負けた……完全に負けちまった。俺は呆然と黒一色に塗りつぶされたオセロボードを眺めていた。
「どうです、なかなかのものでしょう?」
うるさいぞ、古泉。俺は殺意をこめてにやにや顔を睨みつける。
「もう一度、頼む……今度は将棋で」
「将棋、ですか……?その、オセロのほうが得意なんですが……」
「じゃあ、将棋で」
俺はオセロをわきにどけ、将棋盤を取り出した。
「まーったく、大人げないわねぇ、キョン」
「うわぁ、大人げないですぅ……」
「……精神的に子供」
「……せいしんてきに子ども」
こら、有芽、絵本を読んでいる一歳児に言われたくないぜ。
そういうと、有芽はぷっとふくれておさるのジョージの本を閉じた。
「まあいいでしょう、どうか、大人気ないキョンくんのお相手をしてください」
俺の向かいに座った超能力者は、古泉の言葉に、はい、と頷いた。黒髪ストレート、古風という形容がぴったりの美少女である。
「イトコちゃん、ぼっこぼこにしていいわよ!あたしが許可するわ」
黙れ、ハルヒ。仮にも年下の新入部員におめおめと負けるわけにはいかないんだよ。
たとえ、それが古泉の十倍以上の超能力を持つ、「機関」の上級幹部だろうがな。
「イトコ、じゃなくてイト、なんですが……」
「でも古泉くんの従妹でしょ?ならイトコちゃんでいいのよ!ダブル・ミーニングでかっこいいわ!」
「ただの駄洒落じゃねえか」
俺の言葉に、少し落ち込んだ様子で、古泉伊都が、パチリと歩を進めた。
「ま、まだやるんですか……最後の一枚ですよ?」
目のやり場に困って、古泉伊都は顔を真っ赤にしている。だがな、男はたとえパンツ一枚になってもやらなきゃならんときがあるんだ。
「いいのよ……キョンをすっぽんぽんにしちゃいなさい、イトコちゃん!!」
ハルヒ、舌なめずりするな、息が荒いぞ!
「うわぁ、けっこう筋肉質ですぅ……じゅる」
朝比奈さん、恥ずかしいとか言ってたくせに、指の間からばっちり見てるじゃないですか。
「……眼福」
有芽に後ろから目隠ししながら、長門も無表情のままよだれをたらしている。
「伊都さん、さあ、彼の最後の嬉し恥ずかしを剥ぎ取ってください!!」
大興奮だな、古泉。あとで殺してやる。
「……これで、詰み、です」
おいおいまてまてそんなところに角がきいていたなんてそんなばかな――
アッー!