うわよ」  
「うぅっ!」  
涼宮は僕の肉棒を念入りに洗いはじめた。にゅるにゅるとした感触が――  
「はぁ、はぁっ、はぁっ、はっ……」  
「ちょっと、勝手に出すんじゃないわよ?」  
気持ち良くなっていたら、手の動きを緩められた。今度はゆっくりした手つきでカリの  
デリケートな部分まで指でなぞられる。うぅ……こんなとこ人に触らせるのは初めてだ。  
「それじゃ、仕上げ」  
さっきより強く扱かれる!はぁぁぁ……握力の加減が丁度いいぃ……  
「ああっ!や、やばい、もう出るっ!」  
「はい、おしまい」  
今度は発射一歩手前で焦らされた。くそー、遊ばれてる……。  
こういうとき経験のない男は玩具になるしかないんだな。  
シャワーで体全体の泡を流され、僕は湯槽につかることに。  
僕は、湯につかりながらずっと涼宮が身体を洗うところに見とれていた。  
 
改めて彼女の身体をまじまじと眺める。まるで変態だ。  
こんな娘とできるなんて、という思いが脳裏を支配して他のことが考えられなかった僕は、  
もう色々な意味で駄目かもしれない。  
「ほいじゃ、入るわよ」  
僕に背を向けて、涼宮は湯槽につかった。後ろから抱き締めるための体勢だ。  
僕は早速、彼女の腰のほうに両腕を持っていく。  
身体を密着させ、勃起を背中に押しつけて、右肩に顎を乗せた。  
「ああぁ……柔らかい……」  
もう吹っ切れた。思ったことを口に出すことにする。  
「ふふっ……おっぱいも触っていいよ」  
では、お言葉に甘えてと、両手を乳房に持っていった。  
……何だ、この嬉しい感触は。うああ、すっごい安らぐ。  
「何かキャラ変わってない?」  
「キミがぶっ壊したんじゃないか」  
僕は涼宮の髪をかきわけて耳を出し、そこに舌を入れる。ちょっとピクッとなった。  
下にも右手を伸ばし、秘部表面を撫でるようにさする。  
「ここよ、ここ」  
気持ちよくなるポイントまで誘導してもらい、そこで暫らく指を動した。  
「ん、んっ、あっ……ベッドで、続きしましょ……」  
 
*  
風呂からあがった僕は、身体を拭くとすぐさまベッドへ直行した。  
「そんなに急がなくても、逃げたりしないわよ」  
涼宮は後からのろのろとやってきて、僕の隣に座る。  
「まずは……キスからね」  
両手を僕の頬に添えて、唇を重ねてきた。  
「ん……」  
唇を合わせながら、首に腕を絡めていく。僕も彼女の腰を抱きよせて密着する。  
「んっ、ん……ん!!」  
暫らく、はむ、はむ、と唇を唇で食んでいたら、いきなり舌を入れられた。  
「ちゅ、くちゅ、ちゅぅ……」  
どうすればいいのかわからず、ただ徹底的に舌で口内舐め、吸われる。  
同時にペニスをしごかれて、もう夢見心地だ。どんなエロゲだこれは?  
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」  
我慢できなくなった僕は、唇を離して彼女を押し倒し、馬乗りになって首筋に絡み付いた。  
そこにキスマークを打ち込む。そして胸。  
「乳首はあんまり激しくしちゃ駄目よ」  
と言われたので、優しーくしゃぶることにする。  
吸い上げるごとに  
「んっ」  
と叫ぶ涼宮に、不覚にも萌えてしまった。そして下へと降りていき……  
「うわ、こんなんなってるんだ」  
初めて生で女性器を見た。あまりいい光景ではない。ありていに言えばグロい。  
「舐めていいよ」  
僕は覚悟を決めて、このぐちゃぐちゃしたやつを相手することにした。  
「んっ、もっと深く……」  
指示を受けながら秘所をねぶりまわす。いやらしい蜜が出てきて、口の中に広がった。  
評判よりもあまり変な匂いはしない。しないが、これ口に絡むな。  
「あぁ……それより、その、そろそろ欲しい……」  
頬を上気させて、僕のモノをおねだりする涼宮ハルヒ、なんて可愛いんだろう。  
僕はすぐに彼女の脚を開いて、その間に固くなったものをゆっくり差し込んだ。  
「そう、そこ……んぁぁっ!」  
凄い、肉棒が締め付けられる。全体をしゃぶられてる感じだ!  
「う、動くよ……」  
腰を振る。涼宮はその動きに合わせて小刻みに喘ぎはじめた。  
「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ……」  
目は虚ろで、頬には朱が注している。今にも涎をたらしそうだ。  
そして彼女をそんな風にしているのは僕の……  
「――っ!うぁぁっ……!」  
なんて余計なことを考えていたら、下半身がむずむずし始めて、  
「あぁっ、あ、ああ……!」  
やってしまった。どくん、どくん、と精液が流し込まれているのがわかる。  
「すご……気持ちい……」  
 
快感が下半身から全体に流れる。力尽きたように前のめりに倒れと、おっぱいに顔がめりこんだ。  
 
「……いっぱい出た?」  
涼宮が笑顔で話し掛けてきた。何だか申し訳ない。  
「ごめん、気持ち良すぎて、中で……」  
「ううん、今日は何となく平気な気がするの」  
彼女なりの気遣いだろう。僕は彼女を抱き寄せて、後々考えると羞恥でのたうち回りたくなるような臭い台詞を耳元で二、三囁いて、  
そのまま眠りに落ちていった。  
*  
「ほら、起きて」  
「うん……?あ、おはよう」  
目覚ましより前に涼宮の声で起こされる。う〜ん、いい朝だ。  
「おはよ。ご飯できてるよ。お弁当も作っといたから」  
テーブルの上には、いつもはトースト一枚で済ませる朝ご飯が並べられていた。  
「それじゃ朝ごは――「ちょっと待って」  
起き上がろうとしたところをまた押し倒された。  
「あたし昨日イけなかったんだよね……」  
「ご、ごめん……って、え、ちょ、まさか」  
涼宮ハルヒは僕の朝立ちの先っぽを指先でぐりぐりいじっている。  
「……」  
「あっ、ちょ、待っ」  
「……」 「あ……あああ……ああああ……ああああああああ!」  
……起き抜けに快楽のずんどこに落とされたせいで、僕は一時間目を遅刻し、  
涼宮は絶頂に達したあとに気絶するように眠ってしまったので、僕の部屋で休ませてやることにした。  
今日の授業は、案の定全然集中できなかった。何かあるごとに涼宮の身体や  
匂い、喘ぎ声を思い出してニヤニヤするのを必死に抑えるので精一杯だった。  
授業終わり。コンピ研の部室に行くと、SOS団の長門有希がいた。  
「あれ、長門さん……だっけ。どうしたの?」  
「あなたに強く入部を勧められて、わたしもたまにコンピュータ研の活動に  
参加することにした」  
え?僕がいつ勧めたって?  
「昨日。ゲーム勝負でコンピ研が敗北して13分後のことだった」  
……?コンピ研が負けた?僕達は勝ったはずじゃ……  
「部長、僕達は負けましたよ?戦闘中にゲームの中身を書き替えられて……」  
*  
長門さんが僕の不思議な話をもっと聞きたいというので、部活が終わった後、僕は文芸部室に向かった。  
向かう途中、今日休んだはずの涼宮ハルヒが部室棟の廊下を歩いているのを見た。やはり何かがおかしい。  
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」  
呼び止めると涼宮は苛々した声で返事をした。  
「何?あたし忙しいから用事なら早くして」  
今日の甘えっぷりはどこにいったんだ?  
 
「……今日は休むって言ってなかったか?」  
「へ?あたしがいつそんなこと言ったのよ?それに休むとしてもあんたに連絡するはずないでしょ?」  
んじゃ、と立ち去ろうとする涼宮に、最後の質問をした。  
「最後に、く、首を見せてくれないか?」  
「?……ほい」  
顎を上げて首を見せてくれた。昨日散々付けまくったキスマークがどこにも見当たらない。  
「――――っ!あんた今やらしいこと考えたでしょ?」  
急に首を両手で隠した涼宮に睨み付けられた。図星をつかれて赤くなる。  
「次あたしをそんな目で見たら死刑だからねっ!」  
ぷりぷりと怒って走っていってしまった。  
「……本当に、何なんだ?」  
取り残された僕は、寂しさを感じながら文芸部室のドアを開けた。  
中には、男子部員二人と長門さんが待っていた。  
 
コンピ研、SOS団みんなの話によると、我々コンピ研はインチキを封じられた上に敗北し、  
そして開き直った僕はゲームの中身を書き替えた凄腕ハッカーの長門さんをコンピ研に勧誘した……。  
ということらしい。  
「本当に覚えてないのか?」  
「覚えてない、というより、そんなこと知らない、という感じですね」  
「ということは、あー、なんだ。昨日部長さんのとこに来たハルヒは、幻だったってことか」  
「昨日僕らの所にきた部長さんもね。……あなたは、もう僕達の世界に  
片足を突っ込んでしまったのかも知れませんね」  
このあとも、小泉という部員のパラレルワールド説や、抽象論を色々聞かされたが、  
どれもSFの域を出ないものばかりだった。  
まぁ自分が実際に体験したものだから……信じるよりないか。  
*  
帰って来た頃には空はすっかり暗くなっていた。  
今日の夕飯はコンビニで買ってきた弁当だ。何時ものように、テレビを見ながら食べる。  
……虚しい。バラエティ番組の笑いが、白々しく感じた。  
小泉君の耳打ちによると……涼宮はキョンという部員のことが好きなんだそうだ。  
「ははは……、一人のほうが、気楽でいいや……」  
 
この日、寂しくて、昨日のぬくもりが欲しくて泣いたのは……恥ずかしいから内緒だ。  
 
 

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