クリスマスパーティという名の乱痴気騒ぎからなんとか無事帰還して、
俺はヘロヘロのままベッドに突っ伏す。
冷たいシーツの感触が火照った顔に心地いい。
酔ってやたらハイテンションになるハルヒとそれを見て大笑いしていた鶴屋さん。
無理矢理飲まされて「あたしよっちゃったみたいですぅ〜〜〜」と平仮名で
お話になっていた朝比奈さん。胸元まで真っ赤に染まったそのお肌にはぜひとも
一度触れてみたい。
そしていつもと同じように北校のセーラー服のままでトナカイキャップだけを被らされた
長門。表情ひとつ変えずにワインやらビールのグラスをカパカパ空にしていた飲みっぷりは
見事の一語につきた。
古泉はどうでもいい。
――あー、しかしハルヒの無駄な暴走力はなんとかならんものか。
――ミニスカサンタの格好で暴れる跳ぶ蹴る、じゃあなんというか、若い男には目に毒だ。
そんなことを考えながら、「クリスマスだから大サービスよ!」とわけのわからない理由で
ハルヒのそれよりももっと超ミニスカ&ベアトップのセクシーサンタコスをさせられていた
朝比奈さんの姿を思い出してちょっと充血してしまう。
朝比奈さんには悪いけど、ただでさえ豊かなお胸が狭いベアトップの布地でこう、
ぎゅっとされてもにっと寄せ合わされて、なんというか実にあの谷間は眼福でゴザイマシタ…
なんてことを考えつつ、向こう一ヶ月くらいは副食物に困らなそうなそんなステキ映像を
脳内スクリーンにプレイバックしていると、どこからともなく音が聞こえてくる。
音?
シャンシャンシャンシャン、とまるでそれは鈴を鳴らすような…え?
サンタのトナカイのソリの音?
ベッドから立ち上がり、カーテンを開けサッシを開放し空を見る。
まあ、当たり前のことだが。
そこにはサンタなんていなかった。
そりゃそうだ。想像上の赤服じーさんなんかそこには居るわけもなく、
子供のころですら信じていなかったそんなファンタジィな存在を一瞬でも
信じてしまった自分のアレさ加減を自嘲しつつ寒い冬の風に震えながらサッシを
再び閉める。
しかしカーテンを引くシャッ、という音と重なって聞こえたその声は俺を心底
びっくりさせて文字通り十センチほど飛び上がらせてしまった。
「メリークリスマス」
無表情なそんな声が寒風の吹き込んだ俺の部屋に響き渡る。
決して大きな声ではないが、その周波数といい口調といい、
なんでコイツの声は俺によく響くのだろうか。そこには長門有希、
宇宙ナントカ知性体の作り出したナントカインターフェース、
通称宇宙人のアンドロイドであるところの長門有希が俺のベッドの上に
正座していた。
真っ赤なミニスカワンピース、肩はむき出しのベアトップ、っていうか
これは先ほどまで朝比奈さんが着ていらしたのと同じミニスカコンシャスサンタの
コスチュームではないか。これはいったいどういうことだ長門。
「サンタクロース」
一見感情のこもっていない無表情で一直線な声。
赤い帽子と一緒に頭を傾けつつ、ブラックホールのようなつぶらで真っ暗な瞳で
首をわずかにかしげてこの宇宙人はマイクログラム単位の不思議そうな表情をしてみせる。
ベッドの上に正座している長門。
ミニスカートのすその白いふわふわが、ただでさえ色白な長門の細いふとももの
色に溶けているみたいで、つい視線が引き寄せられる。
赤い体にフィットした生地はやっぱり細い胴体を包み、
慎ましやかだが確かに存在している微妙な胸の膨らみを覆いながら
びっくりするくらい低い位置で終わっている。
胸元にあしらわれた白いボンボンも、朝比奈さんが着ていらしたときのようにあんまり
揺れたりせずに、とはいえこれはこれでなんか可愛い。朝比奈さんのときみたいなセクシーさは
ないものの、薄い胸とベアトップの組み合わせはなんというか、その、ええと、来るものがある。
薄い静脈の色さえ透けて見える長門の白い胸。
ほんのりとその胸の中心に浮かび上がる薄い線のような胸の谷間のようなもの。
赤と白のサンタドレスの中からはみ出る白い肌に触れたい、と俺が思ったのも
無理からぬことであっただろうよ。
長門の肌は白い。白いというよりも、透明感があって表皮から真皮まで透けて
見えそうなくらい色が薄い。
そんな白くてしみひとつない肌をあらわに、サンタコスで俺のベッドに
女の子すわりしている長門。なんというか、じつにイイ。
朝比奈さんのような肉量はないものの、この薄い胸に無理に肩出しはじつにイイ。
すべすべでありながらむっちりと手に吸い付くような極上の肌もいい。
長門がうっすらとその瞳に奇妙な色を浮かばせているのに俺は気づいた。
……俺は、無意識のうちに長門のきめ細かなそんな皮膚の上で手のひらを
遊ばせてしまっていた自分を発見していた。。
ぶっちゃけ気がつくと俺は長門の裸の腕や肩を掌で撫でていた。
俺は自分のしていたことの無礼さに気づいた。
「あ、す、スマン長門。つ、つい、その、なんだ、触りたくなっちまって、悪い」
「構わない」
とはいえ、女の子の肌とかフツーに触っていいもんかどうか迷う。
いくら長門が宇宙人だとしても、女の子の体に触っていいもんでもあるまい。
どうぞ、とでもいいたげな瞳の色を見ているだけでなんだか怪しくなってしまって
俺はつい長門に尋ねてしまった。
「あ、ああ、そ、そういえば、長門よ、な、なんか用でもあったのか?」
「あなたにプレゼントがある」
「プレゼント交換ならさっきもらったが」
俺はそう言うと、机の上においてある、プレゼント交換会でもらった
『ハヤカワハードカバーSF 五冊セレクション』の包みを指差してみせる。
こんなのを贈るのは長門に決まってる。
「あれはSOS団団員としてのプレゼント」
相変わらずの無表情でそう言う長門。
「そうなのか」
「そう。そして私がこれからあなたにあげるものは私個人としてあなたに贈るプレゼント。
どうか受け取って欲しい」
「あ、いや、その、俺は個人としてお前に贈るモノなんか用意してないけど、それでもいいのか?」「問題はない。私の贈り物をあなたがしっかりと受け取ってくれること自体が私にとっての
最高のプレゼントだと思ってくれて構わない」
と、そこまで言われるとなんだかジンときてしまう。
この無表情にも見える宇宙人も、なんだか微かに嬉しそうな色を含んだ表情を
しているのではないかな、と思えなくもない顔をしている。
「ああ、分かった長門。ありがたく頂くとするよ。……で、プレゼントってのはなんだ?」
「少しだけ向こうを向いていて欲しい」
長門は窓のほうを指差す。
「ああ、分かった」
「……」
「………もういいか?」
「まだ。もうすこし待って欲しい」
「ああ。お安い御用だ。……どんなモノなんだ?」
「調査の結果では『男の子が夢中になるもの』という
「なんだそりゃ?」
頭をひねって考える。男の子……ゲームとか?あるいはなんかちょっとえっちなビデオとか。
いや長門に限ってそれだけはない。なんだろうな。
「もうこちらを向いて大丈夫」
「ああ。……なんだなが」
俺は絶句した。
なぜって、全裸の同級生が自分のベッドに正座していたら誰だって絶句するだろうさ。
しかも、その同級生が普段は無口で無表情な宇宙人のナントカインターフェースだったら
なおさらだ。
白い細い腰。柔らかな肩。やっぱり細い首筋。すらりとした肩から腕。
そして薄い胸のふくらみ。その頂点には、微かに色づいた乳首がグラデーションで溶けるように
白い乳肌の中に咲いていた。薄い、肌の色をほんの少しだけ濃くしたようなうす薔薇色の乳首。
わりと平坦な胸のなかで、そこだけ小さく隆起した乳首。
桃色よりももっと薄い、そんな色が俺の目を捕らえて離さない。
いや全裸と言ったのは間違いだ。訂正する。
白くて細くて折れそうな首筋には真っ赤なリボンがちょうちょ結びで締められている。
ほっそりしたふとももまで覆っている赤と緑のオーバーニーソックスと、首のリボン
以外に一糸もまとっていない、そんな長門有希がベッドに正座していた。
「・・な」
「?」
「な、なが……ながと……そ、そのカッコ……」
言葉がうまく出てこない。
「健康な男子生徒がどのようなプレゼントを好むか、アンケート調査を行った。
多様な回答が得られたが、一番効果的だと思われるこの服装を選択してみた。
……もしかしてあなたはこのような衣装が好みではない?」
「……!!!」
激しく首を振る。こんな長門にノックアウトされないヤツは男じゃない。
男の98%はSATSUGAIされちまうほどの破壊力だぞ。
そして残りの2%はきっとホモだ。
「『キョン君ならば、裸んぼで首にリボンだけ巻いて"わたしがプレゼント"って言えば
めがっさ悩殺されるっさ』との意見が一番有力だった。それを試してみた。……どう?」
つ、鶴屋さん……あなたなんて入れ知恵を……
「セリフも教わっている。……『わたしが、ぷれぜんと』……どう?」
再びそう言うと、長門は無造作ショートヘアの頭を数度傾けて俺を見る。
白い肌と。薄桃色の乳輪と。首に巻かれた赤いリボンと。真っ黒な黒水晶みたいな
瞳の色と。そのなかにほのかに浮かんでいる不安そうな色と。ほっそりした足を包む
赤と緑のストライプのオーバーニーソックスと。ピンクの色の唇と。
全てが、俺の理性を蒸発させていってしまう。
「な……長門ッ」
俺がルパンダイブよろしく長門に飛び掛ったとしてもそれは無理からぬことであっただろうよ。
この後のことを話すつもりはない。
長門の肌の匂いがすごくよかったとか、産毛くらいしか陰りのない長門の子供みたいな
下の口とか、その柔らかさとか、しっとり湿ったあとで長門が口にした
「大丈夫。平均よりも小さい膣だが、生殖機能は十分に有している」と言ったときの
かすかに上ずっていた口調だとか、俺の腕や肩をぎゅっと握りこんできたときの
長門の爪の痛さだとか、真っ白な長門の顔が徐々に薄桃色に染まってくるその色っぽさだとか、
一突きするだけで脳がしびれそうなくらい気持ちよく締め付けてくる長門の内側だとか、
普段からは想像もできないような長門の色っぽいあえぎ声だとか、快楽をこらえているのか
俺の背中に爪の線をいく筋か立てたときの絶叫だとか、中にたっぷりだくだくと放出したときの
底知れない幸福感だとか、そのときの忘我の表情の長門だとか、そういった全てのことは
俺と長門だけの秘密だ。たとえ頼まれたって絶対話す気にはなれないね。
朝。
翌朝。
まだ暗いのか、なんでだかわからないが目が覚めたのは六時前くらいの明るさだ。
汗で塗れて乾いた髪がガサガサという。
あ。毛布の中が、なんだかあったかい。シャミか?
視線を落とすと、胸の中には長門が居た。
ああ。
コイツと、あんなことになっちまったんだったな。
不思議と感動はない。
いつかきっとこうなるんじゃないか。とそう思っていたことがそうなってしまったような。
奇妙な、だがほっとするような安心感に俺は包まれていた。
くー、ともすー、とでもいえるかのような微かな寝息を立てながらこの宇宙人は眠っている。
体を丸めながら、それでも俺の体とできるだけ多く触れ合うような体勢で、長門有希は
安らかな寝息を立てていた。
綺麗な顔だ。パーツが整っている、というだけではなくて、なんだか、見ているだけで
心のどこかがあったかくなってくるような、そんな美少女。
っていうか、美少女であるかどうかなんてどうでもいい。俺にとって長門は長門であり、
それ以上でもそれ以下でもそれ以外でもない。世間の連中がAマイナスだのどうだの
言っているのは俺にとってどういう意味も持たない。いまここに眠っている女の子が、
とても大事で、大切にしたいというそれだけだ。
そんなことを思いながら長門の寝顔を見つめているとひく、っとまぶたが動いた。
薄い皮膜の下から漆黒の瞳が俺を見つめてくる。
なあ、こんなときに言う言葉は一つだけだろう?
え? キザだって? 構うもんか。俺がそう言いたいんだからな。誰にも文句は言わせないぞ。
柔らかな表情で目覚めたばかりの、自分の胸の中にいる子猫みたいな女の子に俺はそっと囁いた。
「メリークリスマス、長門」