「火のないところに煙が立った話・第二部〜いわゆるひとつのスケープゴート〜」  
 
それは、突然のことだった。SOS団か文芸部のどちらかの客と見られるその男は、ノックもせずにドアを勢いよく開け、  
「キョン、いるか?!」  
俺を見るなり近づいてきた。俺はといえば、朝比奈さん特製の温かいお茶を今まさに飲もうとしているところだった。それを邪魔された格好となり、その男の名を口にするのさえ忘れていた。  
「あら、垣ノ内じゃないの。」  
その男の名を口にしたのは、団長机に陣取るハルヒであった。普段クラスでは俺以外の人間とほとんど口を利かないわりに、クラスメイトの名前は覚えているのか。ハルヒのそんな一面に感心したのもつかの間、  
俺は垣ノ内の言葉で自分がクラスの連中からどう見られているのかを知らされることになった。  
垣ノ内の話は所々意味不明なところがあった。穴掘り名人とか。なので要約してみると次のようになる。  
1、俺とハルヒは付き合っていてすでにやることやっている。  
2、にもかかわらず俺が瀬能に色目を使っている。  
3、ポニー萌えの俺がさらに由良にも手を出そうとしている。  
 
人の目というのは恐ろしい。いつの間にこんな噂を立てられていたのだ。もちろん、1〜3、どれも身に覚えがない。ポニー萌え、というのは当たっているが。  
「そんなおまえに瀬能は渡さん!俺は今から瀬能に告るからな!」  
そんなことを俺に告白されても。垣ノ内は一方的に捲し上げ、俺に反論の機会も与えず、いいたい事をすべて吐き出すと去っていった。まったくここには普通の客は来ないのか。  
 
『前門の狼、後門の虎』  
 
ということわざがある。俺は今まさにその状況になっていた。垣ノ内という狼が去ったものの、SOS団部室の中に虎がいたのだ。  
バアン!  
「キョン!どういうこと?」  
暗黒のオーラをまとった団長が、机を叩いて立ち上がった。  
 
「どういうこともなにも・・・」  
そのとき、俺に向けられる非難の目が、ハルヒだけでないことに気づいた。  
朝比奈さん、長門、そしてなぜか古泉までもが俺をジト目で見ている。これはきつい。  
「キョ・・・キョンくん、本当なんですかっ。」  
朝比奈さん、そんなわけないでしょ。しかし  
「ひっひどいですっ!私はキョン君に胸のホクロの形まで知られている関係なのにっ!」  
ちょっと朝比奈さん、胸を隠すしぐさをしながら何言い出すんですかっ。  
「・・・倒れているわたしを抱き上げ、『眼鏡をしていないほうがかわいい』と言ってくれたのに」  
お、おい長門?無表情な顔して参戦してこなくてもいいからっ!  
「僕はー、」  
おまえは黙れ。  
後門の虎をどうにかしてなだめようとしていたが、ついに最強の虎に襲い掛かられた。団長机から飛んできたハルヒに俺は押し倒され、マウントポジションを取られてしまった。  
「はッハルヒ!落ち着け!」  
俺は血を見ることを覚悟した。しかし俺の皮膚には透明な液体が伝った。  
「ぐすっ・・・ずずぅぅ・・・」  
「ハルヒ?」  
ハルヒの目から大粒の涙が溢れ出し、俺の頬を濡らした。  
「ギョン・・・今の、本当なの?うっ・・・ぅ・・・ひっく、垣ノ内の話・・・。」  
「いや・・・だから・・・」  
「うわああん!!キョンのぶぁかぁー!!!」  
大量の唾を飛ばし、大声を上げてハルヒが泣き出した。馬乗りになったままポカポカと俺を殴ってくる。でもぜんぜん痛くない。  
「なんでよー!瀬能も由良もあたしよりかわいくなんかないわよおー!」  
あれ?朝比奈さんたちの話は聞いていないのか?  
「あたしだってもう少し髪伸びればポニーにするわよっ、ひっく」  
どうやら垣ノ内の話で止まってるみたいだ。なだめるのが少し楽になる。  
ハルヒはずっと俺をポカポカ殴っているが、たまにみぞおちに入るからだんだん効いてくる。俺はハルヒの両腕をつかみ殴るのをやめさせた。しかしハルヒよ、垣ノ内の俺とお前がデキいてやることやってると言う話に対して何も文句言わないのは何故だ。  
「ひっく、ひっく・・・」  
まだ泣いてる。垣ノ内、えらい爆弾落としていってくれたものだぜ。  
「なあ、ハルヒ、よく聞けよ。」  
「なによぉっ」  
「俺はいつも放課後どこにいる?」  
「そりゃあ、ここに決まってるじゃないの・・・。」  
「俺がここに居なかったことあるか?」  
「・・・」  
「俺がSOS団をすっぽかして、他の場所で油売ってたことあるか?」  
「・・・ない。」  
「俺が瀬能や由良となんでもない何よりの証拠だろ?」  
俺はハルヒの両腕を離した。もう殴ってこない。俺はようやく上半身を起こした。  
・・・ぽすっ  
ハルヒが俺の胸に倒れこんできた。  
「ハルヒ?」  
・・・すぅー、すぅー・・・  
「寝ちゃったよ。」  
泣きつかれたのか安心したのか、規則正しい寝息を立ててハルヒは俺の胸の中で寝てしまった。  
「どうやら丸く収まったみたいですね。」  
古泉がまたいつものニヤケ顔をしてきた。今はつっこむ気力もない。  
「しかし大変だったぜ。」  
ところで、と俺は3人を見る。さっきの俺への追及は、どこまで本気だったんだ?  
「・・・おしおき。」  
無表情の宇宙人が言い返せない言葉を発した。やれやれ。  
 
俺はハルヒの顔についた涙の痕や鼻水をきれいに拭きとってやった。ハルヒを引き剥がそうとしたら、その手が俺の制服をつかんで離さない。しょうがないので目が覚めるまで抱き合ったような格好のままで居る  
ハメになった。目覚めたハルヒは自分が俺に身を任せている状況を理解するや、  
「こ、このエロキョンッ!」  
全身から湯気が出そうなほど真っ赤な顔をして俺を殴った。  
鼻血でた。  
 
その後のことを少し話そう。  
俺の変な噂の出所をいくら垣ノ内に聞いても  
「情報源は秘匿にしなけりゃならん!」  
の一点張り。おまえ、将来記者にでもなれよ。しかし俺には心当たりがあった。『ポニー萌え』である。俺にポニー属性があるのはごく親しい者しか知らない。親しい間柄で、口が軽いやつ。そう谷口だ。  
俺はハルヒにそのことを伝えたが、谷口を問い詰めるようなことはさせなかった。何故かって?それは、ハルヒのポニーテールを再び見れるようになったからさ。だからハルヒの  
「あんの谷口のアホ、階段からでも落ちればいいのよ。」  
と言う言葉が現実になっても、しっかり見舞いに行ってやったさ。  
 
 
〜すこしだけ三部・そいつはそのあとどうなった〜  
俺が垣ノ内にハッパをかけて数日後。垣ノ内と瀬能が一緒に帰る姿があった。どうやらうまくいったようだ。あいつは普段おちゃらけてるが、根はいいやつってことが瀬能も分かったのだな。うんうん。  
キョンの顔に、所々引っかき傷のような痕があることに気づいた。まさか、俺が垣ノ内に話したことでか?すまん、キョン。しかし涼宮がポニーになってるのは何故だ?どこかしらあの二人、前よりいい感じになってる。  
まあこっちも順調なら気にすることないだろ。  
気になるのは谷口だ。なんでも階段から落ちて足を骨折し入院したらしい。谷口の話では誰かに後ろから引っ張られたと言ってるが、そのとき谷口の後ろには誰も居なかったと国木田は言っている。まあ、そんな神様の仕業みたいな事おきるわけないよな。  
 
 
終わり  
 
 

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