「いかん。ピンチだ」  
 
今朝に限ってシャミセンが俺の部屋にいなかったおかげで、妹の来襲を回避できたものの  
その代償として寝坊をしてしまった。結局朝食こそ何とか腹に収められたがテーブルの上の  
弁当を取り損ねてしまったのだった。明日から妹を目覚まし代わりに使うのはやめる。  
 
さて、どうすべきか。俺は朝ならパンで構わないのだが昼と夜はある程度ちゃんとした  
食事でなければじゃ無ければ満足できないタチなのだ。惣菜パンでなく惣菜そのものを  
白い米と一緒にいただきたい。となれば仕方がない、なるべく余計な散財はしたくないが  
今日は学食で我慢するか。と席を立とうとした俺のところに谷口のアホ面が。  
 
「キョン、お客さんが来てるぞ」  
 
気味の悪いニヤニヤ笑いが空腹の虫を煮え繰り返らせるが、わざわざ俺を尋ねてきたという  
珍しい客人の姿を確かめようと入り口の方に目をやってみる。とこっちを見つめる小柄な  
女子の姿が・・・って長門?  
 
普段文芸部室の置物状態だからすっかり忘れてたが、よく考えたら俺たちは同じ学校に  
通っている生徒同士なんだよな。しかし、放課後になれば部室で結局顔を合わせることに  
なるのにわざわざここに来た訳は?まさかハルヒがまた何かしでかしたのか?  
 
「これ」  
 
俺の不審そうな顔を察したか、長門はさっと何かを突き出してきた。どうやら緊急事態  
ではないようだが、この目の前の風呂敷に包まれた四角い物体は一体何だろう。  
長門と包みに交互に目線を動かしつつ、なかなか二つが結びつかないので判断するまで  
時間がかかったがこれってもしや・・・  
 
「それじゃ」  
 
長門は包みを俺に押し付けると同時に背を向け立ち去っていき、後には呆気にとられて  
アホのように口を開けていたであろう俺だけが残った。  
 
 
 
放課後、速攻で向かったつもりなのだが部屋の主は既にいつもの場所に座っていた。  
ノックもせず入ってきた俺を一瞥すると、いつも通り長門はすぐに本へと顔を戻す。  
 
「よ、よう長門。昼の事なんだが」  
「・・・」  
 
長門は顔をこっちに向けてきた。目と目が合い、気まずい沈黙。何と言うべきだろう。  
ちなみに肝心の弁当の中身はというと、いたってシンプルなこれぞお弁当とでも呼びたく  
なるような代物であった。ただ一つ、なぜか以前カレーと一緒にご馳走されたものと同じ  
キャベツの千切りが多めに入ってたりしたが、味の方はいたって良好だった。  
あえて不満をあげるとすれば谷口らクラスの連中の好奇の視線が妙に気になったくらいか。  
 
長門は俺が弁当を忘れる事を知っててわざわざ持ってきたのか?いや、以前の長門自身の  
発言からしてそれはないだろう。気まぐれ?そんな馬鹿な。ならまさか・・・  
 
俺が何も言わない事を疑問に思ったのか、長門は瞬きも忘れじっとこちらを凝視している。  
長門の感情を読む技術にかけては俺の右に出るものはいないと自負してるが、その目は  
何だか不安そうに見えた。そんな長門を見ていたら余計な事ばかり考えている自分が  
馬鹿馬鹿しく思えてきた。俺が言うべきこと、答えは簡単だ。それは――  
 

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