「お前だけを守りたいなんて、ヒーローらしいセリフじゃないわね。」
ハルヒは俺に言った。確かにそうだ。でも、俺らしいセリフであるだろ?
「・・・言わなくても分かるでしょう?」
そう言ってハルヒはそっぽを向いた。
ああ、分かるさ。
「俺はお前を愛してる。お前も俺も愛してる。この宇宙のどんな奴よりも。だからこそ、
俺はお前を守りたい。お前だけを・・・」
そういった俺に、ハルヒは涙を浮かべて俺の方を向いて言った。
「だったら・・・だったら!・・・もうアタシの前からいなくならないでよ・・・。」
ハルヒは俺の胸に顔をうずめ、続けた。
「アタシのせいでこうなったのは分かってる。何かしら罰を受けたっておかしくない。
でも・・・アンタがいなくなるのだけは嫌、身勝手なのは分かってるけど・・・それだけは
嫌なの・・・だから・・・絶対に生きて帰ってきて!」
ハルヒは涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げた。そんなハルヒを抱きしめ、俺は言った。
「ああ・・・必ず、帰ってきてやる。その代わり・・・その時は、『おかえりなさい』って
迎えてくれるか・・・?」
そしてハルヒは
「・・・うん」
と小さく頷いてくれた。返事を聞いた俺はハルヒを見つめ、ゆっくりと唇を重ねた。そして
またゆっくりと唇を離すと、ハルヒに背を向け、こう言った。
「行って来る。」
ハルヒは
「行って・・・らっしゃい・・・」
と震える声で答えてくれた。そして俺はその場を後にした。
俺は今、マシン出撃用のカタパルトにいる。そこには俺だけではなく、長いこと一緒に急進派
の情報統合思念体・・・今はスフィアとか言ったな・・・の奴等と戦い続けてきた古泉もいた。
1年程前、ハルヒの力を利用して情報統合思念体は「スフィア」へと進化。急進派が主権を握り、何のつもりか知らんが地球を
手中に収めようと考えた。まさに恩をあだで返すって奴だ。だが生き残った穏健派は最後の力で俺と古泉に全人類の「希望」
を与えた。光の巨人「TIGA」と「DYNA」。その力を貰った俺たち二人は、それなりに好きだった「日常」を取り戻す為
に戦い続けた。そして今、スフィアは一つに融合。地球ぐらいはあろうかと言うデカブツになった。
これが最後の戦い。俺も古泉も、そう感じていた。
「なあ、古泉。」
「何ですか?」
「この戦いが終わったら、また・・・あの『毎日』に戻れると思うか?」
「さぁ・・・でも、今、私達の前に立ちはだかっている奴等を倒せば、何かしら変わるのは
確かだと思います。」
「だな。そしたらまた・・・やろうぜ。オセロ。」
「ええ・・・是非。」
そんな会話を交わした後、俺はリーフラッシャーを、古泉はスパークレンスを頭上に掲げ、変身した。
機関が造った戦艦から宇宙へ飛び出し、巨大なスフィアと対峙する。
「行くぞ!」
戦いは明らかに劣勢だった。スフィアは次々と合成獣どもを生み出し、俺と古泉にぶつけてきた。一体、また一体、だが数は
減らない、やがてエネルギーが底を突きかけ、俺は膝を着いた。その隙をスフィアは見逃さなかった。俺はスフィアに捕らえられ、
今、暗黒の海を漂っていた。俺は絶望していた。もう何も出来ない。立ち上がれない。終わった。何もかも。
ふと、俺の脳裏にハルヒとの約束が浮かんだ。
「絶対に生きて帰ってくる」
だが、今の俺はもう何も出来ない。すまんハルヒ、お前との約束、守れそうに無い・・・
アイツとの思い出が、走馬灯のように甦ってきた。ケンカもした、振り回されもした、抱きしめたり、抱きしめられたり、
支えたり、支えられたり・・・不器用だが、お互いに愛し合った・・・。
「キョン!」
そして、ハルヒの笑顔が浮かんだ。その時、俺は自分を取り戻した。
こんなところでへばってたら、アイツに死刑に・・・いや、アイツに泣かれちまう。もうアイツの悲しんでるのを黙ってみるのは
ゴメンだ。生きて帰って、もう一度アイツの笑顔を見る。もう一度、アイツの笑顔が見たい・・・俺は叫んだ。
「ハルヒィィィィィィッ!!」
俺の視界が純白の光で満たされていく。そして・・・俺は再び立ち上がった。
それから詳しい事は俺自身よく覚えていない。以下は外で戦っていた古泉から聞いた話だ。
俺が取り込まれた後も希望を捨てずに戦っていた古泉は、突如スフィアから飛び出してきた
光を見たらしい。そしてその光はどんどん大きくなり、やがて、1000メートルは軽く越していた
という巨大なダイナ・・・つまり俺に変わったそうだ。その時のダイナは、黄金の輝きを
放っていたと言う。要するに俺はハルヒへの想いでグリッターになったって訳だ。
その光を浴びた古泉は力を取り戻しグリッター化、逆に合成獣どもは弱体化、苦し紛れに合体
したそうだ。
だが、グリッターの力に叶う筈が無い。形勢はあっと言う間に逆転、合成獣の塊もスフィアも
俺と古泉の力で宇宙の塵と化したって訳だ。
その後古泉は気を失った俺を連れて帰還。俺は気が付いたときは病院のベッドの上にいた。
その時ハルヒはまた大泣きして俺に抱きついてきた。俺もハルヒに答えるように、ハルヒの背中に
手を回した。その時、俺は言った。
「ただいま・・・ハルヒ。」
ハルヒはまた震える声で答えてくれた
「おかえりなさい・・・キョン。」
それから、俺と古泉の変身能力は失われ、また平和な日常が戻った。俺は高校を卒業した後、大学に出て
とある新聞社に就職。勿論、今も俺の隣にはハルヒがいる。そして、今のハルヒの中には小さな命が宿っている。
言わずもがな、俺との子だ。
古泉は役者として世界中で活躍。恋人とも上手くやっていけているようだ。え?誰かって?それはな・・・
「みんなーーーー!盛大に祝ってくれてありがとう!めがっさうれしいよぉん!」
まさか古泉の奴が鶴屋さんと付き合っていたとは・・・まぁ、似合ってるっちゃあ似合ってるがな。
そんなこんなで、古泉のとこももでたくゴールイン。夫婦揃って世界中で派手に活躍してる。
世間じゃ「大富豪と名役者のおしどり夫婦」なんて言われてる。何にせよ、幸せなのは確かだ。
そうそう、朝比奈さんも俺とハルヒが結婚すると未来へ帰っていった。別れ際の一言には驚い
たな。いきなり「夫が私の帰りを待ってるんで、もう行きますね。」だもんな。ビックリだ。
長門は最初にスフィアが現れた時俺たちを逃がす為に一人で戦いを挑んで取り込まれちまったから、
スフィアと共に消えちまったんだと思う。だが、長門もこれで良かったんだと思っているだろう。
そんなことを考えながら、俺は公園のベンチに座ってボーっと空を見上げていた。さて、そろそろ行くか。
俺は立ち上がってバイクに乗り、取材現場へ急いだ。
ふと、ある歌を思い出した。前にハルヒに歌ってやった歌だった。
青空がある限り 風は時を運ぶよ
勇気があるかぎり 夢は必ずかなうよ
涙が溢れるまま 走り出せ
赤い地平線の彼方 明日があるのさ
誰よりも何よりも 君だけを守りたい
いつまでもどこまで 君だけを守りたい
wow wow wow 叫ぼう 世界は終わらない・・・