俺は、白い雪に覆われた世界を見ているのだと思った。  
 あたり一面真っ白で、霧なのか雪なのか何だか解らないものがもやもやとたちこめている。  
 これはいったいなんだ――俺は手を伸ばして得体の知れないもやもやに触れてみる。とたん、白いものはぎゅっと凝縮して形あるもになった。  
 それがとても重大なもののように、俺は目の前に現れた物体を見つめた。  
 ……シーツだ。しかも、パリッとノリがきいてる。  
 
 目がはっきりしてくると、近くで誰かの話し声がすることに気づいた。  
「……保健室の匂いってなんだか独特ですよね。私ちょっと苦手です」  
 保健室? そう聞いたとたん嗅覚も戻ったらしく、消毒液の匂いが鼻を突いた。どうやら俺はベッドに寝かされているらしい。こいつはたいへんだ。俺の身になにか起こったのだ。事故か? 病気か? とすると、ここにいるのは俺の家族か?  
 俺は声のするほうに頭を向けようと――。その瞬間、全身に鋭い痛みが走った。あまりの激痛に俺は情けないうめき声をあげる。  
 この痛みはなんだ。とくに頭が痛い。助けを呼ぼうとするが声が出ない。  
「あ、涼宮さんキョンくん起きたみたいですよ!」  
 涼宮? キョン? 誰のことだ?  
 首が回らない俺の視界にセーラー服を着た女が、続いてシャツにネクタイ姿の男が現れた。二人とも取り囲むように俺を見下ろしている。  
 泣いてる様子はない。優しい家族じゃないな。全然知らないやつらだ。  
「見えてんのかしら?」  
 女が冷静に言った。  
「さあ、どうでしょう?」  
 男は肩をすくめて応えた。  
 動けない怪我人か病人を前にして、なかなか愛のある態度だ。まったくわけが解らない。こいつらは誰だ? 知らない人間がなんで俺のそばにいらっしゃるんだ。  
 
「やっほーっ! キョンくん目え覚めたかいっ?」  
 ドアが開いて、妙にテンションの高い女が入ってきた。俺を見下ろしている女と同じセーラー服だ。甲高い声が頭にひびく。  
「おー、起きてる起きてるっ! でもまだ寝ぼけ顔だねっ」  
 失礼な女だ。俺の顔を見て笑っていやがる。文句を言ってやりたいが、まだ声が出ない。  
 女はニヤついた顔で俺をじーっと見下ろしていたかと思うと、突然俺のほっぺたを指でつついてきやがった。  
「ちょ、ちょっと鶴屋さん、なにしてんの!」  
 涼宮と呼ばれた女が叫ぶ。  
「いやー、キョンくんの寝ぼけ顔が可愛いもんだから、ついっ!」  
 鶴屋という名前らしい女はペロリと舌を出して照れたように笑った。  
「つい、じゃないわよもう。キョンに変なことやめてよね」  
「ハルにゃん、めんごめんごっ! ハルにゃんのキョンくんに手え出したりしないから安心するにょろっ」  
「ちょ、ちょっと鶴屋さんなに言ってんの!? みんなに誤解されるじゃない!」  
「あっははっ、ハルにゃん顔真っ赤! バレバレだよっ! ねー、古泉くん」  
「まあまあ、落ちついてください。一応、ここ保健室ですし」  
 古泉と呼ばれた男が困惑した表情で間にはいった。  
 俺は数少ない情報から自分の置かれた状況を分析しようともがいた。俺に解るのは、どうやら俺のあだ名が『キョン』という小動物のような名前だということと、周りにいるのがロクでもないやつらばかりだということだけ。  
 その証拠に、こんなに体が痛いのに俺の心配をせずに何やら盛り上がっている。そして、こんなことを本能的に感じる俺は、きっと純粋で真面目で善良な人間に違いない。  
 
 そこへ、またドアが開いて誰かがやってきた。  
「……」  
 入ってきたのはまたしてもセーラー服を着た女だ。小柄なその女は何も言わずにドアを閉めると、俺の寝ているベッドのすぐ横に置いてあったパイプ椅子に腰を降ろして、持ってた分厚い本を読み始めた。なんなんだこいつは。  
 少し動くようになった首を上げて室内を見ると、もう一人女がいた。その女だけ異質で、なぜかメイド姿でニコニコ笑いながらリンゴを剥いている。  
 
 ますますわけが解らない。こいつらは俺のなんだ? 俺の病気はなんだ? これは幻覚なのか、悪い夢なのか、チクショウ――。  
「……なんだよ、誰だよお前ら」  
 いきなり声が出た。  
 感情的になったおかげか、思わず声帯が蘇ってくれた。かすれて弱々しい声。これが俺の声か。  
 
 一瞬、全員が凍りついたように俺を凝視した。それからぞろぞろと全員が俺の周りを取り囲む。  
「ちょっとキョンくん、なに言ってんのさっ。悪い冗談はよしてよっ」  
 鶴屋とかいう女が半笑いで俺に聞いてくる。  
 冗談ではないのだが。俺は何かを思い出そうとして頭の中を探った。いつものように、何気なく物事を思い出すように。  
 ズキッ。その瞬間、頭に激痛が走った。軽いめまい、そしてむかつき。俺は頭の中から痛みを追い払おうと目を閉じた。今のはなんだ……?  
「どいて」  
 古泉とかいう男を押しのけると、涼宮と呼ばれていた女がおもむろに俺の両肩に手を乗せて、顔を俺の目の前に近づけてきた。  
「あんた名前は? どこに住んでるの? 歳は? ここがどこか解る?」  
 弱っている病人には質問は一度にひとつにしてほしい。  
 俺はぼーっとしながら質問の答えを考えた。まず名前だ。俺の名前は……。  
 ズキッ。また頭に激痛が走った。  
 ぱく。俺の口は自分の名前を言うかわりに空気をかんでいた。なんだか調子がおかしい。じゃあ俺の歳はいくつだっけ。住所は……?  
 ぱくぱくぱく。俺は酸素の足りない金魚のように口を開け閉めした。自分でもなにをやっているのかわからない。俺を取り囲む面々はあっけにとられた顔で俺の口ぱく運動を見つめている。  
「すまん。なにも覚えてない……。なんにも」  
 俺の告白は、あまりにも短かった。  
「そう。よーく解ったわ!」  
 なにが解ったのだろう。涼宮さんは満面の笑みに、キラキラと瞳を輝かせている。  
「ちょっと待ってなさい」  
 そう言うと、俺を残して全員が部屋から出て行き、なにやら話し合いをする声だけが微かに聞こえた。  
 
 
「ちょっと散らかってるけど、おとなしくここで待ってなさい。いい? 勝手になにか触ったら、死刑だからね!」  
 涼宮さんはそう言うと、慌ただしく階下へとかけていった。死刑って……。  
 
 俺は今、涼宮さんの家に上がり込んでいる。  
 話によると俺は彼らと同じ高校に通う一年生らしく、すでに俺の両親は他界しているとのことだ。そのため俺は一人で暮らしていたのだが、記憶を失った状態では生活が心配だということで、あのとき保健室にいた人達の家に日替わりで泊まることになった。  
 なんとも波乱万丈な人生を歩んでいたようだ。  
 
 あらためて涼宮さんの部屋を見渡すと、綺麗にものが整頓されていてとても散らかっているとは思えない。読みかけらしい本が一冊、ベッドの上に広げて置かれているだけだ。  
 白を基調としたフローリングの清潔感のある部屋でかなり広い。勉強机にテレビ、オーディオ、ぎっしり詰まった本棚と一通りのものは揃っている。申し訳なそうに置かれたでかいクマのぬいぐみが、女の子の部屋だということを語っている。  
 白い壁にはコルクボードが掛けられており、そこに写真やメモのようなものがところ狭しと貼り付けられていた。涼宮さんと保健室で会った人達との写真らしい。  
 一通り見ていて、どの写真にも一人の男が写り込んでいるのに気づいた。どれもめんどくさそうな表情で冴えない顔をしている。中にはその冴えない男の寝顔の写真まで貼ってある。  
 きっとこいつは涼宮さんの仲間内で下っ端的存在なんだろうな。へたしたら、いじめられっこかも知れない。情けないやつだ。  
 そんなことを考えていて俺は急に悲しくなってきた。なにが悲しいのか解らない。ただ、胸にぽっかりと穴が開いたような感じだ。俺はそのまま、しばらく写真を見続けた。  
 
「おっまたせー!」  
 荒々しくドアを開ける音とともに、右手にトレイを持った涼宮さんが大声を上げて戻ってきた。セーラー服の上にエプロンをしていて可愛らしい。  
 部屋の中央に置かれたガラステーブルに頬杖を突いて座っている俺を見つけると、そのままニコニコ顔で歩み寄りテーブルの上にトレイを置いた。トレイの上には大きな皿があり、銀色のフタが被せられている。  
「じゃっじゃーん!」  
 変な効果音とともに銀のフタがはずされ、香ばしい匂いが広がった。  
「私の特製サンドイッチよ! 食べられることに心の底から感謝しなさい!」  
 ハムとレタスを挟んだもの、ゆで卵を潰したのが入ってるもの、ハンバーグのようなものが入っているもの、それらが大量に並んでいる。  
「なによ、なんか不満でもあんの?」  
 目の前の量に呆気に取られていた俺の表情に、涼宮さんが腰に手をあてて不機嫌そうな声で言っている。誤解をされるとまずい。  
「すみません、すごくおいしそうだからびっくりして。ありがとうございます、涼宮さん」  
 俺は素直に感謝の言葉を笑顔で述べた。うん、実にうまそうだ。これだけ作るのは大変だっただろう。ありがたい。  
 空腹だった俺は、さっそく一ついただくことにした。  
「うん、うまい! すごくおいしいですよ涼宮さん。料理のうまい女の人って素敵ですよね。涼宮さんの彼氏がうらやましい――」  
「……」  
 見上げると、涼宮さんが鳩が豆鉄砲を食らったような顔で固まっている。なんだなんだ? 俺なんか変なこと言ったか?  
「す、涼宮さんどうしたんですか? 大丈夫ですか?」  
 俺は立ち上がって、固まっている彼女の肩に手を伸ばした。  
「っ!」  
 涼宮さんは大きく息を吸い込んだかと思うと、とつぜんこっちを向いたまま後退し、つまづいてトスンと尻餅をついてしまった。下着が丸見えだ。  
 さっきまで元気そうだったが実は熱でもあるんじゃないか? と心配になった俺は、すぐに彼女のもとへ移動し倒れないように右手で彼女の体を支えながら、左手を額にあてた。  
 熱い。確認のために自分の額を彼女の額にくっつけてみる。  
「なっなっなっ」  
 なにか言いたげだったが、俺はそれを無視して額に意識を集中する。  
 ……やはり彼女のほうが熱い。これは大変だ、ただごとじゃあない。なんとかしなければ。  
 
「涼宮さん、ちょっと失礼しますよ」  
 俺は彼女をベッドに寝かせようと、お姫様だっこをした。  
 涼宮さんはなぜか俺の顔を凝視し、熱のせいで顔が真っ赤になってしまっている。苦しいのか声も出ないようだ。こんな状態で俺の晩飯を作るなんて、なんて無茶なことを。  
 できるだけ振動を与えないようにゆっくりと歩き、そっと彼女をベッドの上へと降ろした。  
「おわっ!」  
 立ち上がろうとしたところで、涼宮さんの手が俺の背中にまわされた。そして、ぎゅっと強く抱きしめられる。  
 彼女の顔が俺の真横にあるため、表情が確認できない。俺はベッドの横に膝立ちの姿勢のまま、身動きが取れなくなってしまった。  
 なにがどうなっているのかと困惑していると、涼宮さんが小声で話し始めた。  
「ねえ、わざと?」  
「な、なんのことですか?」  
 言ってる意味が解らない。それよりも、はやく熱を冷まさないと。  
「あんた、ほんとに記憶喪失?」  
「だぶん……そうだと思います。自分の名前も、親の名前すら思い出せないですし」  
 ほんとうのことだ。保健室のベッドで目覚めてから、いまだになに一つ思い出せないでいる。  
「……」  
「……」  
 沈黙。涼宮さんはそれ以上なにも言わず、お互いに黙ったまま時間だけが過ぎていく。  
 
 混乱していた頭が徐々に冷静さを取り戻してきた。彼女のやわらかい体、どことなく甘い香り、俺の胸にエプロン越しに押しつぶされている二つの胸、耳にかかる吐息。それらが俺の五感を研ぎ澄ませていく。  
 体全体で感じる彼女の体温が、さっきよりも熱い気がする。彼女の胸の鼓動が俺の腕に伝わってくる。が、早いのかどうか解らん。  
「あの、離してもらえませんか? 涼宮さん熱があるみたいですし、その、はやく冷まさないと」  
 この状況に耐えかねた俺は、できるだけ優しく話しかけた。彼女のことが心配だったのもあるが、それよりも俺の理性が暴走してしまいそうで怖かった。  
「冷ますって……なにすんの?」  
 よかった。応えてくれた。このまま黙られたらどうしようかと思ったが、なんとか危機は脱したようだ。  
「タオルか何かを、こおり水で濡らそうと思ってるんですが。冷凍庫に氷ありますよね? あ、冷蔵庫の場所がわかん――」  
「そんなんじゃ、……冷めないわよ」  
 俺の言葉は途中でさえぎられた。  
 一般的な方法だと思ったんだが、もっと効率的な方法も一緒に忘れてしまっているのだろうか。  
「えっと、どうすればいいんですか? すみません、他になにも思い当たらなくて」  
「……」  
 またしても黙り込んでしまった。まいったな、他の方法……病院とかかな。電話番号は確か――。  
 などと考えていると、俺の背中にまわされていた涼宮さんの腕が離され、彼女の顔がゆっくりと俺の目の前へと移動した。相変わらず真っ赤な顔だが、眉が釣り上がっていて、なにか意を決したような表情に見える。  
「目、閉じて」  
「え?」  
 喋ったと思ったら、またしても意味不明なことを言い出した。  
「いいから早く!」  
「は、はい!」  
 荒い語気に気圧されて、慌てて目を閉じる。  
 と同時に、彼女の手が俺の顔を、両手でガシッとつかんできた。  
「いい? 私がいいって言うまで、絶対に開けちゃダメだからね!」  
 なんなんだ? いったいなにを言って――。  
「んっ」  
 一呼吸の間をおいて……、俺の唇になにか暖かくてやわらかいものが押し付けられた。  
 
 とてもやわらかい。今は記憶喪失だが、俺の知るかぎりこんな感触は味わったことがない……はずだ、たぶん。すごく心地いい。  
 俺は、彼女の言いつけをやぶって少しだけ目を開ける。  
 涼宮さんの顔が俺の顔に密着していた。彼女の目は閉じられ、とても幸せそうな、おだやかな表情だ。まるで、ずっと思い描いていた夢を達成したかのような、満足そうな顔がそこにはあった。  
 俺はもう一度目を閉じる。このまま彼女を見ていたかったが、なんとなくそれは失礼な気がしたからだ。俺もこの状況を少しでも心に刻もうと、重なる唇へと意識を集中した。  
 どれくらい経ったのだろう。ずいぶんと長い時間こうしている気がする。  
 そんなことを彼女も思ったのか、俺の顔を押さえていた手がゆっくりと離された。そのまま、今度は俺の肩に置かれる。そして、そっと俺の唇から彼女が離れた。  
 彼女の許しを待たずに、俺は目を開ける。  
「ふーっ」  
 彼女は目を閉じたまま、大きく深呼吸をする。それはとても満足しているような、そんな顔だった。  
 やがて彼女の目が開かれ、愛しい我が子を見る母親のような、そんなやさしい笑顔を俺に向けた。  
「おどろいた? ごめんね、急に」  
 驚いたのは確かだが、別に悪い気はしない。むしろ、嬉しかった……かな。なんでだろう。  
「なんで、その……キス、を?」  
 キス、という単語を言うのが、妙に恥ずかしかった。  
「うん……」  
 彼女はそう言うと、押し黙ったまま下を向いてしまった。なにかを考えているようだ。  
 またしても長い沈黙が訪れ、場を支配していく。俺は逃げ出すわけにもいかず、ただひたすら彼女の言葉を待った。ひとつ、気がかりなことがある。彼女の作ってくれたサンドイッチだ。冷めちゃったかな? もったいない。  
 
 やがて、考え込んでいた涼宮さんが口を開いた。  
「キス……すれば、冷めるかな? って思ったんだけど……。やっぱダメみたい」  
 そりゃそうだ。俺の知る限り、キスに解熱作用があるなんて聞いたこともない。むしろ、熱が上がる気がする。  
「なんか……」  
 そう言って、下を向いたままだった涼宮さんが顔を上げる。  
 その顔には先程までの優しい笑顔はなく、釣り上がった眉に不敵な笑みを浮かべていた。  
「さっきよりも、余計に体が熱くなっちゃったわ」  
 やっぱりな。さて、どうしたものか。やはり病院に連れてったほうがいいのだろうか。  
「あんたのせいよ? 責任とってよね」  
 お、俺のせい? 俺がなにしたってんだ。キ、キスしてきたのはそっちじゃないか。  
「うるさい!!」  
 俺の反論を一喝すると、俺の腰に両足をからませてきた。  
「なっ」  
 俺の言葉を無視して、足で挟んだまま俺の腰をぐいっと引き寄せる。  
「ちょっ」  
 そのまま、今度は勢いをつけて上半身を俺に預けてきた。  
「うわわっ」  
 床に膝立ちの姿勢だった俺は、そのまま後ろへ押し倒される。  
「ぐっ!」  
 とっさに頭を支えたおかげで後頭部の直撃は避けられたが、背中を強打してしまった。目の前がチカチカする。  
 涼宮さんは両手を伸ばしてカーペットに手を突いていた。俺の腹の上に腰を降ろし、俺の顔を見下ろす形でおおい被さっている。  
「ふっふっふ」  
 怪しげな笑い声を上げたかと思うと、腰を上げて膝立ちになり、床に突いていた手を後ろにまわして、エプロンを脱ぎ始めた。  
 すんなりとエプロンは外され、ポイッと放り投げられる。中からはセーラー服が姿をあらわした。  
 
「あんたのせいだからね……」  
 さっきからそればっかりだな、などと口にはしないが、どうも俺に責任があると自分に言い聞かせているようにも見える。  
 とつぜん、涼宮さんはおもむろに俺の手を取ると、俺の腹の上、またがる彼女の下……つまり、自分のスカートの中へと俺の手を導いた。  
「んっ」  
 俺の手が彼女のスカートの中でなにかに触れたとたん、彼女の口から小さく声が漏れた。  
「どう? 熱い……でしょ?」  
 確かに、異常に熱い。さっきの彼女の額の熱さなど比べ物にならない。ってそんなことはどうでもいい。なんでこんな事をするんだ?  
「あんたのせいでこんなに、熱くなっちゃったんだから」  
「……どうすれば、いいんですか?」  
 まるで、俺の言葉を待っていたかのようにニヤっと笑うと、俺の手を解放した。  
 そして再び床に両手を突くと、ゆっくりと下半身を移動しはじめる。彼女のひざが交互に前進し、揺れるスカートが徐々に俺の上を進んでいく。そして俺の顔の手前、俺の首あたりで彼女のスカートは停止した。  
「す、涼宮さん?」  
 俺の問いかけには答えず、彼女は床に突いていた手を戻して背筋を伸ばす。  
 そして、両手でスカートのすそを握り、ためらうこともなく、ゆっくり上へと上げていき、彼女の真っ白な下着が俺の目の前であらわになった。  
 なんのガラもプリントもない、真っ白な綿の下着。上のほうに、小さな黄色いリボンのようなものがポツンと付いている。  
「舐めて」  
 へ? なに……を?  
「いいから舐めなさい!」  
 そう叫ぶやいなや、俺の顔の上に腰を下ろしてきた。  
 
「んむ!?」  
 口も鼻も塞がれてしまい、息ができない。苦しくなった俺は、そのまま大きく息を吸い込む。  
「んぁっ!」  
 同時に彼女がかん高い声を上げ、めくられていたスカートが落ちてきた。そして、俺の視界が真っ暗闇になる。苦しいが、なんとか息はできるようだ。  
「ねぇ、もっと匂ってよ。お願い、そうしてくれたらこの熱も冷めるかも」  
 どういう理屈だよ? と言いたかったが、顔の上に座られているためなにも言えなかった。  
 俺は言われるまま、鼻で息をするように、彼女の匂いを嗅ぐ。  
「ふふ、まだ帰ってからシャワー浴びてないんだけど……どんな匂い?」  
 汗の匂い、ツンと鼻にくるアンモニアの匂い、それとは別のなにか解らないが、とても良い匂いがする。  
 そして、それらを吸い込んだ瞬間、全ての脳細胞が一気に覚醒するかのような感覚とともに、俺の中でなにかが音を起てて弾けた。  
「うーん、反応がないんじゃつまんないわね。いいわ、次は――」  
 俺は彼女の言葉が終わるのを待たずに、手をスカートの中に差し入れると下着をずらし、彼女の秘部に口を押し付ける。  
「ひゃっ! ちょ、ちょっと」  
 入り口は既にしっとりと濡れていた。俺は押し付けた口を大きく開くと、舌で全体を舐め上げる。  
「んぁぁっ」  
 彼女の口から快感に悶える声が発せられた。が、俺は、まだまだ攻撃を止める気はない。  
 次に俺は、次第に蜜が漏れ始めている彼女の穴に口を押し付け、穴の中のものを全て吸い出すかのように、おもいっきり吸い込む。  
「んはあぁぁぁ!」  
 スカートの上から俺の頭を掴む彼女の手に力が入る。  
 今度は舌先を穴の中へ入れるように軽く押し込みながら、両手で左右に広げてクリトリスを露出させる。  
「はぁ、あんっ、そこ、んっ、いいっ」  
 俺の舌の動きにあわせて、彼女の声が漏れ始めた。  
 俺は穴を攻める舌をいったん止め、そのまま露出させたクリトリスを口全体で覆うように包み、舌先を左右に素早く動かしてクリトリスを一気に刺激した。  
「っ! なにこれっ!? だめだめだめだめぇ、くるぅっ! あああぁぁぁぁぁぁ!!!!」  
 家の外にまで聞こえそうな絶叫を上げると、俺の頭を掴む彼女の手が小刻みに激しく震え、絶頂に達したことを俺に伝える。  
 声を出し切ると、ゆっくりと前のめりに倒れ込み、カーペットに顔から突っ伏した。  
 ようやく解放され、彼女のスカートの中から顔を出し、新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込む。空気がうまい。  
 涼宮さんを見ると、おしりを突き出す格好で崩れ落ちていた。秘部はスカートで隠れて見えないが、そこから流れ出た彼女の透明な液がふとももを濡らし、それが蛍光灯の光を受けて怪しい光を放っている。  
 
 そんな涼宮さんをぼーっと眺めていると、「ぶぶぶぶ、ぶぶぶぶ……」と奇怪な音が聞こえてきた。何事かと音のするほうを見ると、俺の通学カバンの方から聞こえているようだ。  
 急いでカバンを開けると、俺の物らしい携帯電話が振動していた。出てもいいものか? っと考えてみたが、俺の携帯なんだから出てあたりまえなことに気づいて、ポチッと通話ボタンを押す。  
「夜分遅くにすみません。今日お会いした古泉です」  
 古泉……。ああ、確かそんな名前の男前が保健室にいたな。  
「どうしても急ぎの用がありまして、いますぐ外へ出ていただけないでしょうか?」  
 反射的に、まだ気絶したままの涼宮さんを見る。なんとなく、今ここを離れるのがもったいない。  
「今すぐじゃないと、ダメですか?」  
 急ぎの用らしいが、もう少し待ってもらえないものかと聞いてみる。  
「……ええ、はい、申し訳ありません。なにぶん急を要することでして……」  
 俺の言葉に驚いているのか、しどろもどろだ。涼宮さんもそうだったが、俺の言葉使いは変なんだろうか?  
「わかりました。じゃあすぐに行きます」  
「お、お願いします」  
 さて、名残惜しいが外へ出るか。俺は冷えたサンドイッチをひとつ口に咥えると、気絶している涼宮さんに毛布をかけてそっと部屋を後にした。  
 
「やあ、どうも」  
 玄関を開けて表へ出ると、さきほどの電話の相手が制服姿のまま爽やかな笑顔で立っていた。後ろには黒塗りのタクシーが止まっている。  
「どうも、古泉くん。で、急ぎの用ってなんですか?」  
「……ええ、実はあなたに関わる重大なことでして」  
 まただ、また俺の言葉に驚いている。今度は表情が見えるから、爽やかな笑顔が一瞬歪むのがはっきりと見て取れた。  
「俺に関わること? 俺の記憶喪失となにか関係があるんですか?」  
「はい、まさにそれです」  
 記憶を取り戻す方法でも判明したのだろうか?  
「それで、あなたに一緒に行っていただきたいところがありまして。どうぞお乗りください」  
 そう言ってタクシーの後部座席を指し示す。どこへ連れて行こうというのだろうか。  
「あまり時間がありません。詳しいことは移動しながらお話します」  
 急かされるようにタクシーに乗り込むと、古泉も続いて乗り込み、暗闇に向かってタクシーが走り出した。  
 
「これから長門さんの家へ向かいます」  
「長門……」  
「おや、解りませんか? 小柄な女性でやや無口な。確か保健室では本を読んでいました」  
 ああ、あの保健室に入ってきたと思ったら、何も言わずに本を読み出したあの子か。  
「で、なにをしにいくんですか? こんな時間に」  
「あなたの記憶を取り戻すためです」  
 俺の記憶が長門さんの家にでも転がっているのだろうか。  
「もう一人、朝比奈さんも既に長門さんの家にいるはずです」  
「朝比奈……」  
「……保健室でメイド服を着てらっしゃった女性ですよ」  
 ああ! あの一人だけコスプレしてリンゴを剥いてた人か。そういえばかなり可愛かった気がするな。そうか、朝比奈さんか。  
 古泉はひとつ咳払いをして再び話し出した。  
「あなたの記憶を取り戻すのに、彼女達の力が必要なんです」  
「力……ってまさか、俺が記憶を失ったときと同じくらいの衝撃を、もう一度頭に与えるとかですか?」  
 俺の言葉が変だったのか、古泉の笑顔が消え去って呆気に取られた顔をしている。  
 しばらくすると、「くくくく」と腹を抱えて笑い出した。  
 
「なにが可笑しいんですか」  
「いや、失礼。そうですね、あなたが我々に関する記憶も全て失っている事を忘れていました。安心してください。決してそのような乱暴なことはしませんよ」  
 そう言って、再び爽やかな笑顔を俺に向ける。  
 なにをするのかは解らないが、少なくとも暴力的なことはしないようで安心した。  
「ん? ちょっと待ってくださいよ。記憶を元に戻す方法があるなら、なぜすぐにやらなかったんですか? 保健室にその二人もいたじゃないですか」  
 古泉は俺の質問を予期していたのか、口をさらに横に伸ばすと、身振り手振りを交えて優雅に答えた。  
「実は、少し前まで彼女達と相談していたんですよ。あなたの記憶を取り戻す方法。いつどこであなたが記憶を失ったのか。また、あなたの記憶を奪った人の動機、について」  
 奪った……人? どういうことだ、俺は誰かによって記憶を奪われたのか?  
「それらを調べるには少々時間が必要でした。その間の時間稼ぎの意味も含めまして、あなたには涼宮さんの家に行ってもらうことにしました。まあ、あなたを家に泊めると言い出したのは、涼宮さん本人でしたけどね」  
 涼宮さんが俺を家に泊めたがった? 俺の記憶が戻るまで、日替わりで順番に泊まるって話じゃなかったのか。  
「涼宮さんにあなたを預けるのも考え物だったんですが、記憶を失ったあなたを自宅に帰せば、あなたのご家族に余計な心配をかけるだけですから」  
「家族? 俺に家族がいるのか!?」  
「ええ、ご両親、妹さんともにご健在ですよ。安心してください。僕の方で、あなたの自宅に『今日は友達の家へ泊まる』と伝えておきました」  
 俺は古泉の襟に掴みかかった。  
「どこだ? どこに住んでる? 今すぐ向かってくれ!」  
「……それはよしたほうがいいでしょう」  
「なんでだよ! 家族の顔を見れば思い出すかも知れないじゃないか!」  
「今のあなたが戻っても余計な混乱を招くだけです。我々なら必ずあなたの記憶を取り戻せる。そして、それ以外の方法では記憶を取り戻せません。今は、記憶を取り戻す事だけを考えてください」  
 俺は力なく古泉の襟を放した。  
「絶対だな?」  
「保障します」  
「家族のもとへ……戻れるんだな?」  
「必ず元の生活へ戻してみせます。我々としても、あなたがこのまま記憶を失ったままでは何かと困りますしね。それに、僕個人としても」  
 そのとき見せた古泉の表情は、とても頼りがいがあるような、そしてどこか安心するような、そんな笑顔だった。  
 
「あ、キョンくん!」  
 タクシーを降りた俺達にセーラー服姿の女性が手を振ってかけよってきた。  
「えっと、朝比奈さん? ですよね」  
 メイド姿しか見たことがなかったので、すぐに誰だかわからなかった。暗がりだし。  
「むぅ! 私のこと覚えてないんですか? ひどいです!」  
 愛らしい満面の笑みが、ほっぺたを膨らまして拗ねた顔になってしまった。それでもなぜか可愛らしい。  
「まあまあ、朝比奈さん。彼も悪気があって忘れてるわけじゃありませんし。普段の彼なら、あなたの事を忘れるわけないじゃないですか。本当に記憶を失っているんですよ」  
 すかさず、古泉が助け舟を出して俺を救ってくれた。  
 朝比奈さんも納得したのか、膨れていたほっぺたが徐々にしぼんでいく。それでもまだ不満らしく、眉がちょっと釣り上がったままだ。  
「長門さんは中ですか?」  
「あ、は、はい。私はその……なんとなく、長門さんが苦手なので」  
 古泉の問いかけに答えると、朝比奈さんが落ち込んだように下を向いてしまった。二人は仲が悪いのだろうか?  
「では行きましょうか」  
 そう言って古泉は、分譲マンションへと向かっていく。朝比奈さんも古泉の後を追うようについていく。そして、俺も金魚のフンと化して二人の後を追いかけた。  
 玄関口で、古泉が慣れた手つきで部屋の番号を押す。しばらくして室内マイクと繋がったのか、サーっというノイズが聞こえた。  
「彼を連れてきました」  
『……入って』  
 古泉との素っ気ない会話の後、玄関のガラス戸が音もなく開く。「どうぞ」というような素振りで、古泉が俺を中へと先導した。  
 俺達はエレベーターに乗って、無言のまま数字盤を眺める。やがてエレベーターは七階で止まった。  
 そのまま廊下を歩く。古泉の足が708号室の前で止まり、インターホンを鳴らした。  
「どうも」  
「……」  
 音もなくドアが開き、中からこれまたセーラー服の長門さんが姿をあらわした。どうも皆さん制服が好きなようで。  
 長門さんは無言のまま何も答えず、そのまま奥へと行ってしまった。  
 古泉と朝比奈さんは、それがあたりまえかのように部屋へと上がり込んでいく。俺の常識が変なのか? などと考えてても仕方がないので、俺もさっさと部屋に上がらせてもらった。  
 
「ありがとうございます、長門さん」  
 まるで奇妙なものを見るかのような三人の視線が俺に向けられた。  
 俺達はリビングに置かれたコタツ机に、俺と朝比奈さん、対面に古泉と長門さん、というかんじで座っている。来客である俺達に長門さんがお茶を配り、俺の前にお茶が出されたところでお礼を言ったら先の表情である。  
 俺が保健室で目覚めてから今まで、この、俺の言動に対して周囲が驚くという構図はもはや規定事項であり、無表情な長門さんまでが驚いている。いつもの俺はどんな言葉使いなんだ? 敬語を使わない非常識人なのだろうか。  
「さて、彼にはこちらに向かうあいだに大まかな説明をしてあります。と言っても、事態の確信に触れることはまだです。まずは彼に我々のこと、彼自身のことを知っていただきましょう」  
 司会進行役の古泉が、優雅に身振り手振りを交えてそれぞれに目配せをする。朝比奈さんは真剣な面持ちで頷き、長門さんは無表情のまま首を僅かに縦に動かす。どうやらこれが肯定の仕草らしい。  
「まず、我々は涼宮さんが作ったSOS団という同好会……のようなものに所属しています。もちろんあなたも。保健室にいた鶴屋さんも、正式には所属していませんが準団員と言ってさしつかえないでしょう」  
 鶴屋さん……ああ、あのハイテンションな女性か。となると、あのとき保健室にいた全員がSOS団とやらに関わっていたわけか。  
「団の活動内容は、団長の涼宮さん曰く『宇宙人や未来人や超能力者を探し出して一緒に遊ぶこと』なんですが、今のところまだ一人もみつかっていません。表向きはね」  
「すまん。宇宙人がなんだって?」  
 俺のあたりまえの質問に古泉はニコッと笑うと、隣に座っている長門さんを紹介するかのように掌を返して指し示し、  
「実は、彼女が宇宙人です」  
 一瞬にして空気が凍りついた。が、凍ったのは俺だけで、とんでもない事を言った張本人である古泉はもちろん、朝比奈さんも真剣な顔で俺の視線に頷いてらっしゃる。長門さんは無表情に前を向いたままだ。  
「まあ、いきなり言われても信じられなくて当然です。長門さん、お願いします」  
 古泉の言葉に長門さんはコクンと頷くと、まるでテープの早回し二十倍速みたいな音で何かを囁いて、途端、目の前の光景が瞬きする間に変化を遂げていた。  
「ひぃぃぃぃ!?」  
 悲鳴を上げたのは朝比奈さんで、唖然とする俺の腕にしがみ付いている。  
 さっきまで長門さんの無駄に広い無機質なリビングにいたはずの俺達は、コタツ机を乗せたカーペットに座ったまま夜空に浮かんでいた。  
 目の前には月明かりに照らされた地平線が見え、下を見るとはるか彼方に車のヘッドライトが見える。空を飛べるカーペットか、すごいな。どこで売ってるんだ?  
 
「これほど上空にいるのに、風を感じないのは長門さんのおかげですか?」  
「そう」  
 この異常な状況にさして驚く様子もなく、古泉は冷静そのものだ。長門さんにいたっては自分で入れたお茶をすすっている。  
 俺の腕にしがみ付いたまま泣き叫んでいる朝比奈さんのためにも、俺は古泉に荒い口調で説明を求めた。  
「古泉、いったい何がどうなってるんだ!?」  
 俺の口調に一瞬驚いた顔を見せたが、またしても押し殺したような笑い声を上げる。  
「ふふ、やはりあなたにはその口調が合っていますね。あなたらしい、とでも言いましょうか」  
 そう言うと真剣な顔つきに早変わりした。  
「これこそが、長門さんが宇宙人である証です。一瞬にして我々を高度数百メートルに移動させるなんて芸当を、普通の人間にできますか?」  
「……催眠術か何かの可能性もあるじゃないか」  
 古泉の説明を簡単には信用できず、俺は苦し紛れの抵抗をする。  
 俺の反論にひとつ大きな溜息を突いて、古泉が続けた。  
「記憶を失う前のあなたは、もう少し素直だったんですがね。長門さん、彼にあなたの力を信用させるには、どうすればいいと思います?」  
 古泉の問いかけに目をパチクリさせてしばらく考えた後、長門さんの口が再び高速に動いた。そして一言、  
「つかまって」  
 と言った瞬間、強烈な風が俺を襲った。  
「わひゃー!」  
 朝比奈さんの悲鳴が夜空にこだまする。  
 俺はとっさに机の足に掴まり、吹き飛ばされそうになる体を支える。俺の腕にしがみ付いている朝比奈さんの腕にも力が入っている。  
「遮蔽シールドを解除した」  
 吹きすさぶ風に髪を乱しながら、抑揚のない声で長門さんが説明する。  
「遮蔽シールド!? いったい何を言って――」  
 俺が言い終わらないうちに、今度は地面が消えた。  
 
「うおおおおおっ!!」  
 正確には、コタツ机を乗せたカーペットが急降下し始めたのだ。俺は両手で必死に机の足にしがみ付いて浮き上がる自分の体を支える。  
「ひょえぇぇぇぇ!!」  
 朝比奈さんが俺の腕にしがみ付いたまま、完全に逆さ状態になり、風に涙を撒き散らしながら必死に俺にしがみ付いてくる。  
 古泉も机の足に掴まり逆さ状態になっているが、ニコニコと余裕の表情を浮かべている。長門さんは何事もなくお茶をすすっていらっしゃる。彼女だけ特別な力が働いているようだ。ただ、髪の毛だけが逆さに舞い上がっていた。  
 カーペットはグングン下降し続け、しだいに道路がはっきりと見えてきた。二車線の道路の上をいくつもの光が行き来している。このままだと墜落、もしくは車に轢かれてしまう。  
 道路が目前に迫る。そこへクラクションと共にトラックのヘッドライトが俺達を照らした。ぶつかる――、  
 死を覚悟した瞬間、風の向きが変わった。  
「わきゃあぁぁぁぁ!!」  
 朝比奈さんが奇怪な叫び声を上げて、今度は地面に沿って空を飛んでいる。  
 ぶつかる寸前でカーペットが軌道を変え、今度は道路に沿ってとんでもない速さで疾走し始めた。  
「あひゃっ! みひゃっ! いひゃっ!」  
 走る車の間を直角に曲がって次々と追い越していく。そのたびに俺にしがみ付いてる朝比奈さんの口から奇声が漏れる。  
 振り返って抜き去った車を見ると、ドライバーが唖然とした表情で俺達を見ていた。  
 あたりまえだ。真夜中にコタツ机にしがみ付く四人の男女が、奇声を発しながらカーペットに乗って滑空しているのを見て驚くなと言うほうがどうかしてる。  
「ぐぇっ!!」  
「ふみゅっ!」  
 道路に沿って走っていたかと思うと、今度は真上に急上昇し始めた。俺と朝比奈さんはカーペットにへばり付いて嗚咽を漏らす。  
 カーペットはそのまま上昇し続け、再び高度数百メートルあたりで停止した。  
「……」  
「……」  
 俺は何も言えずにカーペットの上へ突っ伏した。朝比奈さんも俺の背中で伸びている。  
「い、いかがです? 長門さんの力、を理解していた、だけましたか?」  
 聞こえてくる古泉の声からして、こいつも相当ダメージを受けたようだが、自業自得だ。俺は倒れたまま古泉の質問に正直に答えることにした。  
「俺の負けだ。宇宙、人かどうかは解らんが、力、は認める」  
「助かり、ます」  
 疲労困憊、吐き気をこらえながらの俺達の会話の後、  
「そう」  
 という長門さんの声とともに、例の早口音が聞こえ、俺達は長門さんの部屋へと帰還した。  
 
 長門さんの部屋へ戻ってきた俺達は、トイレへ行ったり、洗面所で髪を整えたり、お茶を飲んだり、泣きじゃくったりしながら、それぞれに心を落ち着かせた。  
 
「ぐすっ、はい、私は未来から、ぐすっ、来ました」  
 まだ泣いている朝比奈さんが、未来人であることを俺に明かした。  
 長門さんが宇宙人、古泉が超能力者、朝比奈さんが未来人か。  
「あなた達が普通じゃない、というのはよーく解った。で、それが俺の記憶とどう関係するんだ?」  
 長門さんのように、二人は俺に力を示すために実力行使に出たわけじゃないが、今の俺はたいていのことは信じてしまえるような性格を獲得していた。  
 俺が理解したことに満足したのか、古泉がニッコリと微笑んで応える。  
「つまり、過去に戻ってあなたが記憶を失った原因を我々の力で阻止しよう、というわけです」  
 なんとも壮大な計画だな。次は時間旅行か。  
「じゃあ、俺が記憶喪失になった原因は解ってるのか?」  
「いえ、残念ながら解っていません。解っているのはあなたが記憶を失った時間と、誰が記憶を奪ったか、だけです」  
 俺の記憶を奪ったやつがいる……か。  
「詳しくは長門さんからお願いしましょう」  
 ちょうど湯飲みを口にあててお茶を飲んでいた長門さんの動きがピタッと止まり、ゆっくりとテーブルの上へ置く。一呼吸置いて、長門さんの口が動いた。  
「あなたの記憶を奪ったのは、涼宮ハルヒ」  
 涼宮さんが犯人? そんな素振りみじんも感じなかったぞ。  
「彼女には願いを実現化する力があるが、無意識下でのみその力は発動する。故に彼女自身に奪った自覚はない」  
 俺が記憶を失うことを願った? なんでだ。  
「解らない。ただ、文芸部の部室で情報の改変が行われたのは確か。そして、その時そこにいたのがあなたと、涼宮ハルヒ」  
 じゃあ、どうやって俺は記憶を失ったんだ? 階段から突き落とされたのか?  
「情報の改変が行われたその時間、文芸部の部室上に局地的な閉鎖空間が発生している。その空間は外部からの干渉を一切受け付けないため、何が起こったのかが解らない」  
「そこで朝比奈さんの力を借りて、直接過去に行ってしまおうというわけですよ」  
 黙って聞いていた古泉が割って入り、爽やかな笑顔で話をまとめた。  
 
「みなさんしっかり目を閉じててくださいね、いきます!」  
 朝比奈さんの気合の入ったお言葉とともに、俺を立ちくらみが襲った。  
 前のめりに倒れてしまいそうになり、足を踏ん張ろうとしたが地面の感覚が消えている。やがて前後左右、どっちを向いているのかが解らなくなり、猛烈な吐き気がやってきた。  
 
「着きました。目を開けていただいても大丈夫ですよ」  
 朝比奈さんの言葉にゆっくり目を開けると俺の生まれた場所、つまり保健室に立っていた。あの鼻を突く消毒液の匂いがする。と同時に吐き気がすっと消えていく。  
「ありがとうございます朝比奈さん。いや、実に貴重な体験でした」  
「ユニーク」  
 古泉と長門さんがそれぞれに感想を述べている。何をそんなに気に入ったのか。俺は二度と御免だね。  
 
「今から……ちょうど三十分後、部室で閉鎖空間が発生します。部室へ急ぎましょう」  
 と古泉。このまま行くのか? 制服着てるから怪しまれないかも知れないが、自分に会ったらどうすんだよ。  
「安心してください。我々には、彼女がいます」  
 三人の視線を浴びた長門さんは、  
「まかせて」  
 と、ぺったんこの胸を張って応えた。  
 
 ……どこからか殺意を感じる。  
 
『ほんとうに大丈夫なのか? 俺には普通に見えてるぞ』  
 俺達は長門さんに腕を噛まれ、光学式物質遮断なんとかというものを体に埋め込まれて現在部室へと向かっている。  
『大丈夫。誰にも見えていない。信じて』  
 どうも透明人間になっているらしいが、俺には廊下を歩く生徒はもちろん、古泉達の姿も普通に見えている。確かに通り過ぎる人に見られていない気もするが、たんに見てないだけかもしれん。  
 とそこへ、見覚えのある長い黒髪の女性、鶴屋さんが前から歩いてきた。  
『ひぃ』  
 朝比奈さんが小さく悲鳴を上げる。  
 俺達は廊下の壁にへばりついて、通りすぎるのを待つ。長門さんは廊下の端に寄るものの、壁に張り付かずに堂々としている。ほんとに大丈夫か?  
 鶴屋さんがニコニコしながら俺達の前に差し掛かる。  
 長門さん、通過。古泉、通過。俺、通過。朝比奈さん、通……。朝比奈さんの前で、ピタリと鶴屋さんの足が止まった。  
『ひえぇぇ』  
 自分の前で突然足を止められた朝比奈さんが怯えきった悲鳴を上げる。そして鶴屋さんの顔がゆっくりと朝比奈さんの方へと向いていく。  
『はわわわわ……』  
 鶴屋さんは、まるでまぶしいものを見るように目を細めて見えないはずの朝比奈さんをじーっと睨みつけ、朝比奈さんに向かって一歩進んだ。  
『ひょえぇぇ』  
 止まらずさらに一歩。  
『ぎょえぇぇぇ』  
 鶴屋さんが進むごとに朝比奈さんの奇声が発せられるが、声は聞こえていないようだ。  
 どんどん朝比奈さんへと近づいていき、鶴屋さんの顔が、朝比奈さんの顔に、ぶつかる――、  
「鶴屋さーん」  
 廊下の反対方向から過去の朝比奈さんが鶴屋さんを呼びかけた。  
「お、みっくるー!」  
 それに応えて鶴屋さんが手を振って過去の朝比奈さんのもとへと駆けて行く。  
『ふえぇぇぇ。これだったんだぁぁ……』  
 朝比奈さんはずるずると力なく廊下に座り込んでしまった。  
「なにしてたんですか?」  
「あっははっ。なんか、みくるがいるような気がしてさー」  
「へ? 私ですか?」  
「だよねー! 気のせい気のせいっ!」  
 鶴屋さんは豪快に笑うと過去の朝比奈さんと一緒に去っていった。  
『どうなってんだ、鶴屋さんに気づかれてたぞ』  
『偶然。彼女の勘がするどいだけ。統合情報思念体の科学力は宇宙一』  
 どこぞのナチスのような台詞を吐くと、長門さんはさっさと歩き出した。古泉と俺は、腰の抜けてしまっている朝比奈さんを抱えて長門さんの後を追った。  
 
『どうやら、まだ涼宮さんもあなたもいないようですね』  
 文芸部の部室になんとかたどり着き、ドアを開けたが誰もいなかった。  
 部屋の中央に長テーブル、奥の窓際にパソコンの置かれた机、ドアの横には朝比奈さんの着てたメイド服とその他。ヤカンやら何かのゲーム盤と、いったい何の部室なのかと疑問になる物の多さだ。  
『この時間のあなたと涼宮ハルヒは、現在校庭でマラソンをしている』  
『もうそろそろ終わってここへ来ると思われます』  
 長門さんと古泉はいいコンビだな。などと考えつつ、俺達はその時を待った。  
 
「あちー」  
 最初に入ってきたのは、手提げ袋を持った制服姿の、涼宮さんの部屋に貼られていた冴えない顔の男、つまり俺だ。  
 おもむろに部室へ入ってきた過去の俺は額の汗をぬぐい、手にしていた荷物を長テーブルの上へ置くと窓際のパソコンが置かれた机へと向かう。俺達も何をするのかと後ろから覗き込んだ。  
 過去の俺が操作するパソコンのモニターに映し出されたもの、それはメイド姿の朝比奈さんの写真だった。  
『これはこれは』  
 古泉がアゴに手をやりながら、ニヤついた顔をする。  
『ど、どういうことですか? なんで私の写真があるんですか? どうなってるんですか? キョンくん!』  
 釣り上がった眉に真っ赤な顔をした朝比奈さんが俺に詰め寄ってくる。俺に聞かれても困りますよ朝比奈さん。おい、どうなってんだ過去の俺!  
 
 過去の俺は朝比奈さんの写真を次々と表示させていく。ある写真で「うーん」と唸ったかと思うと、別の写真では「違うな」などと呟く。そして、何枚目かの写真で「やっぱこれだな」と言って手の動きが止まった。  
 俺はとてつもなく嫌な予感がした。なぜかは解らんが俺の本能が危険だと告げている。  
 俺は過去の俺を制止しようと手を伸ば――、  
『おっと』  
 古泉に後ろから羽交い絞めにされてしまった。  
『離せ古泉! 俺はこいつを止めなきゃならんのだ!』  
 俺は古泉の腕を振りほどこうとした。が、どういうわけか全く体が動かない。  
『あなたの動きを封じた』  
 封じるな! 頼むから止めさせてくれ!  
『過去の自分への干渉は、メッ! です』  
 朝比奈さんの叱る顔も素敵だな……。って違う、そうじゃない! 俺がダメならあなたでもいいから過去の俺を止めてくれ!  
 俺の叫びもむなしく、過去の俺が股間に手をやりズボンのジッパーを降ろし始めた。  
 
 ――検閲――  
 
「ふう。そろそろ飯食いに戻るか」  
 用を成した過去の俺は軽い足取りで部室から出て行った。  
 古泉に羽交い絞めにされ、長門さんに動きを封じられた俺は過去の俺を止められず、俺の知らない過去の自分とは言え、あられもない姿を一部始終見られて俺は真っ白に燃え尽きていた。  
『ユニーク』  
 何がだい? 長門さん。大きさか? 大きさなのか?  
『いつもあんなに激しいんですか?』  
 頼むから忘れてくれ。それより古泉、さっきから俺の尻に当たる硬い物はなんなんだ?  
『キョンくんが私で……いつもあんなことを……』  
 最悪だ。もう最悪だ。本人を前にして写真でやるなんて……全てなかったことにならないものか……。  
 
「あっついわねー」  
 過去の俺が去ってすぐ、大きなビニール袋を下げた制服姿の涼宮さんが部室に入ってきた。  
 なんとも気だるそうな表情で窓際に向かうと、窓を全開にしてパソコンの置かれた席に腰掛ける。そして、ビニール袋からパンを取り出すとむしゃむしゃと食べ始めた。  
『来ましたね。さあ、まもなく閉鎖空間が発生するはずですよ』  
 古泉がそのときが近いのを告げる。俺達はそれから一言も喋らずに、長テーブルから涼宮さんの行動を観察した。  
 涼宮さんは最初のパンを数秒で食べ終わると、袋から二個目を取り出す。これもあっという間にたいらげると三個目へ。続いて四個目。五個目。六個。七……。  
 十個目をペロッとたいらげたところでペットボトルを取り出し、一気に飲み始めた。  
『今日は小食なようですね。暑いからでしょうか』  
 小食!? どんな胃袋をしてるんだ。  
「ん?」  
 ペットボトル三本を一気に飲み干した涼宮さんがこちらに目をやり何かを注視している。やばい、気づかれたか?  
 窓際の席からスタスタとこちらに歩いてくる。俺達は蜘蛛の子を散らすように散開した。  
 長テーブルの横で歩を止めテーブルの上をじーっと見つめる。その視線の先には、過去の俺が忘れていった手提げ袋が置かれていた。  
「キョン? あいつ来てたのかしら」  
 袋に書かれた名前を見た涼宮さんが呟く。しばらく袋を睨んでいたかと思うと、おもむろに袋を開けて中のものを確認し始めた。何かやばいものでも入っているのだろうか?  
『中に朝比奈さんの写真でも入れてるんですか?』  
『俺が知るわけないだろ』  
 俺の当然の回答に古泉は肩をすくめる。朝比奈さんは頬を真っ赤にして下を向き、長門さんの冷たい視線が俺を凍りつかせる。  
 
「……」  
 涼宮さんは何をするわけでもなく袋の中を覗いて固まったままだったが、とつぜん、部屋の中を確かめるように周囲を見回し始めた。そして視線が窓際で止まると、ダッシュで駆け寄り、カーテンを乱暴に閉めた。  
 カーテンを閉めると全速力で長テーブルに戻り、おもむろに、なんのためらいもなく、袋の中へと顔を突っ込む。涼宮さんは袋の中に顔を突っ込んだまま微動だにしない。  
 十秒ほど経っただろうか、涼宮さんの肩がプルプルと震えだした。  
「ぷはーーっ!!」  
 袋からガバッと顔を上げると、空気を肺いっぱいに吸い込んで留めていたかのように一気に息を吐く。息を留めていたのが苦しかったのか、顔が真っ赤だ。  
 涼宮さんは大きく息を吐き終えると、立ちくらみでもしたのかふらふらと腰から崩れ落ち、そのまま後ろに引いてあったパイプ椅子へと踏ん反り返るように腰を降ろした。  
「……」  
 何も言わずに真っ赤な顔で天井を見上げ、思考が停止でもしているのか口が開きっぱなしで、放心状態だ。  
 しばらく椅子に座ったままボーッとしていたが、思考回路が復旧し始めたのか天井を向いていた顔がゆっくりと袋へ向く。そして再び袋へと手を伸ばした。目がまだ虚ろなままだ。  
「……」  
 無言のまま袋の中に手を突っ込むと、そーっと中の物を持ち上げて、自分の顔に押し付けて目を閉じた。  
「キョンの……匂い……ん」  
 袋の中から取り出されたのは、過去の俺がつい先程まで着用してマラソンをしていたと思われる、汗を大量に吸い込んだ体操服だった。  
 
「キョン……キョン」  
 涼宮さんは体操服を顔に押し付けながら俺の名前を囁き、右手で胸を触り始めた。  
 しだいに涼宮さんの声に彩が帯びはじめ、胸を触る手が制服の下から差し入れられる。  
「んっ、そう、もっと優しく……」  
 体操服の匂いを嗅ぎながら、直に胸を揉む手の動きがその激しさを増す。  
「はぁっはぁっはぁ……」  
 息遣いも荒くなり、彼女の中で興奮が高まってきていることを如実にあらわしている。  
 胸をまさぐる手が動きを止めた。そしてゆっくりと、名残惜しそうに制服の中から手を抜き出す。しかし、その手がこれから向かう場所で更なる快楽を与えてくれる事を解っているのか、その速さを増して下半身へと伸びていく。  
「ん……」  
 伸ばされた手が膝に触れた。まるで感触を楽しむかのように彼女の手がゆっくりと太腿を撫で、徐々に上へと昇っていく。それに合わせる様に脚も開かれていく。  
「んあっ」  
 手がスカートの奥地へと達っし、待ちわびていたかのように、彼女の口から喜びと戸惑いの混じった声が漏れた。  
 彼女の手により薄い水色の下着が外気に曝され、大きく開かれた脚の間で彼女の指が踊る。まるで弄ぶかのように下着の上から溝をなぞり、時には強く、時には弱く何度も何度も往復した。  
「あふっ、キョン、あんっ、んん」  
 指の動きに合わせて嬌声が漏れる。腰は突き出され、椅子から彼女の下半身が押し出されている。下着には早くも薄っすらと染みが出来ていた。  
「はぁ……はぁ……はぁ」  
 涼宮さんは指の動きを止め、顔に押し付けていた体操服を大事そうにテーブルに置くと、袋の中から別の物を取り出した。体操服の短パンだ。  
 彼女はそれをじっとみつめ、再び顔へと近づけた。そして、俺にも聞こえるほどの音で匂いを嗅いだ。  
 まるで深呼吸をするかのように大きく息を吸い込み、肺の隅々まで吸気が行き渡ると頬を桜色に染めて顔に恍惚の表情を浮かべる。  
「んはーっ! キョンの……キョンのあそこの匂い」  
 そう叫ぶと下着を脱ぎ始めた。だが、興奮で足元がおぼつかないのか脱ぐのに手間取り、もどかしそうに片手で徐々に降ろしていく。彼女の秘部に密着していた部分が離れた時、一筋の透明な糸が伸びていた。  
 片足だけ下着から抜くと、もう片方の足首に下着を引っ掛けたまま、再び腰を突き出す形でパイプ椅子に腰を下ろす。そして、座ったままドアの方に向くように椅子の位置を変えると、片足を上げてテーブルに乗せた。  
 彼女の秘部は毛が薄く、はっきりと見える綺麗なピンク色をしたそこは、まるで成熟した果実のように蜜を垂れ流している。  
「キョン……キョン……キョン」  
 彼女は俺の名を呟きながら手にしている短パンを顔に押し付け、再び匂いを嗅ぐとともに一気に右手で秘部をいじり始めた。  
「んああっ! いい、いいよぉキョン、そこ、そこぉ、んんっ!」  
 激しい指の動きに合わせて卑猥な水音が響く。  
 
『……』  
 期せずして涼宮さんのオナニーを目撃することとなった俺達は、一言も喋ることなく目の前で繰り広げられる光景を、ただただ静観していた。  
 古泉は腕組みをしてニコやかに、朝比奈さんは赤く染まった頬を手で押さえて足をもじもじ、長門さんはどこから出したのか本を読んでいる。  
「キョンっ、キョンっ、ああっ、気持ちいい……気持ちいいよぅ」  
 涼宮さんの指は止まらず、口からよだれを垂らして快楽に酔いしれている。  
 
この後、体操服を置き忘れた事に気づいた過去キョンが部室に取りに戻り、自慰にふけるハルヒを目撃する。そして「すまん」と一言述べて過去キョンが部室を去り、局地的な閉鎖空間が部室内で発生。  
ハルヒの暴走を止められるのは俺だけ、な展開になり、キョンだけが古泉の力を借りて閉鎖空間内へ。入る時に目の前が真っ白になる。視力が戻ると、部室の中ではなく部室の前。世界は灰色。  
部室のドアを開けようとするが開かない。中にいるハルヒが「入ってこないで!」。キョンの説得開始。  
オナニーを見られる恥ずかしさは俺も解る等の会話のあと、キョンが告白。ぶきようだが心からハルヒを想うキョンの説得によりドアが開く。ここで記憶が戻る。  
部室内でキョンとハルヒの熱いセクス。キョンがもとの世界に戻ろうとハルヒに言うが、ハルヒが嫌がる。このままキョンといたい、と。  
安心しろ。目が覚めて現実にもどっても俺はお前が好きだ。お前が拒絶したって俺はお前を離さない。的な台詞を笑顔でキョンが言い、  
キョンの差し出す手にハルヒが手を伸ばして灰色の世界が光に包まれる。  
冒頭と同じ展開で、保健室で目を覚ますキョン。が、ベッドの横にいるのはハルヒだけ。階段から転んで保健室に運ばれたと説明。ハルヒが泣きじゃくりながら死ぬほど心配したとキョンに抱きつくハルヒ。  
泣きながら抱きつくハルヒの頭を優しくなでながらハルヒの愚痴を聞いてやるキョン。ハルヒが泣き止んだところで、抱きつくハルヒを剥がして改めてハルヒに告白するキョン。  
満面の笑みに再び涙を流しながら「私も」という感じでキョンに答えるハルヒ。熱い抱擁。  
そこへ見舞いに来た鶴屋さんを含むSOS団の面々があらわれる。それぞれが皮肉めいた台詞を言って保健室から退散する。キョンがこれから先どうしようかと悩んで、END  
 

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