「いい?キョン。明日のお昼までにお腹と背中がくっつくくらい空腹になりなさい。
そうね、朝食を抜いてくるのよ。辛い方がより有難味が増すんだからね」
なんてことを昨日の帰り際に言われて素直に従ったのも全てはハルヒの
手作り弁当を楽しみにしていたからなのだがその当人は何故か来ていない。
今日は学食で済ませるしかないのかとポケットを探ったが財布もない。
朝食は大切な朝の思考を冴えさせる重要な役目を背負っているようだ。
必死で空腹と戦いつつ四時間目の終わりまであと五、四、三、二、一、キ
チャイムと同時にバン、と乱暴に扉が開かれていつもの威勢のいい声がした。
「キョン!お待たせ!・・・って何死にそうな顔してるのよ。ほらほら起きなさい。
涼宮ハルヒ特製弁当を持ってきたわよ!」
空腹率0%、HP1の万策尽きた状況で画面を凝視して何かこれを打開する手はないかと
悪足掻きしているような状態で首を向けた俺が見たものは・・・
「結構早くから起きて作り始めたんだけど、作ってるうちに楽しくなっちゃって
今までかかっちゃったわ。さあさあ早く食べなさい。それじゃあね!」
言い終わると同時にいなくなったよ。教師も他の連中も呆気に取られてるぞ。
改めてその弁当を見てみるとそりゃ時間もかかるだろう、妹の身長くらいあるぞ
このコント用のせいろ。いや重箱。どうやって持ってきたんだか。
「さて」
覚悟を決めて一歩踏み出した所敵に攻撃され空腹に負けなかったと清々しい気分で
村に戻った俺はその巨大な物体に近付き、静かに天辺の蓋を開けた。
放課後。満ち足りすぎた顔で元文芸部室へ向かうと消えたハルヒがいた。
「やっぱここにいたか。午前はいいとして何で午後の授業にも出なかったんだ?」
「どうでもいいじゃない。そんなこと」
プイと顔を背けた。もしかして恥ずかしかったのか?
「そんなわけないでしょ。何よ、言いたいことがあるなら苦情以外言いなさいよ」
「うん、弁当美味かったぞ」
「・・・本当?」
「ああ」
「本当に本当?」
「本当だって。そんなことで嘘をついてどうするんだ。最高だったぞ」
まだ信じられないというような顔のまま一瞬の沈黙の後、ハルヒが口を開いた。
「・・・よかったぁ」
途端にハルヒの顔がほころんだ。気を良くした俺は更に畳み掛ける。
「ハルヒの弁当が食える俺は幸せ者だ。明日も俺のために作ってくれ」
「とっ、当然よ。キョンの昼食はこれからあたしが毎日作るんだからね!」
ズキンと来る一言。思わず抱きしめたくなる衝動を抑えつつ、一つだけ言わせてくれ。
「次からはできれば重箱一つ分で頼む」