今も昔もブティックの店員の無愛想と傲慢は変わらない。  
少々なの通った店ほど売ってやると言う態度を取るし、時に無礼でさえある。  
 
この商店街のブティックは、思い切り派手で可愛い服を扱うので、  
女の子達の間ではかなり高名な、店だった。  
同時に女店主の人もなげな応待でも知られていた。  
 
女店主は巨乳グラマー、眉の太さは1センチと言う美貌の対有機生命体用  
インターフェイスで大方の有機生命体など屁とも思っていない。  
いやなら買うな式の商法を通してきた。  
今日も卑猥でやたら胸を強調した自堕落な格好で商いをしていた。  
客を舐めきった態度である。もともと狭い店なのである。  
並べられた服の間にあるこの乳は、ひどく邪魔でまた嫌みな事この上なかった。  
それでも女店主は平然としている。  
 
そこへキョンの妹がぶらりと入って来た。一目見るなり云った。  
 
「店主、店に放り出している以上、この乳も売物なんだろうな」  
 
女店主はせせら笑った。明らかにキョンの妹の乳が小さい事を馬鹿にしている。  
 
「そうよ、でも買うのは無理」  
「いくらだ」  
「一千万円」  
 
明らかに小学生の少女には出せない金額を提示してからかっているのだ。  
だが相手が悪かった。  
 
「買った」  
 
キョンの妹は喚くなり、女店主の乳をモギュッと握った。  
あまりに突然の事に女店主はきゃっと叫んだ。  
自慢の情報操作でつきのけようとしたが、なぜか力が入らない。  
しかもキョンの妹がもそっと指先を動かしただけで、快感が全身を貫くのである。  
女店主はへたっとその場にへたり込んでしまった。  
 
「乳一つに一千万円とはなかなか傾いた乳だ。  
 だが傾く以上はこの乳も晒される事は承知の上であろうな」  
 
キョンの妹は通行人を呼びとめて、近くにいる北高の制服を着た連れを  
呼んでくれと頼んだ。長門有希が何事ならんとすっ飛んで来ると、  
キョンの妹はにたりと笑って、急いで一千万円の現金を持ってくるように命じた。  
……鶴谷さんの所から。  
 
<これは冗談>  
 
そう思って上の空で承知したと云うと、とたんに凄まじい怒声が帰って来た。  
 
「いたずらではないぞ。俺はこの乳をひんむいて、駅前広場に晒す。  
 銭一千万円の乳也、と捨札をしてな。  
 すっとんでいって持ってこい」  
 
キョンの妹の目はまさしく本気だった。何が何でも乳を晒す気でいる。  
真底腹を立てているのは確実だった。  
そして立腹したキョンの妹をとめられる者はいない。  
長門有希は横っ飛びに店をとび出した。  
 
女店主の上げる嬌声に忽ち人々が集まったが、常から女店主の傲慢を  
つら憎く思っている者ばかりだから、いい気味だと思うだけで、  
除名の口を利く者は一人もいない。  
 
「ついでにもう一千万円払って、両乳とも貰おうか。  
 その方がお前も晒しがいがあるだろう」  
 
キョンの妹は真顔で女店主に云う。  
今や女店主も、これが洒落や冗談ではない事を悟っていた。  
身内に震えが起こり、やがて表にも現れた。  
グラマーな肉体が波打つように震えている。  
この対有機生命体用インターフェイスは生まれて初めてこの世には  
途方も無い化け物がいる事を知った。  
 
やがて騒ぎを聞いて喜緑絵美利がとんで来た。  
懸命に詫びを入れたがキョンの妹はどこ吹く風である。  
ついには『機関』にまで訴えが届いた。  
『機関』は3年前の情報爆発の際にもうけられた秘密組織である。  
『機関』は古泉一樹をやってキョンの妹を説得させたが、これも効果はなかった。  
売物として値までつけられた物を勝手どこが悪い、  
というキョンの妹の意見がまっとうだからだ。  
 
長門有希はこの騒ぎの間じゅう、一千万円をしっかりと抱いて、  
人ごみの一番うしろに立ち、様子を見ていた。  
この少女は一千万の金がなんとしても惜しかったのだ。  
よりにもよって、長門有希にとって憎悪の対象でもある巨乳ひとつに  
一千万円は高すぎる。本気でそう思っている。  
 
その長門有希が群衆の中に朝比奈みくるの姿を見出してあっとなった。  
北高生で朝比奈みくるの顔を知らない者はいない。  
この気さくな未来人は、いくら現代に来ようとも少しも変わらない。  
現代の女子高生と同じように平気で町をぶらつき、衝動買いするのである。  
気に入った茶葉が見つかると、ぽっと顔が染まり興奮すると云う。  
何とも可愛い女だった。  
 
その朝比奈みくるが、面白くてたまらない、と言った顔で見物しているのである。  
 
長門有希は朝比奈みくるに忍びより、そっと袖を引いた。  
 
「ふぇ、なんですか?」  
「お願い、あなた以外に朝倉涼子を救える人はいない」  
「でも憎たらしい顔をしてますよ、あの人」  
 
朝比奈みくるにも女店主が気に入らないのだ。  
 
「あなたはそんな女の乳に一千万円出すの?」  
 
これが効いた。  
 
「ほんとですね。なんて馬鹿らしい」  
 
朝比奈みくるはつかつかとキョンの妹に近づいた。  
 
「およしなさい、妹さん」  
 
キョン妹は思いもかけぬ人の顔を見て、少々うろたえた。  
 
「これは…」  
「馬鹿らしいじゃありませんか。そんな乳、  
 キョンくんの玩具にもなりはしませんよ?」  
 
キョンの妹はこの朝比奈みくるに弱い。  
その豊かな胸に顔を埋めるとふかふかと心地よく、  
いつもうっとりとしてしまうのである。  
 
「それより、おいしいものでも食べにいきましょう」  
「いいですよ」  
 
キョンの妹はあっさり乳を離した。  
女店主は安堵のあまり失禁した。  
 

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