「あの日あの時あの場所で」
文芸部の機関誌に載せるため俺が書いた小説に登場するミヨキチが、当時10歳であったことがわかるや否や、俺を仰向けにしてマウントポジションをとっていた
ハルヒはひょいと立ち上がり
「なーんだ。」
と言った。なーんだとはなんだ。
「あんたみたいな甲斐性なしに同い年の彼女なんてできるわけないわよね。せいぜい妹ちゃんのお守りってぐらいよ。」
まあとりあえずこれ以上の追求がなくなったことでホッとしたが、ハルヒよ、なぜそんなに勝ち誇った顔してるんだ。俺はハルヒに脱がされかけた制服を直しながら立ち上がり
「まあいくらなんでも小学生相手におまえもムキにならんだろ。」
と言ってやった。ハルヒは
「ムキになんてなるわけないじゃない!」
とアヒル口をしてむこうを向いてしまった。まったく女ってヤツは・・・。
さて。
ハルヒ連中には知られていないし、俺も誰にも話していないのだが、俺とミヨキチとの間には「ナニか」あったのだ。
それは小説の中でも書いた映画館でおこった。
ミヨキチが観たいといったB級ホラー映画ははっきりいって人気があまりなく、席はけっこう空いていた。真ん中あたりのいい席に座ろうとしたのだが、ミヨキチはなぜか一番後ろの席がいいと言ってきかなかった。俺は特に考えずミヨキチに従い誰も座っていない最後列の席に座った。
そしてそれは唐突に起こった。
「きゃっ!」
ミヨキチが、たいして怖くもないシーンに驚いて俺の体に抱きついてきたのだ。俺は映画よりもミヨキチが抱きついてきたことに驚いたが、やっぱ容姿は大人びていても中身は小学生だななどとのほほんと考えていると、ミヨキチの顔が俺の目の前に来ていた。
「・・・おっ・・、ちょっ・・・」
俺が言い終わる前に俺の口はミヨキチの小さな口に塞がれていた。
「ちゅ・・・ちゅ・・・ちゅ・・・」
それはキスというよりミヨキチが俺の口を吸っているだけのような感じだった。ミヨキチの体が小刻みに震えているのが唇越しに伝わってきた。
そのうちミヨキチは舌を入れてきた。俺はパニックでされるがままだった。
「ぷは・・・」
苦しくなったのかミヨキチは唇を離した。俺とミヨキチの口は糸を引いていた。ミヨキチはそのまま、今度はズボンに手を入れてきた。
「ま・・・待て・・・!」
俺がさすがに声を上げようとするとミヨキチは耳元で
「声を上げるとほかの人に気づかれます・・・。」
とささやいた。俺は黙ってしまった。そしてミヨキチが一番後ろに座りたいと言った真意を理解した。
ミヨキチはズボンのチャックを開けると、俺のペニスを引き出した。すでに最初のキスで硬くなっていた俺のムスコは勢いよく飛び出し、ミヨキチの頬に当たった。
「わっ・・・」
暗がりでミヨキチの顔はうっすらとしか見えないのだが、おそらくはじめて見る男性器に少しひるんだようだ。しかし意を決したように
「はぐっ・・・」
ミヨキチが俺の男性器を口でくわえこんだ。
「なっ・・・」
俺は思わず周りを見渡してしまった。ちらほらといるほかの客はみなスクリーンを向いていてこちらには気づいていないようだ。
「ふぐっ・・・じゅっ・・・ぐっ・・・」
その時俺はああこれがエロ本で読んだフェラチオというやつかとか、なんでミヨキチはこんなことしてるんだとか、小学生相手にこんなことしちゃいかん、しかしミヨキチの
口の中気持ちいい・・・とかさまざまな考えが頭の中をめぐっていた。
ミヨキチはやはり小学生で、フェラの仕方もたどたどしく、口も小さいので俺のペニスを根元までくわえ込む前にペニスの先っちょが喉の奥に当たっていた。そのたび
「ふぐっ・・・ぐぼっ・・・」
と苦しそうな声を上げていたが、フェラはやめなかった。ただ、俺の太ももをぎゅっとつかんでいた。
俺は俺で、俺のペニスがミヨキチの喉の奥にあたる感触がまた気持ちよく、俺はイスとミヨキチの肩をぐっとつかんで踏ん張っていた。こうでもしないと声を上げてしまいそ
うだったからだ。そのうち、俺の下腹部から何かこみあげてくる感覚に襲われた。それにつれ下半身がビクビクと震えだした。
「んーっ、んぶうう・・・!」
フェラされるなんて初めてだったし、「射精すぞ」なんて言う事もできないまま、ミヨキチの口の中に放出してしまった。
びゅっ、びゅっ、びゅっ・・・
俺の射精は波のように一度、二度、三度、とやってきた。そのたび腰が浮きそうになり、ミヨキチの肩をつかむ手にも力がはいった。その間もミヨキチは口を離さず、ごくごくと精液を飲み込んでいた。
俺が精液をすべて放ち終えると、ミヨキチはペロペロと俺のペニスに残った精液やら唾液やらをきれいになめ取った。そしてズボンを上げチャックを元に戻した。
そして、とすんと、俺にもたれかかってそのまま寝てしまった。俺もその睡眠が伝染したかのように寝てしまった。
「あ、あの・・・さっきは突然すいませんでした。」
映画館の帰り、公園のベンチに座るとミヨキチはそう切り出した。
「わ、私、普段学校でも周りの女の子たちに比べて背も高いし体つきも大人びてるって言われてて・・・。逆にそれがコンプレックスで・・・。でもお兄さんとだと不思議とそのコンプレックスも小さくなりました。」
ミヨキチはそこまで言うと顔を上げた。
「わたし、多分お兄さんのことがすきなんだと思います。それで今日、そのことを言おう言おうと思っていたらあんな行動を・・・。」
ミヨキチは涙目になっていた。
俺ははじめからミヨキチを責めるつもりなどなかった。妹の親友で、家にもよく遊びに来ていたから人柄はよく知っている。ふざけ半分でこんなことをするような子じゃない。
ただ、その年以上によくできた性格が、身体的特徴からくる周囲の目に耐えられなかったんだろうな。小学生ながらに保健体育で習うような本とか読んでいたんだろう。
「ミヨキチ、そんなに負い目を感じることなんてないんだよ。」
俺は切り出した。
「ミヨキチに限らず、俺の妹だってそのうち性のことは意識するようになる。ミヨキチが周りより少し早く意識し始めただけなんだ。少しだけな。」
「そう・・・なんですか。」
「うん。まあ今日のことは俺もびっくりしたけどさ、ミヨキチなら悪い気もしないし、ミヨキチも少しは落ち着いただろ?」
ミヨキチは黙って頷いた。
「だったらもう気にすることはない。忘れろなんて無責任なことは言わないし、そうだな、二人だけの秘密にするってのはどうだ?」
「秘密・・・?」
ミヨキチは少しキョトンとしていた。
「そう秘密。ほかの誰も知らない今日のことを、二人だけが知っている。これってなかなかないぞ。」
俺はミヨキチの頭をなでた。
「は・・・はい!」
ミヨキチは急にぱっと明るくなった。やっぱおませな子だ、ミヨキチは。
俺はベンチから立ち上がると、
「ほんじゃメシでも食べに行こうぜ。お腹ペコペコなんだ。」
とミヨキチに促した。ミヨキチは
「行ってみたいお店があるんです。」
と答えた。いつもの笑顔に戻っていた。
「今日は本当にありがとうございました。」
帰り際、ミヨキチは深々と頭を下げた。この礼儀正しさをわが妹も見習って欲しいもんだ。
「また、いつものように、家に遊びに来いよ?妹の親友としてな。」
「はい!」
それじゃあな、と言おうとしたとき、ミヨキチが寄ってきた。映画館のときのように耳元で
「あの時わたしの口、気持ちよかったですか?」
とささやいた。
「へっ?」
ずざざっと後ずさりして発した言葉がそれだ。俺の反応を見てミヨキチはウフフと笑いそのまま去っていった。俺はしばらく動けなかった。
まったく女ってヤツは・・・。
その後ミヨキチは普段どおりに「妹の親友」として家に遊びに来る。あれ以来、ミヨキチはあの時のような素振りをみせることはなくなった。やはり相当思いつめていたのだろう。
今にして思えば、あの諭し方でよかったのか疑問だが、俺もミヨキチより年上といっても中3だったし、あのくらいしか言うことができなかった。だからそのまま、約束どおり二人の秘密の思い出として記憶の片隅においてある。
けれど、ミヨキチが精一杯背伸びしてみせてくれた「女の顔」は忘れることはないだろう。
終わり