「ある休み時間の風景」
俺の休み時間の日課といえば、中嶋との五目並べだ。休み時間なんてそう長くないけど、中嶋から誘われてなんとなくはじめてみると暇潰しにもなった。
今じゃもう習慣になっている。
そして俺の席の隣では、これまた休み時間には習慣のように読書にふけっている女子がいる。
「・・・なあ成崎。」
「・・・なぁに?」
俺の席の隣の成崎は、少しおっとりした性格で、呼ぶと必ず「・・・なぁに?」と返ってくる。なんかリズムを崩される感じだけど、クラスメイトからは好かれてる。
「いやおまえって休み時間になるとよく読書してるけど、本好きなのか?」
「・・・うん好きよ。」
しかしおれは気になっていたことがある。成崎は俺と同じ美術部なのだが、美術関係の本を読んでるところを見たことがない。読んでいるのはSF物やノンフィクション、
百科事典みたいな分厚い本といった、いわば文芸部の人間が好みそうな本ばかりだ。
「・・・うーん、なんか私が読む本ってこういうのばかりなのよね。なんでかなー?」
なんでかな、って言われてもな。俺は軽い気持ちで
「成崎って文芸部に入ったほうがよかったんじゃないの?」
と言った。すると
「文芸部に入る・・・?文・・・芸・・・部?アッ!痛っ、イタタタ・・・」
突然、成崎が頭をかかえて痛がり出した。
「成崎、大丈夫か?」
中嶋も心配そうだ。俺、なにかまずいこといったか?
「ちょっと成崎、また痛むの?」
そこへ大野木が飛び込んできた。背中をさすったり、頭をなでたり、成崎を落ち着かせようとしている。俺がなすすべもなく見守っていると
「あなたたち。文芸部の話した?」
と聞いてきた。俺がうなずくと
「・・・やっぱり。まだ治らないのかしら。」
とポツリと答えた。
「・・・ちょっとコッチ来て。」
俺たち三人はどうやら落ち着いた成崎から離れた。そして小さい声で話し出した。
「なあ、成崎って頭痛もちなのか?」
「そうじゃないのよ。文芸部の話になると、ときたま頭痛を起こすのよ。」
「どういうことなんだ?」
大野木はふうっと息をはくと、もともとつりあがった眉をさらにつり上げ、真面目な顔をして言った。
「実はね、成崎のなかでは文芸部が存在しないのよね。」
はい?
「最初、どの部活に入るか決めかねていたころ、成崎はね、『文芸部ってどんなのか見学してくる』って言って旧館に行ったのよね。しばらくして帰ってきたら、『文芸部なかったわ』って言うのよ。部室自体が無いって。」
大野木は説明しだした。そのときは大野木自身まだ学校のことが詳しくなかったため、そうだったの、で終わったらしい。成崎はそのとき同じ旧館にあった美術部に興味を抱き入部した。
しかしその後、文芸部と部室は存在することが判明する。キョンと涼宮が文芸部に出入りしているという噂によって。成崎と仲のいい大野木や阪中たちは確かめに行き、確かに存在することが分かった。だから成崎を連れて行こうとしたらさっきのような頭痛を起こした、ということだった。
「確か正規の文芸部員は一人だけで、キョンと涼宮がなんとかっていう団の居場所にしてるって聞いたけど。」
中嶋がそう言う。俺もうなずく。
大野木はキョンたちの席の方をチラッと見た。
「そうなのよ。でも成崎はコンピュータ研の隣に部室は無かったって言うし、頭痛まで起こすし、それで私たちはそれ以上言うのをやめたのよね。」
そうだったのか。しかしなんか気味悪いな。まるで幽霊部室って感じだ。
「でしょ?でも阪中なんかは涼宮さんと友達になりたいなんて言い出すから心配なのよね。」
大野木はつけたすように言った。
「ただこのことはあまり口外しないでほしいのね。柳本なんか怖がっちゃって涼宮さんに近づかないようにしてるぐらいだから。」
成崎を見ると、すっかり落ち着いて本を読んでいた。成崎に何があったのか分からないがとりあえず成崎の前で文芸部の話はタブーだな。
「そういうこと。」
大野木のつり上がった眉がようやく定位置に戻った。
俺は席につくと文芸部のことを考えた。おそらく成崎は文芸部に行ったのではないか。そこで何かがあって記憶を消された。どう考えたってあの頭痛は訳ありのにおいがする。
何か文芸部に潜入する方法はないものか。成崎の頭痛を治す鍵があるかもしれない。幽霊部室には幽霊話をエサにしたらどうだろう。・・・まてよ、たしかさっき大野木が、阪中が涼宮と友達になりたがってるって言ってたよな。阪中と相談して潜入する方法を練ってみようか。
終わり