「だっはぁ!」  
ハルヒの蹴りがミイラ男の顎にヒット。そのまま崩れ落ちる。俺も剣を振り回し  
て俺の周りを囲む巨大蛙を散らし、一匹をターゲットにして切り掛かっていく。  
呪文なんか詠唱しやがって学習能力の無い奴め、何がラリホーだ効かないっつの。  
「まずいですね。どんどん出てきます。」  
古泉。何とかならないのか。  
「ピラミッドから脱出すれば、恐らくは……」  
言いながら古泉は背後から迫ってきたマミーに一撃。ロマリアで買ったナイフに  
は神のご加護があるらしく、食らったマミーは灰になって崩れてしまった。だか  
らこのナイフ売らなかったのかこいつは。どこまでも頭脳プレイだな。  
「もう!倒しても倒してもうじゃうじゃ沸いてくるわ!早く階段に行かないと!」  
マミーがハルヒの左腕にすがりつく。それをハルヒはマミーの鳩尾に蹴りを入れ  
ることで振りほどいた。  
止めにハルヒは左腕から黄金の一撃を繰り出す。  
 
……何で俺たちがこんな戦いをしてるのかと言うと、ちょっと時間を戻して説明  
しないといけないな。  
俺たちはアッサラームで薬草の買い出しをし、早々と  
イシスにむかって出発していた。すごい。これが砂漠か。俺は環境問題の一つで  
ある「砂漠化」という現象の深刻さを目のあたりにしながら、オアシス目指して歩いていった。  
「すごい綺麗な場所…でも、恐い……」  
朝比奈さんも、砂漠の美しさに見惚れつつも、そこが死の世界であることを感じ、怖れていた。  
こんな朝比奈さんも可愛い。  
「この辺で出てくるカニさんは、キョン君と有希がカギだからねっ、よろしく〜」  
あぁ、さっき出てきたやつですね。俺の全力の一撃か、長門の呪文しかあまり効  
果がないんでしたっけ。  
「なんでキョンにしか倒せないのよ!なんか悔しいわ!」  
それはチーム内で俺の力がナンバーワンだからだ。  
「そうそう、適材適所だよねっ。ハルにゃんはすばしっこい奴に強いでしょ?」  
「そうね。キョンは鈍いからちっちゃいのとかはダメなのよね!」  
うるせーやい。適材適所だろ。  
「ふふ、仲がいいですね。」  
ねーよ。やめろそのインチキスマイル。…イシスのオアシスはまだなのか?長門。  
「あと徒歩で一時間」  
うわっ…聞かなきゃよかった。  
そんなこんなでイシスの宿に着いた頃にはもう日も暮れていて、俺はこんなだだっ広い砂漠は二度と歩かないことを堅く心に誓いながら、作戦会議に参加するのであった。  
 
王女さまの謁見は明日やるとして、ピラミッドの探索方法についての議題が問題となった。  
俺、朝比奈さん率いる「さっさとカギ取って帰りましょう」派と、  
ハルヒとそのイエスマン古泉の「ピラミッド隅々まで調べましょう」派に分かれ  
たのだ。まったくこんな時になっても面倒を背負いこむやつめ。結局傍観者二人  
がどちらにも付かなかったため、議論は平行線。  
「ピラミッド行ってから考えましょう!」  
とハルヒ。嘘つけ、そのキラキラした目は何だ。とまぁ、こんな感じで何一つ決  
まらないままピラミッドに突入した。  
 
それがいけなかったのかも知れない。  
 
結局探索を隅々やる係とカギ取って帰る係で分かれることに。前者が俺、ハルヒ  
、古泉。後者は鶴屋さん、長門、朝比奈さんである。なんで俺が探索するのかと  
いうと、朝比奈さんを危険にさらすわけにはいかないという男心である。編成を  
終えて王女さまのもとへ。  
綺麗な女性だった。俺には熟女趣味は無いが、素直にそう言える。勇者一行であ  
ることを伝えたら、この城の家宝である腕輪をくれた。なんでも時間の神様が宿  
っているとかいないとか。  
うだるような熱さを感じながら、二度と歩きたくなかった砂漠を歩く。途中敵が  
何度か出てきたが、あいつらピンピンしてやがる。一体どうなってるんだ。  
ピラミッド到着。すでに朝比奈さんは  
「わ…わたしここで待ってます!」  
的な調子である。こらこら、一人でいたらもっと危ないですよ。  
「キョン君の言うとおりだよっ。みくるっ、あたしがいるから大丈夫さっ!」  
鶴屋さんの説得によって連れていくことに成功。  
「キョン!私たちも行くわよ!」  
うし、行くか。俺たちはピラミッドへ踏み出した。  
歩くこと数十歩  
「涼宮さん、気を付けて。」  
「何?」  
何だ、古泉。  
「落し穴が涼宮さんの前にあります。下に槍がある場合もありますので、  
用心を。」  
恐いこと言うな。  
「そうね……、キョン、落ちてみなさい。あんた鎧着てるでしょ?」  
ふざけんな、下の様子を見てからだ。俺はハルヒの一歩前を剣でつついた。  
ベタな落し穴がそこから出てきて、下の階が見えた。  
「行きましょう。隅々まで調べるにはこつこつ下から順にやるのが一番の近道よ!」  
ハルヒは下が安全だとわかると、すぐに下に飛び込んだ。  
 
下には何もなかった。脱出用の階段があったが、ハルヒはまだ調べ足りないらしく、そのへんの骸骨まで調べていた。  
 
「ねぇ、古泉くんお宝の反応はある?」  
「難しいですね。反応はありませんが、ここが何もない部屋に見せ掛けたものかも知れないですし。」  
デタラメ言うな。ハルヒがつけ上がるだけだ。  
「でたらめではありませんよ?たとえばこの部屋は魔法が使えません。その目的  
を脱出魔法を封じたるためのものと仮定すると、この部屋全体が宝を狙う泥棒の  
トラップであると考えることができます。」  
わかったわかった。きちんと調べればいいんだろ?  
……うわっ、しゃれこうべ踏んじまった。すんません。  
「キョン!変なことして呪われるんじゃないわよ!」  
すまん。次から気を付ける……って、俺が踏んだドクロ、割れてないんだけど。  
「ん?鎧を着込んだあんたが乗っかって割れないの?…古泉くん?」  
「はい。ちょっとキョン君いいですか?」  
古泉はドクロを調べた。そのまま顎に手を当てて動かなくなる。  
「このドクロ、床から離れません。」  
接着剤か何かか。  
「床と同化しています。恐らくこの床は……」  
古泉はドクロの周りの埃や砂を払い出した。するとドクロの周りの床だけ、切り取られたような跡がある。持ち上げれば取れそうだ。  
「ビンゴじゃない!でかしたわよ、古泉くん!」  
床は丁寧にも取っ手がついていた。ハルヒは持ち上げようとするが、  
「な、に、こ、れ、…っ全然ダメだわ」  
ほれ、ハルヒ貸せ。俺は取っ手を力一杯引っ張った。ほい。開いたぞ。  
「なんか釈然としないわね…。まぁいいわ。行くわよ。」  
下の階には細い通路があり、その先に棺があった。嫌な予感がする。  
「この棺のなかにお宝が眠っているに違いないわ!…開けるわよ」  
ハルヒが石の蓋を開けると、そこにはミイラなど無く、かわりに金色に輝く爪があった。  
「これがお宝ね。売れば旅の資金になるかしら。それとも、私が装備しようかな?」  
どっちにしても罰が当たりそうだな。  
『……かえせ』  
…ん?なんだ古泉。  
「あなたが言ったのではないんですか?私はてっきりあなたが」  
『……かえせ』  
……あぁ、呪われたらしい。ほらハルヒ、返せだってさ。  
「わかったわよ…あとあと厄介なことになっても困るしね」  
ハルヒは爪を戻した。  
「まぁ、発見はあったから良かったですね。あれが恐らくこのピラミッドの一番の宝でしょう。」  
そうだな。それを守る墓守りの意志を尊重してやるとしようぜ。ん?どうしたハルヒ?  
「ねぇ、キョン、あれ……」  
 
俺が帰り道の通路を見渡すと、生ける屍達が階段を降りてきていた。  
「まずいですね…すでにこの階に来た瞬間からトラップは始まっていたみたいです。」  
おいおい、爪は戻してやったぞ?  
「私たちが消されないかぎり、情報が漏れてしまいます。」  
口封じってか。  
「じゃあ、遠慮なくこいつは実戦投入させてもらうわよ!」  
ハルヒは黄金の爪を左手に装備して、モンスターめがけて駆け出した。  
「はっ!」  
一撃。黄金の爪の切れ味は相当すごい。鋼の剣をゆうに越えている。金って柔らかいんじゃないの?  
「恐らく金はただのコーティングで実際はダマスクスやオリハルコンのような素材なのかも知れません。」  
なんじゃそら。強いのか?その金属は。  
「はい。それで鍛えたものは恐らく史上最強の切れ味です。」  
むぅ、戦士として手に入れたいな。そのオリハルコンとやら。  
…っとだべってる場合じゃなかったな。ハルヒ!今行くぞ!  
「キョン!上の階もうじゃうじゃしてる!」  
 
閑話休題。モンスターハウスというのをご存じだろうか。  
簡単に言えばモンスターの溜り場である。始めの洞窟探索のとき二人がボロボロ  
だったのは、モンスターハウスを掘り当てたからだと長門から聞いている。  
それが今、俺たちの目の前で広がっている光景だ。  
無味乾燥な部屋は今や腐った死体のむかつく匂いで満たされており、ゾンビ達が  
肉を求めて迫ってくる。彼らには宝を守る意志などなく、ただの食欲のみで動い  
ているのである。  
……とまぁこんな絶望的な状態で冒頭に戻ることになる。  
俺たちはモンスターが落とす金を拾う余裕も無くなっていた。ただひたすら切る  
。切る。切る。たまによく分からない影みたいなのが出てきて強かったり弱かっ  
たりして大変だったりする。あっ、あの怪しい影がホイミスライムを呼んだ。俺  
にもホイミしてくれ。なに?呪文が使えない?ならば消えてもらおう。  
「キョン!大変!」  
どうした!言ってみろ!  
「さっきあった階段、どうやら出口じゃないみたい!」  
何だと?  
「あれ、モンスターの入り口になってる!」  
くそっ、何てこった!  
まずい状況は絶望的だ。このままじゃ残った50日間くらいを腐った死体として過ごすことになる。  
「とにかくあの階段を強引に行くしか無さそうですよ。」  
そうだな。死ぬよりましだ。それじゃ行k  
「ひえぇぇぇー!な、何ですかこれはー!」  
朝比奈さんだ!魔法のカギを手にした地上の天使が地下世界の惨状に恐れおののいていらっしゃる。  
 
今すぐに抱きしめてその不安を消してやりたいところだが、今はピンチだその余裕もない。  
朝比奈さん!はしごを持ってきてくれませんか!?  
「戻れなくなっちゃんたんですか?」  
そうです。戻れないんです。  
「しっかしこりゃすごい惨状だね!手伝うよっ!」  
鶴屋さんだ!ピンチの時の勇者様だ!  
飛び降りてきた鶴屋さんはモンスターの間を駆け抜けたかと思うと、一瞬でモンスター数匹の動きが止まり、その場に倒れ付した。  
居合い抜き。あの「またつまらぬものを…」というやつである。  
鶴屋さんが加わった俺たちは魔物を倒すペースを着実に上げていった。  
「私たちははしごを買ってきます!な、長門さん!アッサラームまで連れていってください!」  
よし、朝比奈さんが戻るまでの辛抱だ。俺たちの苦手とするスタイルだが…。薬草は万全だ。  
俺たちは一部屋に固まって協力してモンスターを倒し、時間を稼いでいた。  
 
早くキョン君達を助けなくっちゃ!長門さん、ピラミッドから脱出しましょう!  
「……」  
長門さんは無言で頷いて、外まで走っていきました。  
外には、ピラミッドの外階段から地下に入るための行列が地平線まで出来てる!た、大変  
ですぅ…、長門さん、アッサラームまでお願いしますね…。  
「……ルーラ」  
ひええええ!恐いいいい!  
「…着いた。しかし、ピラミッドへのルーラは不可能。」  
そ、そうなんですか!?  
「ルーラは主に町や城などが対象になる。」  
わかりました。一番早いタクシーを使うしか無いですね。  
わたしは店をまわって要りそうなものをまとめて買いました。値切らないと高いんだけど、ここは世界で有数のバザーだから一番便利なんですよね。何でもあるんです。  
買い物が終わったからイシスに行かなくちゃ。長門さん、魔法の聖水です!  
「大丈夫。あとで使う。…ルーラ」  
ひえぇぇぇ!いきなりはだめえぇぇぇ!  
イシスに着きました…。あとは砂漠のタクシーです!  
……  
ピラミッドに着きました。みんな無事でいて!  
 
まずいな…みんな疲弊してきた。とりあえず俺が最前線に立って敵をやり過ごし  
てるうちに、みんなを休ませないと。  
……タフなだけってのも便利だな。あぁ、古泉聖なるナイフ貸してくれ。こんな  
鎧も着てられっか。……よし、もう一暴れするか。  
「キョン君!復活したよ!」  
 
鶴屋さんが持ち直った。ハルヒもうちょっと休んでろ、お前は動きが命だろうが。  
「はぁ…、はぁ…、ありがと、キョン…、」  
うわぁ、中世世界じゃなかったらお前にポカリ飲ませてぇ。そんな疲れっぷりだ。  
「キョンくん、剣借りるからねっ」  
鶴屋さんは二刀流で敵を倒し始めた。すごい。利き腕じゃない方で剣を捌けてる。  
…、まずい、俺も疲れてきた…鶴屋さんにだけ無理さすわけにはいかねえ。  
「キョン、下がってなさい!」  
悪い……。ハルヒ頼む。  
「み、みなさん!大丈夫ですかぁ!?」  
あぁ…、大丈夫ですよぉ。  
「キョン君!まだ準備があるから、待ってくださいね!」  
分かりました。それまで持ちこたえます。俺へばってるけど。  
「そろそろ僕も行きます。ナイフを」  
悪ぃ、俺もすぐに参加する。  
朝比奈さん!どうですか!「でっ出来ましたぁ!」  
「キョン!モンスターが!」  
みんなのスタミナが切れたらしい。打ち漏らしたのが何匹かこっちに来てやがる。俺も戦闘に参加せねば。  
「キョン君!誰か手空いてる人いませんか!?」  
すいません、たった今いなくなりました。  
「な、長門さぁん!」  
「こっちにも魔物が。複数を処理するのは私の得意分野であなたには無理。」  
何を揉めてるんだ。朝比奈さん?  
「そ、そっちに飛び降りれますか?!う…、うぅ…恐いですぅ……」  
大丈夫です。あなたを傷つける奴は皆屠ると約束したはずです。  
「ひ…ひぃ…ひゃああああ!」  
空から天使が舞い降りてきた。  
「み、みなさんこの絨毯には聖水を撒いておきましたあぁ!」  
右腕には聖域の巻き物を携え、  
左腕には天国への階段を抱えるそのお姿は、俺が今まで見てきた朝比奈さんの中  
でもベスト3に入る可愛さだった。  
 
 
今俺たちは、長門も含めて聖水絨毯の上でへばっていた。モンスター共は絨毯に  
は上がれないらしい。当たり前だ。神の領域だぞ?  
ゾンビなんぞにに上がらせてたまるか。  
「いやぁ、聖域の絨毯とは恐れ入りました。よく考えましたね。」  
「はい、みんなぶじで、よかった、…ううぅ…」  
はは、泣くことないですよ。  
「だって、だって、恐かったよぅ…うっうっ」  
あれ?朝比奈さんひょっとして  
「みくるっ?恥ずかしいことじゃないっさ。皆の命を救ったんだからねっ!」  
「そうですよ。誇っていいことです。」  
「それは死霊などを見たときに起こる普通の人間の普通の反応。問題ない。」  
 
「みくる、ありがとう。あたしもこんな無茶は控えるから、ごめんね。」  
俺も泣きじゃくる朝比奈さんを抱きしめて、お礼の言葉を言った。  
朝比奈さん、ありがとうございます。ゾンビに食われそうになってる俺たちを救  
うために、恐いのに勇気を出して飛び込んでくれたんですよね。それでこのお漏  
らしを笑う奴がいたら、俺が切り伏せてやりますから。言いましたよね?あなた  
を傷つける奴は俺が屠る(みなごろしにする)って。  
「うっ、うぅっ、キョンくーーーーん……」  
ごめんなさい。正直萌えました。でも笑ってはいない。恐怖に打ち勝つというの  
は凄いことなんだ。  
 
結局朝日とともにこのトラップは解除され、残ったのは大量の旅資金とトロフィ  
ーである黄金の爪。そして経験値。怪しい影というのは今まで戦ってきた敵がラ  
ンダムででるらしく、その中には恐らくメタルスライムも含まれていたのだろう  
。俺たちのレベルは飛躍的な上がった。  
俺たちはイシスに帰って泥のように眠り、昼に起きて出発した。  
まずはアッサラームへ。黄金の爪の塗装はあの戦いで完全に禿げてしまったため  
、溶かしだしてしまうことにしたのだ。だってデザインも恐いし。出てきたのは  
真っ黒な弾性のある金属。朝比奈さんによると、これが「ダマスクス」という金  
属らしい。ハルヒも爪が格好良くなって大喜びだ。…ここで朝比奈さんの聖水付  
き絨毯を売るかどうかで大バトルが勃発したのだが、それはまた別の話。  
目指すはロマリアの関所。そういや、まだ行ってなかったよな。  
何があるのか楽しみだ。  
 
 
 
予告編  
 
ロマリアの関所を抜けた俺たちは、新しい大陸でポルトガという城に赴いた。  
そこで待っていたのは胡椒好きの王さまで、謁見しにきた俺たちを捕まえて  
小一時間くらい胡椒の素晴らしさを語りだし、終いには  
胡椒を持ってきてくれたら船と交換してやるというわらしべ長者もびっくりの  
交換条件を出してきたので、胡椒なんぞに  
国家予算を傾けるなんて粋狂な人間もいるもんだと思いながらも、  
俺たちはそれを引き受けてやることにしたのである。  
そういえば我がロマリア国の先代王も今はすっかりホームレスのリーダー  
的存在になってたっけ。ゴミを漁りながら「気ままなギャンブル暮らしもいいもんだよ」  
と言っていたときのあの生き生きとした目が忘れられない。  
あいつもどうかしてる。  
 
 

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