今日もSOS団の活動を終えた俺たちは、仲良く皆で帰る所だった。  
まぁ仲良くといっても、たまたま帰るタイミングが重なっただけなんだけどな。  
「ガタガタうるさいわよキョン!でもまぁたまには皆で帰るのも良いわね!  
団員同士の親睦を深めるのも団長の務めだし、はりきっていくわよ!!」  
もう帰るだけだってのに、なんでコイツはこんなに元気なんだ。  
「おや、分かりませんか?」  
俺の後ろで古泉がくっくっと笑っている。  
顔は見えないが、どうせまた人の悪いチェシャ猫のような笑みを浮かべているのだろう。  
俺は無視したが、古泉は構わずに話し続けた。  
「涼宮さんは、あなたと一緒に帰れるのが嬉しいのですよ。ですからあのように元気なのです。」  
・・・分かった。それは分かったから古泉、後ろから耳元に囁きかけるように喋るな。気持ち悪いぞ。  
「これは失礼。・・・ですが、涼宮さんの機嫌が良いことは僕にとっても不特定多数の人々にとっても、  
無論あなたにとっても好ましいことであるはずです。  
僕としては、できればあなたに涼宮さんのエスコートをお願いしたいですね。  
もし適当な話題が無いのでしたら、女性が喜んで食いつく話題を3分でお教えしますが?」  
お断りだ。大体なんだ、そのエロ本の後ろの方の広告に載ってるようなインチキ臭いセリフは。  
お前の笑顔とあいまって、これっぽっちも信用できん。  
それに、そんな話題がもしあるならハルヒになんぞ使わずに朝比奈さんを喜ばせるのに使うさ。  
そういって俺はマイエンジェル・朝比奈さんを見つめた。  
彼女はよたよたしながら靴を履き替えているところだった。  
履き替えるたびに「よいしょ、よいしょ」とつぶやくのがまた可愛い。  
と、無言の圧力を感じて振り返る。そこには、いつの間にか長門が立っていた。  
そのまま俺のことを微動だにせずにじっと見つめてくる。何だ、どうした長門?何かあったか?  
「・・・別に。」  
そう言いながらも俺をじっと見つめてくる。どう考えても何かあるだろこれは。  
俺が再び長門に話しかけようとした時、空気の読めない団長様の怒鳴り声が響いた。  
「有希!みくるちゃん!早く行くわよ!!そんなバカにかまってるとバカが感染って大変よ!」  
・・・悪かったなバカで。  
むっとしている俺の脇を、苦笑した朝比奈さんと無表情の長門がすり抜ける。  
古泉が俺の隣に並んでまたくっくっと笑う。なんだよ古泉。何がそんなに面白いんだ?  
「いえ・・・。ただあなたの鈍さが世界レベルだという事を再確認したのと、少々の羨ましさ  
を感じましてね。まったくあなたは果報者ですよ。」  
?何を言いたいのかさっぱり分からん。俺が果報者?むしろ不幸者だと思うんだが。  
 
 
「あの・・・キョン?」  
わいわいとしながら校門を出た所で、俺は呼び止められた。  
声の主は国木田だった。どうした国木田こんな時間まで。何かあったのか?  
「う、うん。ちょっとキョンに相談したいことがあって・・・。図書館で時間をつぶしてたんだ。  
だけど・・・。」  
国木田はSOS団メンバーを一通り見回したあと、こう呟いた。「・・・お邪魔かな?」  
そんなことはないぞ。確かにたまたま皆で帰る所だったが、別に約束してたわけでもないしな。  
という訳でハルヒ、俺は国木田と帰る。悪いが先に帰っていてくれ。  
ハルヒはお得意のアヒル顔をしていたが、やがて渋々うなずいた。  
「まぁ、本当は何よりもSOS団の活動を優先させるべきなんだけど、アンタにも付き合いってモンが  
あるんでしょうから、今日だけは特別に許可してあげるわ!まったく、もの分かりの良いアタシが団長  
であることに海より深く感謝しなさい!あ、それと次の不思議探しの際の食費や雑費は全部アンタ持ち  
だから!たとえ一番に来てても全オゴリだから、忘れんじゃないわよ!!」  
そうしてハルヒはずかずかと歩き出す。その背中がちょっと寂しげなのは、きっと俺の気のせいだろう。  
そのあとを朝比奈さんが続く。古泉はニヤケ顔を苦笑風味にして後を追う。  
しかし長門はこちらを凝視したまま動かない。どうした長門、ハルヒ達が行っちまうぞ?  
「・・・・・・・・・。」  
しかしそれでも長門は俺を凝視している。  
気のせいかもしれないが、  
「国木田と二人っきりで帰るだなんて、ヘンな事しないでしょうね。もししたら許さないんだから。」  
・・・という意志が感じられる。  
いや、それは俺の気のせいだよな。そうだ、そうに違いない、そうであってくれ。  
「有希ーっ!早く来なさーいっ!!置いてくわよー!!」  
その時、ハルヒの呼び声が轟いた。今ばかりは感謝するぜハルヒ。長門もようやくハルヒの方へ歩き出す。  
まったくやれやれだ。部活が終わった後でこれか。何かどっと疲れがきちまったな。  
「ごめんねキョン・・・。大丈夫?」  
ああ国木田心配するな。そんなの慣れっこさ。それより、俺たちも行くか。  
「・・・うん。」  
そうして俺は国木田と歩きだした。  
 
しかし、国木田は相談を切り出そうとはしなかった。  
てっきりすぐに来るものだと思って色々考えていたのだが、なんか拍子抜けだ。  
こちらから催促するのも変だと思って黙っていたが、  
切り出しにくいならこちらから水を向けてやった方が良いだろうか。  
そんなことを俺がつらつら考えていると、国木田がぽつり、と呟いた。  
「・・・ごめんね。」  
うん?何で謝るんだ?  
「うん・・・。実はさ・・・。キョンに相談があるって・・・。あれ嘘なんだ・・・。」  
え?そうなのか?しかし何だってまたそんな嘘をついたんだ?  
「うん・・・。ホントはね・・・。キョンと二人っきりで帰りたかっただけなんだ・・・。」  
なんだ、そうだったのか。だったら最初からそう言えば良かったじゃないか。  
そう言うと、国木田は何故か寂しそうに笑った。  
「だってさ。キョン・・・とっても楽しそうだったから。SOS団の人達と一緒にいて、  
とても幸せそうだったから。だから、何か自分の都合でそれを邪魔するのが申し訳なくて、  
でもやっぱり一緒に帰りたくて・・・それでつい、あんな嘘をついちゃったんだ・・・。」  
俺は思わず黙り込んだ。国木田は構わずに、そのまま話し続ける。  
「だけど・・・。自分の事を優先して、キョンが楽しそうにしてたのにそれを邪魔しちゃって・・・。  
そのことを考えていたら、段々キョンに申し訳ない気持ちになってきちゃって・・・。  
キョンは・・・キョンはボクが女だってわかっても変わらず友達としていてくれるのに・・・。  
ボクはどんどん嫌な子になっていっちゃって・・・。  
こ、こんな嫌な子になってキョンに嫌な思いをさせるくらいなら・・・告白なんかせずに、女だって  
ことをずっと黙っていた方が、よ、良かったかなって・・・。それで・・・。」  
それ以降は言葉にならず、国木田は俯いて肩を震わせ始めた。  
俺はふと夕焼けを見た。とても赤い、鮮やかな夕焼けだ。  
・・・なぁ国木田、そんなことはないぞ。  
俺は確かに・・・まぁ、SOS団を嫌いではない。不幸な目にも遭うが、それだけじゃないことは認める。  
だけどな、それと同じくらいにお前と一緒に過ごす時間は楽しいぞ。  
今日だってそうだ。お前と帰れて嬉しいし楽しい。だから、もう泣くな、国木田・・・。  
 
 
・・・と、俺は言えなかった。  
気持ちに偽りは無いが、上手く言葉に出来る自信が無かったし、また、言葉にすると違ったものに  
なってしまいそうな気がしたからだ。  
だが、想いを伝える方法は言葉だけじゃない。だから俺は、別の方法を使って国木田に想いを伝える事にした。  
「キョン・・・。キョンももう・・・こんなボクに愛想をつかし・・・ってわ!キョ、キョン!?」  
国木田が驚いた声をあげる。まぁそれも無理無いかもな。  
何故なら俺は、国木田の頭を抱いて髪をわしゃわしゃと撫でてやったからだ。  
さっきの想いを込めて国木田の髪をかき回す。国木田の髪はいわゆる猫っ毛で、撫でるととても気持ちが良い。  
「ちょ、ちょっとキョン・・・。誰かに見られたら・・・どうすんのさ・・・。」  
体を俺に預けて国木田が囁く。そんなの知ったことか。もし見られたら、他人の空似とシラを切るさ。  
「ふふっ・・・。そうだね・・・。」  
そうして国木田は、気持ちよさそうに目を閉じる。こいつ、やっと笑ってくれたな。  
そのまま髪をなでていたが、やがて目を開けた国木田が言った。  
「ありがとう、キョン・・・。キョンの想い・・・ちゃんと伝わったよ・・・。」  
国木田は髪をなでていた俺の手を取ると、そっと頬擦りをした。  
「なんかボク・・・。いつもキョンに助けられてばっかりだね。」  
お互い様さ。それにそんなこというな。水臭いぞ。  
「ありがとう、キョン。本当に・・・優しいや。だからみんな・・・キョンに惹かれるんだね・・・。」  
うん?何だって?みんながどうした?  
「ううん、何でもない!」  
国木田は俺の手にちゅっとキスをすると、するり、と俺から離れた。  
「キョン!ボク・・・頑張るね!ボクは涼宮さんや朝比奈さんや長門さんのようにはなれないけど、  
でもボクはボクなりのやり方で輝いてみせるよ!そして、キョンをもっと助けてあげられるようになる!  
キョンに愛されるボクになって・・・もっともっとキョンを愛する!見ててね!!」  
俺は顔が熱くなるのを感じた。これは夕焼けだけのせいではないだろう。  
しかし、こうもストレートに想いをぶつけられるなんて・・・。お前は強い、な。  
「えへへ、相手がキョンだからね!それに、女の子は男の子なんかとは比べ物にならないくらい強いんだから!!」  
そう言って国木田は満面の笑みを浮かべる。  
夕陽に照らされた国木田の笑顔は、ハルヒの笑顔に勝るとも劣らない、魅力的なものだった。  
「じゃあキョン!悪いけどボクは帰るよ!嘘をついてキョンを独占しちゃ、ライバル達に悪いからね!」  
そういうが早いか、国木田は身を翻して駆けていった。  
ぽつんと取り残された俺は、思わず苦笑した。  
畜生、どうして俺の周りにはこうもパワー溢れる女子ばっかり集まりやがるんだ。  
だが・・・負けてられないな。俺も・・・頑張るかな、色々と。  
沈む夕陽を見つめながら、俺はしかしいつもの癖で呟いた。前向きな気持ちを込めて、な。  
 
 
 
 
 
やれやれ。  
 
 

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