「んー……なんかないかしら」
ハルヒが悩んでいる内容……。それはSOS団のサイトのことだろうということは、数日前から突然思い出したようにミーティングの議題にしはじめたという事と、
パソコンの前で唸っているというこの状況とを合わせて考えれば、まぁまず間違いないだろうという確信は持っているつもりだ。
「キョン!あんた、真面目に考えてる!?サイトに人が来ないのは、あんたのせいなんだからね!」
「なぜそこで俺の責任になるのか、教えてもらいたいもんだね」
ハルヒは俺をジトーっとした目で見ながら
「みくるちゃんの画像を消せっていったのはあんたじゃない。あれさえあれば、この停滞もどうにかなるっていうのに……」
このままでは、あの愛らしいお方にまた余計な被害が及んでしまいそうなので、ここはとりあえず対応策を…………
考えるまでもなかった。
長門の本棚に一冊だけ残しておいた『それ』を、ハルヒに突き出した。
「なぁハルヒ。これなんてどうだ?」
ハルヒはそれをひったくると、『それ』をペラペラとめくる。
「あたし達が作った会誌じゃない。これがどうかしたの?」
「それをサイトに載せてみたらどうだ?名目上は文芸部だが、確かにそれはSOS団の活動の1つじゃないか。二百部もあったやつも自然に、しかも一日で捌けたんだ。それくらい――」
「それくらい人気であれば、ネット上でも人を集めることは可能ではないか、と言いたいのですか?」
……古泉。お前は人の台詞を取ってまで説明をしたいのか。
結局その日はそこまでで終わり、いつも通りの集団下校で終わった。
いつもと違ったのは、ハルヒはさっきの案を考えていることぐらいか。
「なかなかいい考えだと思いますよ。ただし、あの会誌が捌けたのは、北高だったからかもしれませんけどね」
「その時はその時だ。思うように増えなかったら、『機関』にでも人海戦術を頼んでもらうぞ」
俺は、新川さんや森さんが、あのトップページしかないサイトを必死に開いている光景を幻視すると、なんだか妙に申し訳なく思った。『機関』そのものはどうとも思っていないが、知人がいると感情が混ざる俺は、けっこうお人よしなのかもしれないな。
ここで突然話は変わるが、俺にはなにも特殊能力は持っていない。だから気付くと思うはずもない。
ハルヒがまさか、また妙なものを作っちまうとはね。
次の日。
部室に入ってみると、そこには普段見かけない人が、とてつもなく明るい声で爆笑していた。
「いや〜ハルにゃんっ!めがっさ絵がうまいねっ!……って、キョンくん!やっほーっ!」
鶴屋さんだった。この人の明るさの原材料は一体何なんだろう。
「キョン、いいところに来たわ。ちょっとこれ見て」
前みたいなカマドウマ召喚魔法円じゃないことを祈りつつ、画面を見てみる。
それは、鶴屋さんの絵だった。北高の制服や、この長い髪を見れば間違いないだろう。
だがサイズはなにかのマスコットのように小さく、顔もけっこう簡略化されている。
顔文字でも表現できそうだな。
「……これはなんだ?てっきりサイトのことでも考えているのかと思っていたが」
「だから、これが考えた結果よ!」
要約すると、あの会誌に載っていた『気の毒!少年Nの悲劇』を漫画化しようと考えたらしく、その主人公のキャラをどうしようかとSOS団メンバーやその他関わった人達全てをSDキャラクターにしてみたところ、このミニ鶴屋さんが話と一番合っていたらしい。
「で、そのモデル兼原作者として、あたしが呼ばれたって訳さっ!」
「そういう事。このキャラの名前も決まっているのよ!」
この状況、いつかだったかと似ている気もするが、あえて聞いておこう。
「……なんて名前にしたんだ?」
ハルヒは、あの百ワットの得意満面で、こう言った。
「ちゅるやさん!」
ここからは後日談になる。
ちゅるやさんを載せてから少しずつ、だが確実に訪問者は増えていった。
一時期はサーバーが落ちるほどで、学校と少しゴタゴタとしたがこの話は割愛させてもらおう。
古泉に、勝手に人海戦術でもやっているのかと聞いてみたが
「いいえ、今回は、我々『機関』は動いていませんよ」という返事だった。
じゃあなんだ?またあの統合思念体の親戚か?
「現時点で、情報生命体の存在は無い。以前のようにデータからの影響で覚醒する要素もない」
……どうも、今度の事はなにも非現実的な力は働いてないようだな。
ちなみに、ハルヒはこの結果に気を良くして、ちゅるやさんを本として売っていた。特典としてサイトに載せていない話なんかもある。
まぁ良かったら見てくれ。我らが団長のご機嫌をとるためにも、さ。