その時、俺は土管の中に一人の小さな人影があるのを捉えた。  
 泣いてうずくまっている。真冬だってのに、上着すら着ていない。  
「どうしたんだ? 寒いだろ? そんな薄着でこんなとこに居たら風邪引くぞ」  
 少女は泣き止む様子を見せない。  
「ぐすっ……お家は……ぐすっ……寒いから……」  
 何だ? もしかして、貧乏で暖房器具も無くて上着すら買ってもらえないとか。  
 ……この時代に、なんて不憫な子なんだ。  
「ううん……全部屋暖房床でエアコンも完備……ぐすっ……暖かいけど……ぐすっ……温かくない」  
 アタタカイけどアタタカクナイ? はて、俺の耳が正常であれば、正しい日本語だとは判断しかねるが。  
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 その姿は、夏にアスファルトを焦がす太陽のように明るく、こぼれんばかりのエネルギーに満ち溢れていた。  
 なんて屈託の無い、向日葵のような笑顔なんだ。  
 ああ、そうか。  
 今まで見てきた泣いてばかりの姿は、この子の本当の姿じゃない。  
 この子は、明るく正義感溢れた、見る物すべてを元気付けるような笑顔が、本当の姿なんだ。  
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 ああ、そうか。そうだったのか。  
 ようやく、ここへ来た俺の本当の役割というものに気付いたよ。  
「待ってくれ。最後に一つ、キミに頼みたい事があるんだ」  
「え? うん、何?」  
 そう、おそらく、これを言う為に俺はここへ来たんだと思う。  
 今から放つのはそんな言葉。あの人の為に、そして何より、頼れる先輩であるこの少女の為に。  
「二年後、キミは高校に入学する。そこにきっと、とても可愛くてとても気弱な女の子がいると思うんだ。たぶん、  
その子はここへ来たばかりで右も左も解らないと思う。気弱なだけに、嫌な目に遭わされるかもしれない。だから、  
キミが守ってやって欲しいんだ。親友になってあげて欲しいんだ。どうだ? やってくれるか?」  
 少女は、その向日葵のような笑顔で、  
「もちろんさっ」  
「そうか、ありがとう。じゃあ、元気でな。お、そろそろ時間じゃないか?」  
「あ、そうだねっ。じゃあ行くね」  
 少女は俺に向かって、大きく手を振りながら走り去っていく。  
 俺は最後に大きく息を吸い込み、その背中に、  
「がんばれっ! 鶴屋家の将来はキミに懸かっているんだっ!」  
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「おんや? キョンくんじゃないかいっ」  
「あ、鶴屋さん。こんにちは」  
「どこへ行ってたんだいっ? なーんかキョンくん、ちょいと久し振りなんじゃないかい? いんや、あたしじゃ  
なくて、キョンくん的には、って話なんだけどさっ」  
「ななな……何がでしょうか?」  
「しっかし、今日のキョンくんの服、あたしの初恋の人がよっく着てた服に似てるねぃ」  
「そ、そそそうなんですか。はは……」  
「懐かしいねぇー。今その人には好きな娘がいてねぇ、しかも自分で好きだって事に気付いてないのさっ。面白い  
っしょっ。あははははっ」  
 ……ほんとに、なんて恐ろしいお人だ。  
 
 

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