全身が青白く輝く、高層ビルより大きな破壊神が無気力に腕を振るう。
その一振りで近くにあった十数階建てのビル何棟かが一気に破壊され、地上数階分を残して瓦礫と化す。
その瓦礫の間を紅玉の光が器用にすり抜けて行き、青白い存在《神人》へと向かっていく。
「好きにはやらせませんよ」
足元から一気に駆け上り、紅玉の光が《神人》に消失の刃を打ち込もうとする。その刹那
「一樹っ!」
横から突っ込んできたもう一つの光にぶつかられ、二つの紅玉の光はそのまま《神人》の横へと飛びぬける。
直後、それまで飛んでいた位置に《神人》の手が振り下ろされた。あのまま飛んでいたら今の一撃を喰らっていただろう。
「すいません、助かりま……」
「何度言われればわかるのですか、一樹!」
古泉の感謝を遮り、助けた紅玉のが氷のような響きで怒声をあげる。
「何よりも自分の命を優先しなさい、これは厳命なのです! わたしが教えた事をもう一度思い出しなさい!
……わたしたちは命がけで《神人》と戦う戦士です。ですが、わたしたちに替えはいないのです。
これは失敗の許されぬ戦い。誰か一人が戦線離脱すれば、戦況は確実に悪化します。
……もしかしたら、戦線離脱した戦士の分だけ新たな補充があるかもしれません。
ですが、それは言い換えれば、新たな一般人にこの能力を持たせて死地へ送り込むと言う事です。
いいですか、一樹。絶対に死んではダメです。倒れる事も許しません。そして、その上で《神人》を倒すのです。
それができて、ようやくわたしたちは最低限の仕事をこなしているという事を、心技体その全てで理解しなさいっ!」
紅玉の中、メイド姿の女性が古泉にキツく言い渡す。だがその叱咤こそがこの女性の師としての教育であり、
また先輩としての激励であり、そして彼女なりの心配であると古泉は知っている。
「ほら、顔がこわばってますよ、一樹。
常に微笑んでいなさい。わたしは一番最初にあなたに教えたはずです。
いついかなる状況でも微笑むのです。そうすれば心に余裕が生まれ、状況を冷静に把握できる……と」
一度自分の顔を両手で叩き活を入れる。
「……見つけたんです。僕がこうして微笑んでいても心配してくれる、僕にとって大切な人たちを」
「そうですか……。おめでとう、一樹。本当に守りたいものができたのですね」
「はい」
微笑みながら力強く頷く。そして決意を灯した瞳を彼女に向けると、はっきりと告げた。
「行きましょう。誰にもできない、僕たちだけができる事をする為に」
「ええ。わたしたちができない事をしてくれる人たちの為に」
古泉に全てを教えた彼女──森はいつもより少しだけ優しく微笑むと、古泉と共に《神人》へのアタックを再開した。