ベッドで本を読んでいると妹がやってきた。
「ねぇキョンくん」
「なんだよ。」
妹は表情こそ普段通りだが明るくはない声色。
少し心配なので注意深く観察してみるものの何も掴めない。
「さっきミヨキチ来てたでしょ?」
「ああ…知ってるがどうかしたのか?」
「『この間はありがとうございました』って伝えて、だって」
「そんなことか。」
なんでこいつを通したんだか。面と向かって言いなさい、とハルヒなら言うだろう。
にしてもこいつは不機嫌そうだな…
「ミヨキチとどこ行ったの。」
「ぷらぷら歩きまわっただけだ。散歩だよ」
「二人で?」
「ああ。」
「デートじゃん。」
………その発想はなかった。
「こないだはハルにゃんと二人で歩いてたくせに」
「…くせに、なんだよ?」
「その前はみくるちゃんとお買い物してさ、」
「だからなんなんだ。」
「その前はユキちゃんと…」
「何が言いたいんだよっ」
少し大きな声で妹の話を遮る。
と、妹が突然ベッドの俺の横に座った。
「……今日ここで寝る。」
「は?」
「………」
妹が顔を伏せている……まさかな。
「…なんとか言えって。」
「………ぐすっ…」
顔を覗き見る。やっぱりか。泣いてやがった。
「どうしたんだお前。何かあったのか?腹でも痛いのか?」
「………」
途端に態度を軟化させた俺に対して妹はうつ向いたまま何も言わない。
「なぁ、おい。」
「…寝るったら寝るのぉ…」
鼻水をすすりながらの返答。
「…なんで泣いてるんだ。兄ちゃんなんか言ったか?」
滅多にない出来事に慣れない対応をする俺。兄ちゃんってお前…柄にもないことを。
それにしてもなんでこいつは泣き出したんだろうな。ミヨキチがどうのこうの言ってた気が…
「……キョンくんあたしのこと嫌い?」
そういうことか。俺もいとこの姉ちゃんに同じようなことして困らせてたなぁ……幼稚園の頃。
小5でやるとは今までこいつとベタベタ引っ付きすぎたかもしれん。
「そんなわけないだろ。」
「じゃあなんでどこも連れてってくれないの…」
「…お前、俺とどっか行きたいのか?」
「………」
コクッとうなずく。
「そうか。どこに行きたい?兄ちゃんが連れてってやるからさ」
寝転がり妹を抱き寄せる。妹もそれに合わせて寝転ぶ。
「…映画とか…お買い物とか…図書館とか…」
「わかったわかった…」
子供を寝かしつける母親がやるように、一定のリズムで
妹の背中にポン…ポン…と優しく触れる。小5の妹にな。
「…キョンくん…最近帰ってくるの遅いし…お風呂…
一緒に入ってくれなくなったし…それと…あと…えっと…」
「ん?」
「…ん……」
寝たか。まったく可愛い寝顔しやがってこの野郎。
…いつか大人になった頃に今日のことを話してやるからな。
などと父親のような気分になりながら俺は明かりを消した。
<終わり>