「嵐は突然やってくる」
うちの学校は山の上にあることもあってやけに日当たりがいい。天気のいい日は夕日で教室が真っ赤に染まる。しかし夏は暑くてしょうがない。
それは校門の前でも同じことである。
俺はここで一人の女子を待っている。二学期から付き合いだした葉山だ。葉山は水泳部で違う部活ということもあり、いつも一緒に帰るわけでは
ないのだが、帰り方一緒に帰ろうというメールが携帯にきたので、校門で待ち合わせをしたのだ。
もう夕方で下に見える町並みも真っ赤だ。いつもは気にもしていなかったが、こうしてじっくり眺めてみると案外緑が多いんだな、この町。
そんなことをのどかに考えていると、誰かが背中を突っついてきた。
「おお、来たか。」
俺は葉山だと思って振り向いた。しかしそこには水泳部ならではの肉付きのよい葉山ではなく、クラスで後ろの席の阪中がいた。にこりと笑っている。
「あっごめん阪中か。阪中もこれから帰りかい?」
俺は普段と変わらず話しかけた。
「うん。でもね、ちょっと話したいことがあるの。」
クラスで後ろに座る彼女は、突然そんなことを俺に言い出した。
「へ?俺に?」
「うん」
「俺だけに?」
「そう」
・・・。
相変わらず阪中はニコニコしている。阪中が憎めない性格というのは、この笑顔からもきてるんだろうか。俺はいったい何の話なのか不安はあったものの
内容を聞くことにした。担任の岡部からの言伝かもしれないしな。
「ねえ、私たちって、入学したての席順が、前と後ろだったでしょ?」
あー、そういやそうだっけ。
「そうなのね。それで、席替えした後も、以前と同じ前と後ろになったよね。」
そういやそうだ。そして阪中はこう告げた。
「これって運命だと思わない?」
なんですと?
「私たちって、きっと赤い糸で結ばれてると思うのね。だから私たち、付き合うといいと思うの。」
・・・。あまりの突拍子のなさに俺は言葉が出なかった。俺は一呼吸おいて、阪中の華奢な肩に手を乗せた。
「あのな阪中。俺は、葉山と付き合ってるんだぞ。知ってるだろ?」
別に教えたわけじゃないけどね。
「知ってる」
あっさりと言いやがった。もうクラス公認かよ。
「葉山さんとは別れるといいと思うのね。何かの間違いだったのよ。」
かわいい顔して恐ろしいことを口走ってるよ。
「あなたは私のモノなのね。」
言うなり、阪中が俺の体に抱きついてきた。
「おい、こら!」
振りほどこうとしていたら、阪中の胸の感触が伝わってきた。こいつも意外とやわらかい・・・。などと不埒な事を考えていたら、
「こらあっ!あんたたち何してんのよっ!!」
聞き覚えのある声がしてきた。遠くのほうから。
葉山だった。葉山はバッグを放り出して、猛然とこちらに走ってくる。台風本体のお出ましだ。
「まずいって!阪中、離してくれよ!」
「うん、それ無理。」
阪中は離してくれない。てか、葉山に気づいて俺に抱きついたんではあるまいな?そう考えたら、阪中の「ニコニコ顔」も、してやったりの「ニヤリ顔」
にしか見えなくなったぞ。
だれか助けてくれ。豊原、おまえなら阪中のこの行動の理由を説明できるはずだ。しかしあいつは帰っちまった。まてよ、そうか、涼宮だな?最近俺の
背中つついてくるのも涼宮のマネしてるって豊原言ってたよな。これも涼宮がらみか?ちくしょう、なんで涼宮がらみの人間はこんなばっかりなんだ・・・。
終わり