「はい、みくるちゃん、これが耳ね。あとこれ!この首輪を付けるのよ!」  
「え?え?あの、ちょ…」  
「ほらほら、犬が二本足で立ってちゃダメじゃない!」  
「ええぇぇ〜!?涼宮さん、そ…」  
「みくるちゃん?あなたは犬なの、いい?犬が人間の言葉なんかしゃべっちゃダメ!犬らしく吼えるのよ」  
 なにをやってんだこいつは…。  
「さ、吼えなさい」  
「……わ、わん」  
「よくできたわみくるちゃん!あなた犬もすっごく似合うわよ!!」  
 ハルヒ、いくらなんでもやりすぎじゃないか、それは…。  
 しかし…四つんばいで犬耳と首輪を付けて犬の鳴きまねをしてる朝比奈さんの姿は、痛々しくも愛らしい。  
「ん〜、でもちょーっとあれね。やっぱ犬が服着てるのは似合わないわね!」  
 っておい!!!  
「待てハルヒ!レフェリーストップだ」  
「なによキョン。文句あるの?」  
 すぐ機嫌悪くしやがって、お前は子供か。  
「キョンくん…!?」  
 気がつけば俺の手には、朝比奈さんの首から外した首輪があった。  
 俺はハルヒに首輪をはめた。  
「……!!」  
 そんな目で見てもだめだ。ハルヒ、お前に必要なのは、しつけだ。  
「どうしたハルヒ、吼えないのか?」  
 ハルヒは口をぱくぱくさせて、何か言おうとしてはためらい、ついに。  
「………………わん」  
 めまいを感じる。  
 屈服するハルヒの姿は、実は俺が一番見たくなくて、同時に一番見たいと思っていた姿だったのだ。  
 
「おすわり!」  
 ハルヒはぺたん、とすわりこんだ。  
 命令をきいたのか、ただへたりこんだだけなのか。  
 おすわりの姿勢のままで、ハルヒは妙に熱のこもった視線をよこす。  
 震えているのも顔が赤いのも、屈辱と怒りのせいだろう。興奮とか恍惚とかなんて、ハルヒに限ってありえん。  
「お手」  
 ハルヒは一瞬ためらっただけで、たしっ、とお手をした。  
「よし、えらいぞハルヒ」  
「…わん」  
 朝比奈さんはこの異常事態にどうしていいかわからず、わたわたしている。  
 さっきまで俺とカードゲームをしていた古泉も、にやけ顔が凍りついたままだ。  
 普段どおりなのは、本を読んでる長門だけか。  
 長門はふいと顔を上げると、ぱたん、と本を閉じた。  
 その表紙には「沼正三 家畜人ヤプー」と書いてある。なにを読んでるんだこいつは。  
 …というか、俺は何をやってるんだ。  
 俺たちは顔を見合わせた。もちろんハルヒを含めてだ。  
 なにか救われたような気分になって、俺はハルヒの首輪をはずしてやる。  
「まったく、なにやらせんのよ」  
 ハルヒは顔を赤くしたまま立ち上がって足のほこりをはらう。  
「今日は解散!あたし先帰るわ」  
 俺たちも帰るか。  
 朝比奈さん、鍵閉めますよ。  
 
 翌日。  
 文芸部の部室は普段どおりだ。  
 団長どのも別に変わったところはなく、PCでネットサーフィン中。  
 俺は古泉とボードゲームをしている。ちなみに、モビルスーツが駒になったシミュレーションだ。  
 朝比奈さんはお茶をいれ、長門は読書。本の表紙は「団鬼六 花と蛇」だったが俺は見なかったことにする。  
 ハルヒの机の上には引き綱付の首輪が置かれていて、ハルヒがちらちら俺を見ている気配を感じるが、断固見ないふりをするぞ。  
 SOS団は今日も平和だ。  
 
 
 つづくのか…?  
 

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