夕日が赤く室内を照らす。いつか見た光景。これは私の記憶なのか。今私が立っているここはあの時の教室なのか。  
「そうよ。ここはあなたが私を殺した場所」  
教卓に腰掛けた、少女。その白い端正な横顔が、夕日に染められている。  
「思い出した?」  
少女はほほえむ。何を思い出せと言うのか。  
「あなたの本当の願いを」  
本当の願い。私に願い事などあったか。  
私は観測者。ただ見つめるのみ。観測者はその観測対象に干渉してはならない。それ故私は何もしない。できない。  
「そうかしら?あなたは望んだ。だから自ら殺した私を呼んだのよ」  
私は唐突に彼女の名前を思い出す。  
『朝倉凉子』  
私の影。いやむしろ私が影なのか。私が殺した少女。  
「私は二度殺された。二度とも『彼』を殺そうとしたときに、ね」  
彼女は楽しそうにほほえむ。  
「あなたの願いの中心にはいつも彼がいた。あなたは『彼』と『彼女』を見つめていた。本当は『彼女』だけを見ていればよかったのにね」  
笑顔のまま、彼女は教卓から飛び降りる。  
「あなたは気づいてしまったのよ。私と同じ。『人』の形に作られた私たちが人と同じ『心』を持つと言うことに」  
彼女はこらえきれないように、くすくすと声を上げて笑い出した。  
「私のは何だったのかしらね。『彼』を殺そうとした動機は。誰かに命じられたからなんて思いたくないわ。私は私の意志で『彼』を殺そうとしたのよ!」  
唐突な怒りの表れ。私は彼女のその様子にとまどう。  
「こんなのはどうかしらね、私はあなたの恋していたの。女性として私はあなたが好きだった。でもあなたには私の思いはとどかない。そんなとき私はあなたが『彼』を好きだと言うことに気づいてしまったの!」  
足早に彼女は私に近づいてくる。  
「私は嫉妬した。あなたの好きなあの人に!」  
私の目の前まで来た彼女は強く私を抱きすくめる。  
長い長い口づけ。彼女の舌が私に進入する。柔らかに私の中をまさぐる。不快ではない。彼女の腕は私の背に回され、腰や背を愛撫する。舌と舌が絡み合う。いつしか私はそれに答えていた。独立した生き物のように動く互いの柔らかな舌を絡ませる。  
唇がゆっくりと離される。唾液が糸を引き、夕日に赤くきらめいた。  
「どうかしら、誰かに言われて殺しました、なんて言うよりよっぽど楽しくない?」  
潤んだ瞳で私を見つめる彼女。  
「だから今、私はあなたを抱くの。思いを遂げるの」  
私の制服に彼女の細い指が忍び込む。抵抗する間もなくたやすくスカートは脱がされ床に落ちる。下着に指が這わされる。  
「くっ!」  
 
思わず声が出る。彼女は私の敏感な線を正確になぞる。体は私の意志に反してその刺激に耐えられない。彼女は私の体を知り尽くしている。  
「そう、もっと声を上げて。人は快楽には弱いもの」  
いつしか彼女も自分のスカートを脱ぎ捨てている。レース飾りの付いた薄いピンクの下着が露わになっていた。  
「あなたはいつも自分を殺しているわ。この下着もそうね」  
飾り気のない私の白の下着。彼女のいかにも同年代の少女たちが好みそうなものとは対照的だ。その私の下着に彼女の指が進入する。指はたやすく私の中心を探り当てる。  
「あっ!」  
「かわいいわ、長門さん」  
襞の中を中指が蠢く。すくい上げるように、掻き上げるように蠢き、私の中心をまさぐった。もう一方の手が後ろから進入する。敏感な後ろを彼女の爪が刺激する。  
「い、や……」  
「いやなの?違うでしょう?」  
思わず漏らした声にも彼女の手は止まらない。クリトリスを摘むように刺激しながら後ろから差し込まれた手の指が、私の中に進入した。彼女の与える刺激から逃れようと私は体をひねる。しかしそれはさらなる快感の波を呼び起こした。  
「ああああっ!」  
下半身に力が入らない。私は床に落ちたスカートの上にしゃがみ込んでしまう。  
「楽にして長門さん」  
彼女の声はあくまで優しい。肩を抱きかかえるように、彼女は私を床に横たえ下着を脱がせる。私は抵抗できない。力の抜けた私の両腿を彼女は大きく広げる。  
「きれいよ。とても、きれい」  
彼女の吐息が私の股間に近づいた。私はそれによってもたらされるであろう快感を予測して身もだえする。クリトリスに彼女の舌が当たる。  
「くっ!」  
声を必死で押さえる。包皮を剥かれむき出しになった敏感なそこを、彼女が優しく噛む。それだけで失神しそうな刺激。  
しかし彼女はそれだけではなく、舌をその周囲から肛門まで這わせる。襞の中をかきわけるように舌が蠢く。彼女の吐息すら刺激になり、私は息すらできない。唐突に刺激がやむ。私は両足の間にある彼女の顔に視線を向ける。  
「これだけじゃ物足りないでしょう?」  
彼女は立ち上がると、ゆっくりと下着を脱ぎ捨てる。上半身につけられたままの制服が背徳的な雰囲気を増幅する。ごく薄い陰影があらわになる。そこをかき分けるかのように自分の指で開く。  
「せっかく便利な能力があるんだから使わないとね」  
彼女はいたずらっぽく私にウインク。  
広げられたピンクの襞、その真ん中に見えるクリトリス。それがゆっくりと大きくなってゆく。  
「あ、あはあぁっ……」  
彼女は悩ましげな吐息をつく。快感にあえぐように彼女は腰を引く。男性のそれよりもなめらかな肉の棒が、彼女の股間から屹立する。  
「……どうかしら。これであなたと私は一つになれる」  
彼女は再びひざまずき、股間のものを私の入り口にあてがった。  
「長門さん、私があなたの初めての人になれるのね……」  
 
一瞬、私の脳裏を『彼』の顔がかすめる。  
「あっ……」  
唐突に進入される。圧力が私の中をかき分けてゆく。私の奥の敏感な部分がこすられる。  
「ううっ」  
彼女は腰をふるわせながら、私の中に進入してくる。彼女の先端が奥に突き当たった。  
「これでいっぱいね。長門さんの中とても狭くて熱い……」  
彼女がゆっくりと腰を引く。それを逃がさないかのように私が彼女を締め上げる。  
「はあ……っ、だめ、おかしくなりそう……」  
端正な顔をしかめて彼女は快感に溺れる。腰の動きが速くなる。彼女の女性の中から流れ出た快感の印が私のそれと混ざり合い、腰の動きにあわせて粘つく水音を立てる。  
「あっあっ……」  
いつしか私も彼女の動きにあわせて声が漏れ出す。彼女が私に覆い被さってくる。背に手を回され抱き上げられた。私は彼女の膝の上に抱え上げられる。  
「ああっ長門さぁん……」  
彼女が泣きそうな声でささやきかけ、私の口をふさぐ。からみついてくる舌。下半身から突き上げられる律動と、口腔内の刺激に私は何も考えられない。  
「長門さん、最後のお願い。私と一緒にイって……」  
すすり上げるようなかすれ声。彼女目尻に快感か、それとも別の感情によるものか、涙が浮かぶ。私は彼女の膝の上で、下からの激しい突き上げに体を揺らす。  
めくりあげられた制服の下、私のささやかなふくらみを彼女の唇が愛撫する。何かが発火するように体の奥から膨れあがるものを感じる。  
「一緒に……」  
 
私は初めて彼女『朝倉凉子』に自らの意志を伝えた。  
「ありがとう長門さん……」  
彼女はとても優しくほほえんだ。そして大きく私の中に突き入れた。  
私の奥が激しく擦りあげられる。私の中いっぱいに広がった彼女がクリトリスを刺激する。  
私の中が彼女を締め上げ、すべてを逃すまいと吸い上げる。  
「あああっ!」  
頭の奥で光がはじけ、子宮に何かが満たされる強い感覚があった。  
彼女と私は同時に達した。  
 
私は夕日の射し込む教室に立っている。私は一人。  
今のは私の夢だったのか。私は夢など見るのか。  
あれは私の思い。消された私の半身。  
私は人と同じ機能を持つように作られた。相手を理解するには相手と同じになればいい。人を理解するには人になればいい。そうして私は作られた。  
人として作られた私は人として悲しみを知った。人に恋して恋の甘さと苦しみを同時に知った。『朝倉凉子』の叫びは私の叫びだった。  
私は私。必死になってそう叫んだ彼女。あれは私。力を手にした私が望んだのは『彼』との平穏な生活。  
人魚姫は恋した王子のために泡になった。観測者としての私は彼のために泡にすらなれない。彼は優しい。でもそれは……。  
廊下からから声が聞こえてきた。  
「問答無用!日曜日は全員集合!だいたいあんたは……」  
『涼宮ハルヒ』そして『彼』。  
涼宮ハルヒは教室に立ちつくす私を見つける。  
「あれ、有希何やってんの?帰ったんじゃなかったの?」  
彼女はいつものように私に話しかける。  
「忘れ物」  
私は本を手にして、いつものように簡潔に答える。  
「あらそう。ちょうどいいから途中まで一緒に帰りましょ」  
私は小さくうなずき、肯定の意志を伝える。涼宮ハルヒの後ろにはいつものように『彼』の姿。私は鞄を手にして教室を出る。夕日が私の体を照らす。最初に朝倉凉子を殺したあの時のように。  
「有希は日曜日何してるの?何か特別な予定ある?」  
私は自分のマンションを思い出す。この三年間私が暮らしたあの部屋。休日という概念も私に特別なものではない。そのとき私の股間から快感の残滓が流れ出る。自分の中からあふれ出たそれが私の腿をつたう。濡れた下着のことを考え、私は口を開く。  
「・・・・・・洗濯」「はあ、せんたくぅ?それしかないの?もっと出かけなきゃだめよ!」  
彼女のあきれたような声。  
「キョンもあなたもうちでうだうだやってるくらいなら、もっと感覚を研ぎ澄まして町中を観察しなさい!何か見つかるわよ!」  
「何がだ」  
あきれたような、あきらめたような彼の声。彼女は彼の言葉を無視して歩いてゆく。私は濡れた下着のもたらす不快感を感じつつ、そのことがあまりにも場違いに感じられおかしくなった。  
「おい、長門」  
とまどったような『彼』の声。私は気づかずに笑っていたようだ。私は『彼』を見つめる。私はこの『彼』の表情に見覚えがあった。  
「おまえ今笑って……」  
ああそうだ、これはあの時の記憶。私と『彼』だけが持つ、偽りの時間の記憶。マンションでほほえんだ私に見せた『彼』のとまどいの顔。  
 
……そう『彼』と『私』二人だけの記憶。  
 
「何やってんの、早く来なさいよ!」  
廊下の向こうから涼宮ハルヒの呼ぶ声がする。  
「気のせいか……」  
彼の言葉に私は首をかしげて疑問を表示。ささやかな嘘。そうして私は日常に戻ってゆく。  
 

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