1 
 
3月末。桜の季節を迎えた頃。 
ハルヒ教官殿のご講義のおかげで無事2年へと進級できた俺は、 
新学期が始まるまでの猶予期間をのんびりと過ごしていた。 
 
いや、本当にのんびりと過ごしたかったんだがなあ。 
 
「遅い、罰金!」 
ハルヒの叫び声がする方を向くとすでに俺以外のメンバーは集合していた。 
毎度思うんだが、何分前に来ればこの4人よりも早く着けるのだろうか。 
 
それはさておき今回の集合場所はいつもの駅前ではない。 
以前、長門と一緒に行ったあの中央図書館である。 
 
ハルヒ曰く 
「これだけ捜して見つからないなんて絶対におかしいわ!  
 そうよ! 根源的な知識が不足してるんだわ。まずは文献からアタックよ!」とのことで。 
南側を捜索する際に――大抵、長門と一緒になったら――暇つぶしにここを使っていたのだが、 
最近は5人固まって行動する事が多く、ここしばらく図書館を利用した事が無かったのである。 
どおりで長門の目が普段よりも3カラットほど輝いて見えるわけだ。 
 
「今日もキョンのおごりだからね!」とハルヒが言った後に俺たちは図書館に入った。 
中へ入るとすぐさまハルヒは朝比奈さんを連れて過去の新聞を漁りに行った。 
「では僕も少々見ておきたいモノがありますので」と言いつつ古泉は西洋文献の方へ、 
「……私はこっち」長門は科学か。うれしいと歩き方が軽やかになるのは気のせいか。 
俺はいつものように一眠り……とはいかないので適当に探しているフリをすることになる。 
 
入ってから一時間ほど経ったであろうか、 
館内をぐるぐる回ってるうちに日本史のコーナーに来ていた。 
ただうろついてるのも何だし、何か適当な本を選んで落ち着きますか。 
 
「えーと、源平、太平記、戦国、江戸文化……」 
いろいろと指で追っているうちにふと誰かの手と取ろうとしている本が重なる。 
なんだこの3流ラブコメの展開はと思い、未熟ながらも淡い期待を抱いてそちらを向くと―― 
 
 
 
 
 
2 
 
「なによ、その『ああ、なんだ』って顔は」 
手を重ねた相手は何てこと無い、ハルヒだった。 
「お前は朝比奈さんと新聞を見てたんじゃなかったのか?」 
「駄目駄目。もう、これといって変は記事はないしどれもありきたりだったわ」 
思ったよりも収穫がなかったと落胆していたようで、仕方なく他の文献から探す事になったようだ。 
「で、キョンはなにか収穫があったの?」 
「いまからその本を読もうとしてたとこだ」と信長の本を指した。 
 
男の子は少なからず征服者というものに興味を抱くものだ。 
平原の覇権を争い、旧友と争った中国の武帝や今まさに読まんとしている信長。 
敵国から奪った姫を父王が見ている前で絶頂せることは格別とか言った大ハーンとか 
野望に惹かれる、何って言うんだ、男が男に惚れるってヤツがあるんだよ。 
 
「ふうん、キョンにしては以外ね。貪欲そうにないから」 
悪かったな。こう見えても人並みに野心とか言える物はある。 
「な、なに言ってるのよキョン。私はそうそう安い女じゃないんだから!」 
「別にお前をどうこうしようって話じゃないだろ」 
 
他愛もない会話を繰り返すと、ハルヒが質問してきた。 
「じゃあさあ、キョンに人並みの野心があるって言うなら一つ聞いていい? 
 キョンが大名の家臣で、みくるちゃんや有希、もしくは私が姫様だったとして 
 あなたは姫様をどうしようもなく好きになってしまう。けど姫様はすでに他国の嫡男との婚儀を決めている。 
 その状況の中でキョンは下克上をしかけてでも、その姫様を奪ってくれるの?」 
そんな松永久秀が聞いたら笑い転げそうな下克上を俺がしかけるとでも思っているのか? 
ああいうのは斉藤道山しかり入念な準備をしてから行うものだ。一時の感情で動いてはいけない。 
 
……のだが、朝比奈さんや長門、そしてハルヒが姫様なら下克上してもいいかなあ。 
 
そう考えていたら急にハルヒの表情が驚きに変わった。 
どうした、何をそんなに驚いた顔をしているんだ? 
何事かと思い後ろを振り向くと、本棚が俺たちの方に傾いてるではないか。 
 
 
 
3 
 
 
本棚の中間地点にいた俺たちはそこから逃げ出す事は不可能に近かった。 
考えるよりも早く俺はハルヒを抱きしめて庇うようにしてその場にかがむ。 
「なに、ちょ、変なとこさわら」とハルヒがわめいてる。 
 
黙ってろ、と思ったのか俺はハルヒの唇を自分の同じもので塞ぐ。 
「んんンn――――!」 
当然黙らすので舌を入れるようにして、もはやディープキスと変わらない。 
落下してくる書物を背中に受けながら俺の舌はハルヒの中を無造作に動く。 
ハルヒの息が荒くなっていくのがわかる。だかこのときの俺はそんなこと気にも留めていない。 
 
すでに落下は収まっていたのかもしれない。だけどなぜか俺の暴走は止まらなかった。 
ハルヒを抱きしめながら、熱く深いキスをしながら俺は彼女の膨らんだ乳房を揉みしだく。 
「んぁぁ!」 
彼女が嬌声を上げながらよがる。そんなことはお構いなしに俺の愛撫は止まらない。 
 
ハルヒの声が俺をさらに熱くする。だが息が苦しくなってきた。 
 
ふと唇を離して深呼吸をしたときに俺はようやく自分がしている事に気がついた。 
 
 
「ハルヒ―――」 
「……キョン……」 
互いに目を見開きながら、興奮した面持ちで互いを見つめていた。 
俺の頭から本がずり落ちる。二人とも行き絶え絶えでぜえぜえ言っている。 
俺は自分が犯した行動を恥じており、罪悪感の虜であったが、ハルヒの顔を見て気を持ち直し 
とりあえずここを出ようと、何も言わなかったが目で合図して俺たちは本棚のトンネルを潜り抜けた。 
 
 
トンネルを抜けるとそこは人ごみでいっぱいだった。 
朝比奈さんは今にも泣きそうな顔をして俺たちに駆け寄り言葉にならない言葉で俺たちを心配していた。 
長門も普段は絶対見せないような悲しそうな顔をしており、「……よかった」と呟いた。 
その後、係員の方が駆けつけて深々と謝罪しており念のため救急車を呼ぶ事になった。 
 
「古泉君は?」 
とハルヒが言った時に俺はやつが居ないことに気がついた。 
俺も不思議に感じ、古泉がいないかと思い辺りを見回した。 
 
 
そしてこちらを向いて悪態をつく人物を見たとき、俺の表情が怒りに変わった。 
 
 
「あの野郎……!」  
奥歯を噛み締め、自然と俺の目線はその延長線上にいる奴を睨みつける。  
忘れもしない、朝比奈さんがみちるだった時に出会った敵意むき出しの未来人がそこにいた。  
睨みつける俺の様子に気がついたのか、奴は俺との目線を合わせる。  
 
これもお前の仕業なのか、何とか言ったらどうだ。  
その未来人は鼻で笑った。「フフン」という擬音が嫌らしいほど似合う。  
そこで俺は確信した。本棚を倒したのが奴だという事を。  
この前の時もそうだ、俺の体の中に苛々が溜まっていくのが判る。  
どうしてお前は歴史の先輩である俺に要らない揺さぶりをかけてくる。  
人はここまで他人を不快に感じるのだろうか。そんな御託は今、どうでもいい。  
朝比奈さんを誘拐するだけじゃ物足りないって言うのかよ。そこのネガティブな空気を噴出する未来人はよ!  
 
一瞬、俺の中で何かが切れたのを感じた。  
「てめえ!」と叫ぶなり奴が立ち去ろうとするのを見逃さず、  
「どけ!」と周りの野次馬どもはモーゼの十戒のように地面を表せる。  
俺の常軌を逸した行動に奴は駆け足でその場を離れようとする。  
 
逃がさん。  
今の俺ならモーリスと鬼ごっこしても捕まえられる気がする。  
奴は正面玄関へと向かっていった。当然俺は奴を追うべく同じ方向へと向かった。  
もしこれが罠で、向かった先に朝倉のような宇宙人が俺を殺すべく待ち伏せしていようとも  
ここで追わなかったらいつ追うんだ、というヒロイズムに似た感覚を抱いていた。  
それよりも森さん、どうして朝比奈さんが誘拐されたときに俺の腕を放さなかったんですか。  
あのときにこいつを殴っていればここまで苛立ちを抱えなくても済んだのに。  
それが反社会的な行為で報復という名の挑戦だったとしても!  
 
出口への曲がり角を奴は軽やかにシフトしていく。  
俺は躊躇わずに「待ちやがれ」と怒号を上げて出口へと向かった。  
袋小路に追い込まれようとも、朝倉なんざ何匹だって出てこいってんだ。  
 
嫌悪感しか発しない未来人、お前は俺を怒らせた。  
だが、このときの俺は頭に血が上っていて自分を見失っていた。  
 
本棚を倒した張本人の胸倉を両手で掴み、壁へとたたきつける。  
チェイスの結末は出入り口に待ち伏せしていた古泉が道を塞ぎ、  
そして俺の後ろから高速移動してきた長門と怒り狂った俺の3人が挟み込んで幕を閉じる。  
 
「てめえ、何てことしやがる!」  
当然であろう、下手したら俺とハルヒは極楽浄土へと旅立っていたからな。  
だが、未来人は臆することなく俺たちに挑戦的な態度を取り続ける。  
「ふ、それはあんたから出る台詞か」  
「どういう意味だ」  
「むしろ感謝してもらいたいものだがね。  
 そもそもあれはあんたがが望んだ状況じゃないのか」  
 
俺の両手はよりいっそう力を込めて相手を締め上げる。  
「あの状況を楽しんでいたじゃないか。それも狂った獣のように。」  
「はっきり言いやがれ、このネガティブ未来人が!」  
「それでははっきりと言わせてもらう。あんたはあの女、涼宮ハルヒに欲情を抱いている。」  
その言葉が放たれると同時にあの事が頭に浮かんでくる。言霊ってやつか。  
ハルヒの目を見開いた驚きと困惑が混在する表情がフラッシュバックしてきた。  
「なんとも思わなかったのか、普通の人間は黙らせるなら手で塞ぐ。」  
胸を愛撫したときのあいつの物とは思えないなまめかしい声が幻聴となって甦る。  
「それをキスで塞ぐとは、僕としては失笑を禁じえなかった。」  
止まらない、止められない。生まれてはじめての性欲の暴走。  
「や、やめろ」  
ハルヒがよがり、声を上げ、快感に酔いしれるのを感じ取り、己の欲望へを変換していく。  
「大衆が騒動に目を向けている隙に二人だけの時間を作り出し」  
「……お願いだ」手の震えが止まらない。  
「愛しき相手を己の色に染めていく。枯れてるようで十分野心家じゃないか」  
「やめろォォ―ッ!」  
 
未来人の高笑いがあたりに響く。  
ああ、久々に切れちまったよ。メーターを振り切った。屋上へいこうか。  
俺は片手を離し、殴りかかろうとする。とびきりのコークスクリューを――――  
 
グイッ!  
その右手を長門が強力に掴んで離さない。  
俺の右手はうんともすんとも言わなくなってしまった。  
「っ、離せ長門っ!」  
「だめ」  
「いいからその手を離せ!」  
「それはできない」  
どうしてだ、こういう奴は殴らなきゃ判らないってお前だって理解できるはずだ。  
「殴ったら」  
そういいかけると、またしても壊れそうな表情で「あなたが壊れてしまう」  
 
俺がコワレル。  
その言葉がスイッチだったかのように俺は未来人から手を離した。  
『俺らしくない』と頭の中でようやくその感情が出てきた。  
一体、俺はどうしてしまったというのか、分からないがどうしようもない。  
けど確かに今日の俺は何か変だ。ましてや人を黙らせるのにキス何て俺がすることじゃない。  
俺はアイツのブレーキ係でなくてはならないのに。ああ、何やってんだろうか。みっともない。  
 
俺の中からドス黒い悪魔が抜けていくと同時に普段の感情が俺に入ってくる。  
「そう、それでいい」  
すまない長門。どうやら俺はまたこの宇宙人の少女に助けられたようだ。  
長門はいつもと違い、しっかりと首を上下させた。  
 
「まったく、この時代は愚か者だらけだ」  
未来人はその態度を変えることはない。  
「では聞きますが、あなた方の今回の目的は何ですか?」  
古泉があくまで紳士的に答えているが目を見開いていて怖い。  
「今回の僕ただのサポートだ。主犯は別にいる」  
「誰だ、その主犯は」  
「あんたに話す義理はない」  
俺はその癪に障る態度を叩き直してやるように殴りかかるが、  
やっぱり長門が、しかも今度は両手を掴んで離さない。ごめんなさいもうしません。  
 
「では、どうしても話す気はないのですね」と古泉は念を押す。  
「いや、ここで僕が今行われている計画を話すのは規定事項だ」  
話をする気ではあるらしい。それならとっとと話せキザ野郎。  
 
俺に代わって古泉が尋問をするので俺と長門は一歩離れて奴が逃げ出さないように見張る。  
「長門、主犯が分かるか?」  
「………」  
と無言で首を縦にも横にも振らずじっと未来人を見ている。  
「おそらく我々と同様の存在が主犯」  
「すると急進派ってやつらか」  
「そうとも言い切れない」  
急進派ではない情報思念体という事は長門の派閥から裏切り者でも出たのか?  
「そもそも我々の派閥の敵対勢力は急進派だけではない。  
 おそらく未来と結託して発言力を持たんとする存在。」  
そこまで長門が話すと急にあたりがグラグラと揺れ始める。  
 
「どうやら始まったようだ。」  
未来人はつぶやくと、捨て台詞と意味深な言葉を残す。  
「機関のあんたに言ったのは全て嘘だ。嘘をつくのが規定事項だからな」  
なんて野郎だ。いやそもそもこいつの言う事を信頼してはいけないのかもしれない。  
「それは心外だ、だがここからは信じていい。これは」  
「規定事項だからか」   
「そうだ、今回のターゲットは涼宮ハルヒではなくキョンと言われるあんただ」  
「俺がターゲットだと?!」  
朝倉でもあるまいし、俺自身はなんの特徴もない一般人代表なのに何故狙われる。  
「何度も聞いてるだろうがあんたは涼宮ハルヒに選ばれし存在だからだ。  
 そしてあんた自身も涼宮ハルヒを選んだ、と言っておこう。  
 どうやら退場の時間のようだ。敵ながら塩を贈らせてもらう。健闘を祈る」  
未来人の男は言い切った後、忽然と姿を消した。  
 
「すごいですね、これが情報思念体が作り出す閉鎖空間ですか」  
古泉が驚いている。見慣れてるだろうに。  
そもそも長門の説明では情報思念体ではないような雰囲気もあるが。  
「まあ、時間遡行とかは仲間外れですからこういうのを楽しまないと」  
おいおい、機関さん。こういう職務態度はどうなんですか。  
 
「……ごめんなさい」  
「どうして謝る?」  
「今回、あなたの力になれない」  
俺の中にある頼り癖を見抜いての発言なんだろうか。  
「いいさ、いつも長門に頼りきりだったからな。  
 今回はゆっくり休んでろ。俺がなんとかする」  
「………うん」  
人間じみた感覚を持ったその返事に俺は安堵した。  
今回は俺に向けての挑戦状だからな。  
 
「キョン!」  
図書館があったであろう方向になんとハルヒと朝比奈さんがいるではないか。  
「あわわわわ、ご、ごめんなさい!」  
朝比奈さんはこの状況を理解したのか、ハルヒに異次元空間がばれてしまったのを謝っているようだった。  
「あんた正面玄関で何してるのよ」  
大丈夫ですよ朝比奈さん。ハルヒは気がついてません。  
しかし不思議だな、俺は変化に気づいてるのにハルヒは全く気がついてない。  
やっぱり俺も、いや俺のほうがこの不可思議な連中の仲間入りしてたのかな。  
あれ、なんか力が入らないぞ。って倒れちまったぞ、おい。  
仰向けになっているとハルヒが寄ってきて俺の名前を連呼する。  
ああ、去年の末もこんな感じだったのだろうか。だんだん視界がぼやけてきた。  
時間遡行するときは目を閉じろって朝比奈さん言ったけど、こいつを眺めながらってのも乙だな。  
「手を伸ばしたら握り返してくれるかな」と思い、手を伸ばす。  
そしてハルヒが俺の手を握り締めたところでブラックアウトした。  
 
 
目を覚ますとハルヒが俺の手を握り締めていた。  
いや、服装が違う。こんなに高価な和服を着たハルヒを見た事がない。  
「恭一郎……よかった。」と俺が知らない名前を呼ぶ。  
「……恭一郎って誰?」  
「名を忘れてしもうたか。谷川恭一郎長龍、それがおぬしの名じゃ」  
俺は何時、戦国武将のような名前を親から承ったんだ。  
「何を馬鹿な事を申してる。時は応仁の乱から四拾年。戦国の世じゃ。  
 おぬしは真の戦国武将なるぞ!」  
 
え、まじですか。これって「あててんのよ」で有名な漫画ですか?  
何か追いつけないんですが、どうやら俺は戦国時代に来てしまったようです。  
よく似てる、どこか違うな、ホトトギス。  
 

楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル