世の中は不条理な事だらけだ。俺はそんな事をぼんやりと考えていた。
自分が行なっていたことがどんな意味を持つのか。そして、その結果自分にどう返ってくるのか。
それを正しく認識して行動できるならば、どんな幸せも掴めるし、どんな不幸をも回避できるかもしれん。
だが俺は残念ながら日本中どこにでもいる極々普通の一般的な高校生だ。
そんな俺が自分の行動がどんな結果を生むのかなど完璧に分かるはずも無いし、よしんばそれによって何か不幸な出来事が
起こったからといって俺に責任を問われても困る。
言っておくが別に俺はマスコミが最近言うような「無責任な若者」ではない。これでも責任感や使命感、義務感は他人よりも遥かに強いと
いう自負はある。もっとも、俺をとりまく環境の所為でそうならざるを得なかった部分が大なのは確かだが。
何が言いたいかというと、自分が楽しみにしていることをひっそりと行なっていただけで、自分の想像の斜め上を超鋭角で超えるような
出来事を起こされても俺は陸に打ち上げられた魚の如く何も出来ないし、大変困るということだ。
「あぁんっ……! な、長門さぁんっ……! 国木田くぅんっ……! お、お願いだから許してくだしゃあいっ……!」
「その要請は却下。私と彼女は貴方が自分の気持ちを正直に吐露するまでこの行為を続ける。」
「そうだよ朝比奈さん……。ちゃんと素直に……なってもらわないとね……。」
俺は部室で椅子に縛り付けられた状態のまま、目の前で朝比奈さんが国木田と長門に嬲られる様を見ながらどうしてこんな事になったのか
元気になりかける股間のドラ息子を宥めながら思い返していた。
それはいつもの部活中に起こった。ハルヒはネットサーフィンをし、俺と古泉はチェスを楽しみ、長門と国木田は読書をし、朝比奈
さんはお茶を淹れていた。
そう、国木田は長門と一緒に読書をすることが多かった。俺や古泉とゲームをする事もあったが、そちらの方が多かった。
黙々と読書をする長門に対し、国木田は自分が読んでいる本で面白い箇所があったりすると、積極的に長門に話しかけた。
長門もそれを嫌がらず、むしろそうやって話し合えることを楽しんでいるようだった。
もっとも、そんな些細な感情の機微は俺ぐらいにしか分からないだろうけどな。
その時も長門と国木田は本のことで話しこんでいた。どうやら恋愛小説における、男性への女性からのアプローチについて話しているようだ。
「ねぇ長門さん、これどう思う? やっぱり女の子は積極果敢にいかないと駄目だよね。ボク男だから分かるんだけど、そういう娘にはクラッときちゃうなぁ。」
「あなたの言うことも理解できる。しかし黙って一途に想い続ける女子というのも魅力的。慌てず騒がず彼の事を想って見続ける。これが最善の方法。」
「えー? いやそれも悪くはないけどさぁ。それって随分受身だよね? 男がギネス級のニブチンだったら気づいてもらえない可能性大だよ。
やっぱり積極的に行くべきだね。その方が一途さも増すってもんさ!」
「そんな事は無い。彼は鈍そうに見えて実は気配りが出来る。一途に想っている女子に気づかない可能性は0コンマ1以下。
さらに面倒見の良い彼はそんな女子を放っておくことは出来ない。必ず拾ってくれる。これこそ搦め手。」
えーと、これは恋愛小説の話なんだよな。さっきから国木田と長門の視線を凄まじく感じるが、これは俺の気のせいだろう。
ふと見ると、古泉がニヤニヤ笑っている。どうした、負け続けて遂に気がふれちまったか。
「そんなことはありません。ただ、貴方が羨ましいと思いましてね。」
何が羨ましいのかはあえて問わず、俺は黙って駒を動かした。大体俺はこいつに対する疑念を解いた訳ではない。
というか、もう完全に真性だと思っている。俺はそういう人間を差別するつもりはないが、自分が狙われているとなれば話は別だ。
そんな殺伐とした俺の目の前に、すっと白い手が差し出された。殺伐とした俺の気持ちは一瞬にして溶解する。
この手が誰のものであるかは言うまでもないだろう。マイスィートエンジェル・朝比奈さんだ。
「はい、キョン君お茶です。ゲームに集中するのは良いけど、ちょっと怖い顔してますよ? もっと楽しんで下さいね。」
うふ、と天使の笑顔を浮かべる朝比奈さん。身を起こすと同時に、メイド服の上からでも分かる豊かなお胸がたぷんと揺れる。
俺は朝比奈さんに気づかれないように、目の端でそれを堪能する。そこ、ムッツリスケベとか言わないように。
これは男ならば誰しでもする、いわば本能だ。よって俺が特別スケベだと言うわけではない。断じてない。
が、俺の密かな楽しみは周りからの強烈な視線によって中断せざるを得なくなった。
いつのまにかハルヒがパソコンの画面から目を離してこちらを烈火の如き目で睨みつけている。
「キョン……あんたって奴は……!」
国木田と長門も話をやめて、じっとこちらを見つめている。
「長門さん……。ボク、真の敵が誰か今、分かった気がする……。」
「それは奇遇。私も同じ意見。」
目の前の古泉も、笑顔ではいるものの目は笑っていなかった。
……というか待て。女性陣が非難の視線を送るのは分かるが何でお前までそんな目で見るんだ。やはりお前は真性か。
しかし、ハルヒが俺に対して色々な折檻を加えてきたためその件についての追及はできなかった。まぁ、今更しても疲れるだけだがな。
不機嫌になったハルヒは「今日はもう解散!!」という台詞を残して嵐の如く帰っていった。まったくやれやれだな。
古泉も先に帰っていった。「閉鎖空間は発生していませんが、念のために待機しておきます。」とのことだ。
まったくご苦労なことだ。だが、今のハルヒならこれぐらいでは閉鎖空間は発生しないと思うがな。
そんなことを考えていると、何か言いたそうにもじもじしている朝比奈さんと目が合った。
「あのぅ……キョン君、私着替えるから……そのぅ……。」
いかん、余計な事を考えていたせいで朝比奈さんの着替えを邪魔してしまっていたようだ。
俺はそのことを詫びて部室を出ようとした。……しかし。
「ちょっと待って……キョン。」
俺は、国木田に呼び止められた。
振り向くと、国木田と長門がじっとこちらを見ている。俺は猛烈に嫌な予感がした。とにかく話をしなければ。
そう思った俺が口を開くより先に、長門の口が高速呪文を唱えた。
「!」
俺の体は自分の意志とは無関係に動き始め、部室内の俺のイスにどすんと落下した。
「ふぇっ!? キョ、キョン君大丈夫!? どうしたんですか!?」
朝比奈さんが俺に駆け寄ろうとしたが、その肩をがっちりつかんで動きを封じた人物がいる。
「…………。」
三点リーダーで分かるとおり、その人物は長門だった。朝比奈さんは見ているこちらが気の毒に思う程に狼狽して長門に問いかける。
「ふえぇっ!? な、長門しゃん、どうしてこんにゃことをっ!?」
「……すぐに分かる。」
その後ろで国木田がドアに鍵をかけるのが見えた。……なんだかこの展開、どこかで見たような……。
「さすがだね長門さん。……さて、じゃあボクは念のためにキョンを縛っておこうかな。」
そう言うと国木田はこちらに近づき、俺をイスごとロープで縛り上げた。どうでもいいがこのロープはどこから出したんだろうか。
どうせ長門が「実はこんなこともあろうかと……。」なんて言ってポケットから取り出したんだろうが。
不思議な事に、国木田が縛り終えるのと同時に俺の体は自由を取り戻した。国木田の前で力を使いすぎるのはまずいと長門も踏んだのだろう。
いや、今はそんなことより国木田と長門を問いただす方が先決だ。
「おい国木田! 長門! お前ら一体どういうつもりだ!」
俺がそう叫ぶと、国木田はニヤリと笑い、長門は表情こそ変えなかったものの、その目に何やら妖しい光を浮かべた。
「ふふ、いやちょっとね……。ボクと長門さんの共通の敵を懲らしめてあげようと思ってね。」
そう言うと国木田は、長門と同じように朝比奈さんの後ろに回る。
しかし、共通の敵、だと? どういうことだ、あれは朝比奈さんのグゥレイトなお胸を見ていた俺に対する発言じゃなかったのか?
俺の疑問を見透かしたように、国木田は言う。
「いや、違うよ。ボクと長門さんにとっての共通の敵、というのはね……。この……」
……そして国木田は、ぐわし!! と効果音まで聞こえてきそうな勢いで朝比奈さんの胸を鷲づかみにしながら叫んだ。
「……いけないおっぱいのことさッ!!」
「ひゃあんッ!! く、国木田君、やめてくださぁいっ!!」
朝比奈さんが激しく身をよじって抵抗する。そんな朝比奈さんに国木田は囁くように言う。
「大丈夫、安心して朝比奈さん。……ボク、実は女の子だから。」
「え、えぇっ!? そ、そんなわけ……!」
朝比奈さんもすぐには信じられないようだ。すると国木田は、頬を赤らめながら朝比奈さんの右手を取った。
「しょ、証拠はコレ……。ちょっと恥ずかしいけど……。」
そう言うと国木田は、朝比奈さんの右手を何と股間に導いた。
「えっ!? いやっ! そんなの……ってあれ? ほ、本当に無い……。」
朝比奈さんは胸を鷲づかみにされていることも忘れて呟いた。一方今度は国木田の方が喘ぎ始める。
「ちょ、朝比奈さんっ! そ、そんな乱暴にしないでぇっ……! あんっ!」
その喘ぎ声に驚いた朝比奈さんは、「ひゃうっ」という可愛い声をあげて手を引っ込めた。
「ど、どう……? ボクが女の子だってこと、分かってくれた……?」
「は、はいぃ……。よ、よく分かりましたぁ……。」
荒い声で問いかける国木田に答える朝比奈さん。どうでもいいが激しくエロい。俺は思わず見入ってしまっていた。
と、後ろから朝比奈さんの胸を揉んでいた国木田と目があった。国木田はまたニヤリ、と笑うとまた朝比奈さんの胸を揉みだした。
いや国木田だけではない。長門も参加している。右乳を国木田が揉み、左乳を長門が揉む。
とても息のあった見事なコンビプレーだ。しかしどうせならもっと世の中に役立つような息の合い方をすればいいものを。
これじゃあ風俗店の変態特殊プレイぐらいしか使い道が無いぞ。
「うるさいなぁキョンは! これを見て興奮してるくせに……!」
そういうと国木田は朝比奈さんを長門に任せ、俺に近づいてきた。そのまま俺の顔を両手ではさみこむと、いきなりキスをしてきた。
「! ふえぇっ!?」
朝比奈さんが驚いて固まる様子が視界の隅に写る。
国木田は一心不乱に俺の口の中を攻め立てた。国木田の唇は長門のものとはまた違う柔らかさを持っており、なおかつひどく熱かった。
何回も唇を吸われた後、思いっきり舌を入れられる。俺の口の中、頬の内側や舌の裏側まで舐めてくる。
だが、決して不快ではない。激しくしたかと思えばそっと優しくするといった具合に絶妙なまでの緩急をつけてくる。
俺はその感触に酔いしれて、国木田のされるがままになっていた。
「ぷはぁっ……。ふふっ……キョン、どう? お気に召して頂けたかな?」
顔を赤くしながらも国木田は笑顔で問いかけてくる。畜生、いい笑顔をしやがって。
俺は自分も顔を赤くしていることを自覚しつつも余裕のあるふりをした。
「……まぁ、その、悪くはなかったぞ。」
そう言ってやると、国木田は顔を綻ばせた。そのまま俺に抱きついてくる。ぐあっ苦しいぞ国木田、もうちょっと加減しろ。
「あ、ごめんねキョン! ……でもボク本当に嬉しくって! ツンデレなキョンからそんな風に言ってもらえるなんて、幸せだよ!」
誰がツンデレだ誰が。そう言ってやった俺は、朝比奈さんが呆けたような顔をしてこちらを見ている事に気がついた。
どうしたんだ? 確かに刺激の強い行為ではあったが、ここまで呆けるとは……。
俺の様子に気づいた国木田が、朝比奈さんの方を見てくすり、と笑う。
そして、俺の頭をかき抱いて朝比奈さんに楽しそうに言う。
「朝比奈さん、実はボク、キョンのことが好きなんだ。……中学の頃からね。」
その告白を聞いた朝比奈さんは、びくり、と体を震わせる。
「ちなみに私も彼の事が好き。」
負けまいとするかのように、長門も朝比奈さんに告げる。朝比奈さんは絶句したまま何も言えないようだ。
それでも彼女は何とか声を絞り出した。
「な、長門さん……。分かってるんですか!? そんな事をしたら、その……。」
国木田がいるせいか朝比奈さんは言葉を濁した。しかし、その後を受けて長門は続けた。
「あなたの言いたいことは分かる。しかし、それが必ず正しいこととは限らない。」
「……えっ?」
「……それを、彼女が教えてくれた。立ち向かう勇気。彼を、そして涼……彼女を本当に大切に思うならばお互いの本音をぶつけるべき。
私はそう判断した。」
俺は少なからず驚いた。まさか、長門がそんな事を言うようになるなんてな……。
国木田を見ると、誇らしそうな目で長門を見ている。本当にこいつらは親友になったんだな。
俺がそんなことを考えていると、国木田が朝比奈さんに言った。
「そう、長門さんの言うとおりだよ。朝比奈さん、長門さんに言った言葉をあなたにも言うね。
周りの環境やしがらみを理由にして自分の気持ちを偽るのは卑怯なことだよ。
そういうものも、死ぬ気でぶつかればなんとかなるものにね。
だから、……朝比奈さん、あなたもキョンを全力で愛してほしい。そして、あなたを縛る様々なものに、全力で立ち向かってほしい。
……同じ人を好きになったライバルとして、仲間として……ボクはそう思うんだ。」
俺は国木田の言葉を黙って聞いていたが……ちょっと待て。朝比奈さんが俺のことを好きだって?
おい国木田、いくらなんでもそれは……と言いかけて、国木田と長門の視線に制された。
「キョン……。君って奴は本当に……」
「……にぶちん。」
そこまで言わなくて良いだろう。
「さぁ、朝比奈さん、素直になって、キョンに思いを告げてよ。」
国木田が朝比奈さんに声をかける。しかし朝比奈さんは、身を硬くしたまま、無言でいる。
その様子を見た国木田がふぅ、と溜息をついて長門に話しかける。
「長門さん。朝比奈さんは強情みたいだから、もう一押し必要みたい。」
「了解した。……わたしももう限界。」
そう言うと、長門は音も無く俺に近づいてきた。そのまま俺の顔をつかむとキスをしてきた。
しかしお前といい国木田といい、何でこんなに積極的なんだ。
「ちょっとキョン。それを君が言うわけ? 胸に手を当ててよく考えてごらんよ。」
この状況じゃ胸に手なんて当てられないけどな。
そんなことを考えながら長門のされるがままになっていると、身を震わせる朝比奈さんが目に入った。
それと同時に長門がぷはぁと俺から口を離す。俺が余計な事を考えていたのが分かるのか、目にちょっと不満の色が見える。
それを察したのか、国木田が更なる提案をしてくる。
「じゃ、さ、長門さん……。いよいよ次のステップに進もうか。」
言うが早いか国木田は学ランのボタンを外し始め、長門はセーラー服のリボンを外し始めた。
おいお前ら何をする気だ。まさかここであんなことやそんなことをヤるつもりじゃなかろうな。俺が止めるべく声をあげようとした時、
「─────だめぇっ!!」
朝比奈さんが、絶叫した。
俺は唖然と、国木田は微笑んで、長門は表情は変えないがその目にどこか優しい光を浮かべて……朝比奈さんを見た。
朝比奈さんはそのまま俺の前までつかつかと歩いてくる。そしておもむろに俺の顔をつかむと、唇を押し付けてきた。
今日これで三度目か、なんて事を頭の隅で考えながら、俺は朝比奈さんの様子を伺った。
唇を合わせてきたものの、舌は入れてこない。本当に不慣れな、だけど想いのこもったキス。
微かに震える朝比奈さんを、俺は愛しいと思った。縛り付けられてなければ思いっきり抱きしめてあげるのだが。
そんな事を考えている内に、朝比奈さんがそっと俺から唇を離した。そのまま俺の目を真っ直ぐに見て、想いを告げてくる。
「キョン君……。私はあなたのことが……。でも、私はいつかあなた達と離れなくっちゃいけない……。」
俺の脳裏に初めて朝比奈さん(大)と交わした会話が蘇る。『私とあんまり仲良くしないで。』そう言った彼女の寂しげな横顔と共に。
「……だから私は、あまり深く関わらないように、心を許しすぎないように、と思って……。だけど……。」
「気づいたら……あなたを好きになっていました……。」
朝比奈さんの、微かに涙で濡れた瞳が俺を更に深く射抜く。
「それが分かってからは……私……ずっと辛くて……。
どうしたら良いか分からなくて……。それで……でも、何もできなくて……。」
朝比奈さんは、俺にしがみついて泣き始めた。縛られていなけりゃ優しく撫でてあげるのに。
俺がそんなことを考えていると、国木田と長門がそっと朝比奈さんを抱きしめ、髪をなで始めた。
「……あっ……。」
「辛かったね朝比奈さん……。だけどもう大丈夫。これからはボク達がいるよ。
さっきも言ったけど、同じ人を好きになったボク達はライバルであり、仲間なんだ。だから、辛いことがあったらボク達に話して?
力になれる事は少ないかもしれないけど、それでもあなたの心を軽くすることは出来ると思うから……。」
朝比奈さんが国木田と長門を交互に見やる。国木田は大きく、長門は小さくだが確実に頷いた。
それを見て朝比奈さんは、再び泣き出した。だが、今度のはさっきとは違う、うれし泣きだろうな。
俺はそれを見ながら国木田に囁いた。なぁ国木田、俺が言うのもなんだがお前、どんどんライバル増やしてるけど良いのか?
そう言うと国木田は、くすりと笑って俺の髪をくしゃっと撫でた後答えた。
「キョン、ボクはね、君の素晴らしさを分かってくれる人がいてくれて嬉しいんだ。……君は正直、古泉君のような美男子ではないじゃない。」
……うるさい、ほっとけ。むくれた俺がそう言うと、国木田はまた俺の髪を撫でて続けた。
「……でも、だからこそ、キョンを好きになる人は外見なんかに惑わされず、その素晴らしさを理解してくれているってことだよ。
ボクはそれが嬉しいんだ。ちゃんとボク以外にもキョンを、キョンの素晴らしさを理解してくれる人がいることがね。
ボクはそういう人達と友達になりたいんだ。同じキョンを愛し、キョンの幸せを望むものとしてね。
……ちょっと変わってるかな? だけど、これが偽らざるボクの本心だよ。ま、朝比奈さんの胸にはちょっと嫉妬しちゃうけど、ね。」
そう言うと国木田は俺に笑顔を向けてきた。まったくお前ってやつは……。縛られてなかったら思いっきり抱きしめちまうところだぜ。
俺がそう言うと国木田は、「それは残念」と言ってウィンクをしてきた。まったくやれやれだな。
ひとしきり泣いた後、朝比奈さんは赤い目をこすりながらとんでもないことを言い出した。
「ぐすっ……。そ、それで……これからどうするんですかぁ? せ、折角キョン君を縛ってるんだし……その、チャンスなんじゃないかと……。」
朝比奈さん、あなたは何を言い出すんですか。ふと見ると、国木田と長門からも何やらピンク色のオーラが立ち上っているように見える。
「そうだね……。前回も最後までいけなかったし……。よし、ヤっちゃおうか! キョン、若いんだから三発くらいは余裕だよね?」
女の子がヤっちゃおうかとか若いんだからとか三発なんて言うんじゃありません。
「私は既に覚悟完了。」
お前はどこの強化外骨格だ。頼むから勘弁してくれ。
そうして三人がにじり寄ってくるのを恐怖と……ほんの少しの期待を抱きながら見ていると……ふと、声が聞こえた気がした。しかもそれは……!
「……ちょ、ちょっとこれ涼宮さんの声じゃない!?」
「……確認した。彼女がここに到着するまで推定二十秒。」
「はわわっ! 急いで服とか直さないと…!」
そうして彼女らは俺や自分たちの衣服を直し始めた。後は俺をイスから解放するだけだったが、しかし……
「WAWAWA忘れ物ーっとぉっ!! ……ってアレ? みんな何やってんの?」
鍵をかけていたはずなのにそれをブチ破って入ってくるとは、この馬鹿力女め。
しかしこの場をどう切り抜けるか。俺が灰色の脳細胞をフル活動させながらハルヒに向けて話しかけようとした時、朝比奈さんが叫んだ。
「お、お仕置きをしてたんですぅっ!!」
……朝比奈さん、あなたは一体何を言い出すんですか?
しかし目をつぶって拳を握り締めながら叫ぶ彼女に俺の視線は届かないわけで……。
「キョ、キョン君があんまり私の、その、む、胸を見るものだから、長門さんと国木田さ……君に手伝ってもらって! お仕置きしてたんですぅ!!」
その朝比奈さんの言葉を受けてうんうんと頷く国木田と長門。えーとお前ら、俺のことが好きなんじゃなかったっけ?
なのになんで俺を生贄にしようとしてるの? WHY? 女はさっぱりわからん。というか怖い一面を見ちまった気がするな。
ふと見ると、ハルヒは無表情に俺を見ていた。その目と視線が合うと……ハルヒの顔が百万ワットの輝きを放ち始めた。
「なによもう!! そういうことならあたしも呼んでよね!! キョンへのお仕置きなんて、普段から百個くらい考えてあるんだから!!」
そう言うとハルヒは部室の中をがさがさと漁り始めた。普段から百個って、お前そんなに無駄な……
って言うかちょっと待て油性マーカーはきつい本当に落ちないんだってそれぇっ!!
俺はムダだと分かりつつも縄を解こうと必死になりながら、安堵したような申し訳なさそうな顔をした三人娘に恨みがましい目を向け
更にハルヒを止めようと喋り捲りながら心の中で呟いた。
やれやれ。