「まったく…誰も彼も最萌最萌とうるさいですね。  
 どうして地球人というのはこうも下らないことが大好きなんでしょうか」  
 
珍しいこともあるもんだな。喜緑がぼやいてやがる。  
放課後の生徒会室。俺と喜緑は二人で資料の整理などをやっているのだった。  
ったく。面倒くせえ。  
 
「これだから下等な有機生命体は…」  
 
いや、お前の目の前に正にその下等生物がいるんだがな。  
反論したところでロクなことにはならねえだろうから無視しておく。  
 
「いっそのこと一千体のTFEIの戦闘団で世界を燃やし尽くしてしまいましょうか…」  
 
おいおい、穏やかじゃねえな。いくらなんでも聞き捨てならんぞ。  
 
「喜緑よ、何をそんなに怒ってんだ?」  
「最萌トーナメントのことです」  
 
そりゃ聞いてりゃわかる。俺が聞きたいのは、トーナメントのどこが  
そんなにお前の気に入らないのか、ということだ。  
 
「すべてです! すべて!  
 わたしにはあれの存在意義がわかりません!  
 違う作品のキャラクターを競わせて一体何が楽しいんですか!?」  
 
俺に怒られてもな。それも人情ってもんじゃねえのか?  
大体、最萌は今に始まったことじゃねえ。随分前から定期的にやってただろうが。  
何を今更ブツブツ言ってんだ?  
 
ここまで考えたところで俺は気付いた。  
 
「…ハハァン。  
 要するにお前、昨日の対戦であの長門とかいう女が負けたのが癇にさわったんだろ?」  
「なっ…!? そんな、そんな個人的なことではありません!  
 わたしはただ、ああいう無意味なお祭騒ぎが我慢できないだけで……」  
「あー、はいはい。わかったわかった」  
 
ごちゃごちゃと言い訳を始めた喜緑を適当になだめる。  
 
「むー」  
 
不服そうに頬を膨らます喜緑。おお、なかなか可愛いぞ。  
他の奴の前でもそういう表情を見せてやりゃあいいのに。  
 
「いいじゃねえか。大事なオトモダチが選挙で負けちまったんだ。  
 相手候補に投票した奴を恨んだってバチは当たらんだろ」  
「…長門さんとわたしは、友達なんかじゃありません。  
 監視対象と目付け役。……ただそれだけの関係です」  
 
そう言って喜緑は顔を伏せた。  
…まったく、どいつもこいつも。俺の周りには不器用な奴しかいねえのか。  
俺は喜緑の頬を両手で軽くつまんで横に引っ張ってやった。  
 
「にゃ。なにしゅるんでしゅか!?」  
 
あまりに間抜けな表情に思わず吹き出しちまう。  
 
「ハハッ。可愛いぞ喜緑」  
 
喜緑は頬を手で押さえながらこちらを睨み付けてくる。  
 
「なっ、なっ! 一体何の真似ですか!?」  
「どうもこうもねえよ。もうちょい肩の力を抜けってこった。  
 いつもいつも作り笑い浮かべてても疲れちまうだろうが。  
 あの長門って奴も、お前がそんなだと警戒するに決まってんだろ。  
 仲良くなりたいんなら、まずはお前の本心を見せてやれよ」  
 
ったく。何を言ってんのかね、俺は。小学生相手に諭してるみたいじゃねえか。  
こんなとこ、古泉の野郎にだけは見られたくねえな。  
 
「でも。今更、どうすれば…」  
 
ちくしょう、そんな顔すんじゃねえよ。見てられねえだろうが。  
俺は自分の鞄を開けると、その底から一本の瓶を取り出した。  
 
「それは…?」  
「いい酒だぞ。バランタイン三十年。  
 今日の昼間、古泉に貰ったんだけどよ。やるよ、お前に」  
「……え? でも、お酒なんて貰っても」  
「ばかやろう。残念会なんてのはな、酒でも飲んでパーッと騒ぐもんなんだよ。  
 あの無表情女が最萌で負けた程度でへこんでるとは思えねえけどな。  
 それを口実に一緒に飲んで、馬鹿騒ぎすりゃいいじゃねえか。  
 俺の経験則でいくとな、酒を酌み交わした相手とはまず間違いなくダチになれんだよ」  
 
しばらくの間、喜緑はキョトンとした顔で俺の方を見ていた。  
が、その表情はすぐに笑顔に変わった。  
 
「ありがとう」  
 
喜緑はそう言って、微笑んでいた。  
 
ああ、綺麗だったさ、ちくしょう。  
グッバイ、俺のバラン三十年。だが、やばいな。カケラも後悔してねえ。  
笑顔一つでこれかよ。俺もいい加減ヤキが回ったな。  
 
喜緑は酒瓶を鞄にしまうと、駆け足で生徒会室を出て行った。  
早く長門に会いたいんだろう。この時間ならもう一般の生徒は下校してるだろうから、  
多分あの女の家まで行くんだろうな。ご苦労なこった。  
 
で、俺はと言えばだ。  
一人生徒会室に残って、猛烈に後悔中だ。いや、酒をやったことじゃねえぞ。  
 
「キスの一つでも、してやりゃあよかった」  
 
てことさ。  
まさかな。あんな笑顔見せられて、それで体がすくむなんて思ってもみなかったのさ。  
仮にキスまではしないとしてもな、あれを見りゃ抱きしめるくらいするだろ、俺よ。  
 
「……待て待て。  
 俺の周りに不器用な人間が多いのは、まさか類友っつーんじゃ、ねえだろうな」  
 
俺の独り言に、勿論答えなど返らなかった。  
 

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