「谷口はどこに行った?」
今思い出しても腹が立つぜ。考えてみりゃ、俺ノーギャラなんだぜ。せっかくの休日朝っぱらから出向いたってのにだ。何なんだ、あの映画とやらのロケは。ろくに台詞もない脇役、池に落ちるし、
全身ずぶ濡れの俺をほっぽっといて、涼宮とキョン達は別の撮影場所へ行っちまう。ああ腹立つ、せっかく出かける予定を取りやめてまで行ったってのによお・・・。
「おおっ、そこを歩くのはキョンくんの友達の谷口くんかいっ?」
「つ、鶴屋さんっ?(キタッ!)」
「どうしたんだい?花火がしけってることに気付かないまま火を点けようとしている人みたいな顔しちゃって。」
「(鶴屋さんに名前覚えてもらえた・・・)実はかくかくしかじか・・・」
「ふーん、なるほどっ。確かにあの時は少しおイタが過ぎたかもだねっ。ごめんよっ。」
「いえいえっ、鶴屋さんは悪くないんです。悪いのは涼宮なんです。でもあいつ気が強いし、せめて鎧でもあれば勝てるんですけどね。」
しばし考え込む鶴屋さん
「よし!谷口くんの為に、一肌脱ぐっさ!ちょっと待ってね・・・」
「鶴屋さん?鞄から何を?」
「・・・じゃん!鶴屋家に代々伝わる『ウルトラ・スペシャル・マイティ・ストロング・スーパーよろい』だっ!」
「・・・・・・」
「どうしたんだいっ?」
「ウルトラ・・・って、どこに・・・。何にも・・・。」
「あっそだ!断っておくけど、これは馬鹿には見えないのさっ。それに馬鹿な人だと、これを着ても役に立たないんだっ。」
「へ??」
「・・・た、谷口くんっ?まさかキミぃ、これが見えないくらい馬鹿ってことないよね?」
「へ??見えます、見えますとも!!」
「さあ、着てみよー!」
「いやあ、立派な鎧ですねえ。」
「気に入ってくれて嬉しいっさ!」
「よしゃ!鶴屋さんの鎧を着たことだし、涼宮の奴をぎゃふんと言わせてやりますよ!」
「・・・ぷぷっ、ぷあーっはっはっはっ!谷口くん、最高のノリだよおっ!でもそろそろツッコミを入れてくれないとあたしもちょっと・・・ってあれ、谷口くんっ?どこ行ったのさっ?まさか
ハルにゃんとこっ?おーい谷口くーんっ、『裸の王様』の話を知らないのかーいっ!」
鶴屋さん、谷口を追いかける
再び谷口
「うーん、本当に着てるんだろうかこれ。なんか実感湧かないぜ・・・おっ国木田だ。あいつに訊いてみよう。」
「やあ谷口。何してんの?」
「国木田。この鎧見えるか?」
「鎧?うん見えるよ。それがどうかしたの?」
「ひゃっほー!本当だった!」
「あっ谷口・・・。何だったんだ?」
「よう国木田。今の谷口だよな。どうかしたのか?」
「あっキョン。いや谷口がさ、鎧見えるかって。」
「よろい?」
「ほらあれだよ。」
「ああ、校長が自分のコレクションを展示してるやつか。豊臣秀吉が着ていた鎧だとか自慢してたが、絶対まがい物だろうさ。」
「キョンくーんっ!」
「あれ、鶴屋さん。」
「谷口くん見なかったかいっ?」
「谷口なら、たった今走り去りましたよ。」
「ああんっ、一足遅かったかっ!」
「谷口がどうかしたんですか?」
「実はかくかくしかじか・・・」
「やれやれ・・・。谷口らしいというか、なんと言うか・・・。」
「いやーっあたしもさっ、ツッコミを待っていたんだけど、本当に信じるとは思わなくてねっ。」
「そんな芸人泣かせの反応するのは谷口だけです。鶴屋さん、俺も一緒に捜しますよ。国木田もいいだろ?」
「うん、構わないよ。」
「わおっ、ありがとう二人ともっ!」
鶴屋さん・キョン・国木田、谷口を追いかける
再び谷口
「待てよ。ということは俺、馬鹿だということか。ま、元々利口だとは思ってないからそれはいいんだが、鎧が役に立たないほどの馬鹿だったら困るぞ、おい。」
「げ、谷口。」
「おお、そこを歩くのは高遠と由良。ちょうどいい、高遠、お前に頼みがあるんだ。」
「何よ。あんた、高校生になっても私をナンパする気?」
「えっ高ちゃん谷口君にナンパされたことあるの?」
「中学の頃の話よ。入学早々だったわ。あいつのナンパ癖は昔からよ。・・・どうしたの由良?」
「・・・あたしされてない。」
「あのねえ、谷口なんかにナンパされても自慢にも何にもならないわよ。」
「けど、高ちゃんがナンパされてあたしがされてないなんて何かムカつく。」
「・・・何でよ。」
「・・・おいお前ら。俺の話を聞いているのか?」
「ああもう!だから何?」
「お前の持っているそのバットで俺の頭を思いっきり殴ってくれ。」
「何言ってんの?」
「いいから殴れ!さあ!」
「よけいアホになっても知らないわよ!」
「こい!」
「えい!」
「・・・うはっ、何ともない!たんこぶどころか、傷さえ付いてない!」
「あっちょっと谷口?」
「・・・高ちゃん、バットへしゃげてるよ。」
「ビニール製だもの。当たり前よ。」
「高遠さん、由良さん。」
「あっ国木田くん。」
「谷口見なかったかな?」
「谷口ならたった今宝くじが当たったような顔して走ってったわよ。」
「ねえねえキョンくんっ。」
「何ですか?」
「キョンくんはハルにゃん以外の女の子とはあまり話さないのかいっ?」
「うぐ・・・痛いとこ突いてきますね。ハルヒの相手ばかりしていたら、俺までその一味と思われるようになってますからね。」
「あははっ、ハルにゃん独占欲が強いなあっ!」
「はてさて・・・何のことやら。」
「キョン、何してんの?谷口こっちに行ったみたいだよ。」
「そうか、よし!」
「・・・あれ、高遠さんたち、何でついてくるの?」
「何となく!」
鶴屋さん・キョン・国木田・高遠・由良、谷口を追いかける
再び谷口
「おーい荒川。」
「何だ?アホの谷口。」
「お前、空手部だろ。ちょっと俺を空手の技で突いてみてくれよ。」
「何で?」
「何でもいいから頼む!」
「アホのやることは解らん・・・。一回だけだぞ。」
「よしこい!」
「せやっ!」
「うほっ、全然痛くねえ、完璧だ!よっしゃ、待ってろよ涼宮ぁ!!」
「お、おい谷口?・・・何なんだあいつ?素人相手に本気で突く訳ないだろ。」
「あそこにいるのは荒川か?」
「おおキョン。今谷口がー、」
「谷口がどうしたって?」
「いや『待ってろよ涼宮ぁ』とか叫んで旧館のほうに走ってったぞ。おまえんとこじゃないのか?」
「いかん、部室だ!」
「急ぐにょろよっ!」
「お、おい!」
「・・・あれ荒川。何でついてくるんだい?」
「何となくだ。」
鶴屋さん・キョン・国木田・高遠・由良・荒川、谷口を追いかける
文芸部部室(再び谷口)
コンコン
「キョンくんっノックしてる暇はないっさ!」
「す、すいません習慣で」
「谷口、無事かっ?!」
「・・・あらキョン遅かったわね。って鶴屋さんに・・・ずいぶん大勢ねえ?」
「んなことより谷口は?」
「谷口?そこよ。」
「谷口ぃぃぃ。」
「遅かったか・・・。」
「無残だわ。」
「ボロ雑巾ね。」
「合掌・・・。」
「いきなり来てこのあたしにこないだの映画のギャラよこせなんて言い出すから懲らしめてやったわ。」
「・・・」
「つ、鶴屋しゃああん・・・。」
「あー、そのー、谷口くんっ?」
「すみまひぇぇん。鶴屋家の鎧でも、涼宮に勝てましぇんでしたぁ。」
「よろい?」
「ま、まあいいっさ!気にしない気にしない!谷口くんよくがんばったにょろよっ。」
「うう・・・ありがとうございます・・・。」
「鶴屋さん、ネタばらししないんですか?」
「キョンくん・・・昔の人はこう言ったさ。『イカサマはバレなきゃイカサマじゃない』って。」
「つ、鶴屋さん・・・」
「??ねえキョン、それっていったい何の話なの?」
「谷口ががんばったって話だよ。」
「てめえキョン。そんな簡単な一言で片付けんじゃねえ。・・・いてて。」
終わり