ち〜〜〜〜ん・・・・・
献花台の向こうに、とんでもない笑顔を貼り付けた少女の顔写真がある。短い髪に黄色いリボンのカチューシャを付けた。そして後には、短いながらもポニー。何時の写真だありゃ?
ああ、あの、ちらりと見える水色の襟・・・なんだってそんな古い写真を使うかねぇ?っつーか、良く劣化しないで保存していた物だな。最近の保存技術は侮れん。80年・・・前?
「どうしたのあなた。」
「んあ?ああ。あの写真を見てたのさ。」
「ああ。おっぴちゃんが、『あたしの遺影はこれを使いなさい!使わなかったら死刑!!』って言ってた物よ。知らなかった?」
「『死刑』・・って・・・でも・・・あのおっぴちゃんなら言いかねんし、実際使わなかったら、今すぐ其処の箱から出て来てドロップキック物だな・・・」
くす。そうね。
「あれ?んでも何時預かってたんだ?俺は知らないぞ?」
「ええ。私が此処にお嫁に来るときにね。・・・おっぴちゃんが、『あたしは多分あんたより先に逝くから、これを渡す。』って言って。色々な物を渡されたわ。写真、雑誌、服、等々。そして、『鍵』。」
「この写真にどんな想いがあるんだ?」
「これ・・・・先に逝ったぴーじいちゃんに撮って貰ったんだって。若い時に。」
「ふーん・・・まぁ、確かに良い写真だな。今のおっぴちゃんの写真よりは良いけど・・・なんでまた、これを使えと言ったのかな?」
「・・・・・遺作・・・なんだって。」
「あ。」
私達の曾祖父は、若い時に亡くなった。事故だった。この写真を撮った後、階段から一寸足を踏み外して10段ほど落ちた。そして・・・・打ち所が相当悪かったらしい。
暫く半狂乱になった曾祖母は、自分のお腹の中に既に曾祖父の子を宿していることすらも気付かず、半年を棒に振った。そして、いい加減気付く。お腹が膨らみ、乳も張ってきたことに。
それからの曾祖母は又以前に戻ったと彼女の友人達は語ったという。
産まれてきたのは女の子だった。
名を”有希”と名付けた。
私の旦那様の祖母に当たる。
曾祖母は結婚もせず、その娘をたった一人で育て、学校にも行き、なんと大学まで行って博士号を取り、電子部品メーカーに就職して画期的な発明をした。
そして今度はその娘が成長すると、またもや親子で大発明をし、今では全世界の電子部品シェア7割を誇る大企業にしてしまった。
「さてと。弔問客が来るのは夜が明けてからだな。今のうちに寝ておけよ。
明日は忙しいぞ。多分。」
「はい。」
今夜はお通夜。来るのは近隣の身内と近所の方くらいだ。
でも、それももうかなり少なくなってきている。遠くの親戚の到着は明日だろう。一寸は・・・休めるかな・・・
「こんばんわ。御焼香させてください。」
「あ、はーい。」
誰だろう?玄関に行くと、其処には妙齢の女性。う・・・大きい・・
「今晩わ。私、みくると申します。生前涼宮ハルヒさんには、大変お世話になりましたので・・・」
「そうでしたか・・・こちらにご記帳の上どうぞ。」
「では、失礼します。」
その女性・・・みくるさんは栗色の長い髪を揺らして献花台の前に座った。
目には・・・大粒の涙。
「・・・御免なさい。御免なさい。私の所為です。私の所為です。私が・・・
あなたから奪ってしまったから・・・御免なさい。御免なさい・・・・・禁則事項だったのです。あの時は・・・それが規定事項だったのです。でも・・・・もし今の私なら、何とでも出来たのに・・・・御免なさい・・・・御免なさい・・・」
「あの・・・?」
泣き崩れるみくるさんに私はどうしようもなく、唯見ているだけしか出来ませんでした。
「そう。あなたの所為。」
!!!!!!!!!!
「そして・・・私の所為。」
!!!!!!!!!!
ゆっくり振り返る。其処には、何か、見覚えのある制服の少女。
「・・・・どうして・・・」
みくるさんは、その少女に対し、怒りの目と、そして、悲しみの目の両方を向ける。
「あの人を失ったのは彼女だけではない。貴女も。私も。でも、それは言いっこなしの筈。」
「みんなの・・・・責任・・・・」
「そう」
訳が分からない。この二人・・・何の話をしているのか?
少女が私の方を向いた。
「『鍵』を出して。」
「え?」
「『鍵』。預かっているはず。」
・・・・!
「ああ、曾祖母がくれたあの箱の中に。取ってきます。」
私はわけわかめながらも、献花台の横に置いておいた箱を取り出し、鍵を見せた。
「貴女はそれが何の鍵か説明を受けましたか?」
冷徹な目で少女は私に聞いてくる。
「いいえ?何処かの部屋の鍵っぽいですけど・・・・」
「そう。」
ぐずぐずと泣いていたみくるさんが、私の手を取る。そして、少女も私の手を取る。
ぐにゃ。なにか・・・空間が?気分が・・・・
気がつくと目の前に扉が。
其処に映るあたしの顔。ふん!黄色は”警戒色”なんだって。良いじゃん!あたし向きだわ!!
開けようとしてノブを回す。空かない。
またまた気がつくと、手には鍵。ダメ元で鍵穴に入れ回してみる。
かちゃり。
ひらく。
開けてみる。
すると中には何故か、少女が窓辺で本を読んでいた。
「ここ・・・文芸部よね?貴女一人?」
「そう」
「あたしは涼宮ハルヒ。あんたは?」
「長門有希。」
「広いわねこの部屋。貴女一人じゃ勿体ないわね!」
「そう」
「あたしはこれから倶楽部を造ろうと思って居るんだけど、此処、貸してくんない?」
「どうぞ」
「邪魔はしない・・・と思うけど、騒がしいのは勘弁してね。なんせ、最低後3人はメンバーを集めないといけないんだから!」
「本さえ読めればいい」
「そうなの?」
「そう」
「じゃぁ、又放課後!!最低一人は連れてくるわ!!もう確保しているのよ!!あたしの○○を!!」
「・・・・・そう」
私は駆け出す。これで部屋はキープした。宇宙人をゲットした!!後2人ね!!後は未来人と超能力者!異世界人は会ったこと無いって”あいつ”も言ってた!!
あたしの黄色いカチューシャが揺れる。
お楽しみは、これからだ!!
覚悟しなさい!!!
キョン!!!!!!!!!!
・・・・・
なに?今の?
おっぴさん・・・の夢?
私の・・・夢?
私の高校時代・・・・輝いていた。
最高のメンバーだった。
最高の無口キャラ宇宙人と。
最高の萌えマスコット未来人と。
最高の超能力者転校生と。
そして。
最高の最愛の人と。
だから、あんたも!あたしに付いてきなさい!!
あたしが、最高のあんたにしてあげる!
その『鍵』は、あたしの夢の続き。
あたしの夢をあんたに託す。
行け!!
行って頂戴!
大海原へ。
そして・・・・
情報統合思念体なんかぶっ飛ばして、「有希」を取り戻せ!!!
あ・た・し・の「有希」を!!
そして・・・
彼奴と一緒にあたしは・・・・
生きたい!!!!!!!!!!!!
は!!!
なに?
夢・・・?
さっき来ていた弔問客の姿は既に無く、記帳にも名前がない。書いていたのを覚えているのに。
そしてもう一つ気付く。
私の手に『鍵』が握られていることを。
『鍵』・・・・・
『鍵』・・・・・を集めれば良いんだろう?長門。
任せろ。
得意中の得意だ。
集めてみせるさ。
何年かかっても。
俺は・・・彼奴を泣かせたからな。
もうこりごりだ。
彼奴の泣き顔はこりごりだ。
彼奴の泣き顔を一回でも見てみろよ?
そりゃぁ、罪悪感に苛まされ、地獄の方が余程楽に思えるんだぜ。
なにせ、生き神様だからな。
神に逆らって、平常心でいられる様な存在を俺は知らないね。
なにせ、俺は、その辺に転がっている一介の人間なんだからな。
だから、あの神様のご機嫌を取るために、俺は・・・・頑張れるのさ。
”惚れた弱み”なんて言うなよ、照れくさい。
兎に角『鍵』だな。
先ずは・・・・・
宇宙人と、未来人と、超能力者だな。
頑張れ・・・・俺。
は!!
何?今の。
また・・・夢????
「やぁ、こんばんわ。お休みの所申し訳ありません・・・所で、奥さん?超能力者は如何ですか?お安くしておきますよ?」
目の前に急に現れた一寸イケメンの男の子。17〜8才?に私は・・・・・
「古泉。その冗談をあの頃の彼奴の前で言って見せたら買ってやる。」
え?え?え?なに?私の口が勝手に動いた。
「やぁ、こんばんわ。お休みの所申し訳ありません・・・所で、奥さん?
超能力者は如何ですか?お安くしておきますよ?」
目の前に急に現れた一寸イケメンの男の子。17〜8才?に私は・・・・・
「古泉。その冗談をあの頃の彼奴の前で言って見せたら買ってやる。」
え?え?え?なに?私の口が勝手に動いた。
「おや。怖ろしい注文ですね。やれやれ。僕のアルバイトを増やそうって言うんですか?
ふ。まだ混乱をしているようですね。はい、奥さん。貴女が『鍵』を集めるために僕は来たのですよ。
連絡先を書いておきます。ご用命がありましたら何なりとお申し付けください。出前迅速即日出張。
『鍵』を集めるために僕は此処にいるんですから。」
「おせぇんだよ、古泉。さっき、朝比奈さんと長門が来たぞ。もう一寸で揃ったのに。」
「すみませんねぇ・・・こちらにも色々と野暮用があるんですよ。」
「今すぐ行って、二人を連れてこい。まだ、その辺にいるはずだ。」
「おやおや。では・・・・方向を言って下さい。捜します。
あのお方と最も近い存在になった貴男なら・・・」
「右よ右!!!さぁ、古泉君!ちゃっちゃととっつかまえて来なさい!!
あの二人には借りが有るんだから、たっぷり返してやらないとね!!!!!!!!!」
「I I MAM!!」
おわり。