満開の桜を尻目に、この早朝ハイキングコースをこれからの生活を案じながら、始めて歩いたのがもう半年も前のことだ。
あの時は、登校するだけで体力を猛烈に消費していた。せめてバイクの免許くらいとっておくべきだったか。
しかし、こんな俺でも次第に慣れてきた。この坂にも、アイツにも。
今はもうすっかり秋。
学校は文化祭へ向けて段々と慌ただしくなってきた。
うちの一年五組はクラス発表として、アンケートをやることになった。
全く意見が出ないLHRで、ムリヤリでたアイデアで賛否の声も無いまま時間切れで決まっちまった。
一年五組は、朝倉が急に転校したのでリーダーシップをとる奴がいないのだ。やれやれ、朝倉よ帰って来てくれないかなぁ。
そもそも俺がいうのもなんだが、こんなのしてなにが楽しいんだ。
文化祭てのは、クラスで一致団結して劇なり、模擬店なりで盛り上がるもんだろうに…
そして文化祭の用意が忙しくなってきたある日、俺は教頭先生に呼び出しを喰らった。
やれやれ…
昼休みに職員室の奥の教頭の机に行くと、何やら重い空気が漂っていた。
腕組みをして、しわだらけの口をへの字にまげ、眉を吊り上げている。
見るからに頭にきていらっしゃる。
「あの、何でしょうか…?」
当たり障りのない言葉。
「君に頼み事があるんだよ」
「はぁ、頼み事…ですか。一体何です?」
「涼宮ハルヒの事だよ」
やっぱりその名前が出たか…一体アイツはどれだけ俺に迷惑かけるつもりだ。俺には、手当てもなんにも出ないんだぜ。
「ハルヒが何かしでかしましたか…?」
とりあえずとぼけてみたが、駄目だった。
教頭火山は噴火した。
「何が映画だ!写真部からはレフ板の盗難届けが出ている!
撮影には同好会ですらないのに文芸部の部費を使ってる!
遊泳禁止の池で泳いでいたそうじゃないか!しかも池に入るのにフェンスを破壊するとはどういうことだ!」
この後、屋上で花火がどうとかマンションの敷地で騒ぐなとか教頭の説教が延々と続いた。
俺はとりあえず頭を下げるしかなかった。
あんまり怒ると血圧あがりますよ。
教頭の怒りも一段落してきたところで、頼み事とやらを聞いてみた。
えらく脱線したな。
「そうだった。頼み事というのは…
時が止まった気がした。
自分の耳を疑った。
「涼宮ハルヒの映画の撮影を中止させなさい。」
教頭は続けた。
「そうだね、これは頼み事じゃないね。警告だ!何としてでも、中止させなさい。PTAや地元住宅に迷惑をかけるわけにはいかない!」
なんてことだ…あの暴走機関車女を止められるわけがない。
ハルヒに反対でもしようものなら、鳥くらいなら落とせるくらいに睨まれHPを削られ…考えただけでも恐ろしい。
「なんで俺なんです?それに直接彼女に言ってみてはどうです?」
「もう言ったさ。彼女が素直に聞き入れる訳ないだろ。だから君なんじゃないか。」
畜生…俺は捨てゴマ扱いかよ。今ならショッカーとも分かりあえる気がするぜ。
当たって砕けろ、という言葉があるが、今の俺は当たる前から崩壊寸前だ。
「それじゃあ、頼みましたよ。岡部先生。」
-end-