僕の名前は古泉一樹、16歳。一見普通の男子高校生、だけど皆に言えない秘密があるの。  
あ、犬の人工生命体アラカワンが呼んでいる。この町に未来人侵略者が現れたのね。  
よーしイツキ、いきます。  
魔法少女イツキン  第一羽未来人侵略者アサヒナー出現  
 
……なんだ、この偏頭痛を巻き起こす文字の羅列は。  
「なんだとは失礼な、文芸部機関紙第二弾に寄稿する作品ですよ」  
まず第二弾を発行するって言ってないだろ。それにだ、こんな電波な文載せられるか。  
「プロットの段階で長門さんのお墨付きを戴いています。アオリは『あの長門有希も絶賛!!』と」  
いれるな!長門よこんな作品にお墨付きを与えるな。一体どの層を狙った作品なんだよ、おい。  
「ちなみにですね、敵のボスがアサヒナーでおっぱい拳法の使い手なんです。ストーリー中盤になって  
 第三勢力として宇宙人調査団が出ましてですね、そのボスがナガトンでして。主人公の一樹はその  
 ナガトンと協力しましてアサヒナーを……」  
黙れ!!お前の電波話は聞き飽きた。これ以上喋るなら簀巻きにして伊勢神トンネルに放置してくるぞ。  
俺の気持ちを汲み取ってくれたのか、喋るのを諦める。肩をすくめ、ノートパソコンに視線を戻しキーを  
打っていく。って、まだ書くつもりかよ。  
窓の傍にはいつもの用に長門が椅子に腰掛け読書に耽る。今読んでいるのは文庫か、妙にピンクのカバー  
が気になるのだが……。  
団長席傍の椅子(上座、と言えばいいのか)に腰掛けるのは朝比奈さん。料理本を開いて熱心に記事を  
目で追っかける。なんと言うか本当に勉強熱心なお方である。時折見せる悩ましげな視線も素敵だ。  
全校生徒の八割は昇天してしまうだろう。  
そして、古泉だが……。とりあえず機関紙第二弾を作る事にならない様に祈ろう。俺もあんな苦労二度と  
ごめんだ。  
いつもの平和な時間。別に何も起こらない、とりたてて特別でもない時間。のんびり、安穏とゆったり  
流れる、学生だけの特権。今日もこうして一日が終わる……訳がない。  
こんなに静かなのは、次へのインターバル。嵐の前の静けさなのだ。  
そう涼宮ハルヒと言う名の大型台風が上陸する前の。  
「みんなー注目ーーーー」  
ほらな。  
 
「……と言う訳で、食堂の新メニュー考えるわよ。見事採用されれば、食堂のおばちゃんからタダ券20枚  
 進呈よ!みんな張り切っていきましょーーーー」  
ハルヒは食堂のおばちゃんから勝手に依頼を受け取ってきた訳だが。正直言うとだ、新メニューなんて簡単  
に思い浮かばんぞ。そもそも食堂に並べられるメニューを素人が作れんのか。  
「そんなの適当なおかずをご飯の上に乗せればいいじゃない。いいこれは技量の問題じゃなくてアイディア  
 の問題なの。だから既成概念に囚われない素人の方が有利なのよ。それにねよく言うじゃない始めは誰  
 でも素人だった、って。始めからプロなんていないのよ」  
なんというか、こいつには屁理屈で一生勝てない気がする。  
「まあまあ、いいじゃないですか」  
古泉、あんまり何でもはいはい、言うんじゃない。  
「あなたは深刻に考えすぎなんですよ。イベントのひとつとして楽しめばいいじゃないですか」  
そりゃそうだがな。しかしだ、今までの経験上いい結果になった試しがないじゃないか。  
「大丈夫、我に策あり、です」  
その言葉が一番悩みの種なんだがな。  
まぁ、ハルヒが一度言い出したことを止めるなんて不可能なわけで。集団食中毒事件が起こらぬよう祈り  
つつ、俺たちSOS団は調理室に移動したのだった。  
 
BGM『三分間クッキングのアレ』  
 
「みんな完成したようね。それじゃあ、一番手はわたしね」  
料理過程はごっそり省かれ、品評会が始まる。正直アレが料理をしているとは思えない光景だったな。  
鼻を衝く刺激臭、耳に劈く悲鳴、調理器具でない、ドリル、ハンマー、のみ、かんなの使用。それは  
まさに悪夢の40分間だったよ本当に。  
「通にとってはたまらない」  
むわっとした何かが調理室内に充満する。臭っ!!何だこれは、鼻が、鼻が!!うえぇ、い胃液が逆流…  
「くさや丼よ!!」  
やっちゃったよ、この子!!!ううぇっ、叫んだら、は、吐き気が…ううう。  
「なに文句あるの。じゃ改名KUSAYADON!」  
ローマ字表記にしただけじゃないか。問題はそこじゃねぇ。つーかお前は臭くないのか。  
……って、洗濯ばさみで鼻塞いでるぅぅぅぅううう!!!!  
「流石は涼宮さん」  
はぁはぁ、何が流石だ。つーかお前も臭くないのか。  
「?何がですか、全然臭いませんが?」  
いつの間にガスマスク着けてんだぁぁぁぁぁ!!!  
「はっ!本当だ。イッタイイツノマニ」  
白々しーよ。お前らだけ臭いから逃げやがって、朝比奈さんと長門が可愛そ……二人ともガスマスク着けて  
るよ!臭いの俺だけかよ!!  
「じゃ試食係キョン、お願いね」  
ハルヒがパチンと指を鳴らすと、朝比奈さんと長門が俺の両腕をぞれぞれ拘束する。マジ放して下さい。  
あんなん食ったら死んじゃいます。つーか古泉、お前が試食しろよ。  
「すみません、今の状態で何か口に入れることが不可能なので」  
そんなの着けてるからだろ、はずせよ。  
「大丈夫ですよ、最初チクッとするだけだから」  
注射じゃないんですから、それだけで済みませんよ。  
「大丈夫、すぐに気絶する」  
それ全然大丈夫じゃないですよね!  
「さ、キョン。あーん」  
や、やめろ俺はまだ死にたくない。く、臭い、水虫中年親父の一週間履きっ放しの靴下の臭いが、臭いが、  
は、鼻が鼻がぁ、あーーーー!!  
 
ただいま画像が乱れておりますしばらくお待ちください。  
 
はっ、今三文目まで渡してたよ。危なかった。  
「味はいまいち、っと」  
味以前の問題だぞ。それにいまいちどころじゃねぇし。  
 
「じゃあ、次は……」  
「僭越ながら僕が」  
そういえばお前何か策があるって言ってたな。  
「ええ、低コストかつリピーターが倍増する究極のレシピを」  
そっちかよ!このSOS団で新メニュー作っちゃおうイベント、そのものを止める策じゃないのか。  
「ふふふ、文句はコレを見てから言ってください。この古泉家秘伝カレーを!」  
そう言って古泉が取り出したのはごくごく普通の、俺んちでもよく食卓を飾るカレーだった。  
これのどこが究極のカレーなんだよ。  
「侮ってはいけませんよ。このカレー、肉の変わりに……シーチキンが入っているのです!!!」  
だからどうしたんだよ!  
「シーチキン!?まさかそんなのを使うなんて」  
「この豊かな海の風味はそれだったのですね」  
なぜ、あたかも試食したかの様な言い方ができるのか。まだ誰も手をつけてないだろ。  
「驚くのはまだ早いです。コレはまだ未完成品なのです」  
「こ、これで未完成品!!?」  
「一体これ以上何をするんですか!!?」  
「では長門さん、お願いします」  
お前が仕上げるんじゃないのかよ!  
古泉に促された長門は、おもむろに銀に光り輝くスプーンを取り出す。カレーを一掬いし、口まで運ぶ  
カレーは長門の口の中への輸送され、それを咀嚼する、噛む、味を噛み締める様に。味わいは口一杯に  
広がり、胃の奥へと落ちていく。喉にその残り香を残して。  
……って、かっこよく言ってみたが、要するにただ一口食べただけだ。で、これがどうしたって。  
「これで古泉家秘伝カレーは長門さんの食べ残しカレーにジョブチェンジしたのです」  
「長門さんの!?」  
「食べ残しカレー!!?」  
無駄に引っ張るな。で、それで。  
「長門さんの食べ残しなら星の数ほどの男性が食べてみたいと願うでしょう。ああ、僕には見えますカレー  
 を求めて券売機に列を成す子羊たちが」  
それはいろんな意味でやばいだろ。  
「あなたには分からないのです!!このカレーなら僕は諭吉さんが何人犠牲になろうと構いません!!」  
少しは構えよ!長門の食べ残しカレー破産なんて恥ずかしいだけだろ。  
そもそもだ、食べ残しなんて出せる訳ないだろ。保健所が飛んで来るぞ。  
「心配なさらないでください。限定一食、ですので」  
それ、駄目だろ。  
 
「古泉くんの作品は非常に素晴らしかったけど、根本的な欠点があって採用できないわ」  
「面目ありません」  
いろいろな所が根本的に間違っていたがな。  
「次の作品には期待するわ。みくるちゃんだしなさい」  
「ふ、ふぁい」  
朝比奈さんの料理か、きっと本人と同じくファンシーでかわいい創作料理なんだろうな。  
などと期待を込めていたのだが。  
「これです!!」  
それはファンシーといえばそう言えるかもしれない品であった。  
「これはまた…」  
「みごとね、この…」  
「…青」  
毒々しいまでに青い色をしたご飯だった。  
……これは何なんですかね、本当に。  
「ポ○ションご飯です」  
青色一号っ!!!  
よくポー○ョン何か手に入りましたね。もう販売してませんよ。  
「綺麗な青…これなら味にも期待できるわ」  
できる訳ないだろ。栄養ドリンクだぞ、味は。  
「疲れた体にこの一杯。非常に合理的な料理ですね」  
それなら普通に栄養ドリンク飲むだろ。お前はご飯のときに水やお茶の変わりに栄養ドリンク飲むのか。  
「でもアメリカなら、食事時はコーラは常識ですよ」  
ここは日本だ。そっちを基準にするんじゃない!!しかもそれコーラの話だろ。  
「じゃあ、さっそく。試食係キョン!」  
また俺かよ。つーかさっきの古泉のカレー試食してないよな。  
俺の前にどんと出される青いブツ。おいおい本当にコレ人間の食べ物かよ。  
朝比奈さんそんな期待に満ちた目で見ないでください。うう、食べなきゃならんか……。  
ええい、くそ!  
 
ただいま電波が届きにくい状態です。しばらくお待ちください。  
 
ご、ごめんなさい。これあかんわ……。  
ご飯と栄養ドリンクは別に食べ…う、うう、吐き気が……  
「うんじゃ、次ね」  
おい、少しは、俺のことも省みろ、よ……  
 
「次はわたし」  
何とか状態異常から回復。また俺が試食係になりそうなんだが…頼む長門、食べれる物出してくれ。  
「……これ」  
「これは…」  
「ケーキ、ですね」  
「わー、おいしそうです」  
長門が取り出したのはケーキ、なんだが何か妙に黄色くないか、これ。  
「クリームにカレーを混ぜた。その名もカレーケーキ」  
またカレーか!つーかデザートでも良いのかよ。  
「どれどれ…」  
今回は古泉が率先して、クリームを指で掬って舐める。今回は毒見役じゃないみたいだな。良かった。  
「うまい!!」  
「え、本当!?」  
ハルヒが続いて古泉と同様にクリームを掬って舐める。  
「すごいわ。辛さと甘さの織り成すハーモニー!これぞ究極のスイーツよ」  
ハルヒまで大絶賛か、コレは期待が持てる。  
「まるで、雲の上を歩いているみたいです」  
朝比奈さんも絶賛。これは俺も安心して味見できるな。では、一口。  
 
サーバーへの接続が途絶えました。しばらくお待ちいただき、再度接続をしてください。  
 
あぶねえ、『一休さんのテーマ』がエンドレスで頭の中に流れてたよ。  
おい、ハルヒ何がハーモニーだ。調和どころか大会戦してたぞ、甘さと辛さが。両者は決して交じり合わず  
自己主張をし、それが口の中にベタベタといつまでも泥沼の戦いを繰り返す。はっきり言って最悪だ。  
しかもだ、上に乗ってるイチゴだと思っていたものにんじんじゃないか。中に挟んでいるのは、ジャガイモ  
玉葱、豚肉…とカレーの具そのままだし。  
「それがこの料理のミソ」  
だったら素直にカレーを作れ。  
「今のところ有希が一歩リードね」  
お前らはコレに太鼓判押してたのかよ。絶対、亜鉛とか足りてないんじゃないか、おい。  
 
「じゃあ、最後はキョンね」  
ようやくこの悪夢の料理会も最後となった。あとは俺のだけなので実質終わってるがな。別の意味でも。  
つー訳でさっさと自分のを発表して終わりにしよう。微かな自信とともにソレを出す。  
「……何コレ」  
何、とは失礼な。みんなが大好きなおかずをどんぶりにしたその名も、肉じゃが丼だ。  
「うわっ、センスの欠片も無いわ」  
「ここはあなたに習って言います。やれやれ」  
「こんな手抜き料理は始めて見ます」  
「…無価値」  
たしかに、センスがあるとは思わないし、市販の肉じゃが乗っけただけだから手抜きだが。そこまで  
大ブーイングを受けるものじゃないだろ。むしろ喜ばれるものだろ。普通に食堂のメニューにも出来るし。  
どー考えたってお前らが作ったものよりマシだろ。  
「あーっ、もう。いいキョン。あんたが作ったこれはね、不合格。分かった」  
不合格なのはお前らだろ!!  
 
「なかなか、みんな(キョンを除く)良いものが出来たけど何かいまいちなのよね」  
「そうですね。皆(キョンを除く)力作ですが。もう一歩ってところですね」  
「わたしは逆に(キョンを除く)全部良すぎて一つに決まらないです」  
「だったら(キョンを除く)全部を一つにすればいい」  
あのーそろそろそのカッコ内の言葉止めてくれます。意外と傷つくんですよね、はい。  
「それ、どう言う事?」  
「全ての料理の良い所を抽出し、一つに統合、新たな料理となす」  
「良い所を集めて、新たな料理を作るですか。なるほどいいアイデアです」  
「これぞ正にSOS団の料理!やるしかないわね」  
……良い所の無い物を寄せ集めったて、良い物は出来ないぞ。  
 
BGM『お料理行進曲』  
 
で、完成したのがこちらだ。  
朝比奈さんのポーショ○ご飯の上に、ハルヒのくさやに古泉のシーチキンを乗せ、長門のカレーホイップ  
クリームを掛けた、その名も『SOS丼』。悲しくも無いのに涙が止まらないぞ。  
「じゃ、試食ね」  
俺はもう食わんぞ。俺の本能がモールス信号を連打してるんだ、食うなって。それにもう腹いっぱいだ。  
いろんな意味で。  
「わかってるわ。身内で審査しても甘くなるだけだからね」  
今までの試食を無下にする一言を発した後、ハルヒが連れて来た試食人は……  
「いやー助かったわ。弁当忘れて、財布も無いし、どうしようかと思ってたところなんだよ」  
……谷口だった。  
「御託はいいから食べなさい」  
「うんじゃ、お言葉に甘えて、いただきます」  
ハルヒに急かされ、そのどんぶりを一口食べる。  
 
カラーン、コロコロ、ドタッ!!  
ポクポクポク、チーン  
 
たにぐち は てん に めされた  
 
ある意味、予想通りの結末だが、どーするんだ。  
「ならばよし!」  
じゃねーだろ!って何が、よし、なんだよ!!  
 
その後の話だが、ハルヒはこのSOS丼を食堂のおばちゃんに提案するのは諦めたようだ。食堂から断末魔が  
聞こえることはないようだ。それともう一つ、谷口は翌日何事も無かったかのように登校してきた。あいつ  
は不死身か。  
 

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