その日、掃除当番で遅くなった俺を部室で迎えたのは、脚立に登ったハルヒと  
それを支えるSOS団一同…というかなり頓痴気な光景であった。  
 
おいハルヒ、そこは見晴らしがいいのか?  
「来る早々、何バカなこと言ってんのよキョン!蛍光灯の交換よ、蛍光灯の交換」  
ああ、そう言えば昨日から少しチカチカしはじめていたっけな。  
しかし、そういう作業はてっきり俺に押しつけるもんだとばかり思っていたが、  
自分でやるとは、やっぱり何とかは高いとこが好きなのか。  
「本当はあんたにやらせるつもりだったんだけどさ、ちらつく蛍光灯見てたらもう  
イライラしちゃって、さっさと行動に移しちゃったのよ。あんたも、とっとと支える!」  
へいへい。今日ばかりは、掃除当番様々だな。  
 
…うっ。  
うちの高校はスカートが短くねぇかとつねづね思っていたが、脚立の下に立つと  
かなりやばいぞ、これは。何でジャージとか穿かないんだハルヒ。  
「キョンくん、上を見ちゃ駄目ですよぅ」  
分かってますよ、朝比奈さん。それにしても、あなたが登ってハルヒに支えさせた方が、  
よっぽど腕力がありそうなもんですが?  
「こんな高いとこ、私、怖くてダメです」  
怖がるほどの高さにも思えませんが…朝比奈さんらしいと言えば、らしいですね。  
長門…は、リーチが足りないか?物理的に手が届く必要もない気がするが。  
その長門はというと、脚立を支えた手の親指で文庫本をはさんで、器用に読んでいた。  
「…なに」  
いや、よく落とさないもんだと思ってな?  
「…コツがある」  
そうかい。  
 
「はい涼宮さん、次の蛍光管いきますよ。これでラストですね」  
待て古泉、何だよその蛍光管の大箱は?  
「これですか?生徒会の備品室から出してもらって来たんですよ」  
ははぁ、あの生徒会長氏とまた結託したか。便利がいいな。  
「ええ、下の商店街まで行かずにすみました」  
 
「よーし、完了!古泉君、スイッチ点けて!」  
「了解しました」  
そそくさと壁ぎわに移動した古泉がスイッチを入れると、天井の蛍光灯が  
いっせいにパパパパパッと点灯する。うおっ、まぶしっ。  
「うわぁ、明るいですねぇ」  
「…読みやすい」  
「やっぱり全部いっせいに新品に入れ替えると、気分がいいわねぇ」  
何でお前がそんなに得意げなんだ。そんなに胸を反らしちゃ、ほら、危ないって!  
 
「きゃ!」  
脚立の上のごく狭い面積から、ハルヒの重心がわずかに外れた。  
あわてて踏ん張る朝比奈さんと長門の功績で脚立は倒れないものの、  
ハルヒの姿勢を立て直すにはいたらなかった。  
ハルヒの背中が、ぐんぐん目前に迫ってくる。やべぇ!  
 
…ボスッ!  
思わず差し出した両腕の間に、うまい具合にハルヒの尻が落ちてきてはまった。  
左腕に背中を、右腕にヒザ裏を、そしてハルヒの全体重を胸で受け止める形で、  
俺は何とかハルヒの落下阻止に成功した。もちこたえろ、俺のヒザ!  
勢い余ってそのままハルヒを今度は横方向へ放り投げそうになったので、  
あわててがっしりと抱き戻す形になったのは、そう、不可抗力というやつだ。  
ハルヒの全身の意外な柔らかさと温もり、そして腕の中にすっぽり収まっちまった  
小ささにドギマギしちまったりなどしてはおらん、と天地神明に誓うぜ。  
 
「…ナイスキャッチ」  
「「おおーー」」パチパチパチパチ。  
たぶん、コンマ何秒のことだったんだろう。  
皆の拍手で我に返ると、そこにはハルヒをお姫様抱っこしている俺が  
突っ立っていたって訳だ。何たる公開羞恥プレイだ、これは。  
 
あー。えーと…まぁ、無事でよかったなハルヒ。もう目を開けても大丈夫だぞ。  
ハルヒときたら、ギューッと目をつぶって、身を固くして縮こまっているのだ。  
たぶん息も止めているな、時間ごと止めてるつもりか。本当にやりかねんのだが。  
「え?あ?…ああ、キョン…」  
おそるおそる目を開けたハルヒは、自分の体がどこも痛くないのに気付いて安心したか、  
ホーッと溜息をついて体の緊張を解き、そのまま俺の胸に頭をもたせかけてから  
イヤイヤそうじゃなくて、と跳ね起きた。  
「ばっ、バカキョンッ!お、降ろしなさいッ!」  
顔を真っ赤にして、人の腕ん中でバタバタ暴れるんじゃない。あんがい重いんだぞ。  
「重いとか言うなー!」  
だから暴れるなと言うに。落とすぞコラ。  
 
その後のハルヒはえらく寡黙になってしまって、一人でさっさと先に帰ってしまった。  
天井一面の蛍光灯の総取っ替えなんて、ま、いつものSOS団の一日に比べれば、  
生産性に溢れた実り多い日ではあったな。  
「そういえば長門、さっき実は重力制御とかしてくれてたのか?」  
「ちょっとだけサービス… でも、ほとんどあなたの実力。称賛に値する」  
「そぉですよぉ、私、感心しちゃいました。キョン君すごいですぅ」  
「涼宮さん、淋しかったんですかねぇ…」  
おいそこのニヤケマン、唐突に何を言い出すか。  
「いえ、最近、スキンシップが足りてなかったんじゃないのかなぁと思いましてね」  
何でもかんでも、あいつが自分で起こした出来事のように言うのはよせよな。  
「でも、すごく満足げでしたよ涼宮さん?僕も、今週はバイトがなさそうで嬉しいです」  
脚立から落ちて嬉しいヤツなんかいるかよ。お前の言うことは、さっぱり分からねぇ。  
 
「あなたも、満更でもなさそうですが…」  
うるさい、黙れ、却下だ。  
 
<了>  
 

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