ノックもなく、扉を開け仁王立ちで室内を睥睨した。そして仁王立ちのまま自らの素性を語った。  
それらは全て既知の情報でさしたる驚きもなかった。驚きというものをインプットされていない  
というのもあるが。  
大股開きでズカズカと私の前まで歩いてくる。そこで初めて本から視線を外し首だけを動かし彼女を  
見た。これまで得た視覚情報と変わらない彼女がこちらを睨んでいた。この目で見るのは初めて、  
と言う事になるだろう。  
違和感があった。未来の私と同機したとき得た情報とはまるで違う。見た目ではない何かが違うようだ。  
我々に言わせればノイズ、この星の言語に直せば感情、であろうか。  
じっと睨んでくるその瞳はなにも映していないようだ。  
「あなたは、だれ?ほかの部員は?ここは本当に文芸部?」  
矢継ぎ早の質問。私はそれに的確にかつ簡潔に答えていった。  
「ふーん、あなたしかいないんだ」  
若干考える仕草をとる。そして――  
「でさ、ここってさ何か変な事件とか、変な人物に関わりがあるとかない?」  
彼女から発せられるノイズが変わった。私にはそれを言語化する術をもたない。ただ、それは未来の  
情報に合致したものと思われた。  
彼女からの問い、答えは知っている。私は普通の人間ではない、それにこれからここはそういう人達  
が集まる。だがそれは彼女が知ってはいけない事。入手してはならない情報だ。  
だから私がここで発すべき言葉は、  
「…ない」  
「…そう」  
彼女にしては簡潔な返事だった。それ以上の追究もなかった。  
ノイズを確認した、渦を巻く砂嵐のような。それは彼女の中にある葛藤なのだろう。非日常的な事を  
追い求めようとする心とそんな事は無いと否定する心との。  
「まぁいいわ、で文芸部って何するとこ?本読んでればいいの?」  
首肯をした。  
実際には文を書く事も文芸部の活動だが、ここはもう文芸部ではないのでそれでいいであろうと判断  
した。  
「ここの本勝手に読むけど、いいわね」  
首肯。  
彼女は棚から適当に選んだ本をパイプ椅子に座り終了時間まで大人しく読んでいた。  
時折聞こえた呟きは全て、小説の主人公に向けた羨望の声であった。  
これが彼女とのファーストコンタクトであった。  
別れ際に彼女は、  
「文芸部は私の性に合わないわね。でも、この部室なんか知らないけど居心地がいいのよね。  
 また来てもいい?」  
首肯。  
「うんじゃ、またね」  
私は知っている、彼女がまたここに来ることを。私は知っている、ここが彼女にとっても私に  
とってもそして彼らにとっても大切な場所になることを。  
でもそれはこれからの話、私はまだ体験していない。  
 

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