ガチャ  
 毎度の如く扉を開け、見慣れているであろうはずの部室内に目を向ける。  
 だがそこには見慣れない、そして俺を警戒させるには十分過ぎるほどの光景が視界に飛び込んできた。  
「朝倉!」  
 俺を何よりも恐怖に陥れるその存在に、俺は思わず身構える。  
 が、それよりもだ。  
 その朝倉の今の姿は、俺にしてみればあまりにも信じ難い……というか、どう考えても俺の視神経の方に不備があったようにしか思えず、俺は再度扉を開き、いったん外へ出る。  
 今のは朝倉だよな。そうして長門だ。長門はいつもの如く読書中だったように思う。  
 
 その長門に関しては全く問題ないのだが、どうにも朝倉の方だ。俺の知る限りの朝倉涼子とは到底掛け離れている行動だったように思うのだが。  
 いや、そもそも朝倉がいるという時点で俺にとっては大問題なのだが、あの姿を目の当たりにすると、何だかそんなことはどうでもよくなってきた。  
 きっと疲れていて幻覚でも見たに違いない、と自分に言い聞かせ、意を決して再び扉を開ける。  
 ガチャ  
「ね、ちょっと進むの早いってば」  
 俺は頭を抱えた。  
 OK、まずは冷静にこの状況を把握しよう。  
 残念ながら決して幻覚などではなく、現実問題として朝倉涼子がそこに存在している。  
 
 だが、俺が頭を抱えたのは朝倉がいたということ自体にではなく、やはりその朝倉の行動に対してあり、まずは本人に事の次第を問い質してみるのが先決だ。  
「……朝倉、何やってんだお前」  
 一体どういう風の吹き回しなのか、俺には皆目見当もつかない。  
何やらおんぶをして貰っているように長門の背中にピッタリとくっ付き、長門の肩越しに長門と一緒に読書をしているではないか。足まで長門の腰に回しているような気もするが、もうこの際そんなことはどうでもいい。  
「ね、ね、長門さん。だから読むの早いってば」  
 見たか情報統合思念体。これがお前たちの端末たるものの暴走した成れの果てだ。  
「……おい、聞こえてるか朝倉」  
「あら? 居たのあなた。久し振りね」  
 ああ、久し振りだ。そして、そんな感傷に浸っている余裕など持たせないほどの行動を、今お前は取っている。  
「え? 何のことかしら……」  
 朝倉がそう言うや否や、長門が席を立ち部室を出ようとする。もちろん朝倉をおぶったままだ。  
「長門、どこ行くんだ?」  
「図書室」  
「そ、図書室よ」  
 ……いちいち被せんでもいい朝倉。  
 とにかく俺にはこの状況を気にするなと言う方が不可能であり、俺は当然のようにこの二人に付いて行くことにする。  
 
「えー、それちょっと面白くなさそうじゃない?」  
「…………」  
「ね、雑誌買いましょうよ雑誌」  
「…………」  
 お気に入りの本を物色している長門に対し、先程から事あるごとに後ろから余計なつっこみを入れていく朝倉。まったく、何がどうなってやがる。  
 やがて長門は、朝倉の余計な横槍にも全く動じずに自分の気に入った本を見つけ、坦々と貸し出しの手続きを済ませる。  
「もう、あっちの本の方が良かったと思うんだけどなあ」  
 朝倉はボソボソと不満を漏らしつつも、しっかりと長門の背中にしがみ付き、長門の行動に従う。  
 どうでもいいが朝倉、その体勢でいるならスカートの丈を長くする事を俺は激しく提案する。健全な男子高校生にしてみれば、非常に目に毒なのは疑う余地もない。ましてやお前のルックスなら尚更だ。  
 
 
 そうして下校時間。  
 変わらず長門と一体化している朝倉が、どういう訳か妙な提案を掲げ出した。  
「ねえ、あなたも家に来ない?」  
 朝倉、それは505号室のことなのか708号室のことなのか、どっちだ。  
「何言ってるの? 長門さんは708号室にしか家を持ってないわよ」  
「……そ、そうか、すまん。いや、俺の思い違いだ」  
 もうどうにでもなれ。  
「長門、行っていいのか?」  
 その瞬間、俺の問いに長門が答える間もなく、朝倉が長門の肩から手を滑らせたようで、盛大に後ろ向きにこけた。  
「痛いな、もう。あ、わたしったら、長門さんから離れちゃったじゃない」  
 そう言いながら、朝倉は再び長門の背中に乗る。  
「長門さんって、とってもいいんだもん。長門さんだって、いいと思うでしょ?」  
 長門は俺の方に向き直り、  
「いい」  
 ……長門、それは俺の質問に対してなのか朝倉の質問に対してなのか、どっちなんだ一体。  
 その答えによっては、俺はお前に対する認識を改め直さねばならんかもしれん。  
 何やら怪しい関係にあるかもしれない二人に、俺は何とも言い難い気分に駆られつつも、二人に付いて長門のマンションへと向かうことにした。  
 
 

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