暗い部屋の中で主人の帰宅を待つ。  
今日はやけに帰りが遅い。  
早くいつものように、頭を撫でてもらいたいのに。  
 
ガチャッ  
あの人が帰ってきた。足音が近づいてきて、部屋の襖が開かれる。  
しかし立っていたのは……二人の女の人だった。  
 
「ひっ!」  
一人が僕を見て絶句する。  
表情こそ無いものの、もう一人もショックを受けているようだ。  
「なんで…こんな…」  
目に涙を浮かべて怯える小柄な女性。  
血のニオイにもひるまずに部屋に入ってきて、僕の側にしゃがむ。  
栗色の髪からは懐かしい香りがした。  
彼女は僕のことを知っているのだろうか。  
「キョンくんっ…キョンくんっ…」  
泣いてすがってくる。  
そこは昨日涼子様に刺された所なので触らないで欲しい。  
「長門さん…早く…」  
立ち尽くしていたもう一人の女性が近づいてくる。  
その人が僕を抱きしめ何かを唱えると、全身から痛みが消えた。  
 
「……もう大丈夫」  
見ると傷が全て消えている。  
息も普通にできるし、ちぎれていた左足もくっついているみたいだ。  
「キョンくん……あ、あたしのことわかりますか?みくるです。」  
抱きしめられている僕の視界に顔を出してくる。  
「……涼子様はどこですか?」  
「えっ……」  
再び少女の目に涙が浮かぶ。  
 
「朝倉涼子は処分した。彼女はここには帰って来ない。」  
……何を言っているのかわからない。  
「私の責任。」  
抱きしめる力が強くなる。  
「記憶と人格の修復が終わるまであなたの面倒を見る。」  
その時、僕の頬に滴が落ちた。  
栗色の髪の少女が横で目を丸くしている。  
「絶対に……守るから」  
見上げると、無表情な顔の上を涙が伝っていた。  
 
もう僕は何をしたらいいかわからないし、この人が誰かもわからない。でも……  
この人と一緒にいたい。そう、思っていた。  
 
終わり  

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