昼休み。昼食の時間だ。
いつものように国木田、谷口の二人と共に弁当を食べようとしたわけなのだが。
「……キョン。それはなにか?新手の宗教かなにかなのか?」
何をバカな事を言うかねコイツは。
「じゃあなんで弁当箱を上下左右全方位から眺める必要がある?
いいかキョン。弁当箱ってのは蓋を開けて中身を食べる。
それこそが唯一無二の使用法だ。観察する必要性などない」
そんなこと分かってるよ。
「…あ、ひょっとして。箸が無いの?」
国木田、ビンゴだ。賞品は無いけどな。
「御愁傷様」
うるせー。くそっ、どうするかな。
「食堂行って割り箸貰ってくればいいんじゃない?」
なるほど。それにたまには食べる場所を変えるのもいいかもしれないな。
よし、食堂行こうぜ。
「やだね。今から行ったって席が無くってウロウロするのが目に見えてるからな」
「悪いね」
まあ友情なんてこんなもんだ。
仕方ない、一人で行くさ。
俺は弁当箱を持ち食堂へ行くことにした。
ついでに谷口の弁当からエビフライを素手で拝借。
「お、俺のメインディッシュがー!!」
谷口の絶叫が耳に心地いいぜ。
さて、予想通りに食堂の席はすでに埋まってしまっている。
いるのだが。
ぽっかり席が空いている場所があった。
その中心では見た目こそ悪くない……つーか実のところ超絶にいいのだが、その内面はイラクの情勢並に
不穏極まりない女がカツ丼をかきこんでいる。
つーかハルヒなんだけどな。
ため息をつきつつハルヒの正面に座ると、ハルヒの眉がぴくりと動いた。
「ここいいか?」
「珍しいじゃないの。あんたが食堂にくるなんて」
「箸を入れ忘れたらしくってな」
備え付けの箸入れから割り箸を取りつつ言ってやる。
「ふーん」
そう言ってハルヒは再びカツ丼をかきこみ始める。
まったく、よく食べるな。まあいつもアレだけエネルギーを使ってるんだ。
これぐらい食べて当然なのかもな。
「なに見てるのよ。私の顔になんかついてるの?」
ああ。ご飯粒がな。
「っ!」
ハルヒは顔を赤くして頬の辺りを拭う。
違う、逆だ。
「わかってるわよ!」
言うなり、俺の弁当箱から卵焼きを奪い去る。
ぬぅ。三切れしかない卵焼きを奪うとは。
どうせならこっちの獅子唐を奪ってはくれまいか。苦手なんだ。
「キョン、好き嫌いはダメよ」
わーってるよ。まったく。
……こら。だから卵焼きを食べるんじゃない。
後一つしか残ってないじゃないか。
「わかったわよ。ほら、カツあげる」
ふむ。それはなかなかの交換レートだ。
ついでに獅子唐も――
「好き嫌いしない!」
……はい。
まあそんなこんなで。
いつもと違う昼食時間ではあったが、まあ、悪くはない時間だったといっておこう。
翌日の昼休み。
「……」
「お前のおふくろさんも間抜けだなぁ。まさか二日連続とは」
ほざく谷口の弁当からミニハンバーグを奪い取る。
悲痛な叫びなんざ気にしないで食堂へと向かう。
しょうがないだろ? 箸がないんだから。
そして食堂では多分ハルヒはまた一人で食べていて、俺はその正面に座るだろうさ。
しょうがないだろ? 他に座る場所がないんだ。
そう、しょうがないことなんだよ。
朝、母親が確かに箸を包みに入れるところを見ていたとしても。
弁当の包みに妙な違和感を感じたとしても。
今箸はないんだ。
どっかで落としたか、あるいは誰かが隠したかなんて知りたくもないし、知るつもりもない。
食堂へ行きたいんだよ、俺は。
文句あるなら言ってくれ。
箸を隠した誰かさんにも一緒に、な。