元やまたのおろちの美少女が作り出した即席空中修羅場もみくるタウンに着いた
頃にはなんとか収束し、俺は互いに牽制し合う三人の姿を見ながら最近は少し乱
れ過ぎたんじゃないかと反省しているのだが、そもそも皆が俺のエロ体質をうま
く利用して襲い掛かってくるので避けようがなく、俺をこんな難儀な身体に改変
した統合思念体に愚痴の一つでも言ってやりたい気分だ。
「見ないうちに大分様変わりしたわね。みくるちゃんは何処にいるのかしら?」
そんな俺の憂欝もつゆ知らず、ハルヒは段々町らしくなってきたみくるタウ
ンをすたこら歩き、長門はジパングから持ってきた巻き物を歩き読みし、朝倉は
ニコニコ顔で俺の腕を抱きながら歩いている。
「どうしたのキョン君?難しい顔して」
「いや、何でもねえよ」
朝倉が俺のことを好きだというのは昨日こいつを抱いていてよく分かった。だか
ら俺はそんな朝倉を性欲に任せて犯したことを改めて申し訳なく思っていた。
これが俺の憂欝の正体だ。朝倉……今までは恐怖の対象でしかなかったのに、
急に可愛くなりやがって。
「今日も、いっぱいいいことしましょうね」
「うぐっ!?」
陰茎を掴まれるような感覚……サイコキネシスか。
「それまで、これで我慢してね」
朝倉には気を付けよう。このままだと調教されかねん。……うっ、気持ちい……
「あはは、イっちゃっていいよ。ほら、おっぱい柔らかい?」
朝倉は皆に気付かれないように俺の掌を柔らかい膨らみに導いた。
うぅ、柔らか、気持ちいい……
「たぶんみくるちゃんはここで働いているのね。ほらキョン、いつまでも変な顔
してないで行くわよ!」
絶頂に達する寸前にハルヒの怒声に我に返ると、そこは『メイド喫茶みくる』
と看板の付けられた建物の前だった。朝比奈さんはここで働いているのだろう。
*
店の中はまだ真新しく、所々にある装飾の数々がほんわかとした可愛らしさを演出している。
まだ開店直後なのか、数人のメイドさんが皆して出迎えてくれた。
「はぁい、いらっしゃいませー」
そしてその中から聞こえてくる天使の声。このお店のユニフォームであるエプロ
ンドレスとレースのカチューシャを身にまとった俺だけのエンジェルが、柔らか
な笑顔とともによちよちとやってきた。うん、今日も可愛い。
「涼宮さんたちの帰りをずっと待ってたんですよー
……ってあれ?新しい仲間ですか?」
「喜びなさいみくるちゃん。新しい住民よ!外国好きな娘でね、ジパングからこっちに
移民したいって言うから連れてきたの」
ハルヒは朝倉の移民に至るそれっぽい理由をでっちあげた。本当の理由はとても言えないし、
わざわざ言うこともないと判断したのだろう。こいつにしては賢明な判断だ。
「わぁ、よろしくお願いします。町長の朝比奈みくるです」
「あなたがこの町を治めているのね。よろしく」
朝倉は朝比奈さんの異世界同位体に驚いたようだったが、
すぐに表情を元に戻して握手をした。
「おーいっ!ハルにゃんたちお帰りっ。これからの予定を決めたいから、
ハルにゃんが仕切っておくれっ!」
鶴屋さん達は隅っこのテーブル席に集まっていて、そこから手を振っていた。
他には古泉と谷口、国木田がいる。メイドさんたちがいそいそと働くほんわかした雰囲気の中、
フリフリのテーブルクロスのついた可愛らしい席に着き、
俺たちは今後の方針会議を始めた。
*
鶴屋さんは俺たちがジパングでドンパチやっている間にサマンオサ国の密使から
『偽王を暗殺してほしい』
という手紙を貰ったので、古泉、谷口、国木田を引っ連れて
サマンオサで調査をしていたそうだ。勇者一行は気ままに旅するわけにはいかないんだな。
「……偽の王様は確実にモンスターだな。城中が魔物の匂いで満たされてたぜ。
何でみんな気付かねえんだ?」
「モンスターの微妙な匂いなんて魔物使いにしか分からないでしょ」
そんな谷口と国木田の漫才に、古泉が割って入った。
「そしてこれが偽王の化けの皮を剥がすための道具です」
古泉が出してきたのは一つの鏡だった。俺が話に入れずに頭にハテナマークを
二、三個浮かべていると、朝比奈さんは鏡をひょいと持ち上げて普段は古泉
の役目である解説役を買って出た。
「これはサマンオサ王家に伝わる家宝『ラーの鏡』……本物ですね。
これに姿を写すと写したものの真の姿が見えると言われています。
装飾の素晴らしさから偽物も多く出回っていて……
うちのお手洗いにある鏡もラーの鏡のイミテーションなんですよ」
朝比奈さんは鏡を手にとって「ほへー」とか言いながら色々な角度から眺めて
うっとりしている。指紋を付けないための手袋はいつも持ち歩いてるんですか?
「それじゃ後は偽の王さまをやっつけるだけでいいのね?分かりやすくて非常に良いわ」
ハルヒは瞳に一等星をちりばめてすっかりご機嫌さんだ。サマンオサ行きは一人決定だな。
残り組はどうする。
「もう一つのチームにはオーブ探しを続行してもらうわ」
俺たちが探すのはあと一つだな。長門、最後のオーブはどこにある?。
「シルバーオーブはネクロゴンドの洞窟を抜けたほこらにある。
バラモス城の付近にあるので魔物も強力になっている。気を付けて」
と、もう一組の行動指針もあっさりと決定し、ハルヒはチーム分けの
あみだくじを作り始めた。こいつわざとやってるんだろうか?
「どんな編成だろうとあたしたちが負けるわけないじゃない!
文句ならラーミアを復活させた後に聞いてあげるわ」
信頼してるのはわかったから出鱈目は止せ。敵が強くなってるって聞いたろ今さっき。
「まぁまぁキョンくん、編成はあたしとハルにゃんで決めるっさ。
ちょろんと待ってておくれっ」
鶴屋さんはハルヒの隣に席を移して話し合いを始めた。
どうやら会議は終わったようだ。伸びをしながらさぁ谷口とダベろうかとか考えていたら、
「あの、キョンくん、ちょっとその剣見せてもらっていいですか?」
朝比奈さんが心配そうな表情をして話しかけてきたので言う通りに宝剣“草薙”を渡すと、
「ありがとう、わぁ、これ凄い精巧に造られてる……
剣の形からしてジパング製の、恐らく女性用に造られた刀ですね……」
朝比奈さんは剣を細部まで鑑定し始め、
暫らくすると三点リーダーを4つ位出したまま固まってしまった。
どうしたんですか?
「キョンくん、残念だけどこの剣はもう使わないほうがいいです。
……呪われています」
呪われている?どういうことですか?
「市販のドラゴンキラーは、魔法使いの人が竜鱗破壊の呪文を武器に
刻み込んで造るんだけど、この剣はもっと違う製法で作られています」
その製法とは?
「丑の刻参りって知ってますか?そんな感じで竜への呪いを剣に込めるんです。限られた
優秀な職人にしかできないんですけど、まだこの製法が残っていたなんて……」
朝比奈さんは剣を眺めてうっとりしている。
……う〜ん、早くこっちの世界に帰って来ないかな。
「……あっ、すいません夢中になってしまって……えっと、
あまり長くこの剣を使っていると、製作者の呪いの影響を受けて精神を蝕まれ、
最終的には……頭がおかしくなります。法律で禁止されている製法で
記録もあまり残っていないんです。わたしも実物は初めて見ました。」
この剣はハルヒに贈るつもりで造り始めて、
ハルヒが殺された後に完成させたと言っいてたが……
俺Bは剣にそんなもんを込めてたのか。……いや、あいつも辛かったんだろう。
「もちろん切れ味だけでなく芸術品としても素晴らしい出来ですから
取っておくのは構いません。でももうこの剣は実戦では使わないでください。
同じ形状の片刃剣なら最近仕入れたはず」
朝比奈さんは、他のメイドさんに一言何かを言うと、
メイドさんはすたすたと裏口から出ていき、暫らくして一降りの刀を持ってきた。
「ジパングから取り寄せたんですよ。切れ味は保障します」
朝比奈さんが持ってきてくれたものは、
宝剣“草薙”のような綺麗な装飾の一切ない簡素な拵えで、
優美に反った刀身が芸術的なまでに美しい大太刀だった。
どっしりと重い分、草薙よりもパワー型の剣のようだ。大事に使わせてもらいます。
「うふ。それじゃ頑張ってくださいね」
朝比奈さんは愛らしい笑みを浮かべたあと、店が忙しくなったようで
ぱたぱたとお客さんの所へ行ってしまった。
*
「くそ、何だこのむさい顔ぶれは。俺も鶴屋さんとサマンオサに行きたかったぜ」
谷口はハルヒがジパングからかっぱらってきた座布団を枕にしてごろごろしている。
決まっちまったもんは仕方ないだろう。
「しかし何で鶴屋さんは俺と離れたんだ?絶対俺に気があると思ったのに……」
どうせ出会って30秒で意気投合したとかそんなんだろ。そりゃ勘違いだ。
「げっ、マジかよ。くそー、キョンはいいよな……。
涼宮と出来てんだっけ?性格は危ねーけど、そこに目をつぶればなぁ」
アホか。何も出来てねえ。……っと谷口、モンスターが出たみたいだ。
「あん?うちのピエールとホイミンに任せとけ」
俺、古泉、谷口、国木田はネクロゴンドの洞窟を目指して航海中。船旅を邪魔す
るモンスター達は谷口の仲魔に任せて船の中で優雅にだべっている。今まではど
こかに上陸する前にへばっているのが当たり前だったのだから、これは素晴らしい待遇改善だ。
外からサカナの断末魔やらスライムナイトの斬撃やら聞こえる
がもう知ったこっちゃねえや。
「そういえば、キョンはどうして呪いの剣なんて持ってたわけ?」
国木田は草薙の剣の塚を恐る恐る指で突いている。この剣、なぜか俺とハルヒにしか握れないらしい。
「僕も興味がありますね。どんな呪いがかかっているのか、是非聞かせてほしいところです」
古泉は座布団に座ってすっかり拝聴モードに入っている。
あれは確かに悲劇だったが今となってはただの惚気話だ。話したくねえ。
「恋の話ですか……。意外なところですね」
「話せよ、まだ時間は腐るほどあるんだ。」
このまま取り調べみたいな展開になることを予想した俺は仕方なく
俺BとハルヒBのことを伏せてジパングであったことを皆に話した。
「……なるほど。ではその剣は二人の『愛の思い出』というわけですね」
勝手に気持ちの悪い名前を付けるな。これは宝剣“草薙”だ。
「いい名前だと思ったのですが……どの道実戦で使うことができないなら、
その剣は今度ジパングのお二方に返しに行きましょう。オフの日を貰ってね」
ああ、今度俺一人で返しに行くとしよう。それより今はオーブ探しが先決だ。
「キョン、さっきからやけに恋人二人のことを隠してるけど、どうしたの?」
うっ。
「おいおい、俺たちにまだ隠してることが――あれ?外から人の声がするぞ?」
『もう!あんたさっきからベタベタしすぎよ!』
『良いじゃないか。俺たち夫婦なんだから』
嫌な予感がする。
「おい、外からキョンの声がするぞ?」と谷口。
『もう……すっかり甘えんぼになっちゃって』
『誰のせいだと思ってんだ。勝手に一人で死にやがって』
「もう一人は……涼宮さんだね」と国木田。
くそ、何でこんな大海原のど真ん中に。
『こら……やめなさい、よ……あんっ』
『ハルヒ……愛してるぞ』
危機を感じた俺は真っ先に船の室内から飛び出すと、傍迷惑な声のする
方角に向かって怒鳴り付けた。
「おい!頼むから人前でいちゃつくのはよせ!」
そこで俺が見た光景は、海のど真ん中でふよふよと浮いているハルヒBと、
それにしがみつく俺Bだった。
*
「へーっ、本当にキョンとそっくりだ」
国木田は船室に招き入れた俺Bに感嘆している。
谷口と古泉のニヤニヤ視線が痛い。何やってんだよこんな海のど真ん中で。
「不思議探索よ!ジパングの外には未知の生物や怪奇現象が
あるかも知れないじゃない!」
物理法則を無視してぷかぷか浮いてるお前が一番不思議だろうが。
「ふん、超能力なんて一発芸みたいなもんよ。耳をぴくぴくさせることが
出来る人っているでしょ?あれと一緒よ多分」
「はは、うまいな」
俺Bは所々に殴られた跡がある。今朝ハルヒBにやられたんだろう。
うまいなじゃねえ。お前もハルヒを穏やかな目で見つめてないで何か突っ込め。
「おい、そろそろネクロゴンドの山が見えるぞ」
谷口に言われて外を見てみると、遥か先に大陸への立ち入りを禁ずるように
大きな山がそびえていた。思ったよりでかい。
俺はワンダーフォーゲルとは縁のない山初心者だがいいのか?
「登山中にモンスターが出てきたら非常にまずいですね」
古泉の言う通り、問題は登山だけじゃない。山越えは思ったより辛いかもな。
「ならあたしに任せなさい。道ぐらい作ってあげるわ」
おお、サイコキネシスで飛ばしてくれるのか。
「嫌よそんなの。MPも足りないし……その剣を使わせてもらうわ」
ハルヒは“草薙”を指差している。もともと返す予定だったので、
俺は道を開けてくれるならと快くそれを渡した。
「よし、じゃ早速道を開けに行くわよ」
ハルヒは草薙の剣を手に外に出ていった。まだ山は
遠ーくにしか見えないのだが。
*
「……本当にいいのね?」
ハルヒBは俺Bに確認を取るように尋ねた。
「ああ。元々そのために造った剣だからな。せいぜい派手にやってくれ」
そう言って優しく微笑む俺Bに、ハルヒBは笑顔で頷くと
ネクロゴンドの山を見上げて語りだした。
「これからやる技は『大蛇薙』つまりおろちを倒すために作った技よ。
まさかおろちが涼子だとは知らなかったから使わなくて大正解だったけどね。
この剣は元々あたし専用のものだったから、リミッターも
あたしにしか外せないように出来てるの。
この剣がどんなバケモノなのか、あんたたちにも見せてあげるわ」
ハルヒは船からふわっと浮かんで少し前に出ると、浮かんだ状態で呪文の詠唱を始めた。
スペルが紡がれる毎に剣は緑色の刀身をさらに輝かせ、
仕舞いにはバチバチとショートする音がしてくる。
詠唱を終えたハルヒは輝く剣をまさかりみたいに担ぐと、
「――っだあっ!」
思いっきり振り下ろした。「な、何だ!?」
刹那、ハルヒが剣を振った方向に海が割れ、その斬撃は
ネクロゴンドの大陸まで続いて……
次の瞬間どごっ、という鈍い音がしたかと思うと、遠くのネクロゴンド山が
パカッと縦に割れ、崩れてしっちゃかめっちゃかになっていた。
もうデタラメだ。
「ハルヒが“草薙”に込めた仕掛け、ファイナルストライクさ」
俺Bの説明も耳に入らないほど俺たちは唖然としていた。
なるほど、ビックリ機能……満載ね。
「代償として、剣一本消費しちゃうんだけどね……」
宝剣“草薙”は既に光の粉となって原型を留めていない。
ハルヒは船に戻ってきて、さっきまで激戦を繰り広げていたピエールの上にぺたんと座った。
上にいたナイトはどこに行ったんだろう。
「また作ればいいさ。今度は呪いなんかかかってないやつをな」
俺Bは中空を見てぽーっとしているハルヒBの背中をぎゅっと抱き締めた。
谷口、俺の方を見るのはよせ。
「もう、みんなの前でやめてよ……」
「いいじゃないか。見せ付けてやろうぜ」
「もう……ばか」
だから見せ付けるなっつーの。
谷口と国木田と古泉のニヤニヤ視線が痛い。やめろ、なぜ俺を見る。
*
あれから数時間奴らのいちゃいちゃを見せ付けられて鬱度合いが臨界点に達した
辺りでネクロゴンド大陸に上陸し、今度は谷口たちのニヤニヤ視線に耐えながら
ネクロゴンドの洞窟へ入った。みくるタウンから出る前に
朝倉からレミーラをかけてもらったから洞窟内が明るい。
「こっからは魔物のレベルがかなり高い。気ぃ引き締めていくぞ」
谷口もみくるタウン周辺で拾ったはぐれメタルのはぐりんを出して本気モードだ。
「では僕は先回りしますね」
古泉は先頭を歩いてトラップやお宝チェック。意外に落し穴や自然トラップが
多いのに驚きだ。現実世界でもこいつは縁の下で頑張る奴だったな。
こいつがいなかったら今頃この洞窟だけで三回くらいは死んでいる気がする。
俺たちはかなりレベルの高い敵をさらに高いレベルで粉砕しつつ進んだ。
朝比奈さんから貰った新武器は強いし、はぐりんは剣や魔法シールドに
形状を変えたり、自ら魔法攻撃も行使できる万能選手だ。万一深手を受けても
僧侶国木田のベホマがある。うん、俺たちに死角はないね。
ハルヒのあみだくじに任せていたらどうなっていたことやら。
「おや?」
探索を続けていた古泉が立ち止まった。新トラップか?
「岩で道がふさがれています。出口に繋がる道ではなさそうですが……
お宝の匂いがします」
入るには岩を破壊する必要があるな。爆弾とか持ってないのか?
「残念ながら炸裂するものは閃光弾と煙玉しかありません」
ひょいと肩をすくめる古泉。まぁ諦めるとするか。
「ん、どうした?……いい考えがあるって?」
はぐりんが谷口と何やら話している。お前らコミュニケーションできるのか。
「いや、こいつの目を見ると何となくわかるんだよ。」
谷口の胡散臭いカミングアウトを聞き流している間に、
はぐりんは件の岩にべちゃっと張りついて詠唱を始めた。
「…………メ・ガ・ン・t「よせっ!」
……何か物凄く嫌な予感がしたのでつい声を張り上げてしまったが、
どうやら正しい判断だったらしい。
国木田にはどういうことか分かっていたようで、顔色が悪くなっていた。
「危なかったね。メガンテが発動したらこのフロアごと吹き飛ぶところだったよ」
はぐりん、なんてヤツだ。
「え?今のはジョークだって?はっはっは、こいつめ」
洞窟を吹き飛ばすことのどこがジョークだ。笑えねえ。
「次は本気でやるとよ。俺たちには離れて見ててほしいそうだ。」
次はメガンテじゃないだろうな?一抹の不安を感じながら、俺は物陰に隠れた。
*
はぐりんの作戦は大成功だった。まずはぐりん単体でぶらぶらと待機し、経験値目当ての
モンスターが襲ってきたらそいつにマヌーサをかけ、そいつらに幻を見せて岩を
破壊させるというものだ。岩が壊れた後に残った奴らは全員イオナズンで消し飛んでいる。
抜け目が無い。俺や谷口よりも頭はいいのかも知れない。
「すげえ!宝物庫じゃねえか!」
という谷口の叫び通り、隠し扉のむこうは宝箱がずらりとあった。しかし、
「なにがでるかな、なにがでるかな」
とはしゃいでいた谷口は、
「ぐああああっ!」
宝箱を開けた瞬間ミミックの餌になってしまった。アホだ。
「即死魔法に気を付けて!」
国木田が詠唱を始める。即死魔法使いなら、早めにカタをつけないとな。
まずは踏み込んで――横凪ぎ!
大太刀は宝箱の側面にぶち当たって、ミミックはごろごろ転がっていった。
中から谷口の悲鳴が聞こえる。お前はそこで反省してろ
「マホトーン!」
国木田の呪文封じは……
「メラミ!」
どうやら効かなかったようだ。古泉に飛んできた炎弾を代わりに盾で受ける。
「ありがとうございます。出来れば、斬撃でミミックのフタを開てみてくれませんか?」
「ああ」
軽く返答してミミックに踏み込む。上蓋に向かって
跳ね上げるように切り上げると、
「――っは!」
古泉は一瞬で谷口をミミックの口から取り出した。
すかさず国木田が回復呪文をかける。
「ふぅ〜、危なかったぜ。サンキュー古泉」
よし、反撃開――
「待てキョン!そいつに敵意は無え」
食われた張本人が何言ってんだ?
「こんな宝物庫に閉じ込められたせいで暇だったんだとよ。
俺たちが攻撃しなきゃもう襲ってこねえ。むしろこいつ歩く道具箱として使えるぜ」
谷口はミミックにつかつか歩み寄って目で会話を始めた。
「あれは説得だよ。仲魔にするときはいつもあんな感じ。
そのあいだ他の箱も開けちゃおう」
と国木田は言うので、今度ははぐりんのインパスを駆使して慎重にいった。
中身は大金、刃物のついた鎧、からっぽ、そして……
「ピアスだ。凄い綺麗だね。誰か付ける?」
呪いの心配もあるしな。帰ったら朝比奈さんに見てもらおう。
「それが賢明ですね。鑑定が済んだら涼宮さんにでもどうですか?」
くっくっくと笑う古泉。何だ?殴ってほしいのか?
お宝はミミックに詰め込んで洞窟の本ルートを進む。どうやら宝物庫はゴール近くだったようだ。
洞窟を抜けると川を隔てて魔王の城がそびえていた。周りのモンスターも多く、
なるほど橋を架ける余裕もなさそうだ。空からアクセスすべきだな。
近くにあったほこらのおっさんからシルバーオーブを貰って、無事帰還。
「いやー、はぐりんがいて助かったぜ。まさかルーラまで使えるなんて」
ここでもはぐりんは有能ぶりを見せ付け、俺たちを船を置いた場所まで飛ばしてくれている。
俺たちがわざわざ出向かなくても草薙と古泉と谷口がいればよかったよな。
「そうだね。回復役なんかホイミンに丸投げしてみくるタウンの教会で
説教でもしてればよかった」
「いえいえ、皆さんの活躍がなければネクロゴンドは抜けられませんでしたよ。」
船まで到着。これからみくるタウンまで、また船旅だ。
「帰りもピエールとホイミンに戦闘を任せられるから、
僕らはまた船室でまったりだね」
そうだ、帰りはまた優雅にだべりながら帰れるぞ。窓から見える景色は
少々スプラッタだが仕方ない。
なんて期待しながらドアを開け――
『あっ、ああ、あ、あっ、あぁ!あぁあ!ああ――――!!』
『あぁっ!ハルヒ!ハルヒー!!』
ようとしてやめた。
「船室では……お楽しみのようですね」
小泉の笑顔が引きつっている。
「うーん、折角五年越しに結ばれてるみたいだし……」
「そっとしといてやろうぜ?なぁ、キョン?」
谷口が俺の肩にぽんと手を置き、俺は諦めたようにうなだれた。
*
『あれ?何時の間に船が動いてる』
『……あぁ』
『うわ、魔物が出てきた』
『……』
『そんなきつく抱き締めなくても、もう消えたりしないから大丈夫よ』
『……解ってるさ』
『あんたそんなキャラだったっけ?いつもの仏頂面はどこ行ったのよ』
『もうすぐ帰ってくるんじゃねえか?』
『帰ってくるならまぁいいわ』
『……そろそろここから出たほうがよさそうだな。いつまでも居座るわけにもいかないし』
『そうね。キョンがいっぱい突いてきたからもう疲れちゃったわ』
『ばっ、そんな、あけすけな』
『痛かったけど……嬉しかった』
『……』
『あたしも、キョンを愛してるわ』
『……ハルヒ……』
『ほら、もう泣かない。移動魔法唱えるから、耳はみはみしたらぶっ飛ばすわよ』
……
……
ハルヒはルーラを唱えた!
キョンは天井に頭をぶつけた!
ハルヒは天井に頭をぶつけた!