部室で静かに本を読んでいた長門が、突如俺を見て呟いた。
「……ゆんゆん」
おい……いきなりどうしたんだ長門……どうやら統合思念体もかわった電波を発信してくるんだな。
「ゆんゆんは、名前」
「名前?なんのだ?」
長門はパタンと本を閉じて椅子から立ち上がる。俺の隣まで来て、じっと俺の目を覗き込んでいる。
「あなたと私の子供。名前は有加。小学校でのあだ名はゆんゆん。髪型は私と同じショート。髪の色は茶色でくせっけ。読書が大好きで物静かな図書委員タイプ。性格は控えめで大人しく――」
慌てた俺は長門の肩を掴んだ。
「な、長門!落ち着け。どこの怪しい電波を受信したがしらないが、俺たちになんで子供が――」
長門は、いとおしそうに俺をじっとみつめながら、そっと自分のおなかに優しく手をあてた。
「あと、十月十日……」
おいおい……うそだろ……なにもやっていないぞ俺は……
「新しい生命の誕生……祝福」
ロボットなのに、子供ができるのか、クリリン?
「構成要素は人間と同じ……問題ない」
「まてよ、というか、その俺と長門は――その……やっていないだろ!子供ができるはずが――」
「あなたの部屋のゴミ箱に捨てられたティッシュから、サンプルを採取、着床、妊娠……素敵」
長門はぶるぶると体を震わせる俺に、嬉しそうにひしと抱きついてきた。
「……幸せな家庭を」
「……というのは、エイプリル・フール」
やれやれ、全然洒落になってないぜ。でもまあ、一応助かった……。
ガラ
ドアが開いて、入ってきたのは……ああ、また俺の体が小刻みに震えだした。
長門と同じくせっけで、栗色の髪。小学生ぐらいだろうか、大人しそうな少女は、俺を見てにっこりと微笑む。
「パパ。あ、ママも。ねえ、有加、おなかすいた。プリン食べていい?」
長門がコクリと頷いて冷蔵庫からプリンを取り出す。
「さっき言ったことは、一部嘘……ほんとうは、もう、生まれている」
「パパにもあげるね」
ゆんゆんが、スプーンにプリンを載せて差し出した。
ゆんゆん……ああ、頭がどうにかなりそうだ。