あっちの世界に戻れる選択肢を捨て、こっちの世界を選んだあの大騒動から幾日か経ち、俺は文芸部の一員となっていた。
騒動の細かい内容は作者にでも聞いてくれ。どうせ考えてないだろうがな。
ともあれ、こうして文芸室で放課後長門と一緒に本を読むのはすでに日課となっていた。
あれ以来、長門と進展があったのかと言うと、これがまたまったく進展していない。
そこ、ヘタレとかいうな、お前だってヘタレじゃないならこんなスレ見てないで彼女とデートでもしてろ。
放課後になると文芸室に向かい、長門と向かい合わせに本を読み、読み終えたら長門にまた本を借り…
そんな向こう側の世界では考えられないようなのどかな日々を送ってる。
……いや、「いた」にしよう。そろそろもうワンステップ進まなくては。
手元には映画の前売り券が二枚。この前長門に借りた本の映画化だ。
「おい長門」
本から目を上げたのは、向こうの長門よりも幾分温かい瞳を持つ長門。
「次の土曜、用事ないか?」
小さくこくんとうなづく長門。
「よかったら、映画見に行かないか? この前借りたあの本、映画化されたみたいだから」
こちらを見つめていた長門の表情が赤くなる。
慌てて俺は、
「いや、デートって訳じゃないからな。長門にはいつもお世話になってるしな、これぐらい」
ああ、なんでこんな言い訳しちゃいますかね、俺。
長門は赤くなった顔を本に埋めながら、
「楽しみに……してるから」
そう、ギリギリ聞き取れるぐらいの声で言った。
嬉しい。キョン君が私を初めてデートに誘ってくれた。
でも…デートじゃないのかな。彼は一生懸命否定してたし。
でも、嬉しい。彼と一緒に映画を見に行けることが。
今日は土曜日。ついつい待ち合わせ時間の一時間も前に来ちゃった。
今日の私はちょっぴりおめかし。前に朝倉さんに選んでもらったワンピース。
そういえば、その時朝倉さんが言ってた。「有希、かわいくなったね」って。
その後、「女の子は好きな人ができるとかわいくなるっていうけど、有希にも彼氏できた?」
って言われたときは、真っ赤になっちゃった。
やっぱり、私……
「あれ〜、長門じゃん」
声をかけてきたのは……キョン君じゃない。同じクラスの、なんだか怖い人。
「なんだかおめかししちゃってさ、何? 逆ナン?」
それはねーよ、ハハハ、とその男の人のお友達が笑ってる。
怖い……早くキョン君、来てくれないかな…
その人と目線を合わせないように俯く。
「どうせヒマなんだろ、お前みたいなネクラ、誘うような奴なんていないだろうしよ」
男の人は私の腕を強引に引っ張る。
「や……」
こんなときでも、私は大きな声が出せなかった。
このことを、私は後に一生後悔することになった。
「遅いな……」
ついに長門との初デートの日だ。
いや、デートではないのだろうか。あの時否定した自分を思いっきり殴ってやりたい気分だ。
自分でデートではないと言い張っておきながら、30分も前に約束の場所に来てしまった。
で、今はそれから一時間後。
あの長門が時間を違えるとは思いづらい。
何か悪いことに巻き込まれてなければいいけれど…
「や……やめ……」
男の手が無遠慮に私の胸をまさぐる。
気持ち悪い……夢の中でキョン君に触られたときは、こんな感じじゃなかったのに。
袖口から服の下に手を入れて……痛っ……そんなに強く揉まないで。
誰かがワンピースの下を持ち上げる。時折、ゴーッと上を電車が通り過ぎる音。
この薄暗いガード下、この騒音の中、何をやってても見つからない所。
「ひゃぅっ……」
下に潜り込んだ誰かがパンツをずらし、私の股間を舐める。
むず痒いような、変な感じが私を襲う。
「おい、誰か来る前にさっさと済ませようぜ。最初は譲ってやるから」
私の胸を触っていた男は、股間を舐めていた人に言う。
股間を舐めていた人はズボンを下ろすと……
「ひぅっ……」
赤黒くて、なんだかグロテスクな”ナニ”か。
男の人は私の両足を抱えて、固く冷たいコンクリートの壁に押し付けた。
もしかして……
男の人はそれを私の大切なところにあてがい、一気に押し込んだ。
「ひぃぃぃぅっ……」
痛い、痛い、痛い、痛い
やめて、あ……血が出てる。
「お前初めてだったのか。通りで締め付けがキツい訳だ。あんまり濡れてないし、痛いぐらいだ」
男の人が何か言ってる。でも、分からない。ただ、痛い、痛い、心も。
挿れているだけでも痛いのに、男の人は腰を動かし始めた。
「や、やめて、痛い、うぅっっ……」
中で擦れて、痛い、痛い、痛い。
こんなの、気持ちいいわけないよっ。
「ああ、やべっ、もう出る……」
男の人は私の腰を引き寄せ、そのまま中に……
「いやぁぁぁっ……」
私の中に熱いものが注ぎ込まれる感触。目からぽろぽろ涙が零れ落ちる。
「なんだよ、お前早すぎ」
「だってよ、こいつ、めちゃ気持ちいいぜ」
「じゃ、次、俺な」
男の人のが引き抜かれる。太ももを熱いものが伝う感触。
私、汚されちゃったんだ……
もう一人の男の人が地面に座り込み、私をその上に座らせる。
そして……
「くぅぅぅんっ……」
一気に私の所につきたてた。
さっきの中に出されたぬるぬるで、さっきよりは痛くない。でも……
「ほら、自分で動け」
「え……」
「文芸部で仲良くしてる……キョンとかいったっけ? アイツにバラしてもいいのか?」
さっと青くなる。こんなこと、キョン君に知られたら……
こんな、エッチな、変な事された女の子って知られたら……
「くぅぅっ……」
腰を持ち上げて、すとんと落とす。
痛い……でもその中に変な感覚。
男の人に命ぜられて、何度もそれを繰り返す。
もう一人の男の人が私の目の前にあのモノを差し出す。
「舐めて綺麗にしろ。お前が汚したんだからな」
否定はできない。そんなことしたらキョン君に……
差し出された男の人のモノを舐める。苦い、気持ち悪い、キョン君……
「オラ、下も休んでいるんじゃねーぞ」
そう言われて、また下の運動も再開する。
なんだか変な感じがこみ上げてきた。何、これ、私……
上の人はガマンができなくなったのか、私の口の中にモノを入れ、頭を掴んで前後に動かす。
下の人も自分から腰を打ちつける。
もう……私……
待ち合わせの時間からどれぐらい経ったか。
時計を見るのもやめた。デートをすっぽかされた男なんて、悲しすぎる。
いや、もしかして何か事件にでも……
「おうわっ」
いきなり携帯のバイブレーション。着信は長門。
慌てて電話を取る。
「もしもし、長門か、今どこにいる?」
「ごめんなさい……」
長門の、消えるような小さな声。
「急に……用事ができて、行けなくなった。連絡が遅れて……」
「ああ、いいんだ。長門、何もなくてよかった。」
小さく、向こうで啜り上げる声。
「長門、そんなに気にしなくっていいって。急に誘った俺も悪いんだし。明日は空いてるか」
「ごめんなさい、明日も……用事があって」
「そうか、じゃあ来週以降に持ち越しだな」
「……ごめんなさい」
電話の向こうの長門は泣いているのか? 連絡が遅れて、俺が怒っているとでも思ったのだろうか。
「長門、気にするなって。じゃあ、また月曜日にな」
「……また……月曜日に」
プツン、と二人を繋ぐ電話は切れた。
駅前に一人取り残される俺。
さて、これから独り、どうしたもんかね。
一人ため息をついた。
落ちない、落ちない、何度体を洗っても、あの男達の臭いが消えない。
あれから解放されて、ティッシュでできるだけ拭って、私は一人帰り道についた。
電車になんて乗れない。とぼとぼと一人道を歩いて。
家に帰ると鍵を閉め、トイレに向かい、吐いた。
飲まされた、あの男達の精液を吐き出すために。
何度頑張っても出ない。便器に流れ落ちるのは胃液と私の涙だけ。
ドアをノックする音が何度も響いた。
多分、朝倉さん。
私は出ることができなかった。
朝倉さんは、きっと気づいてしまうから。
お風呂から上がって、扉の覗き窓を確認してドアを開ける。
ドアの前には小さな土鍋、一人分のおでんが取り分けられていた。
コタツの上に土鍋を置き、蓋を開ける。
冷め切ったおでんの汁に、浮かぶ私の顔。
おでんの汁に私の目から零れ落ちた波紋がいくつもできた。