長門有希の金策  
 
SOS団発足から早くも一年が経とうとしていた。  
よくもこんな意味不明な集まりに毎度毎度参加するもんだ。一年前の俺が今の俺を見たら何て言うだろうね。  
しかし、この一年で俺は変わったと思う。  
もちろん俺だけじゃない。SOS団の団長様こと涼宮ハルヒも、いつまでも胡散臭い笑顔を絶やさない古泉一樹も、マスコットキャラ兼俺の精神清涼剤の朝比奈みくるさんも、  
そしてなにより一番変わったと思えるのが対有機生命体なんちゃらかんちゃらインターフェイスの長門だと俺は思っている。  
さて、今この部室には俺と長門の二人しかいない。  
ハルヒのやつは掃除当番だし、朝比奈さんはおそらく鶴屋さんあたりに捕まったりしたんだろう。  
もしくは教師に雑用を言いつけられてそれを律儀にこなしているに違いない。  
あの人は断るという事ができないからな。  
古泉のやつは……別に来なくても何ら問題はないね。  
 
そんな訳で部室に二人しかいないのだが、相変わらず長門は部屋の片隅で分厚いハードカバーの本を読み耽っている。そこで俺は、前から気になっていた事をほんの気まぐれで思い出したので聞くことにした。  
 
「なぁ、長門。お前生活費ってどうしてるんだ?ひょっとしてあれか、情報操作で手に入れたりしてるのか」  
本に落としていた視線をこちらに向ける長門。そしてわざわざ本を閉じて俺に向き合う。  
いや、別にちょっと気になっただけだから、そんなにかしこまられても困るんだが。  
「情報操作による貨幣の取得は、未来的にこの国の経済状況の悪化を促進させる可能性がある」  
じゃあどうしているんだ?と投げかける俺の視線を感じ取ったのか、長門は一息入れてから語り始めた。  
 
そして俺は、後にこの質問をしたことを酷く後悔することになる。  
 
「前にも話したように、私の仕事は涼宮ハルヒを観察して、入手した情報を統合思念体に報告すること。  
その仕事を最優先の命令として処理し実行する。それ以外の生活に関しては、この地球上において涼宮ハルヒの生活に影響が起こらない範囲ならばどのような手段を用いてもよいとされている。  
まず情報統合思念体より転送されたこの国で生活するための情報を頼りに、これからの生活方針を定めた。  
非常に不安定なこの国の経済状況で、個人の生活の為に情報操作で貨幣を手に入れるのは得策ではないと判断した。  
 
情報統合思念体によって作られたこの肉体では、通常生活を行う為に必要な費用を稼ぎ出す仕事に就くことは出来ないと判断、しかししばらく経ってこの肉体でも出来る仕事を見つけた。  
いわゆる援助交際という仕事。  
 
生み出されてから今日までの千四百日間、その間に行った仕事回数は四百八十二回、四百八十二回中、同一人物との仕事が八十六回、  
複数人数との仕事回数が二百九十三回、もっとも長く拘束された期間が三週間、逆にもっとも短かったのは二分。  
人数の合計が六百五十三人、七百五十三人中七百十二人が十代後半から七十代までの男性、残りが女性。  
最高年齢が七十二歳で最低年齢が十六歳。金額は人数平均で四万三千九百八十八円。  
場所は都会と呼ばれる駅周辺。夕方五時から深夜一時にかけて駅周辺に立っていれば声を掛けられる確立が高い」  
 
俺は何も言わない。  
 
「声をかけてくる内容で一番多かったのが、家出?という物。寝床を提供するという名目で金額を示してきた。  
一番最初に行った仕事は三十八歳の男性にカラオケボックスに連れて行かれた。  
そのままカラオケボックス内で性行為に及んだが、私の反応が、いわゆるマグロだったため、得た収入は一万円だった。  
その一万円を元に、さまざまな風俗雑誌を手に入れて情報を得た。  
年齢が低ければ低いほど高額な収入を得られること。  
外見上から中学生という設定にしようとしたが、着ている制服が北高の物だったため、女子高生という設定にした。  
未だ性行為に及んでいない処女が高い価値があること。  
人間の体の仕組みを調べ、毎回処女膜を再生させていたが、重複した人物との行為の際にも再生させてしまった為二度目の行為の時に血液が男性器に付着した際にその男性は  
「俺のチンポがでか過ぎたか」  
と言っていが、経験した男性器の平均サイズは勃起時で長さ14.63cm、直径が3.31cm。最大サイズが長さ24.89cm、直径5.12cm。最小が長さ4.58cm、直径1.72cm。  
ちなみにその男性のサイズは平均サイズよりも少し小さい物だった。  
半月後には合計四十六人を相手し、それで得た収入を手付金として今のマンションを購入した」  
 
俺は何も言わない。  
 
「四年間で人によりさまざまな嗜好があることを把握した。印象に残った例をあげる。  
 
二十九歳男性。  
彼は私にボンテージと呼ばれる衣装を着せた。黒い皮製の衣装で、露出度が高い物だった。  
体勢は、右手首を右足首に、左手首を左足首に、足を開かせ太ももの間を通して固定するという物だったため、足を閉じることができずに腰を突き上げた形のままうつぶせでベッドに放置された。  
手ぬぐいで目隠しをされ、口にはボールギャグをはめ込まれたが、他の仕事のときのように声を上げなくて済んだので楽だった。  
結局19分32秒間その姿勢を強いられることになった。  
その後戻ってきた彼は、私の装着しているボールギャグのみを外し、性行為を始めた。  
部屋に入ってきた人物が彼だと私には分かるが、彼の望んでいた言葉を推定すると、私が誰に犯されているのかわからない状況。という『不確定な状況に恐怖する私』を望んでいると判断したので、「誰?」などと言い彼の望む通りに演技を続けた。  
 
三十六歳男性。  
彼は私に、全裸にオムツと涎掛けのみの格好をさせた。彼が私に話しかける言葉は赤ちゃん言葉と呼ばれる物で、食事と排泄の世話も全て彼に一任した。  
まずは食事。哺乳瓶に入れられたミルクを与えられた。  
つぎに排泄。彼が望んでいるようなので、オムツの中に排泄した。  
大量の小便と大便をオムツにしたら、予想以上に処理の手間がかかったらしく  
「こんなにいっぱいうんちして、ゆきちゃんはいけない子でしゅね」と言いながらお仕置きという名目で性行為をされた。  
 
四十三歳男性。  
自称、医者と名乗る彼は、まずは私を全裸でベッドに拘束した。  
ばんざいの格好で手を縛られ、両足を持ち上げられ、組み体操でいう笹舟の格好に近い形に縛り付け、漏斗と呼ばれる物を私の性器に挿入した。  
次に300mlサイズのペットボトルに入った精液をその漏斗に注いだ。漏斗を通じて、直接子宮に精液が注ぎこまれる。  
彼は、昨日の昼から集め始めた精液で、まだ受精能力はある精液だと言っていた。  
私には繁殖能力はないが、彼は妊娠に怯える言葉を期待しているのだと判断して、それに適した言葉をいくつか言った」  
俺は何も言わない  
 
「その他には、  
木馬責め、張形責め  
蝋燭プレイ、野外プレイ  
露出プレイ、緊縛プレイ  
痴漢プレイ、精飲プレイ  
スカトロプレイ、レズプレイ  
コスチュームプレイ、オークションプレイ  
ポゼッションプレイ、鞭打ち  
複数人の前で自慰ショーなどを行った」  
 
俺は、………俺は。  
 
「聞かせてくれ、長門。今もお前はその仕事を続けているのか」  
「この国で生きていくにはお金が必要」  
 
「何故、そこまで俺に話したんだ」  
「あなたが聞きたそうにしていたから」  
 
「一般的に、忌み嫌われるその性行為に対する嫌悪感はなかったのか」  
「有機生命体の感情は私には理解できない」  
 
「じゃあ何故、――――何故お前は泣いているっ!」  
 
いつの間にか頬に流れ出ていた涙を指に掬い、長門は何も言わなかった。  
 
 

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