放課後。退屈な授業が終わるやいなや掃除当番の涼宮ハルヒの「手伝え」という災害から逃れるがために部室へ急ぐ。牧用犬に追い舞わされる羊か俺は?
こんなノスタルジック溢れる比喩が自然と浮かび上がる日はSOS団専属メイド――いや、俺専用のメイドと言っても過言ではあるまい――朝比奈さんの煎れてくれた熱いお茶を一気にあおりたいね。
トントントンとドアをノックする。着替を覗かないようにする為の紳士としては当然の行いだ。ちなみに2回ノックはトイレノックと言い場合によっては失礼な行為になるのでここは3回ノック。まさに紳士の中の紳士、ジェントルマンオブジェントルマンとでも呼んでくれ。
「…………」
ノックをして三点リーダーが返ってくるってことはまだ長門しかいないということであり俺は落胆の色を隠し切れないでいた。
「入るぞ」
いくら相手が無口、無表情、無感動(ついでにオッパイも無い)の無い無い三拍子が揃ったSOS団専属読書マシーンの長門とはいえ最低限の礼儀は必要だろう。親しい仲にもなんとやらだ。というわけで軽く挨拶をしてからドアを開ける。
案の定長門は読書マシーンと……な、なんと長門が読書をしていないではないか!しかもよりにもよって無い無い宇宙人にはもっともにつかわしくない行為。ザ・編み物をしているではないか!
本来は編み物、オッパイ、ポニテなど女の子らしい属性は朝比奈さんの専売特許であるはずの行為を何故、谷口的美的ランキングAマイナー。ついでにバストのサイズもAマイナーのちんちくりん宇宙人の長門が?
俺は正直困惑していた。だがそれ以上に歓喜していた!何故ならこれは長門が変わろうとしていることに相違ないからだ。
今まで極一部の脳に重大な病気を抱えた先住民(ロリコン)向けに特化された局地的大量殺戮兵器【ユキ・ナガト】が己の可能性を信じ、今、まさに行動を起こしているからである!
これは日々、暇さえあれば長門を舐めまわすように観察していた俺の努力の賜だろう。GJ俺!頑張れ長門!お前なら朝比奈さんの次の地位……は鶴屋さんだからその次くらいの地位は狙えるぜ!
だがしかし敢えて言わせて貰うならば編み物をする時はもっとお母さんがまだ見ぬ子供に想いをはせるような、
それでいてまだ少女のようなあどけなさを残した儚くも確固とした幸福をたたえた表情をだな……それに今気付いたがなんで藁を編んでるのさ?
「何を編んでるんだ長門?」
「……藁人形」
俺の当然の疑問におよそ女の子が発声するにふさわしくない濁点だらけの返答を返された。why?何故?何か俺にいたらないところでも?
「あなたは…思っていることを口に出してしまう癖を治すべき……」
しまった!てことは今までのことは全て口に出してたってことか!成程、そりゃ声も怒りに震えるってもんよ。なんせ本人を目の前にしてペチャパイペチャパイと悪口を連呼してるようなものだからな。
………すいません!神様!仏様!長門様!土下座でもなんでも致しますのでその「今日のオカズはハンバーグ♪」みたいな目で凝視しないでくだい!めがっさ怖いです!
「そう…なら、涼宮ハルヒの前で私を愛してると100回言って」
俺に死ねと?
「そう」
冗談ですよね長門さん?
結局その後、珍しく頬を膨らませて怒りを訴える長門に謝ったり、土下座したり、そのまま上履きを舐めようとして鼻っ面を蹴られたり、ガムをあげてみたり、頭を噛まれたり、誉めたり、話しをそらしたり、誉めたり、誤魔化したり、
誉めて鋤かしてしまいには泣き出した長門をハグして慰めたりしてなんとか問題をうやむやに出来た。
でも、そう思ってたのは俺だけでしっかりと仕返しされましたけどね。
なにをされたかって?それは涼宮ハルヒの消失を読めとしか言えないね。
〆