原点回帰、とでも言うのだろうか。  
山と詰まれたゲーム盤の一番下から発掘したオセロに興じているのだが。古泉の強さがいきなり  
スパコン並みになるわけでなし。今日もいつも通り盤面が黒く染まっていくだけであり、結局  
何の変化もない、毎日繰り返される光景である。  
そんな中唐突に古泉がこう切り出した。  
「結構、経験があると思いますが。秋が近くなると合体トンボが発生致しますよね」  
いきなり何を言い出すんだこいつは。しかも合体トンボなんて初耳だぞ。  
「小さいころは、合体トンボ合体トンボ、ってよくわからないけどテンションが上がりましてね、  
 石投げて分離させたり捕まえようとしましたり、ですけど……」  
あーなんとなく分かった。ようするに交尾中のトンボの事か。  
「アレって人間で言いますとセ「黙れ!それ以上言うな!!」」  
「やっとのお思いで成虫に成りまして、寿命の短い虫にとりましては一度あるかないかのチャンス  
 です。それを何も知らなかったとはいえ…」  
戯言をそこまで言うと一度きり、うつむく。何か考えている様だが、どうせろくでもないことだろう。  
「…オノレニンゲンドモメ…」  
え、今の何。考えるのは勝手だが、口に出すのはやめた方がいい。と思わず老婆心が出てきてしまった  
ではないか。  
「人間って罪深いですよね…」  
そんなことで、前線で戦って人間の醜さを嫌と言うほど知った兵士のような発言をするな。  
「そう考えるとあれね」  
あ〜あ、ネットサーフィンに興じてたハルヒまでしゃしゃり出てきちまったじゃねぇか。これ以上  
頭痛の種を増やすな。  
「世の中にはびこる呪いや心霊現象の原因のほとんどは、合体トンボの怨念が生み出したものと  
 言えるわね」  
言えるわけねえだろ。菅原道真とか平将門とかに申し訳ないだろ、トンボの怨念にされたら。  
「僕が友達がいないのも、はぶられるのも、ホモにされるのもきっとその所為ですね」  
…そうだといいな。  
 
そんなくだらない話をしていると唐突にドアが開けられた。何の挨拶もなしに入ってきたのは長門。  
今日は珍しく一番乗りで無かった訳だが、まあ掃除当番かなんかだったんだろう。と、言うかノック  
ぐらいしてくれよ、ビビるじゃないかまったく。  
と、何だその抱えてる箱は。上に穴が開いていて手紙を投函するポストみたいだが。  
「目安箱よ」  
目安箱って言うとアレか八代将軍が設置した。  
「そうよ、メールが来ないからこういうアナログな方法を採ったわけよ」  
初耳だな。  
「僕もですね」  
「んま、今までは苦情が多かったからね」  
「なるほど、いままで我々はかなり破天荒なことして参りましたからね」  
「ほとんど八割方が古泉くんへの苦情、というか悪口だったけどね」  
コレも合体トンボの所為だといいな、古泉。  
「あとの二割はキョンと古泉くんはどこまで進んでいるかって質問ね」  
…コレも合体トンボの所為だといいな。  
「まあ、上に立つ人ほどねたみ、そねみは免れないものだから気にする事ないわ」  
誰が上に立つ人間だ。  
「そうです、逆に言えばそれだけ目立って気になる存在って事です。幸運に思わねば」  
気になるっていうか気に障るだろ。って言うかお前はそれで納得するのか。俺はしないぞ。  
「ちょっとキョン、言いすぎよ。ああ見えて古泉くんは家で泣くタイプだわ」  
意外とナイーブだな。あいつの本性はよく分からんがありえなくないな。孤島とか雪山では  
結構へこんでいるみたいだったからな。  
「そんなことより、有紀なんかきてた?」  
「…あった」  
そう言い長門は投書の山から一枚の紙を迷うことなく選び出した。混ぜっ返すようで悪いが俺と  
古泉の噂をそんなこと、扱いされたくないんだが。一刻も早く取り消したい。  
 
「えーなになに」  
勿論俺の発言が俎上に上がることなんてないわけだが。  
『最近ルソーが、あっルソーってうちで飼ってる犬の名前なのね。それでね、そのルソーがね最近ね  
 わたしの部屋に入りたがらないの。それでそのね、涼宮さんたちの力で何とか成らないかなってね  
 思ったのね。1−5 阪中』  
「我々にどうしろと!!」  
どうしろって、幽霊退治だろ。どー考えても。  
「ついに来たわ!!こーいうのを待っていたのよ。その幽霊あたしが極楽にいかせてあげるわ」  
おい、お前は一体いくつなんだ。懐かしい台詞をまた。って言うかほんとに出たら如何するんだ。  
「大丈夫だと思います。いざとなったら…」  
思いついたかのように朝比奈さんがここで登場な訳だが。一言言うと朝比奈さんは最初からいたぞ。  
ともかく、朝比奈さんはそう小声で言うと、長門の方を見た。  
あまり無茶をさせたくないが、どうしてもそこに行き着いてしまう。まあ、幽霊なんていないそう  
信じよう。長門も我関せずとばかりに読書に没頭してるしな。  
「とりあえず、本人に会ってみるわよ」  
まあ、今はこいつの退屈が紛れればいいか。これでその阪中と仲良く慣れれば御の字だとも思うし。  
 
 
「失礼します」  
翌日の放課後だ。ハルヒに呼び出された阪中が 文芸部室に来たのは。  
「憑りつきたい!!!」  
おい、開口一番何言ってるんだ、古泉。阪中が脅えてるだろ。  
「ささ、座って座って、みくるちゃんお茶ね。とっびっきり上等なやつ」  
「は、は〜い」  
何事も無かったかのように進めやがった。これ以上話が拗れるのは嫌だが、一応同情しといてやる。  
で、阪中の話だが。自宅で飼っている犬が自室に入るのを拒むようになったのでどうにかして欲しい。  
原因不明、阪中は幽霊の類ではないかと思っているようだった。  
「んじゃま、阪中の家に行くとしましょう」  
別にいいが俺たちに出来る事あるのか。  
「怖いもの見たさとかいうか、遊園地のお化け屋敷へ行く感覚で」  
野次馬かよ!いい迷惑じゃないか。  
「はたまた他人の不幸は何味か、とか?」  
本気でそう考えてるのかよ。だったら俺は意地でも止めるぞ。たとえ世界が崩壊しようとも。  
「冗談よ。冗談」  
目が冗談じゃなかったが。  
「心配しないで、あたしが本気を出せば明日から安眠間違えなしよ!!」  
後になって思う。この時、こいつを止めとけば、と。  
 
 
草木も眠る丑三つ時。遠くで犬の遠吠えが聞こえる。  
ピンポーン  
すっかり寝静まった住宅街に響くチャイムの音。  
「あの…」  
俺たちは公約通りそこにいた。  
「生徒の安眠を守るため、ミッドナイト探検隊参上!!!」  
大声だすな。時と場所を考えろ。  
「あのね、たしかに私、相談したけどね。深夜なのね今」  
「生徒の安眠を守るため、ミッドナイト探検隊参上!!!」  
だから大声出すなって、近所迷惑だろ。  
すまん阪中。俺もさっきいきなり家のチャイムを連打されてな。注意したら家の前で騒ぎ出したんだ。  
本当にすまん。  
「霊現象が起きるのは深夜でしょう。昼間来ても意味が無いでしょ。だから今来ました」  
正論だが、それに常識ってもんを加味してくれよ。  
「深夜に玄関前で話すのもあれですので、ささっ おあがりください」  
お前が言うな古泉。  
「おじゃましまーす」  
おい、お邪魔しますじゃねえだろ。阪中ドン引きじゃねか。あーあ阪中の両親まで起き出したじゃないか。  
寝てるとこ本当にすみません。言い出したら聞かないやつでしてね、はい。  
両親変な目でこっちみてるよ。  
 
「さあ〜てここが今日から僕が住む部屋ですか」  
その口縫い付けるぞ。阪中がすかっり脅えてるじゃないか。  
「んで、そのJJはどこ?」  
勝手にそっちの名で呼ぶな。間違って哲学者が来たらどうする。対応できるのは古泉ぐらいだ。  
とうの古泉はさっきから変な行動をとっているんだが…この変態どこかに捨ててきたいぜ。  
「わかったの。ルソー」  
ハルヒの指示に素直に従って、廊下に向かってルソーを呼ぶ。程なくして小さい足音が近づき  
ふわふわした毛並みの小型犬があらわれる。が、ドアの手前で止まりそれ以上進もうとしない。  
猫だけでなく犬も腰が抜けるんだな。  
「最近ずっとこうなの」  
ふむ、なるほどね。  
「こっ…これは!!?」  
どうした、古泉!?何か解ったのか。  
「黒い下着が…」  
「キャーーーッ!!ちょっとなにするのね!!」  
大阪湾に沈めるぞ、おまえ。一体何してんだよこのムッツリ。  
「心霊現象以外の視点から考えてみるのもいいかもね」  
おい、いまの古泉の行動は無視かよ。だいたいお前にしてみれば心霊現象のほうがいいじゃないのか。  
「たとえばよ。そうね、古泉くんみたいな輩が忍び込んでる、とか」  
怖っ!!そっちのほうが幽霊の何千倍も怖いだろ。もはや都市伝説クラスだぞ。  
「でしたら、幽霊でよかったですね」  
満面の笑みで言うことじゃないですよ。問題は何一つ解決してないし。  
 
はぁ、予想通りだぞ、まったく。やはり一番解っていそうなやつに聞くか。  
おい、長門。何か解ったか?俺にもできることなら手伝わせてくれ。  
「……大丈夫」  
それは何に対する大丈夫だ。  
「危険はない」  
…そうか。と、いうかお前はいつからカレーを食ってるんだ。スプーン銜えながらしゃべるなよ。  
「あっ」  
どうした古泉、大声だして。  
「そういえば…おんぶバッタっていますよね」  
おんぶバッタ 6〜11月ごろにみられる。生息地は主に日本全土と朝鮮半島。それがどうした。  
「アレはですね、親子とお思いでしょうが実は雄と雌なんですよ」  
だからどうしたんだよ。知ってるよそれぐらい。だいたい幽霊騒動と関係ないだろ。  
「ということは…この部屋で起こる心霊現象の原因は…」  
「ええ、その線と考えて間違いありません」  
んなわけあるか!真面目に考えろよ!!  
もうお前だけが味方だ、長門……  
あのー、長門さん。あなたは一体何をなさっておいででしょうか。わたくしの目が黒いのであれば、  
ひとんちのベットに潜り込んですやすやと就寝なさっているように見えますが。  
「有紀が本気になったようね」  
「どういうことなの」  
「つまりね、リラックス状態になって脳からα波を出すことによって破魔の力を出そうとしてるのよ」  
感心してるとこ悪いが、全部口から出任せだぞ。完全に寝息たててるし。  
などとアホなことをしている内に自体は最悪な状況になったようだ。  
長門が寝てしまったあと、突然なにか軋む様な音が鳴り始めたのだ。いわゆるラップ音だ。  
「な、なんなんですか!?この音は」  
「こ、こんなの初めてなの」  
一体何なんだ。まさか本当に幽霊がいるとでも言うのか。長門はこんな状況でも眠ったまんまだし。  
どーしろってんだ。  
「ついに悪霊が暴れだしたのね。あたしの力見せてあげるわ」  
「ええ、こんなこともあろうかと。備えあれば憂いなしです」  
「さあ、どこからでもかかって来なさい!悪霊ども!!」  
ちょっと待て、虫取り網と虫かごで何をする気だ。昆虫記でも書く気か!!  
「合体トンボを採るのよ!!!」  
もうそれはいいっての!!  
「団長!イケないものが採れました!!黒い蝶です!!!」  
ブラだっ!阪中所有の!!鳴門の渦潮に投げ込むぞこの野郎!!!  
 
「もう帰って欲しいのね」  
流石に悪ふざけが過ぎました。  
完全に怒っていたぞ。どーすんだ。  
「ちょうどよかったわ、飽き始めたところだし」  
「ふぁ〜わたしはもう眠いです」  
「充分楽しみましたし、帰って寝ましょう」  
ひでぇっ!  
阪中とは同じクラスだぞ。どうフォローしろてんだ。ほんと頭痛いぜ。  
っと、何か忘れているような…気のせいか。  
 
はぁ〜、こんなはずじゃなかったのね。涼宮さんにお近づきになれると思ったのにね…。  
あのエセスマイルのせいなのね。明日も話せるかな。  
みんなを帰した後なの、そんな事を考えながら部屋に入ったの。入ったはずなのに…。  
「…どこなのね、ここ」  
ドアを開けたらね、地平線の見える砂漠に立ってたのね。おかしいのね、確かに部屋のドアを  
開けたはずなのにね。  
「なんなのね、あれ」  
地平線の方を見ているとね、何かこっちに向かってくるのね。段々大きくなるそれは…  
「…トンボ?」  
三メートル近くありそうなね、とんぼだったのね。  
「え、え、え!!?」  
そのトンボはね、止まることなくこっちにとんでくるのね。もしかして、このままだとわたしに  
ぶつかるのね。あの大きさだと助かりそうに無いのね。もしかして、死ぬ…。  
そんなのいやなのね。こんな訳の解らない場所で死ぬなんてね。まだ涼宮さんと仲良くなっていないしね。  
でもどうしようもないのね。だからわたしは目を瞑ったのね、受ける衝撃を思い描いて身を硬くしてね。  
…でも全然衝撃がこないのね。恐る恐る明けた目に映ったのは…  
「な、長門さん」  
「大丈夫?」  
初めて長門さんの声聞いたのね。  
「う、うん。大丈夫なの」  
「そう…、ひとつ訂正する。コレはトンボではなくメガネウラ」  
そういうとね、長門さんはトンボ…じゃないのね、メガネウラ?の正面で手をサッと振ったのね。まるで  
雑巾で窓を拭くようにね。そしたらね、そのメガネウラ?がね光に包まれて消えたのね。  
なんかもう腰が抜けてしまったのね。  
「もう大丈夫」  
みたいだね。  
「でもこの事は他言無用」  
わ、わかったなの。そのね、そう言った長門さんの目はちょっと怖かったのね。  
 
阪中家訪問からもう数日がたった。すっかり阪中のSOS団に対する心象が悪くなったものばかりと思ったが  
どうやらそうでなかったようだ。あれ以来すっかりハルヒは阪中と仲良くなった。あんな事したのに何で  
なんだろうな、俺には解らん。  
それともうひとつ、長門と阪中が廊下ですれ違うのを見たのだが。なぜか阪中は長門に向かってペコペコと  
頭を下げていた。一体全体なんでそんなことしたんだろうな。  
あと蛇足だが、古泉の評判はさらに低下したらしい。自業自得だろう。  
校舎の廊下を歩くと、窓から暖かな風が入ってくる。もう春も間近である。来年が今年に輪を掛けて  
面白いものになる予感がする。いやそうに違いない。  
などとさわやかな締めだが。そうでもしないと俺がやってけん。察してくれ、たのむ。  
 
 

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