秋。様々な事をするのに適した季節である。それを示すように、読書、芸術、食欲…っと最後のは蛇足か。  
とまぁ、色々な言葉があるわけだが、今の俺たちが『何の秋』なのかというと…  
「今から第一回SOS団対抗爆裂必殺超卓球大会を始めるわよ」  
スポーツの秋、と言う事だ。  
部活中の卓球部員を追っ払い、卓球場を占拠したハルヒは俺たちに向かってそう言い放ったのだ。  
何なんだその、爆裂必殺超卓球大会とは。ふつーに卓球するんじゃないのか。  
「普通じゃつまんないじゃない。だから、考えたのよ。球を打つときに必殺技っぽい言葉を叫ぶの」  
俺たちは中学生か。高校生がやることじゃないだろ。本気でそんなことしたら周りから白い目で  
見られるぞ。  
「レクレーションよ、レクレーション。なにマジになってるのよ」  
それでも俺は恥ずかしいぞ。  
「分かっていませんね。それが逆に快感になるんですよ」  
黙れ露出狂。俺はお前と違ってごく一般的な人間なんだよ。  
「肝っ玉の小さい男ね。どうりでアレも小さいわけね」  
おい、不穏な発言するな。それに小さくねぇ、普通だ…たぶん。  
それに一言もやらない、と言ってないだろ。  
「ふふっ、そうこなくっちゃ。んじゃ、ルール説明するわよ」  
ルールはさっき言った通りに、球を打つ時に必殺技っぽい言葉を叫ぶこと。叫ばなければ相手に一点、  
だそうだ。サーブミス、打ち返せなかったら当然相手に一点。次のサーブは得点を決めた人から。  
後の細かいルールは無し。まぁ、遊ぶ時の卓球とほぼ同じ、と思ってくれていいだろう。ちなみに、  
10点マッチ、だそうだ。  
「んじゃ、早速一回戦よ!!」  
言い忘れたが、トーナメント戦で一回戦が俺と古泉、二回戦が長門と朝比奈さん、準決がそれぞれの勝者  
決勝戦がハルヒと準決の勝者だ。まぁなんともハルヒらしい組み合わせだな。  
 
 
第一回戦 古泉一樹VSキョン  
 
相手はお前か。ボードゲームでは俺の圧勝だったか、スポーツではどうだかな。  
「サーブは僕からでよろしかったですか?」  
ああ、別にいいぞ。  
「すみません。今日は本気でいかせて貰います」  
そう言い放つと、古泉は目の高さまで球を軽く上げる。  
『ミコサンダー!!!』  
へっ、いまのなに。  
古泉がラケットを振る、と同時に球は視界から忽然と消えた。二回の打撃音が聞こえた後、俺の足元には  
コロコロと転がるピンポン球…。ちょっと待てこの球おもいっきり凹んでるぞ。台の方にもクレーター  
みたいな凹みがあるし。  
「まずは一点、ですね」  
おい、古泉なぜそんなにマジになるんだ。たかだか遊びだろ。  
「…僕には負けられない理由があるんです」  
なんだ、その理由とは。  
「それは…」  
それは。  
「朝比奈さんの揺れるおっぱいを正面から見るor普段無表情の長門さんが汗を掻いてハァハァしてるところを  
 見たいからです!!!」  
白と黒の音のなる車呼ぶぞ!そんなんで本気になるな!!  
「あなたには、僕の気持ちなんて、分からない!!」  
もっと他のところで使えよ、その言葉。今使っても汚らわしいだけだぞ。  
「だから僕は負けられません」  
『デカメロン』  
目に捉えられない位の速さで、古泉の打った球が自陣を駆け抜ける。これで二点目だ。  
「これが僕の力です」  
かっこつけてるつもりか、全然格好良くないぞ。  
次々と俺の横を通り抜ける球を見送りながら俺は思う。こいつならエロ本三つぐらいで俺たちSOS団  
を裏切るんじゃないか、と。  
結果は当然ながら10×0で古泉の勝ちだ。恐るべきはエロパワーてとこか。  
 
 
第二回戦 長門VS朝比奈  
 
俺と古泉の対戦で台がボコボコになってしまったので、新しい台を引っ張り出して第二戦だ。  
長門と朝比奈さんの対戦になる訳だが、どっちが勝つかなんて火を見るよりも明らかだ。来年のペナント  
レースよりも予想しやすい。  
「あ、あの。おてやふぁりゃかにおねがいします」  
噛んでますよ、朝比奈さん。それに少し震えていますし。  
「…」  
長門は無言の首肯を返す。手加減をする事を承知した、という意味での首肯だよな。カードやフィギュアを  
サーチしてる様な目に見えるのは気のせいだよな。  
「で、ではいきましゅ」  
先攻は朝比奈さんだ。おぼつかない手でサーブを打つ。  
『ミクルジェノサイド』  
そんな恐ろしげな名前とは裏腹のスローテンポの球が、長門の陣地へとノンビリ向かう。  
『塞翁失馬』  
それは例えるなら日本人メジャーリーガーのレーザービームだった。長門の返した球は一閃の光となり  
卓球台を抉り、朝比奈さんの顔のすぐ脇を掠め、壁に減り込んだ。  
おい、なんなんだ今のは。当たったら確実に死ぬだろ。見ろ、朝比奈さんすっかり腰が抜けて、地面に  
へたり込んでしまってるじゃないか。  
「わたしは相手がなんであれ決して手を抜かない」  
大層御立派な決意だが、今日ぐらいは手加減してくれ。兵力二百の領地に一万近い兵で攻め入るような  
まねはやめてくれ。たのむ。  
「…決して、彼女の胸が大きいからではない」  
それが本音か。  
「ふぇ、き、きききき棄権しますっ!!わたしの負けでいいですからっ!!!」  
ハルヒのことだ即却下、って事もありえると思った。が、予想に反して長門の不戦勝を認めた。流石に  
アレは危険と判断したのだろう。開いた口が塞がらない状態だったしな。  
 
 
準決勝戦 長門VS古泉  
 
長門の不戦勝で、準決のカードは長門対古泉になった訳だが、三方が原に出陣した徳川軍並みの嫌な予感  
がする。ここまでに卓球台を二台壊しているからな、何事も無く終わって欲しい。だがしかしたぶん無理  
だろうな、この二人じゃ。  
つーわけで、三台目を設置して準決勝、開始だ。  
「あなたとは一度本気で戦ってみたかったのです」  
「奇遇、わたしも同じ」  
「ならばお互い」  
「遠慮は要らない」  
「己の持てる力その全てを」  
「今この戦場に」  
なんなんだこのバトル漫画のような展開は。  
「サーブは僕からで」  
「どうぞ」  
「古泉一樹推して参る」  
「長門有希ただここにあり」  
『幼女礼賛』  
古泉の繰り出した弾丸ライナーが長門の陣地を襲う。地を舐めるかのような低い球、常人では反応出来ない  
速度、まさに必殺の一球だ。  
『徐如林』  
が、そんな一撃必殺の球でも長門にとっては止まっているも同意義なのだろう。一切無駄を省いた華麗な  
一振りをもって難なく返した。  
「流石は長門さん。でもそうでなくては」  
古泉も今の一撃で点を取れるとは思っていなかったようだ。すでに球の前に陣取っている。  
『卑猥契約論』  
古泉の返した球は長門の陣地でワンバンし高く、天高く舞い上がった。このまま降下して一点、そう古泉も  
俺たちもそう思っていた。だがそうじゃない奴がいた。  
「それも予想済み」  
長門だ。長門は既にジャンプしていた。球が上昇をやめ自由落下するその空域に既にいた。  
『動如雷震』  
まるで雷だった。長門の振り下ろした一撃は。空中から古泉の陣地を襲い、そのまま台の外へ。  
「戦は干戈を交える前に決する。わたしの勝ちは変わらない」  
…何か本格的に訳が分からなくなってきたな。一応断っておくがこれは卓球の試合だ。もはや別物だがな。  
何はともあれ長門に一点である。  
 
「長門中務大輔有希、参る」  
「古泉兵部少輔一樹、御照覧あれ」  
…なぜ名乗りを上げる必要があるのだろうか。しかもその官名は何なんだ。  
『白馬非馬』  
長門のサーブは速度こそあったものの、球筋の読み易い普通の打球だった。まあ、その球速こそが問題で  
常人では反応すら出来ないだろうな。  
「…様子見ですか」  
『ヒンヌゥストラ』  
球速はそのままで、弾き返す。  
『朝三暮四』  
長門も難なく返す。それをまた古泉が返し、長門が返し、古泉が…とラリーが始まる。  
しばらくは試合も動かぬだろう。ひとつ確認したい事があったのでハルヒに話しかけた。  
本当にこの二人のどっちかと戦うのかよ。  
「え、あ、当たり前じゃない!!」  
…本当に戦いたいのか。  
「ええ、今すぐにでも乱入したいぐらいよ」  
…じゃあ、足が震えているのはなんでだ。  
「む、武者震いよ。そんなことも分からないの」  
足オンリーの武者震い何て初めて聞いたぞ。  
「そんなことより試合をみるの。あたしは決勝の戦略を立てないといけないの!!」  
そう言って、この話はもう終わり、とばかりに俺の顔をから視線をはずす。お前は気付いてないかも  
しれないが、終始、目を見開きっぱなしだったぞ。  
なんとも分かりやすい奴だ。なんとかこの一戦で終わらないかね。ハルヒの事もあるが、それよりも  
憂慮しなければいけないのは、今も長門と古泉の手でボコボコになってる卓球台だ。すでに二台を  
スクラップにし三台目のスクラップも順調に完成へと向かってる。誰が弁償するんだよ、これ。  
などと確実に余計ではない心配をしてるうちに、長門と古泉のラリーは決着間近になっている。  
球を左右に返され、揺さぶられる古泉。対して長門はその場から一歩たりとも動いてない。つまり、  
古泉の返した球はすべて長門の前一点に収束しているのだ。…長門ゾーンとでも呼べばいいのか。  
「もうあなたは終わり。このまま朽ち果てるのみ」  
『無為自然』  
左右に大きく走らされて息も絶え絶え、シャツは汗でぐっしょりと濡れている。どうみても古泉の劣勢  
だが顔にはいつもの微笑。不適な笑みを浮かべていた。  
「いえ、終わるのはあなたです」  
『羞恥論二篇』  
「!!?」  
まさか、こんなところで長門の驚く顔を拝められるとは思わなかった。神様仏様古泉様…は言い過ぎか。  
とにかく、古泉の返した打球は長門の前には行かずに大きく右に反れた。あの長門ですら想像しえない事  
俺たちの驚きってものがわかるだろう。  
「なぜ!?」  
「ただ打ち返したのではありません。少し球に回転をつけて返しました。変則的な回転を掛けられた球は  
 接地時に力を歪められ爆発。結果はご覧の通りです」  
日本語をしゃべれ。意味不明の説明するな。それっぽい事を言えばいいってもんじゃないぞ。  
「わたしの策にかかったのは…わざと」  
「その通り。…油断はもっともしてはいけないことですよ、長門さん」  
「…次からは一球でしとめる」  
「僕も同じ手が使えるなんて思っていません。こちらも一球必殺でいきます」  
 
 
長1−1古  
同点となり振り出しに戻った、準決勝戦。この後も取った、返したを繰り返す。詳しくは割愛させて頂く。  
決してめんどくさくなったわけじゃないぞ。実況する気が失せたのだ。あまりにも常人離れした戦いにな。  
そんな訳で、ついに得点は9−9。つぎを取った方が勝ち、決勝戦に進めるのだ。  
「これで決まりますね」  
「そう。そして勝つのはわたし」  
「いいえ僕です」  
睨み合う二人。まさしく竜虎相打つ、か。そんなオーラが観えた気がした。  
サーブは長門から。高く球をあげ上段で打つ。見るものを魅了する華麗なフォームだが、それテニスか  
バトミントンの打ち方だろ。大体サーブの打ち方じゃないだろ、スマッシュじゃないかたぶん。  
『上善若水』  
虎狼の如き打球。鋭き一閃だがどこか精彩を欠いてるようにも見えた。  
「いまさらこの様な球。僕の勝ちのようですね」  
『ニートピア』  
ラケットが空を切る音がする。がそれ以上はなにも聞こえない。  
「えっ!?」  
長門の陣地にも、床にも、ピンポン玉はなかった。無論長門も打つ返す素振りも無く、古泉に背を向けて  
いた。すでに自分の勝ちが決まってるかの様に。  
消えた打球。古泉は打ってない、長門の陣地に無い、床にも転がってない、では…  
「流れを堰き止めた水は力を内に溜め」  
…あった。古泉の陣地に減り込んでいた。  
「その力の解放とともに一気に」  
減り込んだ球は微かに胎動し、その力の解放を待っていた。  
「爆発する」  
爆ぜた。としか言い表せない。  
減り込んだ球は、弾丸となり外へ飛び出し古泉の脇を抜けた。長門の勝ちが決まった瞬間だった。  
 
 
はてさて、もはや卓球ではなくなったような二人の試合だったが、結果10−9で長門の勝ち。  
決勝戦はハルヒVS長門だが…アレを見てもまだやるのか。  
「ここで引くようじゃ、末代までの恥よ」  
言って聞くような奴じゃないし、一度言い出したらテコでも動かんし、どうしたらいいんだ。すでに台は  
四台目だし。誰か助け舟出してくれ、呉でも越でもいいからさ。  
引っ込みが効かなくなったハルヒを見送るがほんとどうしよう。などと考えてると背後から肩を叩かれ  
名前を呼ばれる。一体誰だよ。  
 
「有希、手加減しなくていいわ」  
「愚問」  
「そ、そうね」  
「早く始める。サーブはあなたから」  
「わ、分かってるわよ」  
「その言葉これで五回目」  
よかった、まだ始まってないみたいだな。  
おい、中止だ中止。  
「何でよ」  
「…」  
ハルヒはともかく長門まで不満顔か。ま、いい。兎に角俺は後ろの人物に道を譲る。  
「何をしている!!」  
俺の後ろにいたのは、卓球部顧問の教師だ。ま、見た通りの熱血体育教師だ。  
「部員達に聞いて駆けつければ、なんだこれは。すぐに中止しろ」  
おい、折角来た助け舟だぞ。追い払ったりするなよ。  
「……」  
「ってなんだ!?卓球台をこんなにして。生徒指導室に…」  
「…退却!!!」  
その言葉をきっかけにして我がSOS団の五人は一目散に校舎目掛けて逃走した。  
「おい待て!お前達!!!」  
結局、顔がばれてたので後日呼び出しをくらったが。まぁ停学とか、退学にならないで済んだのでよかった  
と言えるか。内申点を引かれてなければいいがな。  
兎にも角にも、第一回SOS団対抗卓球大会は優勝者が決まらないまま幕切れとなった。無論、後日改めて  
試合などなく、第二回大会も開かれる予定もない。俺もそのほうがいいからな。  
 

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