今日はとても良い天気で、家を出たときの俺の心は富士山の頂上から見渡した景色のように晴れ晴れとしていた。  
別段何があったという訳でもない。ただ、天気が良いというだけで気持ちが軽やかになった経験は誰しもが持っているだろう。  
俺はそんなささやかな幸せを噛み締めながら、こんな日くらいは海の底に生息する貝の如くひっそり平穏に過ごしたいと思っていた。  
 
だが、俺のそんなささやかな願いは、放課後のSOS団部室にて木っ端微塵に打ち砕かれた。  
ちなみに打ち砕いたのは傍若無人を地で行くSOS団団長様では無い。  
ついでに言うなら単独の犯行でもない。二人による犯行だ。しかし、その二人とて協力して犯行を行なった訳ではない。  
二人が対立した意見を持ってしまったがために発生した、いわば悲劇だ。特に俺にとっての、な。  
こういう風に言っても分かりにくいだろう。よって、今回は特別、簡潔に状況を説明してやろう。  
簡単に言うとこうだ。  
 
「国木田と長門が俺を自分のモノにしようと部室でせめぎあっている」  
 
……どうだ、分かったか。この状況を見て羨ましがる奴がいたら、俺は喜んで代わってやるぞ。  
確かに二人ともかなりの美少女ではあるが、しかしだからこそ彼女らが怒っている姿は怖い。非常に怖い。  
谷口や山根なら恐らく数分と持たずに発狂・失禁・気絶という、人生においてあまり経験したくない三段跳びを行なっていることだろう。  
俺はそんな益体も無いことを考えながら、何故こうなってしまったのか原因を探るべく、少し前の出来事を思い出していた。  
 
 
 
コンコン、とドアがノックされる。どうぞ、と声をかけると一人の人物が開いたドアの隙間からひょっこり顔を出した。  
その人物が自分の予想した人物と一致していてちょっと嬉しい気持ちと当たったからなんなんだという気持ちがちょうど50:50という  
割合でブレンドされたであろう表情を浮かべて俺はその人物に声をかけた。  
「なんだ、また来たのか国木田。」  
そう、やってきたのは国木田だった。少し前に一緒に帰った時があったのだが、その次の日から彼女はちょくちょくSOS団部室に顔を出す  
ようになった。  
 
表向きの理由は、SOS団に興味があるから、というものだった。それを聞いたハルヒは目を爛々と輝かせながら猛烈な勢いで俺に人差し指を  
突きつけた。人様を指差すもんじゃありません。というか、お前に人差し指を突きつけられるとその勢いで眉間に穴が開くような気がして  
非常に怖いので止めてほしいのだが。  
「うるさいわよキョン! そんなことより、遂にSOS団に入団したがる輩がきたわよ! この勢いなら一週間後には全校生の半分が入団する計算  
になるわね! さあ 忙しくなるわよキョン!!」  
待て、一体どこからそんな計算結果が弾きだされたんだ。俺はお前より数学の成績は悪いが、それでもそんな変態的な数字がでないことは  
よく分かるぞ。  
俺がそう言うとハルヒは、コイツバカだバカだと思っていたけどここまでバカだとは思わなかったわと思いっきり声に出しながらやれやれと  
いった態度を取った。おい、思いっきり口にでてるぞ。それと俺の真似をするな。  
「あんたの真似なんてしやしないわよ。大体アンタ、お前より数学の成績は悪いって言い方は何よ。まるで他の教科では私に勝ってるような  
言い草じゃない。アンタが私に勝ててる教科って何かあったっけ?」  
 
そう言われると何も言い返せないのが少し悲しい。こいつは性格はアレだが他の部分は極上だからな。俺が勝てている部分と言えば人並みな  
常識を持っている点だが、それを言ってもハルヒはこれっぽっちもこたえないんだろうな。それどころかアンタの常識なんてハナクソほどに  
も役に立たないわよ!なんて言いそうだ。本当に言いそうなのが怖いが。  
「何をぶつくさ言ってるの?まぁとにかく、ゴキブリだって一匹見たらその何十倍もいると思え! なんて言うじゃない。ゴキブリでさえそう  
なんだから、SOS団に入りたい連中なんて、それよりもっと多いはずよ!」  
拳を握っての力説の最中大変申し訳ないんだが、ゴキブリを例に出すのはどうかと思うぞ。国木田が軽くヘコんでいるぞ。  
「うるさい! これくらいで凹んでちゃ不思議なんか見つけられやしないわよ!! それより国木田、アンタ何か特別な力とか秘密とか持ってな  
いの? そんなの持ってたら即団員に採用してあげるんだけど!!」  
 
目を輝かすハルヒとは対照的に、俺と国木田は思わず顔を見合わせた。秘密は確かにある。こいつが実は女でした、というとびっきりのものが。  
しかしそれを言ったらどんな目に国木田が遭うか分かったもんじゃない。いや、おおよその予想が出来るからこそそんなことは言えない。  
「ごめん涼宮さん。ボクただの一般人だからそういうのはちょっと持ってなくて……。」  
国木田が申し訳なさそうに言う。まぁ賢明な判断だ。火中の栗を拾うと言っても、その火が地獄の業火だったら流石に栗を取ろうとはせんしな。  
ハルヒはお得意のアヒル顔を作った後、それでもこう言った。  
「まぁ無いものを言っても仕方無いわ。でもアンタの心意気に免じて、研修期間を設けてあげる。アンタは団員見習いとして、団の行事に極力  
参加しなさい。ただまぁ本決まりではないから強制はしないけどね。その活躍や貢献度を鑑みて団員にするかどうか決めるから、しっかりやん  
のよ!キョンなんか軽く追い抜くぐらいの気持ちでね!!」  
最後の一言は余計だが、とにもかくにもハルヒの計らいで国木田はSOS団の活動に参加するようになった。しかし国木田の目的は、不思議を探す  
ことではない。いや、それにも興味はあるようだが、真の目的は……  
「ボクの目的は、もちろんキョンと一緒にいることだからね。これから覚悟しなよ?」  
……だ、そうだ。やれやれ。  
 
「あれ? 今日はキョンと長門さんだけなの?」  
話を戻そう。今日部室にいたのは俺と長門だけだった。ハルヒは掃除当番だったし、朝比奈さんと古泉も同じようなものだろう。長門はいつもど  
おり本を読んでおり、俺も自分で淹れた不味い茶をすすりながら珍しく読書をしているところだったのだ。  
「そっか……。じゃあさ、キョン。みんながくるまでボクとボードゲームでもしようよ。ボク、一度キョンと戦ってみたかったんだ。」  
国木田が俺の傍に寄って来て言う。そうだな、いつも古泉の相手ばかりでもマンネリだし、こいつは古泉より遥かに歯ごたえがありそうだ。  
「よし、じゃあいっちょやるか。ゲームは……そうだな、オセロでどうだ?」  
「うん、いいよ! 早速やろう!」  
ぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶ国木田。俺とゲームをするのがそんなに楽しいかね。  
準備をしていると、ふと長門と目が合った。読書を中断してこっちを見ている。珍しいこともあったもんだ。  
「どうした長門? 何かあったか?」  
「…………別に。」  
……いやに長い三点リーダーだったな。本当は何かあるのだろうか? でもまぁもし本当に何かあるなら長門の方から言ってくるだろう。  
俺がそう判断してオセロの準備をしていると、国木田が声を掛けてきた。  
「あ、そうだキョン、お茶飲む? 朝比奈さんのようにはいかないけど、それでもキョンが淹れるよりは美味しく淹れられる自信があるけど?」  
あぁ気が利くな。是非頼む。  
そう言うと、国木田は嬉しそうににっこり笑い、お茶を淹れる準備を始めた。  
「あ、長門さんもどう? お茶飲まない?」  
「いらない。」  
……即答かよ長門。国木田もちょっと驚いて、「あ、そう……。で、でも飲みたくなったらいつでも言ってね。」とフォローしている。  
微妙な空気が漂う中、国木田が俺と自分の分のお茶を持ってやってきた。どれ、早速味見をしてみるか。  
一口含み、ゆっくり味わって飲み干す。うん、朝比奈さんには確かに敵わないが、それでも十二分に美味い。  
視線を感じたので見ると、両手で頬杖をついて俺の事を優しくみつめていた国木田と目が合った。  
「どう? 美味しいでしょ?」  
国木田がそう聞いてきたので、俺は正直に答えてやった。  
「うん、うまいぞ。ま、朝比奈さんにはまだまだ敵わんけどな。」  
「くそー、やっぱり朝比奈さんには負けちゃったか……。だけど、キョンが美味しいって言ってくれて嬉しいよ! 次は朝比奈さんより上手く淹れて  
あげるから、待っててね!」  
そういってとびきりの笑顔を浮かべる。まったくコイツは……。俺が苦笑をうかべていると、突然、  
 
びり  
 
という音がした。紙の破ける音だ。俺と国木田が音のした方を見ると、読書をしている長門が目に入った。  
しかし、その手元……読んでいたページは、不自然に破れていた。ちょうど、ページをめくろうとしたら必要以上の力を入れてしまったかのような……。  
「な、長門……?」  
「問題無い。」  
「い、いやでもそれ……」  
「問題無い。」  
「…………。」  
「問題無い。」  
長門が無表情にそう連呼するので、俺と国木田は気まずさを感じながらもオセロを始めることにした。  
最初の方こそ長門を気にしていたが、しかしすぐにそんな余裕は無くなった。やはり国木田は強かった。想像以上だ。  
俺はお茶請けの煎餅をかじりながら、オセロに没頭していた。  
腕を組んで考えていると、くすくすと笑い声がする。見ると、笑っているのは国木田だった。何だ、何がそんなに可笑しいんだ?  
「だ、だってキョン……口元にお煎餅のカスをつけてるんだもん。」  
何、本当か。確かにそれはみっともないな。俺は口元をぬぐったが、まだとれないものもあったようだ。  
「まだ残ってるよ。しょうがないなぁ……ボクがとってあげる。」  
そういうと国木田は俺の口元に手を伸ばし、カスを取ってくれた。ありがとな、国木田……と言おうとしたのだが、出来なかった。何故かって?  
国木田がそのカスをぺろり、と食べたからだ。  
あまつさえ、「おいしい」とか言ってにっこりと極上の笑顔を浮かべた国木田に、俺は不覚にも……と、そこで、また異音がした。  
 
ぶちぶちぶちぃっ!!  
 
驚いて音の方を見ると、読書をしている長門がいた。いや、この場合は読書をしてい「た」だろうな。  
何故なら、長門が読んでいた本はちょうど真っ二つに裂かれ、長門の手にそれぞれ握られていたからだ。  
「な、長門……それ……。」  
「…………問題、無い。」  
いや、そんな訳ないだろう。こんなことを長門がするなんて、何かあるに違いない。それに長門の表情専門家である俺にはわかるのだが……  
「長門……。何をそんなに……怒ってるんだ……?」  
そう、長門は……怒っていた。しかも激怒だ。一体何故?WHY?俺何か気に触ることしたか?  
しかし、このやりとりを国木田は冷静に見つめていた。そして、ぽつり、と呟く。  
「ふーん……。長門さんもやっぱりそうなんだ……。」  
何? 国木田、何か分かったのか? 分かったのなら教えてくれ、このプレッシャーはちときつい。  
「まったくこのニブチン……。あのね、長門さんもキョンのことが……。」  
「違う。」  
国木田の言葉を長門が遮る。何だ? 国木田は何を言おうとしたんだ? そして……何で俺は二人からこんなにプレッシャーを感じ始めているんだ……?  
「違わないよ、長門さん。あ、内緒にしてたんだけど、ボクは……」  
「知っている。あなたは男性だということになっているが、実は女性。最初から分かっていた。」  
「へぇ、凄いね。誰にも見破られたこと無いのに……。でもボクが女だってこと知ってるなら、ボクが言いたいこともわかるんじゃないかな?」  
 
「……それとこれとは別。」  
「あ、そう……。ならそれで良いや。でもボクは、自分に正直になるよ。そう、決めたんだ。ボクのためにも、キョンのためにも……。  
ボクはね、長門さん。キョンのことが……好き、なんだ。」  
国木田の視線と長門の視線が交錯する。息が詰まる。二人の真っ直ぐな視線がぶつかりあい……しかし、先に視線を外したのは、なんと長門だった。  
「ボクはね、長門さん。家のしきたりでずっと男として生きてきたんだ。中学の頃からキョンのことを好きだったのに、その気持ちも押し殺してね……。  
だけど気づいたんだ、それじゃいけないって。しきたりとか、環境とかを言い訳にするのは卑怯だって。本当は、そういうものだって死ぬ気でぶつかれば  
変えられるものなのに、ね……。」  
「…………。」  
「長門さんにどんな事情があるのか、ボクには分からない。だけど、何かボクと同じような苦しみを抱えてるような気がしたんだ。  
だから、ライバルにこんなこと言うの変かもしれないけど……長門さんも、全力でキョンを愛して欲しい。そして、立ち向かって欲しい。  
あなたを縛る、色々なものに……ね。」  
「…………。」  
長門は何も言わなかった。だが、一度外した視線を再び国木田のものにぶつけている。相変わらずの無表情だが、しかしその温度が絶対零度から春の雪解け  
の水ぐらいに上がっていることに俺は気づいた。国木田と出会い、関わった事で、長門にもまた新たな変化が訪れるのだろうか。  
そんなことをつらつら考えていると、国木田がニヤリと笑った。いかん、本能が告げる。嫌な予感というやつが光の速さで俺の背を駆け抜ける。  
案の定、国木田が言い出したことはとんでもないことだった。  
「ねぇ長門さん。あなたが何も言わないなら、言いたくなるようにしてあげようか? ボクね、キョンに抱きしめられて、髪をなでなでしてもらったことがあるんだよ。」  
その瞬間、長門の全身から負のオーラが迸った。やばい、やばすぎる。何がやばいってこれだけ負のオーラを発しておいて、表情が殆ど変わらないのがやばい。  
いや、おっかない顔を長門がしたら、それはそれで怖いが。  
しかし、そんな負のオーラにもひるむことなく、国木田はさらに爆弾を投下する。  
「しかもねぇ……実はもう、キスも経験済みなんだぁ。」  
……もう俺の貧困なボキャブラリーでは今の長門を表現出来ない。あえてイメージが近い単語をあげるなら、「鬼」、「修羅」といったところだろうか。もう察してくれたのむ。  
 
 
 
 
……とまぁここまでが回想だったわけだ。しかし、回想してみても打つ手は見つからず、状況は悪化したままだ。いかん、なんとかしないと……!  
俺がそう考えていた時、長門がぽつり、と呟いた。  
「……ずるい。」  
はン? 何? 何がずるいって?  
「わたしもしてもらう。」  
してもらう? してもらうって、お前まさか……!  
「なでなで。」  
長門は破れた本を机に置き、立ち上がる。  
「そして……キス。」  
そういうが早いか、長門はいつもの呪文の高速詠唱を行なった。それが終わると同時に、俺の体は動かなくなった。ちくしょう、やってくれたな長門!  
 
大体お前、事情を知らない国木田の前でそんな力を使って良いのかよ!  
案の定、突然動かなくなった俺に気づいた国木田が、心配そうに声をかけてくる。  
「ね、ねぇキョン、どうしちゃったの? 急に動かなくなって……。」  
「心配ない。わたしが彼に催眠術をかけた、意識はあるが、体を動かせないようにした。」  
「え? それって……?」  
「そう。」  
長門はそういうと、とことこと俺の傍にやってくる。背伸びをして俺の首に腕を絡めると、こう言った。  
「……やりたい放題。」  
そう言った長門の目は、完全に獲物を前にした肉食獣のそれになっていた。そのまま顔を接近させ……  
 
「ぬむっ……。」  
 
キス、をしてきた。  
数秒間唇を合わせたあと、長門は一旦離れた。長門の唇はとても柔らかく、少し冷たかった。しかし、感触を思い返す間もなくまたキスをされる。  
しかも今度のはいわゆるディープキスというやつだろう。だろうというのは俺もそんなキスをした経験が無く、ただ自分の知識と照らし合わせた  
結果、そうだろうと判断しただけであって……  
 
「あむっ……。」  
 
長門の舌が口腔内に進入してきた。唇は少し冷たかったのに、舌は燃えるように熱い。その熱さを鎮めるかのように、長門の舌に自分の舌を絡める。  
長門がさっきより拘束を緩めたのか、舌は動かすことが出来た。まるでお互いの舌が意志を持って勝手に蠢いているようだ。  
俺は、今度は自分の舌を長門の口腔内に送り込む。  
 
「うむっ……。」  
 
長門がわずかに身をよじり、切なげな息を漏らす。首に回した手にも力が込められるのが分かった。俺も抱きしめてやろうと手を動かそうとしたが、  
まだ手の拘束は解かれていないようだ。  
仕方ないので舌に全神経を集中する。きれいに並んだ歯を歯茎ごと舐める。ついばむように唇を吸い、さらに奥深く舌を押し込む。  
長門も積極的に応えてくれる。お互いの唾液を、お互いの口腔内に流し込む。あふれた唾液が口からあふれ、頬を伝い、顎へ流れ、床へ滴り落ちる。  
そんな事を数回繰り返した後に、やっと口を離す。唇と唇に唾液の橋がかかり、ぷつり、と切れた。  
「はぁ……。」  
二人同時に息をつく。キスがこんなに気持ちよいものだとは思わなかった。キスでこんなに良いなら、本番はどうなっちまうんだろうな。  
そんなことをぼんやり考えていたが、二つの視線を感じて我に返る。  
一つは国木田。顔を真っ赤にしてもじもじしている。どうも俺と長門の濃厚ディープキスはちょっと刺激が強すぎたらしい。  
もう一つはもちろん長門。雪解け水から真夏のプールの水ぐらいに温まった瞳で俺を見上げてくる。  
二人を見比べて、俺はまた嫌な予感に襲われた。俺の気のせいでなければ、二人が考えていることは多分一緒だ。  
 
「わたしともっとキスやそれ以上のことをして。」  
 
いかん、これはまずい。大体これからハルヒや朝比奈さん、古泉が来るって言うのにこんなところを見られたら、部室は阿鼻叫喚の地獄絵図と化すぞ。  
「それなら大丈夫。」  
俺の思考を読んだように長門が囁く。  
「この部屋の情報を操作した。内部は変わらないように見えるが、外部からの侵入や入口の発見は不可能……」  
「あれぇ?おっかしいわねぇー。なんでこのドア開かないのかしら?こらっ!キョン!有希ーっ!!いるんでしょ!?さっさと開けなさいよー!!」  
そう言ってドアをガンガン蹴っている奴がいる。誰かというのは言うまでも無いだろう。おい長門、侵入も入口の発見も不可能なんじゃなかったのか?  
「……うかつ。」  
はぁ、つまりハルヒの変態パワーの前ではさしものTFEIの能力も張子の虎同然、という訳か。まぁ助かったからいいけどな。  
見ると、国木田ももう色々する気分ではなくなったらしく、さっきまでの雰囲気は消えうせていた。  
「ちぇっ、ボクも色々して欲しかったのに……。キョン、この埋め合わせは必ずしてもらうからね!」  
……まぁ、これくらい言われるのは仕方ないか。じゃあ長門、この部屋を早く通常空間に戻してくれ。  
「わかった。」  
首を数ミリ動かし、長門は同意した。  
「だけど、そのまえに。」  
何だ、何かあるのか? そう問うと長門は国木田の傍に歩み寄った。  
「え? 何? 長門さん。」  
「私も彼のことが好き。」  
……おい、いきなり爆弾発言だな!  
国木田も目を丸くしていたが、しかし、柔らかい笑みを浮かべてこう言った。  
「そっか。長門さん、やっと正直になってくれたね。でも、ボクは負けないよ?」  
「わかっている。これは宣戦布告。わたしも負けない。」  
そう言ってふたりとも見つめあっている。何だか。戦友と書いて「とも」と呼ぶのがふさわしいような、そんな空気が流れている。  
まぁふたりの仲が良くなったのはいいことだが、俺はこれからどうなるんだ?団長殿がドアに蹴りをかましている音を聞きながら、俺はそっと呟いた。  
 
 
 
 
 
やれやれ。  
 

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