鼻先3センチも見えないような豪雪の中、私達は目的地であるロッジまで下山を試みていた。  
 解析不能。先ほど彼に発した言葉を頭の中で思案する。  
 情報思念体との更新を先ほどから試みているのだが、微妙なノイズによってうまくいかない。  
 彼の期待にそえていない。自分が歯がゆい。  
 彼の心情を確認しようと彼の顔に目線を向けたその時  
 
「あっ!」  
 
 涼宮ハルヒが声をあげた。  
 指先の座標を確認する。建物の光を確認。情報思念体から建物の情報の取得を試みる。エラー。  
 私はどうしてしまったのだろう。過去にこのような例はなかった。体の中にもやもやとしたエラー  
 が生じる。  
 
 涼宮ハルヒが有無を言わさず歩き進んでいく。  
 
「・・・」  
 
 この状況は危険。私の中でそう答えがはじき出される。体の奥のエラーが増大していく。  
 彼に私の意見を伝えようとした時、彼の手がわたしの背中を優しく押す。  
 振り返ると『やれやれ』とした彼の微笑が網膜へと映し出される。  
 ウェア越しに伝わる彼の感触。  
 理解不能。体温が伝わるわけないのに。ましてやこの吹雪の中なのに。温かい…気がする。  
 
「長門。」  
 建物へ向かう途中、彼が私に話し掛ける。  
「不安なのは分かる。だがここでじっとしててもそれはただの自虐行為でしかないぞ。」  
「・・・」  
「何、心配するな。もし機関の陰謀だとか異世界人の介入があろうが何とかなるさ。」  
 わたしは吹雪の中かろうじて見え隠れする彼の瞳をみつめる。  
「ああ、勘違いするなよ。俺は別にお前に問題を全て丸投げにして解決して貰おうだなんて無責任  
 な事は言わんぞ。」  
 彼は少し照れたように続ける。  
「お前の周りには癒しと先物取引に長けてる未来人と、もはや何でもありなスーパーマンもいる。  
 あー、あと光る球に変身するスマイル変質者もな。俺は情けないが無力な一般人だが…なに、こいつらを  
 動かすきっかけくらいなら作ってやるさ。」  
 吹雪の音に所々かき消されながらわたしは彼の声を懸命に拾う。  
「だから一人で抱え込むな。悩んでるならもっと周りを頼れ。」  
「・・・」  
 わたしは首を数ミリ動かして自分の意思表示を彼に見せる。彼は安心したように口元を緩めた。  
 
「こらーー有希!馬鹿キョン!!!何してんのよ!おいていくわよ!!それとも何?あんた達は私達と  
 はぐれて翌朝新聞一面トップを飾りたいの!!??馬鹿キョンのアホ顔が全国に晒されるなんて日本  
 国民の目覚めが悪くなること間違いなしね!!!」  
 
 彼はわかったわかったと言いながら涼宮ハルヒの方へ向かって歩いていく。分かる。理解している。  
 彼と涼宮ハルヒは表面上ではお互いをさげずむような事を言いながら心の中では通じ合っている。  
 私と彼はどうだろうか?私は彼に迷惑をかけてばかり。彼の心の中では私にうんざりしているのかも  
 しれない。私の奥でまたエラーが生まれる。不安、彼は不安と言った。そう、これは不安。  
 彼に触れられた時不安が和らぐのを感じた。  
 
 ――――もっと触れられていたい。  
 
 建物の前に私達は並ぶ。体が重い。心も…。  
 

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