いつものように部室に行くと、そこには長門・朝比奈さん・古泉の他に、見慣れない男子生徒がいた。  
・・・いや、見慣れないはずなんだが・・・しかし、どこかで見たような気もする。誰だ?  
「彼の名は山口。あなたのクラスメイトの山根と谷口が融合して誕生した存在。」  
俺の思考を読み取ったように長門が言った。なるほど、確かにあいつら二人を足して2で割ればこんな  
感じになるかもな。想像してもこれっぽっちも楽しくないが。  
しかし、何でこんなイカレた存在が誕生したんだ?どうせハルヒの仕業だろうが。  
「あなたの考えた通りです。彼を誕生させたのは涼宮さんです。」  
分かった。分かったから古泉、俺に急接近して話すのはやめろ。息が顔に当たるじゃないか。気持ち悪い。  
「これは失礼。さて、涼宮さんが彼を誕生させるに至った原因は二つあります。  
一つは涼宮さんが、最近とあるカードゲーム漫画にハマッた事。」  
原作が終わった後も、アニメなんかで続編が作られているアレか。  
「もう一つは、山根氏と谷口氏によって涼宮さんが不快な気分にさせられた事。」  
なるほど、それでか。俺は昨日の出来事を思い出す。  
 
「あー!!もう!!なんなのよアイツらは!!」  
ドバン!と部室のドアを開けるなり、ハルヒはそう叫んだ。  
ドスドスと音をたてて歩き、激しい勢いで自分のイスに座ると朝比奈さんに向かって怒鳴った。  
「みくるちゃん!お茶!!気持ちが安らぐ成分たっぷりでね!!!」  
は、はひぃと返事をして、わたわたとお茶を淹れる準備をする朝比奈さん。  
しかし、気持ちが安らぐ成分たっぷりとはまた無茶な注文をしやがる。  
俺なら朝比奈さんが淹れてくれたものなら、例え白湯だって幸福になれるぜ。  
「何よバカキョン、またバカ面ひっさげちゃって。どうせまたみくるちゃんでよからぬ妄想してたんでしょ!  
このバカ変態スケベ!!」  
何つう言い草だ。しかし、いつにも増してひどい言い草だな。何か嫌な事でもあったのか?  
「アリアリよ!さっき部室に来る途中で忘れ物に気がついて、教室に戻ったら・・・!」  
・・・戻ったら?  
「・・・山根が私のイスの匂いを嗅いでいたのよ!!」  
・・・俺はなんだかいたたまれない気持ちになってうつむいた。  
山根が匂いフェチというのは聞いていたが、そこまで末期症状になっていたとは知らなかった・・・。  
「それでフガフガしてて!思い出すだけで鳥肌が立ちまくりよ!さらにあんたのバカ仲間谷口が、  
その脇で涼宮も性格さえまともなら超絶美少女なのにもったいないよなぁなんて偉そうに講釈垂れて!  
あーもうムカツクイラツクー!!」  
ハルヒは朝比奈さんがおずおずと持ってきたお茶を三秒で飲み干すと、「おかわり!」と言って  
湯飲みを朝比奈さんに押し付けた。もうちょっと味わって飲め。バチが当たるぞ。  
「うるさい!とにかく、もうホント最悪な気分なのよ!何か罰を与えないと気が済まないわ!!」  
おや、あいつらに何もせずに来たのか。まぁ普通の女子がそんな光景に遭遇したら、回れ右して逃げるかもなぁ。  
と、思ったが。そういやこいつは「普通」じゃなかったよな・・・。  
案の定ハルヒはニヤリ、と笑って言った。  
「いや、一応制裁は加えてきたわよ。谷口はリバーブローを打ち込んで前かがみになったところへ眉間にヒザ  
を叩き込んでやったわ。山根には後頭部へシャイニング・ウィザードを食らわせたあと、投げっぱなしジャーマン  
をしてやったわ。もちろん後頭部が奴自身のイスにぶつかるようにね。今頃ふたりでオネンネしているわよ。  
特に山根は自分自身のケツの匂いに包まれていい夢みているでしょうね。」  
女の子がケツなんて言葉を使うんじゃありません。  
まぁそれはともかく、奴らには悪いが自業自得というものだろう。  
警察沙汰にならないだけマシというものだ。  
しかしハルヒはまだ怒り狂っていた。  
「言っとくけど、さっきの制裁は前菜、オードブルみたいなモンよ!これから目一杯制裁を加えてやるわ!!  
だけどあんなゴミ二人をまとめて相手すんのも時間のムダだしなぁ。あいつら一人に融合しちゃったりしないかしら!  
ちょうど今読んでるカードゲーム漫画でそんなのあるのよね!魔法カードで融合!とかって!」  
 
・・・なるほど、このあたりのせいか。  
しかし、こいつらこのままって訳にもいかないな。長門、何とかならないか?  
「対象の情報を分析し一度情報連結解除した後再構成することは可能。」  
つまり、こいつを一度分解して山根、谷口に戻すことが出来る、ということだな?  
「そう。」  
悪いが長門、頼めるか?お前も乗り気じゃないかもしれんが・・・。  
とその時、ずっとおとなしかった山口が急に顔を上げて呟いた。  
「・・・来る・・・!」  
何?何が来るんだ?というかこいつは何に反応しているんだ?  
「彼には特殊な能力があるようなんですよ。」  
古泉が説明する。いつものニヤケ顔が若干苦笑気味になっているのは気のせいではないようだ。  
「山根氏は匂いフェチ、谷口氏は女性のランクを見分ける・・・。その二人が融合した結果、  
かすかな匂いからでも美少女の存在を知覚できる能力を得たようなんですよ。  
妖怪アンテナならぬ、美少女アンテナ、とでも言いましょうか。  
ちなみに元々の能力も持っているようです。」  
そいつはまぁ・・・何というか、ハルヒとは違った意味で変態的な能力だな。いや、言葉通りの能力、と言おうか。  
しかし、誰がくるというのだろう?この部室に来るメンツで美少女なのは、あとはハルヒか鶴屋さんくらいなもんだが・・・。  
そんなことを言ってる間に、山口の反応はどんどん激しいものになってくる。  
「凄い・・・!AAクラスの美少女だ・・・!是非匂いを・・・匂いを嗅ぎたい・・・!」  
・・・なぁ古泉、お前の能力の赤球をコイツにぶつけてくれないか?大丈夫、多分死なないから。  
「残念ながら、ここでは使えませんよ。気持ちは分かりますがね」  
「いやぁ・・・と、とってもこわいでしゅ・・・。」  
朝比奈さんも恐怖でプルプル震えている。まぁ普通の女の子ならそういう反応するよな。  
「・・・・・。」  
ちなみに普通じゃない女の子である長門は、化学反応を見つめる研究者の目で山口を見ている。  
だが俺には分かる。目の温度がいつもよりだいぶ低い。やっぱり嫌悪感を抱いているようだ。無理もないが。  
 
と、コンコン、とドアがノックされた。この時点でハルヒと鶴屋さんという線は消えた。では誰だろう?阪中か?  
そしてドアを開けた人物が顔をのぞかせた瞬間・・・俺は自分が焦るのを感じた。  
「ねぇキョンいる?何か涼宮さんが呼んでたよ?山根と谷口がどこにいるか知らないかってさ。」  
その人物は・・・国木田だった。確かにこいつはAAクラスの美少女だ。  
しかし、こいつが女だと知っているのは俺だけ。というか、それがバレると・・・まずい、気がする。  
具体的にはよく分からんが、ハルヒがらみで必ず面倒なことになる。  
「?どうしたのキョン?何だか顔色悪いよ。大丈夫?」  
心配してくれるのは嬉しいがな国木田、早く行ってくれ。事態がややこしいことにならないうちにな。  
俺が目線にそうメッセージをこめて送っていると、国木田は少しはにかんだ素振りをみせて言った。  
「な、何だいキョン、そんなにみつめて・・・。あ、とにかく涼宮さんの伝言はつたえたからね。じゃ!」  
国木田はそう言って、俺のしか分からない程度の流し目をくれて去っていった。  
去っていってくれたのはいいが、あいつの態度が妙だったことが少し気になる。  
あいつ、さっきの俺のメッセージを誤解してないだろうな・・・。  
とにかく、当面の危機が去ったことに安堵しつつ、皆の様子を伺う。一人を除いては気づいていないようだ。  
「やってきたのが国木田だなんて・・・。俺の力はこの程度だったのか・・・?」  
山口はがっくりと落ち込んでいる。そんなにショックなことだろうか。  
まぁ俺には分からないプライドとかがあるのだろう。分かりたくもないが。  
「まぁ元が元ですしね、こんなものでしょう。命中率が低いからと言って、さして世の中に影響を  
与えるようなものでもないですしね。」  
まったくその通りだな古泉。今回ばかりはお前に同意だ。  
「ふえぇ・・・。ちょっと驚いちゃいました。てっきり山口さんは、そ、そっち方向の性癖も  
持っていらっしゃるのかと・・・」  
勘弁して下さい朝比奈さん。そんな性癖を持っているのは古泉だけで十分です。  
そして問題の人物。この場で唯一国木田が女だと知っている人物は・・・。  
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」  
その人物・・・長門は、さっきから俺のことを凝視したまま視線を外そうとしない。  
心なしか、瞳にいつもより力が篭っている気がする。  
なんというか、「国木田が女だということは知っていたけどさっきの流し目はどういう意味なの説明してよね。」  
・・・という意志が目から感じ取れる気がする。  
いや、これは俺の自意識過剰だろう。そうだ、そうに違いない。そういうことにしておいてくれ。  
俺はまだ視線を外さない長門に後でどう説明をしたものか、そして、これからの事を考えながら、小さく呟いた。  
 
 
 
やれやれ。  
 

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